- Amazon.co.jp ・本 (302ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061960817
作品紹介・あらすじ
自分の死体を鞄に詰めて持ち歩く男の話。びっしりついた茄子の実を、悉く穴に埋めてしまう女の話。得体の知れぬものを体の中に住みつかせた哀しく無気味な登場人物たち。その日常にひそむ不安・倦怠・死…。「百メートルの樹木」「三人の警官」ほか初刊7篇を含め純度を高めて角編成する『鞄の中身』短編19。読売文学賞受賞。
感想・レビュー・書評
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ホラー短編集と括ってしまってもいいような不気味で不穏な作品が少ないボリュームで小気味良く続く。
吉行の重さと洒脱がない混ぜになった文体も親和性があり一作毎に尾を引く。
何と言っても冒頭の『手品』で受けた衝撃は忘れられない。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
この発行とは違うのだけれど、私が手にした本は、装丁がとにかく可愛くて。
吉行淳之介の随筆、初めて読みました。
最初の方は、短編小説でしたが、これがまたとても素敵。もっと読みたいなぁ。 -
いわゆる「第三の新人」たちの作品って、あまりメジャーな文庫から出てないからとても歯がゆい。
この講談社文芸文庫は廃刊を作らない代わりにちょっと値段が割高。元来、吉行の作品は合う合わないが激しいと思うのでまずは図書館で読むことを勧めます。
この人の作品って、決して正統派じゃないし、何がいいたいのかわからないものがほとんどだけど、何となく手にとってしまう。
かゆいところに手が届くというか、言語化できないもやもやした感情を代弁してくれる。
優等生嫌い(中2病)の人におすすめ。 -
「曲がった背中」「廃墟の眺め」「流行」の、戦争があった時代の空気感。
「コーヒーカップの耳」を読んだときも思ったけれど、自分の命が自分のものでなく、焼け跡に人間が転がっているのに誰も驚かないこと、
あるいはチョコレートの包み紙を大事にとっておいて時々嗅いでは幸せに浸るというようなこと。
今の私たちにはぜったい理解できないような体験だと思う。
でも当時の人たちだって、たまたまその時代に生まれただけで、壊れてしまった人たちもいたんだよな。
心は多くの不気味な、得体のしれないものたちに取り囲まれている。
でも自分がこうならなかったのはただの幸運で、しかもこれからこうならないとはいえないというのはものすごい恐怖だ。
見えてはいけなかったものを見てしまった時の心がざわつくような短編集。
「ミスター・ベンソン」も悲しい話であるけれど、「人間のものとしかおもえなかった」ところに一抹の希望を感じた。
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なんでこの本を選んだのかすっかり忘れてしまったけれど、きっと正統派?日本語に触れたくなったのかもしれない。
これは、吉行淳之介の短編19編を集めた文庫本である。そして、くるっと裏をひっくり返してみて驚いた。なんと、1cmほどの厚さの文庫にしては異例のお値段1300円と表記されているではないか。
それはともかくとして、この短編集。短編と呼ぶにはあまりに短い掌編小説と言えるようなものも多々あるが、完成度が高い。文章はたらたらと長く書くものではないんだなぁと、反省させられることしきりである。
それにしても、昭和の前期〜中期を描いたものでありながら、人の心をとらえるということにおいて、古きも新しきもないのだなあと実感させられる。みずみずしくて、それでいて、すぱっと切れるような研ぎ澄まされた感性は、最近の直木賞などではとうていお目にかかれないものだ。 -
旅行に持っていった本で一冊だけ薄い短編集がまぎれこんでいて、そのせいでなんかすんごいスケールが狭いように感じるんだけど、『暗室』のイメージしかなかったおれにとって、こういう怪奇譚的なのは新鮮。童謡から物語をつくるってもの好き。あとあんまり関係ないけど、おれの中で余裕だと答えたいとき「余裕のよっちゃん」じゃなくて「余裕の吉行淳之介」って言うのがマイブーム。