時計館の殺人 (講談社文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (626ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061857063

作品紹介・あらすじ

館を埋める百八個の時計コレクション。鎌倉の森の暗がりに建つその時計館で十年前一人の少女が死んだ。館に関わる人々に次々起こる自殺、事故、病死。死者の想いが時計館を訪れた九人の男女に無差別殺人の恐怖が襲う。凄惨な光景ののちに明かされるめくるめく真相とは。第45回日本推理作家協会賞受賞。

感想・レビュー・書評

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  • 館シリーズ第5作目にして日本推理作家協会賞受賞作である本書は当時全10巻と想定されていた館シリーズの折り返し地点でもあり、それまでの集大成的な趣を備えている。従って前4作を凌ぐ厚さで、内容も濃い。
    まず時計館のデザインからして過剰だ。私は文庫で読んだが、文庫表紙の絵では単純に聳え立つ時計塔が描かれているのみで、学校のような感じを受けた。単に時計塔があるから時計館かと思っていたら、そうではなく、時計をモチーフにした円形の館を取り巻くように階段と廊下があり、「おおっ、やるではないか!」と胸躍ったものだ。さらに館には古今東西から集められたアンティーククロックが設えられているという装飾も物語に異様さを与え、私の本格ミステリ熱を掻き立ててくれた。

    そしてその内容も前作の不満を一気に解消する面白さだった。第1作で登場した江南くんが中村青司が建てた時計館を訪れ、そこで次々と起こる連続殺人に巻き込まれる。そしてなぜか犯人は犯行と同時に館内のアンティーククロックをことごとく壊していく。そしてシリーズで探偵役を務める島田潔は鹿谷門実と名を変え登場するが、なんと彼は時計館ではなく、その外側にて行動しているのだ。

    そして最後に明かされる犯人の動機と時計を壊した意味は、正に私にカタルシスを存分に感じさせる内容だった。「ああっ、そうだったのか!」とこれほど気持ちよく騙される快感もそう味わえない。
    やはり読者が綾辻作品に求めるのは、この過剰さにあると思う。現実の日本とはちょっと位相が違った世界のように感じられる館にて、常識で考えると滑稽だと思われる一風変わった主たちとそれを取り巻く一癖も二癖もある反社会的な人物たち。彼ら彼女らが抱く過剰さと特異な館という異世界の過剰さが読者を異界へといざない、大伽藍を描いてみせる。そんな世界で最後に繰り広げられるのはあくまで地球上の法則・論法に則った謎解き。異界が決して魔法とか奇跡とかで解かれるのではなく、凡人が納得できる一般知識で解かれるところにこの気持ちよさがあるのではないだろうか。そしてそれは世界が過剰であればあるほど、ロジックの美しさを描く、そんな気がする。

    特に本作で印象的だったのは、犠牲者の一人が館を逃げ出そうとして出口を開けたときに遭遇する、ありえない光景を見るシーンだ。このありえない光景は最後で明らかになるのだが、そのとき犠牲者が目の当たりにしたのは正に狂気の世界なのだ。この現実世界で気が狂わんばかりの光景というのはどういうものか、それを実に鮮やかに納得のいく常識的論理で解き明かす。ここに私は綾辻マジックの真髄を見た。
    そしてこの館を覆う大きな仕掛け、つまり館内の時計を次々に壊す理由を知った時、綾辻氏は神ではないかとまで思ってしまった。ネタバレになるので詳しくは書けないが、当時学生だった私は色々世の中について考えを凝らしており、その中で至ったある真理というのがあった。しかしその真理を綾辻氏は操ってしまったのだ。あとがきで作者もこのアイデアの核を思いついたのは正に天啓だったと述べている。天啓という言葉を使うほど、このトリックは神の支配をも超えるすさまじいものだし、私もこのアイデアには恐れ入ってしまった。

    いささか散文的で熱くなってしまったが、当時私が本書を読んで抱いた感慨を文章にするとどうしてもそうならざるを得なかった。『十角館~』という処女作の呪縛を私はこれで氏は超え、更なる高みへ行ったと思ったが、意外と世間の本書に対する評価は冷ややかであるのが不思議だ。しかし私は怖気づくことなく、本書は傑作であると声を高くしてここに断言する次第である。

  • 館シリーズだから買った一冊。

    単純なトリックだったが全く考えが浮かばなかったトリックだった。

    犯人もまさかの人だったし

    一部偶然にしては都合がよすぎる展開もあったが、最後まで読み応えがらあった時計館の話だった。

    シリーズ五作目
    変わった館を持つ一族には、不幸や不運がつきまとうのかな?と思ってしまう小説でした。

  • 流石の館シリーズ。不気味な雰囲気はシリーズ最高峰かも。トリックも素晴らしいし、島田のキャラも好き。最後の謎解きのサッパリとしか感じが好みです!

  • 第一作に登場した江南くんとその仲間の出版社の人々、さらに大学生たちが降霊会に参加する。しかし突如姿を消した霊媒師。そこから次々と起こる殺人劇。
    初対面であるはずの9人を襲う無差別殺人だが、大学生のうちの1人は10年前のある事件を思い出す——。

    どこか閉塞的な建物といつ狙われるかわからない恐怖から、そこにいる人々が気を狂わせていく。必死に事件の解決を目指す江南くんだったが、一人また一人と仲間を失っていくのであった。

    動機のわからない殺人、10年前の違和感、次々に命を落とした館関係者、何かに気づいてしまった犠牲者たち。
    登場人物の何気ない一言で読者に疑問を抱かせ、最後の謎解きでその論理を明快にする。読み終わった後には満足を感じるだろう。

