戦争論 (講談社学術文庫 1342)

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  • Amazon.co.jp ・本 (300ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061593428

作品紹介・あらすじ

20世紀の戦争は地球を覆う全面戦争と化し、世界を一つの運命共同体とした。冷戦終結後も湾岸戦争に見られたように、戦争は従来の国家の枠を超えて世界化する。一地域の抗争があらゆる国の利害を絡め、いかなる国をもその局外に立たせないのである。クラウゼヴィッツからバタイユ、レヴィナスへと戦争の思考をたどり、臨界に達した西欧近代の「黙示録後」の世界を現代史の時間軸に沿って考察する。

感想・レビュー・書評

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  • 著者は、20世紀を特徴づけているのは〈世界戦争〉だと主張する。19世紀までの戦争に参与したのは、限られた国家の限られた人びとでしかなかった。だが、20世紀に生じた2度の世界大戦ではじめて、地球上のあらゆるものが戦争に関わることを余儀なくされることになった。「総力戦」は、私たちの生活世界に属するいっさいのものを〈戦争〉へと投げ込んだ。

    また、「冷戦」は国際間の関係のすべてがその内でのみ意味を持つような私たちの思考の枠組みになった。ひとたび戦争が起こればいっさいを〈戦争〉に巻き込むことになるという状況は〈戦争〉を不可能した。そしてまさにそのような仕方で、〈戦争〉は諸国家の行動のみならず私たちの思考をも支配している。

    こうして〈世界戦争〉は、それが人類の死滅を帰結するがゆえに、かえって人類の〈死〉を不可能にしたのである。いまや私たち人類は、みずからの固有の〈死〉を〈戦争〉に奪い取られてしまっている。〈世界戦争〉は非‐人間主義を意味する。著者は、こうした〈世界戦争〉の時代のイデオローグとして、E・ユンガーの名前をあげている。彼は、みずからを〈戦争〉の中へと投げ込むことで、生命の燃焼を称揚する。

    〈戦争〉について、ユンガーとまったく異なる道を示したのが、バタイユである。ユンガーの思想は、〈戦争〉を〈内的体験〉として称揚するのに対して、バタイユが示したのは〈内的体験〉を〈戦争〉と見ることだった。彼は、自己を失う〈内的体験〉の中で私たちが出会うことになる非‐人間的な〈現実〉の次元を示そうとしたのである。

    さらに著者は、坂口安吾の『ふるさとに寄する讃歌』にも、非‐人間的な〈現実〉を見ようとしている。ノスタルジーを抱きつつ「ふるさと」を再訪した安吾に対して、「ふるさと」は不気味な異郷として立ち現われる。著者はフロイト=ラカンの「不気味なもの」(Unheimlichkeit)についての議論を参照しながら、非‐人間的な〈現実〉としての「ふるさと」こそが安吾にとって「書くこと」の出発点だったと論じている。

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著者プロフィール

西谷修(にしたにおさむ)
哲学者。1950年生まれ。東京大学法学部卒業。東京都立大学大学院人文科学研究科修士課程修了。明治学院大学教授、東京外国語大学大学院教授、立教大学大学院特任教授を歴任したのち、東京外国語大学名誉教授、神戸市外国語大学客員教授。フランス文学、哲学の研究をはじめ幅広い分野での研究、思索活動で知られる。主な著書に『不死のワンダーランド』(青土社)、『戦争論』(講談社学術文庫)、『夜の鼓動にふれる――戦争論講義』(ちくま学芸文庫)、『世界史の臨界』(岩波書店)、『戦争とは何だろうか』(ちくまプリマー新書)、『アメリカ異形の精度空間』(講談社選書メチエ)などがある。

「2020年 『“ニューノーマルな世界”の哲学講義』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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