危険信号 (講談社文庫 あ 4-10)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (329ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061838246

作品紹介・あらすじ

美津子は幼いころからよく腹痛をおこした。それも肝心なときに。そして会社の同僚の並木から遠出のドライブに誘われたときも腹痛がおき,淡い恋は去ってしまった。結局並木は美津子の友人芳枝と結ばれたのだが、これには裏があった!人生の危険信号を軽妙に描く秀作集。

感想・レビュー・書評

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  • 1982年から1983年に、様々な出版社の雑誌に発表された短編を10編と、1974年に発表された作品1編、全11編を収録した、寄せ集め的な作品集。単行本は1983年に刊行。


    1974年の作品「裸で殺そう」が強烈にブラック・ユーモア感がありますが、それ以外の作品にはブラック・ユーモア感はあまり感じさせません。
    成熟期の阿刀田高作品集という感じですが、「裸で殺そう」のせいで、全体的なブラック・ユーモアの物足りなさを強調してしまっています。

    ブラック・ユーモア感は物足りなくとも、女性心理を描いた「女ごころ」「女の戦争」は、なかなか素晴らしいオチでしたし、最後にサイコ・スリラーになる「走る男」もなかなか印象的な作品でした。


    以下は簡単に各作品の感想を↓

    子宝温泉
    子宝に恵まれるという噂のある、鄙びた温泉街の物語。子供が欲しい夫婦達に焦点を当てた物語だと思っていると、いつの間にかこの温泉街に逃げ込んだ殺人者が主役になり、予想もつかない結末を迎えます。非現実的な物語ですが、SFではなく、神話や民話に近いような世界観です。

    雨上がり
    未亡人と、彼女を結婚前から好きだった男とのロマンス。単なる恋愛小説か、と、ラストぎりぎりまで思わせておいて、わずか数行で、種明かしがありました。完全に騙されましたね。

    鳩の血
    花嫁が処女であると偽る、という意味では、犯罪ミステリー的ではありますが、まあ、男女の機微を描いた小説ですね。

    女ごころ
    夫に黙って作った借金の返済のため、男に金で体を買ってもらおうとする主婦の物語。
    特に事件も起こらず、これも男女の機微を描いただけの物語かと思いきや、見事なオチが待っていました。

    幼い脅迫者
    誘拐サスペンス、ですかね。ブラックなオチではなく、ユーモラスなオチになっています。

    糸の女
    毎年、4月23日になると、三鷹の褐色のマンションを訪れないといけない、という衝動に駆られる男が、ある年の4月23日に三鷹の褐色のマンションで一人の女に出会う、という不思議な物語。
    オチも謎めいたまま終わります。

    赤鰊
    英語ではごまかしのことを赤鰊というらしいです。
    路地裏の酒場で、謎の手品師に出会って、という物語。
    理屈は明かされないまま、謎めいたどんでん返しがあります。

    裸で殺そう
    この作品集の中で、この作品だけが初出が1974年と、古い作品。
    そのため、作品の持っている雰囲気のブラックさが際立ちますが、オチの切れ味がどうも悪いです。
    モヤモヤした読後感でした。

    奇妙な儀式
    性に淡白な女と付き合い始めたが、その彼女が月に一度ほど淫らに荒れ狂う、という、ちょっと色っぽい話。彼女が淫らになる理由には、奇妙な儀式があるらしい、というところから物語が謎めいてきます。オチはなかなかいいですが、ブラックさは、まあまあ、といったところ。

    女の戦争
    出世争いをするサラリーマンの、奥様同士の戦いを描く物語。
    オチが自分には意外過ぎて、痛快とも思えるものでした。

    走る男
    「奇妙な儀式」と対をなすような作品。先に「奇妙な儀式」を読んでいる分、余計に騙されたのかもしれないです。
    そんな予想のつかなかったオチは、ブラック・ユーモアといえばブラック・ユーモアですが、狂気を感じさせる、ちょっと恐ろしいものでした。

    危険信号
    何か良くないことが起こる前には必ず腹痛を起こす女性の物語。
    表題作にもなっている作品ですが、この作品集を代表するほどの出来だとは思えませんでした。
    オチがブラックではなく、因果応報的なものなのも、阿刀田高作品では珍しいのではないでしょうか。

  • 阿刀田さんへの感想は、きっといつも電車の友にぴったりだ!と書いているのだろうなと思いながら、でもやっぱりあまりのぴったりさに同じことを書かずにはいられません。また、文庫25〜30ページっていうのはまさにぴったりの量でした。
    男と女のちょっとエロ系ミステリー系の短編集で、途中で飽きてくるところも全くなくて本当に楽しく読みました。最後に必ずミステリーな仕掛けがあって、ゾッとしながら読ませていただきました。

  • この方の本をほとんど読んだことがなくて、先日読んだ『不安な録音器』だけで印象を決めてしまいたくなかったので、ネットで高評価だったものを借りて読んでみました。

    『不安な録音器』よりも作品が粒ぞろいです。
    ミステリというかSFというのか、読後にざわっとしたものが背中に残る感覚。
    星新一の読後感とどこか似ている気がしました。

    一番印象に残ったのは、冒頭の『子宝温泉』。人殺しの虫が、雪の中で胎内に帰っていく物語。阿刀田さんだなあ、と感嘆。

  • 短編集。ブラックジョークとちょっぴり怖い要素が満載。全12話。

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著者プロフィール

作家
1935年、東京生れ。早稲田大学文学部卒。国立国会図書館に勤務しながら執筆活動を続け、78年『冷蔵庫より愛をこめて』でデビュー。79年「来訪者」で日本推理作家協会賞、短編集『ナポレオン狂』で直木賞。95年『新トロイア物語』で吉川英治文学賞。日本ペンクラブ会長や文化庁文化審議会会長、山梨県立図書館長などを歴任。2018年、文化功労者。

「2019年 『私が作家になった理由』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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