    館の仕掛けもまた、単なる小細工ではない大きな枠組みを捉えているものだった。誰が狂っているのか?という日常への投げかけとも感じられた。

  • 館シリーズ第五弾。

  • 雑誌CHAOSで幽霊屋敷で降霊術をするという企画が持ち上がり、選ばれた面々が時計館へと集う。

    ひさびさ登場の江南くん。十角館以来ですね。
    江南という文字で「コナン」と読んでしまい、あれ、この人知ってる・・・となって思い出しました。
    名前ってすごいなぁ・・・。

    あまりネタバレしたくないので、感想だけ言うと、そのトリックは見抜けなかった!さすがだなぁ。
    でも、薄々「あれ?あれ?」という感覚はあった。←負け惜しみっぽい・・

    これは十角館の感想でも書いてるんですが、
    「犯人が気に入らん!」
    そのしつこさ、その周到さ、その大胆さのすべてが気に入らない。
    そこまで犯行をやり遂げるのに、どれだけ精神力がいることか。ほんでめっちゃ殺すやん。だいじょうぶか。
    その館を建てた人もおかしい。それを是としてすすむお話もどうかと思う。切ない話と言うにはあまりにもクレイジー。

    どうしても「おいおい。憎むトコロがちゃうやろ」と思ってしまい★★★。

  • 自宅本。再読。108個の時計がある洋館で、オカルト雑誌の編集者と大学のオカルトサークルを連れて、霊媒師が降霊術会を企画すると、連続殺人が起こる。

    十角館や迷路館のクラシックなクローズドサークルミステリの良さ、水車館の幻想的なストーリーの良いところが出ている。昔読んだときは、超傑作(いや間違いなく傑作なんだけど、、、)と思ったが、今読むと魅力的な大トリックの効果は終盤のアリバイ崩しだけなんで、もう少し上手く演出できたら面白いのにな、、、と思ってしまう。

    館シリーズのジレンマとして、隠された秘密通路が重要なファクターなので、館側の人間しか犯人役が務まらないのだが、それを補って余りある驚天動地の大仕掛けがあるので、初読の方は羨ましい。

    大仕掛けといえば、世界最長推理小説の二階堂黎人さんの「人狼城の恐怖」も衝撃度は似た感じ。また、本作のオカルト的な死の預言に対して抗おうとするというモチーフは、今村昌弘さんの「魔眼の匣の殺人」でも出てくる。作者が時計館を読んでないとは思えないが、まったく違うアプローチで面白いミステリになっている。

  • 館シリーズ前作の人形館でだいぶ変化球が来たのですが、この時計館の殺人はド直球の謎解きでした。

    これぞ館シリーズ。面白かったです。
    館にきちんと存在感があり、かつトリックの主役になっている。伏線の素晴らしさ、犯人の動機、トリック、時計館の謎、過去と現在がうまく絡み合って、最後の章で一気に謎が解け、物語が終わります。
    仕掛けが盛りだくさんで、読後感のカタルシスが半端ないです。

    犯人は目星がついても、このトリックが解ける人はそうはいないのではないでしょうか。時計・時間を使ったトリックだろうなあ、とは誰もが思いますが、これは思いつかなかったなあ。

    それにしても、大勢死にましたね〜。過去と現在合わせて1番多いのでは。あまりにテンポよく死んでいくんで、誰もいなくなっちゃうんじゃないかと思いました。

    時計館という舞台も、美少女が変死した過去も、かなり怖くて、ゾクゾクしました。
    水車館が1番怖かったのですが、それに次ぐおどろおどろしさ。旧時計館の章では河南の視点で話を読むことが多いので閉鎖された空間で1人、また1人消えていく恐怖をたっぷり味わいました。

    講談社ノベルス版を読みましたが、綾辻さんのあとがきが最後にあります。綾辻さんってだいぶ軽妙な文章をかかれる方なんですね。本編との違いに驚き、素の文章も読んでみたくなりました。

  • この年(60オーバー)だと和洋話題作有名作その他コミック含めて大抵は作家名や作品名は見覚えがある。10年チョイ前一番多忙なのと精神世界系の本に興味があったのでエンタメ系の話題作品に触れる機会が少なかった。本のオビに「絶賛のトリック」とか「驚くべきラスト」とかのキャッチと作者のプロフィールに惹かれて購入した。
    その時はこの作家については初読だった。
    殆ど出尽くしたと思ってたのでとにかくこれはビックリ。
    まだストーリーも知らず未読の方はプレヴュー等観ずに一読をおススメする。
    勿論結末が分かっても作品自体のクオリティーには何の影響も与えないが、
    ネエ・・・やっぱり本格モノは最後のドンデン返しで「あっ」やられたってのほうがイイに決まってる。ジックリとお時間のある時に活字好きミステリー好きの方の至福のお時間を。
    この後この作者の館シリーズを全部購入一気読み。

  • どうしてこうも魅惑的な館を描けるのだろう。どんどん人が殺されていく様子に怖さを感じながらも読まずにはいられない。かなり大がかりなトリックは緻密に計算されていて、再読ではたくさんの伏線に気付くことになる。恐ろしく大変なこの計画を懸命に考えていた犯人の姿を思うとやりきれない。

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著者プロフィール

1960年京都市生まれ。京都大学教育学部卒業、同大学院博士後期課程修了。87年、大学院在学中に『十角館の殺人』でデビュー、新本格ミステリ・ムーヴメントの契機となる。92年、『時計館の殺人』で第45回日本推理作家協会賞を受賞。2009年発表の『Another』は本格ミステリとホラーを融合した傑作として絶賛を浴び、TVアニメーション、実写映画のW映像化も好評を博した。他に『Another エピソードS』『霧越邸殺人事件』『深泥丘奇談』など著書多数。18年度、第22回日本ミステリー文学大賞を受賞。

「2023年 『Another 2001(下)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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