- Amazon.co.jp ・本 (243ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062110877
感想・レビュー・書評
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倉橋由美子という作家はとてもユニーク。
独自の、不思議な世界観が確立しています。
小川洋子にも通じるものがあるけど、もっと、残酷というか突き放しているというか、大胆で男っぽい。
読んでてまず思ったのが、「これ、誰か映像化してくれないかなあ」と。CGを使ったアートなアニメーション映像で。
絶対面白いと思うんだけど。
ビジュアルブックを眺めているような感覚を味わえる不思議な小説です。
慧(けい)君は祖父からある「クラブ」を譲り受ける。
クラブの中にはバーがあり、慧君が訪れるとバーテンの九鬼さんが不思議な特製カクテルを作ってくれる。
そのカクテルは、異世界への入口。
あるときは雪の天上世界、あるときは熟れた果実の熱帯の森、またあるときは鬼女の集う紅葉狩り。
現実世界のすぐそばにある異次元世界を当たり前に受け入れつつ、どこか醒めているような感覚で描いています。
瑞々しい感性とドライな視点が同居する文章が不思議と心地よいのです。
小説というよりは軽い読み物、という感じ。 -
何とはなしに魅力的なタイトルに出会い、本当に久しぶりに倉橋由美子を読みました。
そうか、漢字にすれば黄泉比良坂往還か。こちらの方が良く判る。
(「MARC」データベースより)
時空を越え、はるかな異郷とこの世を自在に往来する少年・慧君の幻想的な性的冒険。辛辣で精錬されたユーモアとエスプリ溢れる倉橋由美子待望の連作小説集。『サントリークォータリー』掲載
幻想的かつ耽美的な全15編。
腐敗した肉、抽象化したカニバリズム、近親相姦。
淫靡というか、直接的表現はあっさりしたものなのですが、シチュエーションがね。
そして同時に、浅学な私は全くついて行け無い漢詩・和歌・ギリシャ神話・能などをモチーフにした教養小説。
倉橋さんは何冊か読んでいるのですが、ずいぶん昔の話であまり記憶が無いのです。でも何となく「倉橋さんらしいな」と思わせる作品でした。
かなり読み手を選ぶ作品でしょうね。好きな人は好き、駄目な人は駄目。
私はと言えば、そこそこ楽しめました。
ちなみに以下は読了後に調べた各編のキーワードです。
・花の雪散る里;式子内親王(新三十六歌仙)
・果実の中の饗宴;月と六ペンス
・月の都に帰る;かぐや姫
・植物的悪魔の季節;王安石(北宋の政治家・詩人)
・鬼女の宴;高浜虚子(爛々と昼の星見え菌生え)「
・雪女恋慕行;アフロディテとエロス
・緑陰酔生夢;江馬細香(江戸時代の女性漢詩人、画家)
・冥界往還記;菅茶山(江戸時代後期の儒学者・漢詩人)
・落陽原に登る;麻姑(中国神話に登場する仙女)
・海市遊宴;蘇軾(中国北宋代の政治家、詩人、書家)
・髑髏小町;通小町(執心男物の能楽)
・雪洞桃源;ペルセポネ(ギリシア神話に登場する女神で冥界の女王)
・臨湖亭綺譚;白楽天の琵琶行
・明月幻記;不明
・芒が原逍遥記;黒塚(安達ヶ原の鬼婆を題材にした能) -
上質にしてドラッギー 夢幻
失礼ながら高齢の著者にこのようなものが書けることに驚いてしまった -
「桂子さんシリーズ」8/8。彗君が主人公の幻想短編。「ポポイ」に登場の舞子も、もちろん桂子さんもちょい出る。
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古典への造詣にすさまじいものがあるが、それを反転させているように見えるのがおもしろかった。たとえば小町の髑髏の話は、九相図をひっくり返しているし、ストレートな古典の引用だけではない。全体の構造も主人公の男性がいろいろな女性と連作短編的に関わっていくという点で源氏物語ににているが、源氏と違って女性たちのことがいまひとつ明らかにならないため、主人公だけが何も知らずに空回りしているように読める。そこに批評性があるのではとおもった。
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懐かしくなって再読。
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バーテンダーの作るカクテルで異界に遊ぶ主人公。
ギリシア神話に漢詩に和歌と幾つかのジャンルの言葉を引いて物語りに彩が加わります。
エロス、と言えばエロスかも知れないけれど表現が綺麗なので気にならずにさらりと読めました。 -
バーテンダーの九鬼さんがつくるカクテルに導かれ、あちらこちらとこの世ならざる場所へ渡っては女性と戯れる慧君が主人公の短篇集。官能的ではあるが描写はやんわりとぼかしていて、変に生々しいエロではないので、お酒の力も借りながら雰囲気に酔うといった感じ。時にふわふわと、時にどろりと痛む感触が心地よい。すっぱりと割り切った展開が好みの人には向かないが、たまには夢幻の世界でまどろみたいという人にはよいと思う。
和洋中と世界中の詩やら文学、神話からの引用が文中に撒かれているので、知っているものが出てくると思わずにやりとしてしまう(笑)。 -
タイトル通り、オルフェウス的冥界譚、行きて帰りし物語の形式を採っている。読んでいて夢をみてるような、酩酊してしまったような眩暈を覚えること請け合いである。こういった文章が書けるその技巧に素直に関心した。