懐中時計 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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感想 : 22
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  • Amazon.co.jp ・本 (314ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061961425

作品紹介・あらすじ

大寺の家に、心得顔に1匹の黒と白の猫が出入りする。胸が悪く出歩かぬ妻、2人の娘、まずは平穏な生活。大寺と同じ学校のドイツ語教師、先輩の飲み友達、米村。病身の妻を抱え愚痴1つ言わぬ“偉い”将棋仲間。米村の妻が死に、大寺も妻を失う。日常に死が入り込む微妙な時間を描く「黒と白の猫」、更に精妙飄逸な語りで読売文学賞を受賞した「懐中時計」収録。


大寺さんの家に、心得顔に1匹の黒と白の猫が出入りする。胸が悪く出歩かぬ妻、2人の娘、まずは平穏な生活。大寺と同じ学校のドイツ語教師、先輩の飲み友達、米村さん。病身の妻を抱え愚痴1つ言わぬ“偉い”将棋仲間。米村の妻が死に、大寺も妻を失う。日常に死が入り込む微妙な時間を描く「黒と白の猫」、更に精妙飄逸な語りで読売文学賞を受賞した「懐中時計」収録。

感想・レビュー・書評

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  • 朴訥とした文体…と思いきや、
    風とか小川とか、そういう物の「さらさら」と
    流れていく様な、読んでいて非常に心地の良い
    美しい(雅やかとは異なる)短編集です。
    テーマに死を扱う割にはふんわり・さらりとしていて。
    なにより大寺さんの静かな「日常」が、
    そして優しく繊細な視線がいとおしい。

    表題「懐中時計」がとてもよかった。
    こういうの、あるある、と思ってしまう。

    兎に角漢字の使い方や日本語がきれい。
    原稿用紙に写してみたくなります。

  • ★3.5
    何か大きな事件が起こるわけではない、穏やかな短編が最近好んで読む

  • 昭和30~40年頃に書かれたものからか、文体が変わっていて、読み進むのが面白かった。
    主人公・大寺しんが妻を亡くしたころや、友人との語らいの様子を描いたものを含めた短編集。

    解説を読むと文体の不思議さは時代によるものでなく、小沼丹さんの個性によるものである様子。

  • 私にとって2作目となる小沼作品です。「黒いハンカチ」で描かれる茶目っ気とユーモアとに惹かれて読み始めた作家ですが,この作品ではそれらとは違った雰囲気を楽しむことができました。
    全部で11の短編が収められている本書の雰囲気は,最初の短編「黒と白の猫」で味わうことができるように思います。「学校」に勤める主人公・大寺さんの過ごす何気ない日常の中に,近しい人たちの死が入り込むさまを静かに描いているこの短編は,作者本人の言う通り「いろんな感情が底に沈殿した後の上澄みのような所」と呼ぶにふさわしい雰囲気をまとっていますが,それがなんとも言えない感慨を感じさせてくれるのです。大寺さんや他の人々が発する言葉の一つ一つから,悲しみや愛情や様々な感情を感じ取ることができ,本当にすっきりとした作品になっていると感じました。
    途中,「エジプトの涙壺」「断崖」「砂丘」といったサスペンス風味の強い短編が挟まれますが,この3つの作品で水面上に浮上してきた感情は後半の4編では再び奥底へと沈み,静かな雰囲気へと戻っていきます。本書の真ん中に配置されたこれら3編に私はすこし面喰ったものですが,後から考えるとこの配置はとてもよかったと思えます。
    人と,時の流れと,死と,そういったものを淡々と描くさまは,まるで「凪」のようです。しかし情景の裡に登場人物のほのかな心情をよく表した文体は,静かに,そして切実に,読む者に迫ってくる。本書から私はそんな印象を受けました。最後に載っている解説と作家案内とまでを読めば,この作品たちの奥深さをさらに知ることができるでしょう。

    (2010年10月入手・2012年5月読了)

