救急精神病棟

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (342ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062109253

感想・レビュー・書評

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  • 千葉県精神科医療センターという、精神科救急医療を行っている病院に運ばれてくる患者さんと、医療スタッフの日々を綴っている。統合失調症(分裂病)で大暴れして運ばれてくる人。重度のうつ病で自傷の恐れのある人。記憶喪失。「昏迷」という、感情を表すことも、自分では食べることも、体を動かすことも、薬の力を借りずに眠ることもできなくなってしまった患者さんが、医師の一言によって感情を取り戻し、動けるようになっていく様。「ゴミ屋敷」に10年以上こもっていて発見された女性。ect……。

    この本でとても印象に残ったのは、
    センターに向かうタクシーの運転手が、「精神科にかかる患者さんが怖い」と言っていたが、本当は患者さんのほうが社会・他の人を怖がっているということ。

    そして、このセンターではないのだけれど、大阪の「さわ病院」の「医療憲章」に
    -病む”ひと”のみでなく、その”ひと”を取り巻く人々の背負う重荷にも心を配ること。-
    という一節があった。

    身内にうつを病んでいる者がいた私にとっては、身内が通っていた病院にはそのような心配りはなかった。病院の医師に私たち家族は傷つけられてきた。身近にこの本に紹介されているような精神科の病院はないものだろうか?

  • 日本は相当おかしくなっている、社会の変容に人間がついていけていない、それによって引き起こされているのが、ここに描かれる精神病。

    精神病に関しては決して本人が悪いわけではない、責任の所在を特定することはできない。ただ、本当は本人が最も被害者であるかも知れないのに、社会的には隔離され、場合によって苦痛を伴う処置を受ける。
    「病気」対「人間」という、他の医療では比較的簡単に構図化できることが、この精神科ではとても難しい。

    そもそも、どこからが病気で、どこからがそうでないのか、その線引きすら、本来的には難しいのではないか。人間は誰しも本質的にそういった危うさを内在していると思う。エピローグに「完全な地続き感」とあるように、本来段階的なものに無理に線を引かざるを得ないのが医療の難しいところだろう。
    そして、その判断は究極的には属人的になる。

    医学的な知識や技術だけでなく、むしろそれ以上に人間としての倫理観を求められる場面が多いのが精神科医の仕事なのである。

    途中からは自分の立場に置き換えて読んでいた。
    自分だったらどう判断するのか、どう対処するのか、それぞれの患者に対して描かれるストーリーの結末を読むたびに、自分の軽率な判断を恥じたり、また医師の気持ちに同情したり。
    そうしながら気づいたのは、実は自分の日常にも同じような場面が普通に存在しているということ。
    自分の関わる他者に対して、どのように向き合っているのか、見直す機会にもなった。
    精神病とは、段階的なものであり、きっと自分の身近にも、程度の差こそあれ、傷付き苦しんでいる人がいるのだから。
    そしてそう考えた時に、この本に描かれている問題に対し向き合うべきなのは、精神科医だけではなく、自分も含めた社会全体なのだと気づくことができた。

  • すごい本。精神医療に関わる人には必読の書。迫真のルポ。こういう作品を生み出すところがジャーナリズムの素晴らしいところだ。

    精神医療の現状と課題、歴史など、わかりやすく描かれている。精神病患者は、何も別の世界の出来事ではなく、いつだれがそうなってもおかしいものではなく、精神病棟と一般社会は「地続き感」を持って、繋がっているという。なるほど、まず一人ひとりが精神医療に関する偏見を無くすところから始めなければいけないのだろう。

著者プロフィール

野村/進
1956年、東京都生まれ。上智大学外国語学部英語学科中退。78~80年、フィリピン、アテネオ・デ・マニラ大学に留学。帰国後、『フィリピン新人民軍従軍記』で、ノンフィクションライターとしてデビュー。97年、『コリアン世界の旅』で大宅壮一ノンフィクション賞と講談社ノンフィクション賞をダブル受賞。99年、『アジア新しい物語』でアジア太平洋賞を受賞。現在、拓殖大学国際学部教授もつとめる。主著に『救急精神病棟』『日本領サイパン島の一万日』『千年、働いてきました――老舗大国企業ニッポン』。近著は『千年企業の大逆転』

「2015年 『解放老人 認知症の豊かな体験世界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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