悲しいだけ・欣求浄土 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (344ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061960336

作品紹介・あらすじ

緊張した透明度の高い硬質な文体。鋭角的に切り抉られた精神の軌跡。人間の底深い生の根源を鋭く問い続ける藤枝静男の名篇「欣求浄土」「一家団欒」を含む『欣求浄土』、藤枝文学の"極北"と称讃された感動の名作、野間文芸賞受賞の『悲しいだけ』を併録。

感想・レビュー・書評

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  • 「一家団欒」「悲しいだけ」が一番すき。欣求浄土の方はまだ若干自嘲気味というか、笑えるところもあったけど(ポルノ映画のくだりとかとにかくスケベなことばっか考えてるのとか)、悲しいだけはマジで悲しいだけだな…
    一見だらりとした文章かと思いきや無駄がなく整っている感じ、清潔な古民家みたい。
    年老いて死が見えてくる様子を、だんだんふわふわしてくる、みたいに言っていたのがめちゃくちゃ印象的だった。その感じ私知ってる、と思った。積極的選択ではないけれどじわじわと死んでゆく感じ、今まで言語化できなかったけど確かにこれなんだよな。
    藤枝静男、『田紳有楽・空気頭』しか読んでないのだけれどなんだかよく分からないのに惹きつけられる作家、他のも読む。


  • 硬い文に突如入るビビッドな色彩やユーモア、スピリチュアルが面白い。
    無機質な悲しみが入り込んでくる独特な作品世界で、読後に虚ろで不思議なしこりが残る。
    オーケンや中上健次にも通じる私小説的小説で、かなり好み。

  • 「欣求浄土」パートは著作集で既読なので「悲しいだけ」パートのみ読んだ。

    奥様が亡くなってさらに重たい石を飲みこんだような静男。自己嫌悪や苦しさのタガが外れてしまったようで、狂気すれすれの物凄まじさを感じた。孫もいるご隠居の身分で、飼っている動物や庭木にかかった鳥の巣を眺める暮らしで、どうしてあんな風に自分を苛み続けられるのか。

    その一方で、実家のお墓を帰っていくべき場所と思えるところは奇妙にうらやましい。家族へのあの全幅の信頼って、どうしたら作れたんだろう。家族には裏切られないって深く信じているから、その分自分のことをいじめることができたのかもしれない。

  • 珍しく、祖母が育った土地である遠州森町のことが記されている。
    多くの小説は私の知らない土地が舞台となっているので、土地、川、山、湾の名が出てきてもそこから浮かんでくるものがない。
    しかし、その川知ってる!とか、そこ行ったことある!とか、そういう馴染みのある土地が出てきたら、ひきつけられる。
    私は、遠州森町に詳しくないが、森のお祭りには何度か行ったので、その辺りが大体どんな感じなのかが分かる。
    今度行ってみたいな、祖母の育った土地。

    『厭離穢土』で描かれる歳をとった男の性。
    「老齢の好色」という紹介文に興味を持って伊藤整の『変容』を読んだ。
    藤枝静男の性の方が興味深かった。

    この本を鞄に入れて持ち歩いている期間に、男が去った。
    小説の中の女の描写。
    描写する言葉と描写される女の身体や装いや化粧の間。
    描写される女の日々の自分の身体の世話の手間の多さ、分かるか分からないかの微妙な色合いや線の角度や紙の流れや脂肪のつき方の総合的なものへ向かうケア。
    そのケアと小説の言葉との間の距離の甚だしい遠さ。
    そんなチマチマとした分かりにくいケアが総合的に魅力となると、男に描写されうるものになる。
    男は魅力があったら描写すればいい、チッお気楽だな。
    もっと心で求めあっていたような気がしていたのに、醜い身体からは呆気なく去っていく。
    洗顔、化粧水、乳液、bbクリーム、アイブロウ、アイシャドウ、チーク、リップ、ピアス、ネックレス、夏の日傘、脱毛の費用、筋トレ、ダンス、ランニング、ヘアオイル、ヘアアイロン、髪を結う位置、ファッション、そんな細かなお手入れ。
    全て適度なバランスで上手でなければイイ感じにはならない、チッ!
    醜くてはダメで、抵抗なく愛することができる美しさのためのお手入れが必要。チッ!
    心だけなんて、ダメなんだ。
    本を読んでいると、心に重きをおいてしまうが、視覚的な美しさもとっても大事だよ。

    後半、もう、よく知らない名詞ばかりで調べるのも嫌になった。 
    読むのも辞めたい。
    でも意地。
    『滝とビンズル』、『在らざるにあらず』を乗り越えたら、少し楽しい世界に抜け出る。

    おじいさんが好きそうな日本の寺や神社や仏像や古い器や言い伝えや僧のや土地の歴史について、色々と語られるがそういう部分は読み流してしまったので、この本を読み終えたがよく分かっていない。
    逐一調べる気にはなれなかった。

    【布袋】
    七福神の一つ。中国出身の禅僧。腹が大きく膨れた肥大な体躯であった。いつも大きな袋を持ち、杖をついて市中に喜捨を求め、食物その他もらい物などいっさいを袋の中に入れて歩いたという。

