新しい人よ眼ざめよ (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 30
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  • Amazon.co.jp ・本 (326ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061837546

作品紹介・あらすじ

障害を持つ長男イーヨーとの「共生」を、イギリスの神秘主義詩人ブレイクの詩を媒介にして描いた連作短編集。作品の背後に死の定義を沈め、家族とのなにげない日常を瑞々しい筆致で表出しながら、過去と未来を展望して危機の時代の人間の<再生>を希求する、誠実で柔らかな魂の小説。大佛次郎賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  • 著者の本は前々から読んでみたかったのですが、やっとゆっくり読むことが出来ました❕

    私には難しい本でしたが、文章のリズムや表現がとても素敵で、めちゃくちゃ良かったです❕
    他の作品も読んでみたくなりました。

    この本は、詩人ブレイクの作品と著者の思想をおり混ぜながら、障害をもつ著者の長男について、生まれてから成人するまでを描いた愛に溢れる作品です


  • 『雨の木(レインツリー)』に並ぶ中期の傑作。
    大江文学には、息子の光さんを題材とした作品に必勝の方程式があり、本作は最高の成果品。
    度々引用されるウィリアム・ブレイクの詩は、大江の想いが強く乗りすぎて咀嚼し切れない部分あるが、本作の下に一本流れている息子への純粋な愛情が随所に感じられる。
    描かれる家庭内の危機を乗り越える度、家族っていいな、と単純ながら感じる一冊。

  • 初期の大江作品を特に愛好していたけど、この時期の短編集の充実度もすごい。装飾的な言葉を持て囃すのでなく、作家の根っこに基づいたブレイクとの共振が美しい

  • ノーベル賞受賞の後くらいに読んでみたが、どうにも読み進められず止めてしまったのだが、数十年ぶりに今回はけっこう面白く読めた。表面的には大した事件は起こらないのだが、深海で何か起きているような不穏感が常にある。障害のある子やその親はそうしたことを感じ取りやすいのかもしれない。その子の誕生から青年までの物語。ヴァルネラビリティということを考えた。朝吹真理子がNHKの大江健三郎特集で、この本を愛読書として語っていた。何冊も持っていて、まさしくこの講談社文庫版だったが、何回も読んだらしくグシャグシャだった。

  • 名作。
    ウィリアム・ブレイクの詩の引用が多く出てくるせいか、難しいと思われがちだけど、熱意にと祈りに満ちていて、いい本。

    引用どこかにたくさんメモしたような…

  • 大江健三郎には詳しくなく、耳にする本なので読んでみた。
    障害を持つ息子イーヨー。マルカムラウリーとブレイクの詩。新約聖書。
    ブレイクの詩と読んでいるときの状況、当時の息子の障害と親の心境を、言葉を変え、愛を持ちながら絶望し戸惑いながら人知を超えた存在として詩のイメージを重ね、接していく。
    詩とは、選び抜かれた言葉の積み重ねで、それぞれの語にそれぞれの持つ文脈と想起させる要素があって表現するのだけど、それが障害を持つ息子に思いを馳せているタイミングと合うと、響きあい別のイメージを持って著者に解釈される。現実をよく見てないな、とも思うし、独特のイメージを生み出してるな、とも思う。

    「いいえ、パパは死んでしまいました!」太文字で書かれる息子の敬語の言葉が、日本語なのにどこか文脈を外れ異様で不気味に感じる。あたかも彼の身体を通り越して別の何かが話しているかのような。

  • タイトルはウィリアム・ブレイクの詩の一節に由来するもので、各短篇のタイトルもブレイクの作品などから採られている。引用や独自の解釈なども作中で展開し、また作中の展開としてブレイクの詩について調べるシーンすらある。ここまでブレイクづくしだと、ブレイクについてまったく関心も智識もないわたしとしては面喰らってしまう。ブレイクの詩は現在の日本で広く読まれているとは言いがたく、そのためそれを軸に話が展開していても、どう読み解くべきか容易に答えを出せる読者はすくないのではないであろうか。そう思って読み終えたあと鶴見俊輔氏による「解説」を読むと、ブレイクの詩句と「イーヨー」の言動が随所でリンクしていると書いてある。なるほど、この作品はイーヨーの言動を中心に読み解き、ブレイクの詩を再構成してゆけば良いのである。はじめにこのことを知っておくべきであった。ブレイクを中心に読み進めてゆくとなかなか難解で行き詰ってしまうが、イーヨー自身は非常に魅力的で、時折笑える行動も登場する。イーヨーを主人公として捉えて読めば、ふつうにおもしろい小説なのである。ただ、その場合やはりブレイクの壁が立ちはだかる。智的障礙をもつイーヨーと各方面でマルチな才能を発揮したブレイクは本質的に異なるといってはあまりにも失礼であろうが、実際問題越えられない壁があることは明らかであり、そこを意図的にネグっているせいで、傑作が良作どまりとなってしまっている。あるいは、ブレイクの詩とイーヨーの発言を逆転させるべきであったろう。この感想もブレイクのことばかりになってしまったので、ある意味不幸な小説である。

  • 「個人的な体験」から続く一連の作品群の一つだと思う。自身の小説・体験を何度も再定義していく独特のやり方の中で書かれているので、主要作品を読んだ後に読むのがおすすめです。もちろん、単体でも分かる構成になっていますが、深く自身に浸み込ませようと思うと、他作品からスタートがやはりおすすめです。

  • すごくタフでハードな体験だったんだろうなと想像出来るのだけど、出来事のみならず彼の文章表現能力がぶっ飛んでて、もう本当に大笑いに大笑いで全然退屈しない。それにしても、ここではウィリアム・ブレイク、「燃え上がる…」ではイェイツと、どうして既に活字となっているものに縋ってしまうのか。というのもそれらは既に引用を超えていて、貴方はその詩たちにおそらくは書き手の本来の意図をも超えた意味を付与できるのに…それほどまでに目の前の現実はそれ自体としては脆いものなのか…こういうのが言葉から離れられない人の姿であるのか…。

  • 「読書力」文庫百選
    2.この関係性は、ほれぼれする
    →父子のコミュニケーション

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著者プロフィール

大江健三郎(おおえけんざぶろう)
1935年1月、愛媛県喜多郡内子町(旧大瀬村)に生まれる。東京大学フランス文学科在学中の1957年に「奇妙な仕事」で東大五月祭賞を受賞する。さらに在学中の58年、当時最年少の23歳で「飼育」にて芥川賞、64年『個人的な体験』で新潮文学賞、67年『万延元年のフットボール』で谷崎賞、73年『洪水はわが魂におよび』で野間文芸賞、83年『「雨の木」(レイン・ツリー)を聴く女たち』で読売文学賞、『新しい人よ眼ざめよ』で大佛賞、84年「河馬に噛まれる」で川端賞、90年『人生の親戚』で伊藤整文学賞をそれぞれ受賞。94年には、「詩的な力によって想像的な世界を創りだした。そこでは人生と神話が渾然一体となり、現代の人間の窮状を描いて読者の心をかき乱すような情景が形作られている」という理由でノーベル文学賞を受賞した。

「2019年 『大江健三郎全小説 第13巻』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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