- Amazon.co.jp ・本 (314ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061975507
作品紹介・あらすじ
深い怒りと悲しみに培われて女の内部に居据るを凄絶に描いた「ひもじい月日」(女流文学者賞受賞)、『春雨物語』を踏まえた鬼気迫る傑作「二世の縁 拾遺」、夢幻と現実が見事に融合する「花食い姥」、ほかに「黝い紫陽花」「妖」「猫の草子」「川波抄」を収録。伝統的優美と豊かな知性が研きあげた隠微な官能、妖気を漂わせる特異の世界、円地文学傑作短篇集・七篇。
感想・レビュー・書評
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最後の「川波抄」を藤枝静男がほめていたので読んでみた。江戸の末期から明治を生きた大伯父や、文子が幼いころ同居していた書生や女中たちの思い出がゆったりと描かれていて、岡本綺堂の随筆を読むような、のんびりした、でもちょっとさみしいような読み心地。
しかしこの最後の随筆以外は、女の業をこれでもかと書きつける凄絶な話ばかり。前半のリアリズム小説「ひもじい月日」、「黝い紫陽花」、「妖」は、愛のない結婚を我慢し続けた挙句に腐らせる、まさに“誰得”な話ばかりだった。主人公たちはみんなそれなりに生活をこなしているんだけれど、肝心なことをないがしろにするから全員気持ち悪い結末を迎えてしまう。嫌い/興味ない夫というのは年を取ってからこんなにきついのか、とぞっとした。
後半の、女の妄執と夢幻が溶けあう「二世の縁 拾遺」、「花食い姥」、「猫の草子」は、妖しいもの・幻想好きならかなり楽しい。こっちも気持ち悪いは気持ち悪いけれど、リアリズムじゃないから先が気になって読んでしまう。古典を現代でくるんだ構成になっている「二世の縁 拾遺」は長さも濃さもちょうどよかった。
それにしても「女」「老い」「性」を執念でまとめるとこんなに気持ち悪いとは。あまり接することがない組み合わせだからなんだろうな。若い男がもやもやしてたって、全然普通だもの。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
老いるということ。老いてもなお消えない性というもの。それが渾然一体となって創り出す一種のファンタジー。そんな作品ばかりの重たい短篇集。この本に収録されている一種の作者の回想録的な「川波抄」には、主人公が若い頃に、実家の女中だった事もあるある娘から突然求愛まがいの告白をされてその性的な接触に嫌悪感を持つという百合オタ的には残念なシーンがあった。
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高校の時受けた模試の現代文に出てきた作品。
不思議な世界観。 -
短篇集。7篇中、「ひもじい月日」(女流文学者賞受賞作)「黝(くろ)い紫陽花」「花食い姥」を読了。
前2作では、戦争を背景に、不遇な境遇にある女の希望が裏切られ破滅に向かう。
「花食い姥」は、花を食らう老女が主人公の内なる魑魅魍魎を白日の下に晒す。
邪悪な人間の業であるならまだしも、明朗な息子の兇暴性が発露したり、自らの愛情が息子を狂気に追いやったりするのはあまりに救いがない。
「花食い姥」で老女が無造作に花を食う描写は鮮やかだったのだが。
あまりの閉塞感と絶望的結末にめげてしまった。