- Amazon.co.jp ・本 (430ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061960213
感想・レビュー・書評
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木下古栗が薦める「芻狗」という短編が収録されているので読む。この文庫には『波打つ土地』と短編集『芻狗』の二作を収録。
『波うつ土地』は共子が退屈な男を買うところからはじまり、周囲の人間模様を描く。女性を中心に話を進み、男性の影は非常に薄い。さばさばとした小説。
「芻狗」は、性交の相手を物色して、関係を持つさまを描く。木下古栗は「とても尖っている」と評している。
個人的に面白かったのは、遊郭での殺人事件を扱った「坂の上の闇」、恋人の親族の理由が読めない言動が不気味な「環の世界」の二編。 -
個人的には「坂の上の闇」が最も面白かった。主人公福間一紀の心理分析や心境変化を極力排し狂気性を持った異行動の描写により読者へそら寒さを感じさせることに成功している。一転して福間大夫との関係性は、おそらく男色による性の抑制による暴発と過去そして先々に渡る精神的軟禁を思わせ、それらの事実を語ることなく読者へ訴えかける手法は見事だ。この作品があまり話題に上ることがないのが不思議なくらい出来がよい。
次点で「芻狗(すうく)」。「芻狗」とは神前に供える藁細工の犬のことであるが、顔のない「わたし」が人身御供として淡々と男性と性行為を重ねる姿は性を軽んじることで生を虚無化しているように映る。ラストの遊園地は日常と非日常そして「わたし」の異常性が顕著に表現されておりとてもシュールなシーンだ。
・・・と称賛コメントを書いたが、「波うつ土地」ほか作品は、文学作品としての質の高さはわかるものの個人的にはあまり面白くなかった。小説には個々人の好みがあるが、富岡氏の作品はこれ限りになりそうだ。 -
遺跡発掘と宅地醸成が同時に行なわれる新興住宅地。そこに生まれる新種の女達。彼女らがどんなに《言葉》の武器で武装し戦いを挑んでも、健康で鈍感な厚い脂肪に象徴される厚顔無恥な大男には太刀打ちできない。何度斬り込んでも、まるで脂ぎった皮膚に掛る水の如し。虚しく弾かれ傷を負うのはこちら。ブルドーザーで削られ均される波打つ土地でも、大男カツミは《北斎の波》が描くシブキの弧の中に富士のようにそそり立つ。フラジャイルな女達は打ちのめされ、討死していくしかない。
『芻狗』鶴見俊輔との対談で、同世代以上の男たちを挑発するつもりで書いたというのが興味深くて。 でも、どうかな…ターゲットの彼らは嫌な夢を見たくらいに思って意識から抹殺するだけの気がする。 『箱根』『環の世界』同じ日本語を話していても意思疎通が成り立たないのは不愉快や怒りを通り越して不気味だ。ホラー以上に怖い。背筋が凍った。