病が語る日本史 (講談社学術文庫)

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  • Amazon.co.jp ・本 (336ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061598867

作品紹介・あらすじ

古来、日本人はいかに病気と闘ってきたか。人骨や糞石には古代の人々が病んだ痕が遺されている。結核・痘瘡・マラリアなどの蔓延に戦いた平安時代の人々は、それを怨霊や物の怪の祟りと考え、その調伏を祈った。贅沢病といえる糖尿病で苦しんだ道長、胃ガンで悶え死にした信玄や家康。歴史上の人物の死因など盛り沢山の逸話を交え綴る病気の文化史。

感想・レビュー・書評

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  • 2021/7/8読了。

    この本の趣旨とずれるが、最後まで読んでみて思ったことがある。

    教科書でさらりと流していた、教科の一つとしての日本史だったが、大昔から現代まで人々の営みが地続きであることが実感できる内容であるなということだ。

    当たり前のことだけど。

    例えば、藤原道長が糖尿病に苦しんでいたという当時の日記を追うと、今と変わらない病に平安時代から苦しんでいたんだ、という、変な話だが親近感が湧く。

    そして大抵病を患うと神頼みが始まるのだが、原因の分からない当時は真剣に拝んでいたのだろう。医学の進歩には感謝しかない。

    歴史に少しでも興味があるなら、病に興味がなくともこの本は楽しめるとおもいます。

  •  古代においては、天下に流行する疫病は、天皇の失政によるものと信じられていたという。天皇からしたらたまったものじゃない。道臣命がなんとか言葉の魔術で妖気を取り払うから天皇になりましょうと励まして、やっと神武天皇が即位したが、古代から現代まで国のトップになるということは、国土のすべての呪いを一手に引き受けることであるので、かならずその魔を取り払う人間が必要なのである。最澄や空海もその取り払う役割を時々まかされたりしたのだろう。
     梅毒、つつが虫病、住血吸虫、マラリア、数えきれない病の数々を乗り越えたのがつい最近のことであるように思える。(実際、つい最近のことである)
     この本を読んでまず思うのが、病気と人間の関係の深さ、つらさ、容赦のなさである。病気によって歴史まで変えられてきたともいえる。藤原四兄弟の死なんぞは特にそうだし、怨霊を鎮めるために造られた建物だのなんだの、病気が間接的に文化を生み出したといえるところもあるのではないか。(豆まきも無病息災だ)
     万葉集でも有名な遣新羅使も、天然痘に苦しめられ、100人余りのメンバーが、40人に減るという悲惨さ。地獄のような往復の旅路だっただろう。しかも、それほどの成果もあげられなかった。

     安政五年のコレラ大流行のときは、人通りが途絶えるほどの事態に。三カ月ほどでその猛威は終了したらしいが、葬式が間に合わないほどの死体の山で、火葬場が棺桶で山積みでパニックになっている絵が紹介されている。
     脚気については、古代の医療ですでに治療法はだいたい見通しがたっており、なぜその伝統がなくなって大量の死者を出すに至ったのか、そこを知りたいと思った。鴎外がなぜ気がつかなかったのか、というところだ。民間の療法なんぞ頭から馬鹿にしていたからのせいだろうか。それとも、鴎外は兵隊の貧しい食事を想像できないくら、豊かな暮らしをしていたからだろうか。謎が深まるばかりだ。

     客観的に研究し、成果を出すというのは、ようやく、ここ100年くらいのことではないかと思う。医療というものが信頼を得たのも、ここ100年ではないか。よくおじいちゃんとかおばあちゃんで、医者に行くのを極端に嫌がる人がいる。それは、医者というのは、100年以上前では、病気を治せるか治せないかはほんとうに微妙なところであり、最終的には運か抵抗力がもともと強い人間かが、自前で治し、命を保っていた。だから、医者に行っても行かなくても一緒だという思考を、おじいちゃん世代は親から受け継いでいて、それが医者への不信感につながっているのかもしれない。それか、医者に行くことは、世間へのお騒がせなことであり、なんとか自前で治すという思考がおじいちゃんの世代にあるせいか。

     ウィズコロナじゃないが、昔はウィズどころか、圧倒的に病気のほうが上だった。病気は治すもの、治せるものだなんて、おこがましかった。むしろ死ぬのが当たり前だった。もし現代と古代の価値観でもっとも異なるものがあるとするならば、病気との共存のレベルというか対比が圧倒的に違うところだろう。神、悪魔、病気、怨霊、最上級の化け物として病気は常に存在していて、病気のレベルがここまで下がったのはつい最近である。もちろん治せない病気はまだまだあるだろうが、この本を読む限りでは、人類の昨今の発展速度は、素直に凄いと思う。ピンカーではないが、めちゃくちゃ世界はよくなっている。コロナがなんじゃい!と思ったりもしてしまう。人類を数万年苦しめたものが、この100年でどれほど解決されたのか。まとめている本はありそうであるし、本著からも十分想像できる。

  • 入院中に自宅の本棚から供給してもらった。何年か前に気になって購入してあった著者だ。
    著者は1935年生まれ、この時代に女性で大学、しかも医学部を出るなんて相当レアなケースであるまいか。大学院で医学史を修めている大変研究熱心な方だ。
    第一部の「病の記録」は面白い。天平、奈良、平安時代にどんな病気が記録されどのように病気をとらえて治療に当たっていたか、当然科学的アプローチはなくほぼ神仏への祈祷しかない時代だ。また病気による死が世継ぎ問題に直結している有様なんかも興味深い。よくこの切り口でまとめていただいたと思う一冊だ。

