火刑都市 (講談社文庫)

著者 :
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  • Amazon.co.jp ・本 (404ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061844797

作品紹介・あらすじ

東京四谷の雑居ビルの放火事件で若い警備員が焼死する。不審な死に警察の捜査が始まった。若者の日常生活に僅かに存在した女の影…。女の行方を追ううちに次の放火事件が発生した。こんどは赤坂。そして現場に"東京"という謎の文字が残される。索漠たる都市の内奥と現代人の心を見据えて鬼才が描く、印象深い推理長編。

感想・レビュー・書評

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  • いやぁー、面白かったぁー!
    島田荘司さんの社会派ミステリー。また、島田さんの都市論が存分に展開される物語でもある。

    ゆっくりと、しかし深く練りこまれた一人の「見えない女」の罪と軌跡を、一つの火災事件から刑事が丹念にたどっていく。
    その過程はとても細く、少しでも力を入れれば途中で切れてしまいそうな糸のようだ。見つけたと思ってそっとたぐってみても、すぐに手ごたえがなくなってしまう。それでも、少しずつ少しずつ彼はその一人の孤独な女の正体をつかんでいく。

    どうにか彼女の故郷をつきとめ、そこまで赴く刑事の見て、聴いて、感じたものすべてが読者にその見知らぬ「彼女」の姿を形作っていく。彼女がどう生まれ、またどう生活し、そして誰を愛したのか……。それらのことが、その土地から、その風土から、そしてそこに住む人々の姿から立ち上って来る。
    刑事が「ここに来てよかった」と胸の中で述懐する場面にはっとさせられる。

    都市論としてとても印象的な本書だが、私はやはり「その土地で生きていくということ」が一人の女の姿を通して描かれてあるという点で、とても感銘を受けた。
    東京が怖かった、今でも怖い、という感覚が説得力を持って伝わってくるのは、きっと(刑事の目を通して)読者が犯人の故郷を見たからだろう。
    何もわからなかった、誰もいなかった、だって何も知らないから……という犯人の孤独が、ひしひしと染みる。

    私はこの本を、川本三郎さんの『小説を、映画を、鉄道が走る』を読んで手に取った。
    『小説を~』でも触れられているが、『寝台特急「はやぶさ」1/60秒の壁』でも島田さんは新潟へ吉敷刑事を向かわせている。そこの場面を、私はよく覚えている。島田さんは実際、新潟の土地にとても感銘を受けたのではと思う。確かそこでも吉敷刑事は、「どうしてこんな土地に人は住まなくてはならないのだろう」というようなことを言っていたように思う。
    島田さんの故郷は福山、そして吉敷刑事の故郷はたしか尾道の設定だった。つまりは、瀬戸内海沿いだ。私は尾道に行った際、その海の包まれるような穏やかさにとても感動したが、あの海を見て育ったなら確かに、新潟の日本海にはショックを受けるかもしれないなぁ、と思う。……
    育った土地、生きた土地の記憶は、その人の一部となって他の土地へ移っても生き続ける。そういうものなんだろうと思う。

  • 初期の作品。いつもながらの卓越した文章力には脱帽するしかない。中弛みが全くなく、推理不可能な事件の数々で読者を引き付ける吸引力は、後半になって益々その力を増す。島田作品には度々、自ら不幸になろうとする女性が登場するが、メイントリックと同様、そうならざるを得ない理由と結果にも手抜かりはない。作者の「都市」に対する思い入れはいくつかの作品に描かれているが、それが最もよく現れているのがこの作品だと思う。

  • 東京の昔の話はおもしろく勉強になった。
    それに、地方から上京した女性の東京に対する恐怖や負けまいとする心意気・孤独は、同じ経験があるからなんとなく共感できた。
    ただ引っかかったのは、刑事の勘がちょっと悪いんじゃないか?ということ。
    私が読んでて気にかかった事を刑事はスルーしたり気づかなかったりしてて、放火事件の真相が分かるにつれてやはり関係あったじゃん!って事がいくつかあった。
    そこがちょっと疑問。
    しかし、中だるみせず読ませるのはさすがだなと思う。

  • どうしても陰鬱さがぬぐえないのだが、話としては面白い。

    種や仕掛けというより全体的な話の創られ方が上手くて日々変化していく社会を昔を思い出しながら考えてみることもよいかと思えてしまう。

  • 本格と社会問題を融合したミステリーです。
    刑事が諦めず必死に模索し、少しずつ真相に近づいていく過程は見応えがありました。東亰 (とうけい) という、昔の東京の呼び名に関する記述はなかなか面白かったです。
    動機はやや弱いかなと思いましたが、全体的に良くまとまっていると思います。著者の隠れた名作です。

  • 連続して起こる放火事件と殺人。
    追う中年刑事と,事件の背後にいる男と女。
    東京の地理とかよくわからないが,こういう展開の話は好き。

  • 東野圭吾ミステリーとしては普通。
    東京という都市についての知識が深まるのが特徴か。

  • 放火事件で一人の男性が焼死した。
    見えない糸が張り巡らされたこの事件を、中村刑事が解き明かしていく。
    ちょっと動機と方法に納得がいかないけれど、読んでいくうちに引き込まれていくこと必至。

  • お勧め。

  • 真相にたどり着くまでの中村刑事の捜査の過程が良い。足で稼ぐ凡人型探偵。冒頭は殺人事件のように見える放火事件の被害者の周りから消えた女探し。ここにある気の入った刑事の信念が次第に実を結ぶとこなんか読んでて快哉を叫びたくなる。また連続放火事件に切り替わってからのさまざまな「本格」的な謎の数々。そして島田荘司の都市論。これだけあれば破綻しそうだけどこれがちゃんと融合してる。そして面白い。まあ読み終わると多少結びつきは弱いかな?とも思えるけど読んでる最中はそんなこと気にならないくらい。さすが。

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著者プロフィール

1948年広島県福山市生まれ。武蔵野美術大学卒。1981年『占星術殺人事件』で衝撃のデビューを果たして以来、『斜め屋敷の犯罪』『異邦の騎士』など50作以上に登場する探偵・御手洗潔シリーズや、『奇想、天を動かす』などの刑事・吉敷竹史シリーズで圧倒的な人気を博す。2008年、日本ミステリー文学大賞を受賞。また「島田荘司選 ばらのまち福山ミステリー文学新人賞」や「本格ミステリー『ベテラン新人』発掘プロジェクト」、台湾にて中国語による「金車・島田荘司推理小説賞」の選考委員を務めるなど、国境を越えた新しい才能の発掘と育成に尽力。日本の本格ミステリーの海外への翻訳や紹介にも積極的に取り組んでいる。

「2023年 『ローズマリーのあまき香り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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