黒と茶の幻想

著者 :
  • 講談社
3.73
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  • Amazon.co.jp ・本 (624ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062110976

作品紹介・あらすじ

目の前に、こんなにも雄大な森がひろがっているというのに、あたしは見えない森のことを考えていたのだ。どこか狭い場所で眠っている巨大な森のことを。学生時代の同級生だった利枝子、彰彦、蒔生、節子。卒業から十数年を経て、4人はY島へ旅をする。太古の森林の中で、心中に去来するのは閉ざされた『過去』の闇。旅の終わりまでに謎の織りなす綾は解けるのか…?華麗にして「美しい謎」、恩田陸の全てがつまった最高長編。

感想・レビュー・書評

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  • 誰が書いたとも知れぬ小説『三月は深き紅の淵を』の第一章が『黒と茶の幻想』でもあり、表題作の作品があると知り、読んでみようと手に取ると…分厚いっ(汗)!これ、文庫だと上下巻に分かれているようですね。

    学生時代の同級生、利枝子、彰彦、蒔生、節子の4人で、卒業から十数年後Y島を旅することになる…。それぞれが「美しい謎」を持参することが旅の条件になっており、4人の視点から物語が展開する…。4人は何らかの形で現在は姿を消している憂理(『麦の海に沈む果実』」で理瀬のルームメイトだった子)と関わっており、なぜ姿を消したのか、生きているのか、その「美しい謎」に迫る…。これは「美しい謎」の1つ、他にも沢山の「美しい謎」が描かれています。

    Y島の自然とあいまって、「美しい謎」がなんだかとっても重厚なものに感じました。いいですね~私もこう気の置けない仲間とこんな旅をしてみたくなりました!この4人が再びY島を訪れる続編も恩田陸さん、手がけてほしいです。

  • 40歳、大学同期の男女4名の屋久島旅行

    幼馴染、元恋人、親友(訳あり)が旅で過去を振り返る。

    ノルウェーの物語を連想する親友の死とトラウマ、禁断の愛などが盛り込まれている。

    真実を語らない優しさはなぜ、誤解を生むのだろう?

    「利枝子」のような女性はなぜか気になる。

    今の年齢だから、楽しめる本かもしれない。

  • 再読。恩田作品の中でも一番好きかも知れない。
    学生時代の同級生が卒業後十数年を経て、仲間の送別会をきっかけにY島への旅を企画する。
    本間節子、辻蒔生、利枝子、三崎彰彦。利枝子と蒔生はかつて恋人同士だった。皆今はそれぞれに家庭を持っている。
    旅のテーマは「美しい謎」過去の謎をそれぞれに持ち寄って、旅の間に解決しようと彰彦が提案する。

    過去の謎、太古の森への旅。私の大好きなテーマがぎっしり詰まって、まさに宝石箱のよう。恩田世界にどっぷり浸れます。
    以下ネタバレ

    利枝子と蒔生が別れた原因となる女性に梶原憂理が登場。
    「麦の海に沈む果実」で理瀬のルームメイトだった子。彼女の一人芝居ではあの寄宿学校での麗子とのエピソードが語られる。憂理は利枝子の親友だった。何故蒔生は恋人の親友を好きになったのか?憂理は何故姿を消したのか?生きているのか?
    彰彦は何故紫陽花が怖いのか?高校時代の親友の友紀が死んだ事を忘れていたのは何故なのか?
    節子の夢に度々現れる紫の割烹着の女性は誰なのか?
    それぞれが胸に抱いた過去の亡霊が紐解かれていくのがとても面白い。
    そして随所にちりばめられた小さな謎解きにもうーん、とうならせられる。
    4人が一人ずつ語っていく形式なので、それぞれがお互いに抱いている思いが微妙に擦れ違っていたりして、何気ない会話やエピソードがものすごくツボ。
    観光案内としても秀逸。今すぐに屋久島にいってみたくなる。
    最初から最後まで一語一句全てが美酒。

  • 長かったーけど、読み終えると一瞬のように感じる。
    りえこ、彰彦、まきお、節子それぞれの視点で各章ごとになってるがまきおと、憂理の秘密についてみんな気にしてる。

    理瀬シリーズらしく、憂理が1人劇で演じた内容が理瀬の行ってた学校の話やって、直接には関係なさそう。

  • 再読本だと思うのですが、記録になく……。(かなり前に読んだのかな)

