救急精神病棟

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (342ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062109253

作品紹介・あらすじ

突然妄想に取りつかれたエリートサラリーマン、神様モードの青年、自殺したい少女…。24時間態勢で精神科救急に取り組む、日本で唯一の公立病院を3年にわたり密着取材。知られざる精神医療の最前線を追う。

感想・レビュー・書評

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  • ★症例紹介と医療体制の紹介のバランスの難しさ★精神病と「救急」という文言の重なりは、この本が出てから20年たってもまだなじみがない。精神病棟への長期修養を避けるため急性の症状に限った千葉の先進的な施設を取り上げ、精神病への行政や医療の対応を問いかける。その後の精神病を巡る状況はどう変わっているのだろう。
    精神病の人をみると「何をするか分からない」「意思が疎通できない」という印象を持ちがちだ。様々な実例を基に彼らを「昏迷」という状況から説明し、意識はあるのだけど内部の意思をうまく表出できないとする。精神病の人のつらさを初めて感じた。
    精神病への対応を問いかけるものだが、症例のインパクトが大きい。取り上げ方のバランスが難しい。

  • ふむ

  • 2000年前後の精神科の背景や成り立ちを知るには良いと思います。ただ、筆者曰く「病状や元の会話が分からない程」デフォルメが加えられている点や文芸調で進められている構成に、ノンフィクションと捉えていいのかの判断がつかない。
    ページ数を感じさせずスルスルと読めるので、専門的な知識が欲しいわけじゃないなら読んでみてもいいかと。精神科救急とは?の答えやヒントが出ているかと言われると、微妙なところ。

  • 千葉県精神科医療センターという、精神科救急医療を行っている病院に運ばれてくる患者さんと、医療スタッフの日々を綴っている。統合失調症(分裂病)で大暴れして運ばれてくる人。重度のうつ病で自傷の恐れのある人。記憶喪失。「昏迷」という、感情を表すことも、自分では食べることも、体を動かすことも、薬の力を借りずに眠ることもできなくなってしまった患者さんが、医師の一言によって感情を取り戻し、動けるようになっていく様。「ゴミ屋敷」に10年以上こもっていて発見された女性。ect……。

    この本でとても印象に残ったのは、
    センターに向かうタクシーの運転手が、「精神科にかかる患者さんが怖い」と言っていたが、本当は患者さんのほうが社会・他の人を怖がっているということ。

    そして、このセンターではないのだけれど、大阪の「さわ病院」の「医療憲章」に
    -病む”ひと”のみでなく、その”ひと”を取り巻く人々の背負う重荷にも心を配ること。-
    という一節があった。

    身内にうつを病んでいる者がいた私にとっては、身内が通っていた病院にはそのような心配りはなかった。病院の医師に私たち家族は傷つけられてきた。身近にこの本に紹介されているような精神科の病院はないものだろうか?

  • 読みやすい箇所もあれば、読みにくい箇所もあった…筆者さんの言い回しが合わんかったかなぁ…。
    院内での患者さんの様子とか、実際にあった事件についての箇所は勉強になりました。

  • 日本は相当おかしくなっている、社会の変容に人間がついていけていない、それによって引き起こされているのが、ここに描かれる精神病。

    精神病に関しては決して本人が悪いわけではない、責任の所在を特定することはできない。ただ、本当は本人が最も被害者であるかも知れないのに、社会的には隔離され、場合によって苦痛を伴う処置を受ける。
    「病気」対「人間」という、他の医療では比較的簡単に構図化できることが、この精神科ではとても難しい。

    そもそも、どこからが病気で、どこからがそうでないのか、その線引きすら、本来的には難しいのではないか。人間は誰しも本質的にそういった危うさを内在していると思う。エピローグに「完全な地続き感」とあるように、本来段階的なものに無理に線を引かざるを得ないのが医療の難しいところだろう。
    そして、その判断は究極的には属人的になる。

    医学的な知識や技術だけでなく、むしろそれ以上に人間としての倫理観を求められる場面が多いのが精神科医の仕事なのである。

    途中からは自分の立場に置き換えて読んでいた。
    自分だったらどう判断するのか、どう対処するのか、それぞれの患者に対して描かれるストーリーの結末を読むたびに、自分の軽率な判断を恥じたり、また医師の気持ちに同情したり。
    そうしながら気づいたのは、実は自分の日常にも同じような場面が普通に存在しているということ。
    自分の関わる他者に対して、どのように向き合っているのか、見直す機会にもなった。
    精神病とは、段階的なものであり、きっと自分の身近にも、程度の差こそあれ、傷付き苦しんでいる人がいるのだから。
    そしてそう考えた時に、この本に描かれている問題に対し向き合うべきなのは、精神科医だけではなく、自分も含めた社会全体なのだと気づくことができた。

  • 当時日本で唯一だった単科精神科の救急病棟のルポ。

    それぞれの患者さんのエピソードも読み応えあったけど、看護師さんが懸命に看護する様子に圧倒された。

    エピローグに出てきた大阪の病院は多分テレビのドキュメンタリーで見たところかな?