  • 大好きな小沼丹。
    途中まで読んで数年放置、最後までやっと読めた。
    毎日寝る前に少しずつ読んで、不思議な気分になった。

    突然奥さんが亡くなる大寺さんシリーズが含まれており、全体にほのかに死の匂いが漂う。
    でも淡々と時間と生活を描いていて、ここにしかない境地なんだなと思う。
    明るくはない、湿っぽくもない。
    本人の後書きによれば、このころ、なにを書くかではなく、何を書かないか、を考えて書いていたらしい。
    エヂプトの涙壺、影絵あたりが好み。
    小沼ワールドに浸ると接続詞まで漢字で書きたくなる。
    真逆はマサカ、フトは不図。

    これが母語で読める幸せ。
    もっと読みたいけど、講談社文藝文庫は高いんだよね。
    その分の価値はあるんだけど、一冊1200円はやや躊躇する値段です。


  • うぅん、洒脱。それとどこかアートの香り。
    庄野潤三の様な“静”の小説家には間違いないが、作中で登場する謎と、解明も無くプツンと終わる話の様式が心地良い。特に表題作、『黒と白の猫』辺りは格調高い名作。
    他作も確実に巧いんだろうなと、読者の信頼を引き出させる一冊だった。

  •  「黒と白の猫」からの四編は、いわゆる大寺さんもの。
     妻の突然の死。しかし声高に悲しみが描かれることはない。
      ー兎も角、死ぬにしてもちゃんと順序を踏んで死んで呉れりゃいいんだけれど、突然で、事務引継も何もありやしない。うちのなかのことが、さっぱり判らない。
     ここだけ読むと、奥さんの死を悼んでいないように取られかねないが、一見淡々とした言葉の連なりの中に作者の悲哀や喪失感が感じ取れる。

     「エヂプトの涙壺」「断崖」「砂丘」の三編は、男女関係にまつわるサスペンス味豊かな作品。本書の中ではかなり異色な感じ。

     表題作の「懐中時計」。時計をなくしてしまったところ、友人が懐中時計を売ってあげるとなったが、値段の折り合いがつかず、その後もちょっとした交渉はあったものの本気にならずに時は過ぎる。そうして10年が経つうちに友人は突然亡くなってしまう。何が起きる訳ではないが、人生とはこんなものかと考えさせられる。

  • 前々から辺りの友人達が「面白い面白い」言うていたので気になっていたのだが「貸してくれ」の一言が言えず、若しくは言ったけれども機会に恵まれずだったか、読めていなかった。漸く。

    素晴らしい。

    もっとしっかり感想書きたいのに言葉が出てこない。ただ何度も心がキュッとなった。盛者必衰と言うのかな、皆んな死んじゃうことの寂しさが。

  • 解説を読むに自分の体験を元にした短編との事なので、私小説になる?のだろうか。死別・離別の話が多いが、静かで淡々とした文章。しかし、心情風景の描写は美しくふとした瞬間に現れる人の可笑しみ(ユーモアとも少し違う微笑ましさ?)はなんだか癖になる

    話の本筋とは殆ど関係無いが「庭のポポの木」という文章に驚く。ポポーは戦後、庭木として一時普及していたとは聞いたが作品内でポポー(ポポ)の木が出てくるとは思わなかった

  • なんとも言えずいいです。日常に死がやってきて、その中を日々静かに過ごしている大寺さん。ありそうでないです、こういう雰囲気をまとった小説は。

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著者プロフィール

小沼丹
一九一八年、東京生まれ。四二年、早稲田大学を繰り上げ卒業。井伏鱒二に師事。高校教員を経て、五八年より早稲田大学英文科教授。七〇年、『懐中時計』で読売文学賞、七五年、『椋鳥日記』で平林たい子文学賞を受賞。八九年、日本芸術院会員となる。海外文学の素養と私小説の伝統を兼ね備えた、洒脱でユーモラスな筆致で読者を得る。九六年、肺炎により死去。没後に復刊された『黒いハンカチ』は日常的な謎を扱う連作ミステリの先駆けとして再評価を受けた。その他の著作に『村のエトランジェ』『小さな手袋』『珈琲挽き』『黒と白の猫』などがある。

「2022年 『小沼丹推理短篇集 古い画の家』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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