子どもの王様 (講談社ノベルス)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 14
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  • Amazon.co.jp ・本 (192ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061828452

感想・レビュー・書評

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  • ミステリとしては極めて王道でストレートな物語なのだが、ジュブナイルものとしては完璧の一語。子ども視点で見る閉塞感のある団地生活の描写が素晴らしく、団地特有の閉塞感と陰鬱さの描写が丁寧である。特に作中で描かれる小学生男子像は非常にリアルで、無邪気な邪悪さの交じる会話、喧嘩の強さやや遊び道具の所持数を基準にした立場の違い、女子に対する忌避感など、薄暗い団地で浮かび上がる小学生の不自然なまでに明るい生活スタイルこそが本書の見どころの一つと言っても過言ではないだろう。フィクションのヒーローものをフィクションとして捉えつつも、それがこの世の楽しみの全てであるかのような、一見すると矛盾にも見えるさじ加減もまた現実的である。若い母親との会話も良く、時折交じる現実味や、シングルマザーと子どもの生活感や距離感もまた微笑ましい。主人公が殺人を犯すラストのくだりは賛否が分かれるだろうが、一見すると英雄的行動でも、現実はそこで終わりではなく、また上手いこと収束しないことを示した最高のシーンだと思う。罪の重さはあれ、それは大人の尺度で語る話であり、残酷なことに子どもにはそれが分からない。つまりは大人と子どもの認識のズレこそが肝であり、子どもの王様の正体(トモヤの父親)は大人ならすぐに分かるだろうが、子ども視点で「顔を見ることで」子どもにだけ正体が分かるようにぼかして描いたのは上手い。「現実はフィクションのようにはいかない」というのがそもそもの主題であり、その現実の苦さを知ることこそが大人への第一歩なのだろう。そういう意味では少年時代の終わりをしっかりと描写した、実に真っ当なジュブナイルものであると思う。

  • 作者の作品である「ハサミ男」が好きすぎて、これも読んでみたのだがこれはちょっと単調だったかな。
    子供が読むと確かに展開が分からずハラハラ楽しめると思う。
    自分は子供の王様の正体が途中でわかってしまったので。。もっと若い時に読んでれば感想も変わったと思う。

  • 団地住まいのショウタを取り囲む子どもの世界。
    TVの中で悪を滅ぼす格好良いヒーロー
    罰ゲームで盛り上がる休み時間
    近所に住むイジワル魔女
    引きこもりがちな親友が怯える"子どもの王様"。
    子どもはまだ知らない沢山のことを知りながら大人になる。
    子どもの王様にならなくていいように。

  • 小学校の頃、団地の友達と毎日遊んだ日々のことを思い出した。

  • うーんイマイチ

  • 2003年に講談社ミステリーランド叢書から刊行されたジュベナイル小説のひとつ。大人にも子どもにも楽しめる本格ミステリというコンセプトであり,本作品も主人公が小学生となっている。
    不登校で引きこもりのトモヤという少年が,ショウタという少年に「子ども国を支配している王様」の話をする。いつも話しているような,途方もない作り話かと思っていたが,ショウタは「髪が茶髪で,いつもよれよれのトレーナーとジーンズを着てる。頬がちょっとこけていて,やさしそうな垂れ目で,口のまわりにぽつぽつとひげが生えている」という外観の男性を発見する。
    子どもの王様の正体は,トモヤの父親だった。DV夫と離婚し,母子家庭となっていたトモヤの家族。ショウタは,トモヤを救うために,トモヤの父親を窓から落として殺害してしまう。本当は父親のことも好きだったトモヤはショウタを許さず,ショウタとトモヤが住む団地から,トモヤの家族は引越しをするという形で物語は終わる。
    なんともいえない読後感の作品であり,読みやすい文体は殊能将之らしい作品といえる。驚愕の真相や,ロジカルな展開などがなく,本格ミステリとしてはイマイチ。受べないる小説として読めば…ちょっと読後感が悪いか。総合的に見れば★2かな。

  • 団地に住む平凡な小学生ショウタは、引きこもりがちな親友トモヤから『子どもの王様』について話を聞く。トモヤのつくり話だと思っていた子どもの王様がショウタの目の前に現れて……というのがあらすじ。
    他の殊能作品に比べると読みやすい。
    ただその分物語が終わるのもあっという間だし伏線は堂々と張られすぎてもはや伏線じゃないし…。★5なのはミステリを読み始めの子どもが読んだらおもしろいんだろうなと思ったことと、タイトルの子どもの王様ってこの本自体とのダブルミーニングなのではといろいろ考えられて楽しかったから。

    **ネタバレ**
     悪を倒すのが正義だとしても、殺されたものがいる以上、本当の正義ではいられないのだろうな。いろいろ考えるように成長してから、彼は自分のしたこととどう向き合うのだろう。

  •  ノベルス版にて再読。
     追悼の意を込めて。
     「かつてこどもだったあなたと少年少女のための」ミステリーランドのノベルス版。団地というある意味閉鎖的な空間の中の、さらに閉鎖的な子供のコミュニティでの話。
     団地案内図にペンキを塗って建物と道を錯覚させる、という部分の印象が強すぎてそこしか覚えていなかった。再読して、こんなに後味の悪い話だったっけか、と驚きました。
     「子どもの王様」におびえる友達の為に一生懸命になる主人公がかっこよいです。だからこそラストが切ないというか、なんとも言えないもの悲しさがあるね。
     年を重ね「大人になった」ショウタくんが、自分の行いについてどう思うのか、考えるようになるのか、想像するだけでぞくぞくする。いろんな意味で。
     なんだろうなぁ、このひとの話って、静かにおかしい、穏やかに不安定、爽やかに後味が悪い、そんな印象。
     抜粋。

     大人になんか、なりたくない!
     ショウタは心のなかで叫ぶ。
     いつまでも子どもでいたい。

  • 奇しくも麻耶雄嵩がミステリーランドから上梓したのも"○○様"繋がりの『神様ゲーム』で、そちらは発売後すぐに買って読んだのだが本作は今ひとつタイミングが合わず、ようやく読むことができた。共通するのはジュブナイルらしからぬ後味の悪さ。もちろん相違もある。神様ゲームが論理の介入を拒絶する非現実的要素を多分に孕んでいるのに対し、本作はあくまで現実的。子どもにとっての等身大の世界を淡々と描き出している。故に派手さには欠けるが、そこは好みの問題。あ、そういやノベルス版『夏と冬の奏鳴曲』の表紙もパルジファルだっけ。

  • 殊能先生らしい皮肉を含みつつ、子供の頃の空想力(ヒーローモノで熱くなったり)、学校や身の回りの生活感とか子供が関わる世界の全て(「カエデが丘団地の外にはなにもない」発言)や、あちこちの描写が、ちょっと大人が子供の頃の自分の感覚を思い出して懐かしい気分になる作品。図解も入っていて、そこもちょっとワクワクさせます。
    ネタ的にはシビアにダークです。『神様ゲーム(麻耶雄嵩)』のラストの怖さは、半分ファンタジーに近いと思ってますが、こちらの作品の怖さはネタが妙にリアルな分、本当にありえそうで怖いですね。

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著者プロフィール

1964年、福井県生まれ。名古屋大学理学部中退。1999年、『ハサミ男』で第13回メフィスト賞を受賞しデビュー。著書に『美濃牛』『黒い仏』『鏡の中は日曜日』『キマイラの新しい城』(いずれも講談社文庫)がある。 2013年2月、逝去。

「2022年 『殊能将之 未発表短篇集』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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