太平記<よみ>の可能性 (講談社学術文庫)

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著者 : 兵藤裕己
  • 講談社 (2005年9月10日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (312ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061597266

太平記<よみ>の可能性 (講談社学術文庫)の感想・レビュー・書評

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  • ちょっとした太平記ブーム。

  • 「平家物語」と慈円の「愚管抄」
    源平両氏が交替で覇権を握るという認識は、平安末期の保元・平治の乱にはじまり、治承・寿永の乱にかけて形成された歴史認識である。しかし内乱の複雑な過程を単純化し、それを源平交替として図式化してとらえたのは平家物語であった。
    平家物語の編纂が、比叡山-延暦寺-周辺で行われたこと、とくに天台座主慈円が、その成立になんらかのかたちで関与したことは、「徒然草」226段の伝承―後鳥羽院の御時、慈鎮和尚-慈円-の扶持した信濃前司行長が、平家の物語を作りて、云々とする伝承-からもうかがえ、また、平家物語が延暦寺の動向に詳しいこと、慈円の「愚管抄」との密接な本文関係が指摘されること、からも傍証される。
    「愚管抄」が書かれたのは、承久の乱-1221年-の前年、後鳥羽院と鎌倉幕府の関係が、修復不可能なまでに悪化していた時期である。そのような時期に、幕府を敵対的な存在としてではなく、むしろ「君の御まもり」として位置づける慈円の史論とは、現実の危機を歴史叙述のレベルで克服する企てだったろう。
    慈円の「愚管抄」によって意味づけられ、平家物語の語りものとしての広汎な享受によって流布・浸透してゆく源平交替の物語とは、要するに、源平両氏を「朝家のかため」「まもり」として位置づける論理であった。いいかえればそれは、武家政権を天皇制に組み入れる論理である。
    王朝国家が、武家政権に対して最終的に発明した神話だが、しかしそのような源平交替の物語が、源氏三代のあと、北条氏が桓武平氏を称したことで、以後の歴史の推移さえ規定してゆくことになる。
    たとえば、鎌倉末期に起こった反北条-反平氏-の全国的な内乱が、あれほど急速に足利・新田-ともに源氏嫡流家-の傘下に糾合されたこともまた北条氏滅亡ののち、内乱が公家一統政治として落着することなくただちに足利・新田の覇権抗争へ展開した事実をみても、源平交替の物語が、いかに当時の武士たちの動向を左右していたかがうかがえる。
    内乱が社会的・経済的要因から引きおこされたとしても、それは政治レベルでは、ある一定のフィクションの枠組みのなかで推移したのである。そしてそのような物語的な現実に媒介されるかたちで、太平記はさらに強固な源平交替の物語をつくりだしてゆく。
      2010/06/03

  • 楠木正成の実像を知るために、三冊を同時に読み始めました。しかし本作は史実を詮索することがテーマではなく、芝居や講談で繰り返し再生され、現在も日本の社会や国家を呪縛している楠木氏的な物語がテーマです。それは太平記に起源を持ち、近世、近代に流通するフィクションとしての南北朝の歴史であり、その影響力は、同時代の思想家の言説とは比べようもなく、言い換えれば「南北朝時代史」という物語が思想家や学者の言説を構成しているとしています。本書では具体的にそのことを述べていきますが、非常に面白い内容です。私は太平記の歴史が幕末には共有されていたため、尊皇攘夷というスローガンで簡単に倒幕が出来たのではないかと理解しました。また正成の実像に迫るヒントも与えてくれました。何度でも読むであろう学術書です。

  • いや、この方の本はホントにおもしろいです。「南北朝」という物語的言説が先にあり、それにあわせて「南北」の対立構図ができあがっていったという話は、読んでいてひざを打つ思いでした。「言説(物語)としての歴史といったばあい、歴史は書物のような『もの』として<strong>ある</strong>のではない。それは、ある制度化された言表行為として読まれ、また語られることで歴史に<strong>なる</strong>のである。」(「原本あとがき」より、太字箇所は出典では傍点)という一節、ジョーシキっちゃあジョーシキですが、非常に重要ですよね。(20071003)

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太平記<よみ>の可能性 (講談社学術文庫)の作品紹介

太平記よみの語りは、中世・近世を通じて人びとの意識に浸透し、天皇をめぐる二つの物語を形成する。その語りのなかで、楠正成は忠臣と異形の者という異なる相貌を見せ、いつしか既存のモラル、イデオロギーを掘り崩してゆく。物語として共有される歴史が、新たな現実をつむぎだすダイナミズムを究明し、戦記物語研究の画期となった秀作、待望の文庫化。

太平記<よみ>の可能性 (講談社学術文庫)はこんな本です

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