陰摩羅鬼の瑕(おんもらきのきず) (講談社ノベルス)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 317
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  • Amazon.co.jp ・本 (752ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061822931

感想・レビュー・書評

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  • 読者には誰が犯人がハナっからわかります。
    「この人ですよ」とは書いてないんですが、それしかないんです。
    それをノラクラと最後までひっぱられる。
    最後は京極堂が出てきて解決するんですけど。
    めんどくさいから、もっと早く出せばよかったのにさー

    主眼はわかりますが、それを主張するために御託が多く全体的にだれた印象だと思います。
    謎解きとしては成立してない。
    伝奇的な色合いもそんなに感じられない。
    なにかな、世界の相違云々が主眼だと思ったんですけど。

  • ハイデッガーは、存在作用の場となっているという意味で、人間のことを<現存在>と呼んでいる。人間という呼び方は、生物学的にも文化的な意味でも使われる曖昧な言葉だから存在一般の意味を究明するためにのみ人間を問題にするならそれに相応しい言葉がいると考えたわけだ。事程左様に、言葉とそれが意味するものを合致させることは難しい。ひとつの言葉が特定の概念なり事物なりを意味しているといえるのは、その言葉を使う者同士が、同じ共同体に属している場合に限られる。住んでいる世界を異にすれば、同じ事物も別の言葉で語られ、同じ言葉が別の概念を指すのである。

    江戸川乱歩が『心理試験』を書いたのは、確かドストエフスキーの『罪と罰』の主人公、ラスコーリニコフの犯罪後の心理に影響されてのことではなかったか。ドストエフスキー自身は探偵小説を書いたつもりはなかったろうが、探偵小説作家から見れば、ドストエフスキーの作品は探偵小説的興味を掻き立ててくれる人物に事欠かない。京極夏彦は、純粋培養された「本当に美しい人間」である由良伯爵を描くにあたって『白痴』のムイシュキン公爵を借りてきたのだろう。

    人物の二類型として、ドン・キホーテ型とハムレット型がある。自分の信ずるところにしたがって真っ直ぐ進む姿が周囲から見れば喜劇的にもまた悲劇的にも見えるのが前者である。それに比べ、躊躇逡巡を繰り返す優柔不断な人物を典型化したのが後者である。クィーンの国名シリーズの顰みに倣っていうなら京極夏彦の長編妖怪シリーズで狂言回しを務める小説家の関口と探偵榎木津は、カリカチュアライズされたハムレットとドン・キホーテであるのはいうまでもないが、由良伯爵こそはムイシュキン公爵同様正統的なドン・キホーテの末裔である。

    白樺湖のほとりに立つ城館めいた由良家の館「鳥の城」で起きる惨劇は、数知れぬ鳥の剥製の硝子玉細工の眼こそ不気味だが、それまでの同シリーズに比べれば、登場人物も舞台もシンプルに構成されている。公家出身の華族由良家は儒学者の家系として知られる。当主昂允の父は鳥類学者で、妻を早くに亡くし、嫡男昂允は病弱であったため成人するまで館の外に一歩も出ることなく、娑婆苦から隔離された悉達多のように育てられた。昂允はバベルの図書館とも称される館内の膨大な蔵書を頼りに独学で物事を知ることになった。子どもがそのまま大きくなったように純粋な伯爵は皆に愛されているが、婚礼の翌朝、新婦が殺害されるという悲劇が三度繰り返され、四度目の悲劇を防ぐため探偵が呼ばれることになる。

    拝み屋、中禅寺秋彦の憑き物落としの手際は相変わらず鮮やか。妖怪談義はいつものこととして、今回の趣向はハイデッガーの哲学と儒教、それに鳥類学である。横溝正史をカメオ出演させ、木場修や伊庭刑事と馴染みの顔を配しながらも、どこか人生の哀感を漂わせるのは人物造型の手柄だろうか。グロテスクの中に美しさと哀しみが潜む佳編としておこう。

  • 犯人この人かな?と思いつつも、読み進めて行くうちに不安になってくる。惑わされたなぁ、という感じ。
    そこは面白かったけど、全体的にもやもやして、なかなか読み進める気力がわかなかった。
    常識って何だと思った話だった。