    【浄土】
    仏語。一切の煩悩 (ぼんのう) やけがれを離れた、清浄な国土。仏の住む世界。特に、阿弥陀仏の住む極楽浄土。

    【欣求】ごんぐ
    仏教で、極楽浄土を心から願い求めること。

    【地久節】ちきゅうせつ
    皇后誕生日の旧称。

    【蒙求】もうぎゅう
    伝統的な中国の初学者向け教科書である。日本でも平安時代以来長期にわたって使用された。

    【孝経】
    中国の経書のひとつ。曽子の門人が孔子の言動をしるしたという。

    【眸】ひとみ
    ひとみ、まなこ

    【瞥見】べっけん
    ちらっと見ること。短い時間でざっと見ること。

    【龕】ずし
    仏像などをおさめるずし(厨子)。仏壇。

    【天竺】てんじく
    中国や日本が用いたインドの旧名

    【ダキニ天】

    【連翹】れんぎょう

    【霊験あらたか】
    神仏による効験が明らかに表れるさま。

    【蟠踞】ばんきょ
    根を張って動かないこと。
    その地方一帯に勢力を張っていること。

    【阿諛】あゆ
    (「阿」はおもねる、「諛」はへつらうの意) おべっかをつかうこと。相手の気に入るようなことを言ったり、そのような態度をとったりすること。

  • 「一家団欒」という短編がどこかで薦められていたため読んでみた。
    「欣求浄土」はいくつかの短編から成り立っているが、それぞれの話は当初はまとめられる予定はなかったとのこと。
    冷静さを保った文章ながらも、内容はまさに私小説といった具合だし、主人公・章は素朴な印象の男だが、特別意識を持ち、どこかお高く止まっている。
    それが章の死の間際になって、友人の「あいつのああいう自惚れたところが鼻につく」という独白により、急に緊張の糸が緩み始め、最後の「一家団欒」ですべてが溶けて流れ出すような感覚に陥る。
    それまでの話からのギャップで、余計に「一家団欒」が際立つ。闇の中にぼうっと照らされる祭の灯のよう。死後の章たち一家が向かう祭そのもの。

    「悲しいだけ」では、老人の晩年の心理や凄みを味わった。
    美術鑑賞によって主人公の心が和んだりかき乱されたりする描写が見事。
    私小説の成功例だなと感じた。

  • 「一家団欒」は別のアンソロジーで読んだことがあったのだけれど、収録作の中ではやはりこれがダントツで好き。作者の分身であるところの「章」を主人公として、「欣求浄土」から一応連作短編のような形はとっているけれど、実際には発表年月日はバラバラで(最初に書かれたのが「一家団欒」だというのは驚き)、それを発表順ではなく物語のなかの時系列で収録してあるので親切。

    生きてる頃の章自身の回想は普通の私小説風なのだけれど、「厭離穢土」でとうとう他界した章が残した手記を読む友人視点になって、ラストが死後の「一家団欒」という急展開ぶりがなんだか面白い。しれっと死んで、生前と死後のテンションにあまり違いがないというか、その移行のスムーズさがいっそファンタジーなのだけれど、少し救われる。「欣求浄土」の、お父さんが狐に化かされるエピソードも妙に好きだった。

    「悲しいだけ」連作のほうは、妻の死の前後の身辺雑記風。基本的にそれが「章」でも作者自身でも、古木や仏像や陶器や滝やらを見に出かけたり、庭の生き物を観察したりしているだけなのだけれど、それで読むほうが別に退屈もしないのはやっぱりすごい気がする。こういうものを二十代の自分が読んでもきっとさっぱり面白くなかっただろうけど、今だから面白く読めるのだろうなあ。これからこれを書いた頃の作者の年齢にどんどん近づいていくにつれ、きっともっと共感できるようになっていくのかも。

    ※収録作品
    「欣求浄土」「土中の庭」「沼と洞穴」「木と虫と山」「天女御座」「厭離穢土」「一家団欒」
    「滝とビンズル」「在らざるにあらず」「出てこい」「雛祭り」「悲しいだけ」「庭の生きものたち」「雉鳩帰る」「半僧坊」

  • 悲しいだけはやや平淡。欣求浄土は殴られたような衝撃を受けた。

  • 自分にはこの手の小説がわからなくて、挫折してしまった。

  • 息をひそめて、自分の呼吸音に耳を澄ます。静かに人生を見つめるとこうなるのかな、と思わせられた作品群。

  • じわじわ

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著者プロフィール

1907年、静岡県藤枝町生まれ。本名勝見次郎。成蹊実務学校を経て第八高等学校に入学、北川静男、平野謙、本多秋五らと知り合う。このころ志賀直哉を訪ね、小林秀雄、瀧井孝作を知る。1936年に千葉医科大学を卒業、医局、海軍火薬廠共済病院などを経て妻の実家である眼科医院に勤め、1950年に浜松市で開業。1947年『近代文学』9月号に本多秋五らが考案した筆名・藤枝静男で「路」を発表。その後も眼科医のかたわら小説を書く。1993年、肺炎のため死去。 主な著作に、芥川賞候補となった「イペリット眼」「痩我慢の説」「犬の血」などがあり、『空気頭』が芸術選奨文部大臣賞、『愛国者たち』が平林たい子賞、『田紳有楽』が谷崎潤一郎賞、『悲しいだけ』が野間文芸賞を受賞している。

「2012年 『田紳有楽』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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