山躁賦 (講談社文芸文庫)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 118
感想 : 7
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  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784061984530

作品紹介・あらすじ

確かなものに思われた日常の続きをふと見失った「私」は、病み上がりのけだるい心と体で、比叡高野等の神社仏閣を巡る旅に出る。信仰でも物見遊山でもない中ぶらりんの気分で未だ冬の山に入った「私」を囲み躁ぐ山棲みのモノ達――。現在過去、生死の境すら模糊と溶け合う異域への幻想行を研ぎ澄まされた感覚で描写。物語や自我からの脱出とともに、古典への傾斜が際立つ古井文学の転換点を刻する連作短篇集。


日常を見失い山を彷徨う「私」 古の「歌」と同行二人

確かなものに思われた日常の続きをふと見失った「私」は、病み上がりのけだるい心と体で、比叡高野等の神社仏閣を巡る旅に出る。信仰でも物見遊山でもない中ぶらりんの気分で未だ冬の山に入った「私」を囲み躁ぐ山棲みのモノ達――。現在過去、生死の境すら模糊と溶け合う異域への幻想行を研ぎ澄まされた感覚で描写。物語や自我からの脱出とともに、古典への傾斜が際立つ古井文学の転換点を刻する連作短篇集。

古井由吉
とにかく闊達に自在に、かつ無責任に、書いたものだ。こんなに伸びやかに書けるという幸運に、最晩年までもう一度、恵まれるだろうか、と今では自分でうらやんでいる。軽快に筆が運んだはずだよ、だって半分以上は本人の筆というよりも、古人が著者の愚鈍さに業を煮やして、それでもその思慕の情をいささか憐れんで、使いの者を送り、下手の筆をふんだくって、なりかわって書かせたのだから、とつぶやきたくもなる。――<「著者から読者へ」より>

感想・レビュー・書評

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  • 迷路、しかも靄のたちこめた中を徘徊するような感覚でした。もちろん快楽原則にそくした徘徊なのですが、それは不安を迫り出させる徘徊でもある。一種、ゲシュタルト崩壊をいざなう、この文体が、確固と属していた世界から離解させるような効果を持っているように思いました。かつ、ニヒリスティックな質感を湛えた視点により、二重の意味で不安定化するのだが、それが素晴らしい酩酊であるという、宜しき小説体験でした。そう、素晴らしいです。

  • 逆説について考えさせられる。死に極限まで迫ることで生を体感する。あるいは俗を極めることで聖にたどり着く……ここで書かれている文章はそうした逆説的な要素の結晶体/アマルガムのように思われる。ゆえに一面的/表層的に読めばごくありふれたバワースポットとしての山々の話のようにも映るが、その内部には実に濃厚な世界の実相が潜んでいると見た。そして、この濃厚さはそのままこの作家の「狂い」を反映したもののようにも読める。静かに、だが激しく作家は書くことで狂気をドライブさせ、確実にこじらせていく。その迫力が確かに刻印される

  • 「山躁賦」(古井由吉)を読んだ。襟を正して向き合うべき文章を紡ぎ出す作家として私は先ず古井由吉氏を思い浮かべる。古典文学についての素養がない私にはこの作品群はかなり難解ではあったが、『杉を訪ねて』のエロティシズムと『花見る人に』のダイナミズムには体の奥深くから震えがきた。

  • 途中狂っているのかと思った。随筆かと思えば、ひょいっといとも簡単に境を越える。

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著者プロフィール

作家

「2017年 『現代作家アーカイヴ1』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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