  • 古代より日本ではどのような病があり、それがどのように歴史に関わったのかを知ることができます。
    当然のことながらウイルスや病原菌の存在は知られておらず、流行り病は、怨霊や物の怪、はては天皇の失政に対する神々の怒りのせいということで、大仏を建てたり僧侶を集めて読経させたりお祓いしたりと、どんな権力者であっても神仏に頼るほかはなかったのです。
    現代ですらアヤシげなサプリやトンデモ系健康法などが跳梁跋扈しているのですから、治療法の確立していなかった時代の人々にとってはそれも無理からぬことだと思います。
    本書には、マラリア、コレラ、ペストに赤痢と数多くの病名が出てきます。それどこの国…と絶句しそうになるくらい。
    王朝文化咲き誇る鳴くよウグイス平安時代の裏側も、想像以上にシビアでした。
    またそれ以外にも市井に蔓延した数々の流行り病や、糖尿病や胃がんなどに苦しめられた歴史上の人物についても解説されており、興味深い一冊です。

  •  藤原道長が糖尿病だったと聞いて、きっと日本一の贅沢をしていただろうから糖尿病であったのもうなずけると、肖像画や望月の歌を思い浮かべる人も多いと思う。しかし原因は贅沢だけでなく、藤原一族には糖尿病素因があり、一族の中の何人も糖尿病に苦しんで亡くなった人がいるそうだ。

     『古事記』に出てくる神話の時代のヒルコの話から、昭和のサリドマイド事件の話など広い時代にわたってのエピソードが面白い。
     平安時代には物の怪が病の原因だと思って祈祷師を呼んだり、江戸時代になってもまじないで病を治そうとしたりといったことは、現代の人々から見れば、一見、ばかばかしく思える。しかし、現代の一般の多くの人は、病気の原因となるウイルスや菌を実際に見たことがあるわけでも、自分で薬を調合しているわけでもなく、単にそれが正しい知識であると教わっているから、病気の原因が何であり、薬を飲めば治るのであると思っているにすぎない。それを考えると昔の人も今の人も、やっていることは同じなのではないかと思った。

  • 迷信から科学へ -病気でみる日本史- 酒井シヅ 氏 アットホーム(株)大学教授対談シリーズ『こだわりアカデミー』
    https://www.athome-academy.jp/archive/culture/0000000137_01.html

    『病が語る日本史』(酒井シヅ):講談社学術文庫|講談社BOOK倶楽部
    https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000151477

  • いまだかつてない災厄に見舞われているかのような雰囲気が蔓延している2020年。でもさ、ずーっと昔から人は病とつきあわされてきたんだよね。

  • 文献に残る限り昔(日本武尊まで!)に遡って、日本における病気と人との歴史を紐解いた一冊。
    時系列で丁寧に追っていくので読みやすいです。
    時代によって病気の流行り廃り、名称の変化、などもあったのですねー。藤原道長は環境的にも家系的にも糖尿病になりやすかったとか、鎖国中は日本にインフルエンザが流行らなかったとか。
    面白かった。

  • 遺跡から発掘される病や怪我の跡。昔は今では亡くならないような病気をこじらせて死んでいく人がたくさんいた。一方、今では歩くのもままならないような大怪我をしながらも自然治癒に任せて生き延びた人もたくさんいた。矢が刺さったまま、骨がかたまってしまった人骨の話は大変興味深い。

    遣唐使を派遣した翌年から、疫病が全国的に広がったらしい。平城京への遷都も疫病を免れるためだったが、遷都によって農民の負担が増えて飢饉を引き起こしたという。

    興味を持つような出来事がたくさん並べられていて、読みやすい一冊。病の世界史なら「感染症は世界史を動かす」「疫病と世界史」を、病の日本史なら本書をおすすめしたい。

  • 日本の歴史と病気との関わりを追った本。著者は医史学専門の人。いろんな学問があるものです。大まかに、縄文弥生時代から時代を追って、時代ごとの病気について述べられている。縄文・弥生の場合、骨や遺物から探ることになるため、外傷や奇形などにどのようなものが見られたかがわかる。古代になってくると、文書で残る記録から、誰は何の病気であったかの推測が可能になる。それもそれでおもしろいのだが、やはり時代がもう少し下って、感染症の話あたりがおもしろい。安政に流行ったコレラ。ペリーが来航して日米通商修好条約が結ばれる少し前、長崎港に入港したアメリカ船の船員がコレラに感染していて、ここから大流行が始まる(ちょうどジョン・スノウがコレラが経口感染することを突き止めた頃だ)。ペリーが来たり、大地震があったり、安政の大獄があったり、安政って大変な時代だったんだなぁ。天然痘も古くから恐れられていた病気であり、日本でも「もがさ」と呼ばれて恐れられ、もがさ封じのための錦絵などがあったという。ジェンナーの種痘が伝わるより前に、日本でも、病人の瘡蓋を粉にして未感染児の鼻に吹き込むなどの人痘接種法があったのだそうだ。それなりによい成績を挙げていたが、ジェンナーの種痘法には及ばなかったらしい。また、ペストの伝来は明治29年。防疫に努めた結果、日本ではヨーロッパほどの大流行には至らなかった。時代が下ってからの伝来であったことも幸いしたのだろう。

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著者プロフィール

「日本医学教育歴史館」(順天堂大学)館長。東大大学院医学系研究科博士課程修了。順天堂大学名誉教授を経て同特任教授。日本医史学会理事長などを歴任。『日本の医療史』『病が語る日本史』など著書多数。

「2017年 『医学の歴史 大図鑑』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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