- Amazon.co.jp ・本 (416ページ)
- / ISBN・EAN: 9784061984387
作品紹介・あらすじ
二一歳の多喜子は誰にも祝福されない子を産み、全身全霊で慈しむ。罵声を浴びせる両親に背を向け、子を保育園に預けて働きながら一人で育てる決心をする。そしてある男への心身ともに燃え上がる片恋-。保育園の育児日誌を随所に挿入する日常に即したリアリズムと、山を疾走する太古の女を幻視する奔放な詩的イメージが谺し合う中に、野性的で自由な女性像が呈示される著者の初期野心作。
感想・レビュー・書評
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家庭も社会も孤独な人たちの集合体なのだと思わされる。
母親でしかない多喜子と父親でしかない神林とが出会い語り合う場面は寂しい、けれど心が解きほぐされる。言葉によって与えられる不自由さを、理解を越えて共有できる関係が羨ましかった。
水色の山、緑色の水という表現が美しい。
地上から伸びる緑は空を向こうにキラキラと輝く。恐ろしい力に突き動かされ走り続ける少女は、女は、原始の地球を駆けているようにも見える。
多喜子に、段々と私自身の妄想が重なってしまい、自らが植物と同じになる感触が懐かしくずっと抱いてきた憧れに近かった。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
昔、母親に聞かされた寒い所の話とか、多喜子が心にとめる風景とかは、多喜子の整理されてない漠とした脳か?
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日本の現役作家では、津島佑子が好きだ。それこそ段違いに抜けた小説群だと思う。
シングルマザーという言葉も生まれていない時代に、私生児を育てる決意をした21歳の若い主人公。殴る実父、病む実母、乳児の入院、職探しの挫折。暗澹たる生活描写が続くなかで挿まれて描かれる育児日誌が哀切で、雄弁。文章が流麗なわけでもなく、筋立てが巧緻なわけでもないが、滋味あふれる。 -
2010/3/31購入