    大学時代に仲の良かった男女4人組で、とある島の山の中にある有名な杉と、その近くにある心の疚しい人には見えないという、三顧の桜を見に行くことに。

    卒業してから10年以上たち、それだけ大人になったからこそ見えてくるものとかもあるわけで。

    その時はわからなかったけど、今思うと、こうだったのだね。という話がたくさんありました。(登山しながら、4人で色々な話をしていくので)

    麦の海に沈む果実に出てくる憂理が、名前だけ出てきます。

    コロナ療養中に読んだ旅行もの。行った気分になれました。

  • 高校時代から大学まで恋人だった利枝子と薪生。薪生と幼稚園からの幼馴染の節子。薪生と大学からの友人で、妙にウマが合う彰彦。四人は思い付きとのような成り行きと、必然で四泊の屋久島旅行へ。

    『利枝子』
    彼女はかつて自分の出会う最上の男と付き合っていた。自分たちはこのままうまくやっていけると思っていた。それがかなわなかったのは、薪生の心変わりが原因だった。彼は利枝子の親友、憂理に心を奪われたのだ。小さいころから子役として舞台に立ってきた彼女は美しく、脆く、そして強い女だった。利枝子は薪生との一件があってなお彼女と会いたかった。しかし彼女が大学の終わりに集大成として立った一人舞台の夜以降、彼女は利枝子の前からいなくなってしまった。彼女が自分に会いたくないのか、いやそんなことは考えられない。利枝子は疑っている。あの夜、薪生が彼女を殺したのではないかと…。
    利枝子はこの旅で彼女と薪生と自分との過去の事実をつきとめる決心をする。

    『彰彦』
    彰彦はこの旅のプランを立てながらほかの四人に、提示した。“この旅行の目的は非日常だ。”"過去の中に潜む美しい謎をみんなで解き明かし、過去を取り戻そう"と。
    彰彦は資産家の一族に生まれ、容姿も淡麗、資質も持ち合わせていたが、ほかの四人に言わせれば口を開かなければ完璧な男だ。彼には姉がいる。顔のよく似た、淫乱な姉。彼女は彰彦の友人の何人かと関係を持ち、彼らをぼろぼろにして捨ててきた。彰彦は彼女に親しい友人を紹介するのを控えていたが、それでも被害は出る。
    三日間かけて屋久島の一番古い杉を見に行く。そのための体作りをかねて前二日間はゆるめの森を散策する。深い森を歩きながら、彼らはしゃべり続ける。いくつかの謎。いくつもの雑談。その中から彰彦は自分に眠る謎を思い出す。それは高校時代に仲良くなった友紀が殺された真相だった。

    『薪生』
    彼は半年ほど前から妻と別居をしている。理由は"誰かといることが嫌になったから"。薪生は自分のことを"ひとでなし"であると理解しているが、だからといって何とも思わない。周りから"寛いでいる""リラックスしている"といわれるが、それはどうでもいいからだ、そしてポーカーフェイスがうまいから。
    彼は憂理の秘密を知っている。彼女の押し秘めた熱情。
    そしてほかの三人はこの秘密の告白を待っている。
    そして薪生自身は、告白から得られる解放を。
    役を演じるように、そのスポットライトの下に立つ時を待っている。

    『節子』
    節子の旦那は今末期の癌と戦っている。今年の冬は越せないだろうといわれている。そんな彼がこの旅行を快く送り出してくれた。それを受け取って旅を楽しむことが彼女の愛の証だった。
    節子は昔から何度も見る夢があった。場所はばらばらだが、紫の割烹着を着たおばさんが追いかけてくる。節子は必死に逃げる。
    旅の最終目的の杉を目指しながら、彰彦はこの工程の終わりまでにその夢の謎を解くと息巻く。
    彼女は深い森に魅せられながら、一本の杉を目指す。今は何の利害関係も持たない友人たちと。

    そしてもう一つの目的の"三顧の桜"の姿を探して。


    ずっと読みたくて、なのに機を逃し続けていた一冊。
    初期の恩田さんらしさ炸裂。美しい情景と心理描写の一体となった文章。危ういのに端正な登場人物たち。軽妙な会話、ぐさりと刺さる言葉。ものすごく好きだと感じた。読み終わって、また読むとそれぞれの章でまた見えてくるものがあるのだろうな。
    ラストは涙ぐんでしまった。
    恩田さんの描くノスタルジーは、肉体を持つ前に一時解けていられる完全なものに思いを馳せるような、還れるけれど今は帰れない場所に向かっていて切ない。