    医療報酬のあり方や人格障害の人々をどうするかなどの課題もわかりやすくみえてきた。

  • 図書館本。

    しばらくこの世界の本読み漁りそう。。

  • これは精神科に偏見を持っている人やよく分かってない人にすごくいいと思う。
    実際私も勉強になった。
    難しい言葉はそれほどないし(多少あったけど飛ばしても話は全然繋がるし/苦笑)へぇってことばかり。

    一番分かってないのが同じ医療界の精神科以外の医師って言うのがびっくり。
    計見先生のような考え方を持つ医師がもっと増えて私たちも理解していかなければならなくなってきているのは確かなんだろうなぁ。

  • 2007/11 読。

  • 著者の別の本を読んだため、著者自体に興味をもって
    手に取った本。

    精神科に「救急」があることすら知らなかった。

    非常にデリケートな問題をあつかった内容なので
    こまかいコメントは差し控えるが、精神病患者を
    受け入れる場所の難しさが丁寧に書かれている。

    患者だけでなく、その家族や医療関係者は
    なんとたいへんな混沌のなかにいるのだろう。

    自分も含めて、心はとてももろいもの。ちょっとしたきっかけで
    感情を処理できなくなってしまうこともあるかもしれない。

    心=脳は未知の部分が多く、一言で片付けられないものばかり
    だとおもうが、身近にもうまく社会生活に順応できずに自宅に
    こもっている人はいる。いろんなことを考え悲しくなってしまった本。




  • 千葉市・幕張に実在する日本初の精神科救急病院、千葉県精神科医療センターのルポルタージュ。
    精神科医療の最前線に関心があるかたに。

  • 事実は小説より奇なり…

    日本で唯一の(この書がかかれていた時点)精神科救急。
    そこの所長でもある計見氏が仮説を立てていたりしている。
    ロボトミーと電気ショックによって一般に『不のイメージ=精神科』と見るようになってしまった世間。
    驚いた事は日本にはECT(Electro convulsive Therapy)のガイドラインが当時なかった事。
    そして。
    一番嬉しいのが、『患者達はどう思っているか?』だ。
    大抵『分析している』からあまり見え難い事だと思う。

    かなり敷居が低くなったとはいえ、未だに偏見強いもんなぁ〜…

    あとがきの『黄色い救急車』には思わず苦笑。
    どこにでもあるんだろうけど、その後があるとは知らなかった。
    『連れて行かれたら一生出て来れない』と続くそうだ…
    モチロン 都市伝説 なのだけど、なんで黄色なんだろう?
    場所によってはピンクだったり緑だったりするそうだ…。

  •  日本に1つしかない精神科救急に密着取材、その知られざる内部を丹念に探り、脳科学から精神疾患へのアプローチなどの最新の成果も取りこみ深く考察する。精神科医療の流れを知り、今後のより良いありようを模索するための良書。
     「精神病は治せるんだ!」医師たちの闘いは今日も続く。
     突然妄想に取りつかれたエリートサラリーマン、神様モードの青年、自殺したい少女。24時間態勢で精神科救急に取り組む、日本で唯一の公立病院を3年にわたり密着取材。
     知られざる精神医療の最前線を追う。

  • すごい本。精神医療に関わる人には必読の書。迫真のルポ。こういう作品を生み出すところがジャーナリズムの素晴らしいところだ。

    精神医療の現状と課題、歴史など、わかりやすく描かれている。精神病患者は、何も別の世界の出来事ではなく、いつだれがそうなってもおかしいものではなく、精神病棟と一般社会は「地続き感」を持って、繋がっているという。なるほど、まず一人ひとりが精神医療に関する偏見を無くすところから始めなければいけないのだろう。

  • 今、この時も現場は動いてるんだな!

  •  日本全国の病院の入院患者総数140万人のうち、ほぼ4分の1が精神病での入院で、全病床数の25%近くが精神科のベッドだという。ところが、医療費全体に占める割合は6%余りにとどまり、医師の数も、全体では患者16につき1人なのに、精神科では40人の患者に対して1人。さらに、精神科入院患者の6割が3年以上の長期入院で、その大半は民間病院にいるという。こうした状況の背景にあるのが1987年の精神保健法改正で設けられた「任意入院」。“厄介者”の患者が次々に民間の病院に収容されていく。そこに待つものは・・・。
     暴れ出した患者などが運び込まれてくる救急精神病棟は、その存在も含めてあまり知られていない。本書はその実態を克明に記したルポ。単なる告発本ではなく、現在の精神病棟が抱える問題を事実に基づいて的確に指摘している。

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著者プロフィール

野村/進
1956年、東京都生まれ。上智大学外国語学部英語学科中退。78~80年、フィリピン、アテネオ・デ・マニラ大学に留学。帰国後、『フィリピン新人民軍従軍記』で、ノンフィクションライターとしてデビュー。97年、『コリアン世界の旅』で大宅壮一ノンフィクション賞と講談社ノンフィクション賞をダブル受賞。99年、『アジア新しい物語』でアジア太平洋賞を受賞。現在、拓殖大学国際学部教授もつとめる。主著に『救急精神病棟』『日本領サイパン島の一万日』『千年、働いてきました――老舗大国企業ニッポン』。近著は『千年企業の大逆転』

「2015年 『解放老人 認知症の豊かな体験世界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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