- Amazon.co.jp ・本 (228ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061961517
感想・レビュー・書評
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すごく豊潤さのあるエッセイ
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著者の父である森鴎外についてのエッセイなどを収録している本です。
「父の帽子」などのエッセイは、もちろん父としての鴎外のすがたをえがいたものではあるのですが、文豪・森鴎外の素顔というよりも、森茉莉の作品世界のなかの「父」としての印象が強いように感じられます。本書に収められている「夢」という短編では、現実を「影」のように見ており、「すべてが夢のように不確かで、すべてが夢のように信じ難かった」と語る未里(マリイ)が登場し、装飾の多い文章によって著者独自の作品世界が構築されていますが、本書に収められている他のエッセイで登場する鴎外も、こうした作品世界のなかの人物のようでもあります。
弟の不律とともに百日咳にかかり、弟だけが命を落とすことになったことをえがいた文章や、母の志けの晩年をえがいた文章などにも、やはり著者らしい、現実からすこし浮きあがったような感覚をおぼえますが、鴎外を題材にとった文章と比較すれば、もうすこし現実の推移を冷静にえがきとっているように思います。 -
森鴎外の長女である森茉莉の主に父鴎外(ぱっぱ)との思い出を綴ったエッセイ。
子供を溺愛する鴎外とその鴎外を溺愛する茉莉の愛らしさが温かく伝わってくる。
明治時代の生活の風景を感じるれることも嬉しい。
印象が残った箇所は鴎外が人間の『よさ』を持った稀な人間だった、とするくだり。
以下引用~
・他人の幸福を喜び、他人の不幸を悲しむ、というような簡単な事さえ出来る人間は、中々見付からない。世間の人は非常な熱心さで他人の事を気にする。併しそれは、自分の事を整理して、余裕があって他人の事を気遣ってくれるのではなくて、自分の知らない間に他人が幸福になってしまいはしないだろうか、ひょっとしたら他人が不幸になって呉れて居はしないだろうか、という心遣いなのだ。この心遣いの為に急しく、自分の幸福を感じる事さえ忘れている人がある。
・(父は)深く他人の幸福を希っていたが干渉はしない。
深い考えと遠い慮りをひそめた愛情で人間を遠くから包む事はあったが、干渉することは絶対にしなかった。
・必要なことは覚えていたが、どうでもいい事は何度聞いても忘れてしまった。簡単なことだが人間の「よさ」を持った人間でないと出来難い事だ。
・父は不愉快な憎しみを抱くことが無かった。不愉快な人間に対しては無論父も人並みに不愉快は感じただろう。併し人間の不愉快な心持を心から憎み、浅ましい感情になる、という事は父にはなかったようだ。
・父は少年の時、自分の心に誓ったのだろうと思う。「自分に誇りを持とう」と。自分自身に誇りを持つという事が、人間の「よさ」をこしらえる根本だ。
誰でも自分に誇りを持っているが、本物はあまりない。
以上 -
エッセイ集。茉莉は森鴎外に溺愛された実娘。優しさと温かさに満ちた家庭での子供時代の日常が、ウェットで色鮮やかな、美しい文体で述懐されている。ヨーロッパから取り寄せた服を親子三人で茉莉に合わせるシーンが好きだなぁ
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結局父の名から入ったのだけど、驚嘆後反省。この日と本物かも、と思いました。