  • この物語がミステリのカテゴリなのかどうかは分らない。そして、読む人全てが深く感銘できる作品だとも思わないし、してくれなくても構わない。だけど、神秘的な雰囲気と謎が複雑な人間関係と絡んで進行するこの不思議でとても素敵な作品は、自分にとってメモリアルな作品になっていることは間違いがない。
    男女四人の同級生が屋久島に旅行に行く過程でそれぞれの立場からそれぞれの思いを語る進行は女性の読者向けであるようにも思うが、男が男性の視点で読んでも十分に読み応えがある。
    自分や自分の恋人が四人の登場人物の誰に一番近いか、ついつい考えてしまうが、様々な場面で見られる各々の発言や言動にはそれぞれに共感出来る部分が多い。おそらく四人の登場人物のどこかにでも自分の過去を投影出来た人は物語に引き込まれて行くのだと思う。

    自分としては最高の評価をする作品であるが、誰彼なく読むのを薦めることは一切したくない。そんな特別な作品である。

  • 1人ずつのエピソードごとに構成されていて、全4章から成る。意外な人物が最終章だったので、どんな真実が…?!とどきどきしたが、どこか安心できる終わり方だった。

  • めちゃくちゃ刺さりました。
    うぅ〜胸が痛い…。

    変わらない友情とか男女の愛情って素晴らしいよね!みたいな人間賛美的なものじゃないんです。
    人間て誰でも他人には知られたくないもの抱えて生きてるじゃないですか。汚い事とか狡い事とか嫌悪するような事、少なからず隠して生きてる。
    それでも、それすら分かってて、この4人みたいに笑いながら一緒に居れる誰かがいたらなんて幸せなんだろう。私にはいないかも。こんなにありのままをさらけ出せる相手。

    この本を読み終わって"凄いな"と思ったのは、4人の登場人物の印象が最初と180度変わった事。4人全員が正反対の印象になった。それもいつの間にか。物語の破綻もキャラクターの破綻も全くなく。凄くないですか?
    因みに…
    利枝子
    冷静で理論的に考える事ができる大人な女性、才色兼備→脆くて弱い。自分の事も周りの事も、理解の範囲内でしか見れない。
    彰彦
    金持ちで美貌。外見も頭脳も伴った自信家。キツい性格。→誰よりも繊細で優しい。愛情深い。人としての器が大きい。
    蒔生
    ブレない自分を持ったカッコいい人。男女問わず惹きつける魅力がある。→利己的で人でなし。自分が全て。他人には興味がない。でも、自分の役割や影響力は理解している。
    節子
    天真爛漫な美人。明るくてさっぱりした性格。自分も周りも笑顔にする。→他人の観察力がずば抜けていて世渡りが上手い。自然体なようでいて、全て計算し尽くされている。

    いや、私の勝手な印象ですけど。
    こんなに印象変わったのに、それぞれ1人の人間の表と裏として成り立っているって凄い。


    ただ、理瀬シリーズの番外編として憂理をみたら別人です。私の知ってる憂理ではない。苦笑。

  • 分厚い本を読み進める勇気?が出るまで、少し時間 がかかりました。 しかし、4人が島に着いてからは、自分でも驚くほ どのスピードで読みました。 それほど続きが気になったんでしょうね。

    美しい謎なのかは正直分かりませんでしたが、登場 人物と同世代の今のタイミングで読めたことに、勝 手に縁を感じました。

    旅をしたくなりました。

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著者プロフィール

1964年宮城県生まれ。92年『六番目の小夜子』で、「日本ファンタジーノベル大賞」の最終候補作となり、デビュー。2005年『夜のピクニック』で「吉川英治文学新人賞」および「本屋大賞」、06年『ユージニア』で「日本推理作家協会賞」、07年『中庭の出来事』で「山本周五郎賞」、17年『蜜蜂と遠雷』で「直木賞」「本屋大賞」を受賞する。その他著書に、『ブラック・ベルベット』『なんとかしなくちゃ。青雲編』『鈍色幻視行』等がある。

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