  • おいしい

  •  久しぶりの京極堂シリーズ。ついに出ましたおんもらき。(もう漢字変換する気もなし。)
     昔、京極堂シリーズを読んでたが、はるかにあの頃よりも京極堂たちが語っている内容を理解できるようになっている。さすが大学。ビバ知識。多少は成長したってことだろう。(今回が今までより分かりやすい内容ってだけか?)
     いや、今回のがハイデガーだとは思わなかった。冒頭読んで思わず、「ハイデガーかよ!」と突っ込みを入れてしまった。
     関君は相変わらずうだうだぐずぐず。読んでて腹が立つ。京極堂は相変わらず回りくどい。榎さんは相変わらず破天荒でめちゃめちゃ。お盆頭乗せが得意って、あんた。木場修の旦那は相変わらず渋くてかっこいい。
     高柳はもしかして旦那が一番好きなんじゃないだろうか。(京極堂シリーズを読み始めて三年経った今気付く新事実・笑)

     筋も良かった。三人の人物の視点から一つの物語を追う形式。関君と伯爵と伊庭さんと。
     オチは早い段階で読めてたが、それは大きな問題にはならない。
     そして、それが実際に可能かどうかが問題ではない。
    「それを知らない人が居るんです」
     この台詞には傍点が振ってあったが、それだけ強調したいのだろう。
     明らかに高柳が拙作『被験者』で書いた台詞と同じ種類だと思う。
     実際にいるかどうかが問題であり、その世界には実際にいたという事実、それだけがある。
     現実世界で可能かどうか、なんて、そんな問題を取り上げるだけ野暮。

    03.08.13

  • 途中で犯人がわかっちまった…

    塗り仏よりはテンポも良くて読みやすかったけど、やっぱこの結末はどうかなあ

    • ふうKさん
      たぶん2回目。
      ごく普通の事件?
      犯人が憎めないところもこのシリーズでは珍しい。
      シリーズで1番面白くないかも。
      それとも飽きてきたのかな?
      たぶん2回目。
      ごく普通の事件?
      犯人が憎めないところもこのシリーズでは珍しい。
      シリーズで1番面白くないかも。
      それとも飽きてきたのかな?
      2020/09/01
  • 榎さん出ずっぱり!?と興奮したものの、視力が失われてるんじゃん。態度は相変わらずだけど行動に制限かかる感じがずるい…。もっと全面的に出張っちゃって破壊的攻撃的行動で愉快にさせて欲しかった。
    今迄読んだ百鬼夜行シリーズの中で一番読みやすかったし結末が見えやすかった。しかし心の座りが悪くなるのは変わらない。

  • 夏の京極夏彦イベント関連で再読したくなり、読みやすそうだったので。何度読んでも遺族がかわいそうになる。
    巷説百物語にも関連する話があるので、そちらも読み返す。

  • 関口巽大活躍(?)のお話で満足です(笑)

  • 白樺湖畔の「鳥の城」を舞台に、5人も続けて新婚初夜に花嫁が殺害される。

    単なるミステリではなく、林羅山とハイデッガーの共通性、本来の仏教にはない儒教的習慣を多分に取り入れた日本仏教の特殊性など、ペダントリな要素を楽しめる作品です。

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著者プロフィール

1963年、北海道生まれ。小説家、意匠家。94年、『姑獲鳥の夏』でデビュー。96年『魍魎の匣』で日本推理作家協会賞、97年『嗤う伊右衛門』で泉鏡花文学賞、2003年『覘き小平次』で山本周五郎賞、04年『後巷説百物語』で直木賞、11年『西巷説百物語』で柴田錬三郎賞、22年『遠巷説百物語』で吉川英治文学賞を受賞。著書に『死ねばいいのに』『数えずの井戸』『オジいサン』『ヒトごろし』『書楼弔堂 破暁』『遠野物語Remix』『虚実妖怪百物語 序/破/急』 ほか多数。

「2023年 『遠巷説百物語』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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