アースダイバー

著者 :
  • 講談社
3.71
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感想 : 182
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  • Amazon.co.jp ・本 (266ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062128513

作品紹介・あらすじ

縄文地図を片手に、東京の風景が一変する散歩の革命へ。見たこともない、野生の東京が立ち上がる。誰も書かなかった東京創世記。

感想・レビュー・書評

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  • まるで、ダイバーが海面から海へとダイブするかのごとく、東京という都市を現在から、縄文時代までの歴史にダイブし、また浮かび上がった時に見える景色を見せてくれる本だった。
    縄文時代の地形と、御先祖様が構築してきた文化・風習の痕跡から、現在の佇まいを眺めるといろんなものが見えてくる。摩訶不思議な東京散歩ガイドブック。
    神話から脈々と連なる神社仏閣があり、お祭りも土地の歴史を語り注がれたもの。
    縄文時代の地形地図も折り込みされている。東京駅も海の下だったことがわかる。
    見えないものが見えちゃう人の感覚って、土地の歴史を嗅ぎ取る能力が鋭いということなのかもしれないなぁ。
    いやぁ 面白かった。

  • 東京都市論が好きなので時々読まずにいられなくなるのだが、これはいまひとつ乗り切れなかった。妄想を語られるのは嫌いじゃないけど、なんでもかんでもエロスとタナトスにこじつけられては胡散臭い。壮大なことを言っているようで実は通り一遍。そこで生を営む人間への考察の浅さが物足りなさの一因だろう。都市の成り立ちの概要を掻い摘むには手頃かもしれない。

  • 図書館で借りた本。
    谷と台地、坂道、お参りの場所。すごく面白い、興味深い。このタイミングで読むべきだった。大阪も読まねば。

  • 東京の、洪積層と沖積層が入り組む縄文時代の地図と最新の地図を手に入れ、自転車でフィールドワークに乗り出してみると、古層は、いたるところに顔をのぞかせていて、東京のテレビ塔はそろって昔聖地だった場所に立っているし、古代の湿地帯が入り組んだ新宿は、水と大蛇と黄金にまつわる伝説を生み、富を呼ぶ霊気が今も人々を突き動かしている。電車男にも出てきた、電脳おたく空間アキハバラの繁栄は、炎の精霊・秋葉権現の御利益らしいし、銀座は、皇居の森は...地底から縄文の思考を手づかみすることは、歴史の連続性を再発見することで、それぞれにぎわいの理由がくっきり見えてくると。

  • 東京都内の各所を、縄文時代の地形と比べ、起源を探る本。

    一見自然発生的にできているようにみえる街も、地理的、宗教的な要素が混ざって今の姿になっていることを認識できる。

    こういう見方をすると街歩きも楽しめそう。

  •  とてつもない量の情報が詰まった本であり、読むのにとても時間がかかった(ここまでgoogle mapを片手に読んだ本は無かった)。本当に様々なことが雑記のごとく書かれているのだが、この本を一言で表せば、"人の無意識と空間の記憶についての本"と言えると思う。現在東京に「在る」ものは何かしらの形で空間の記憶と、それを辿る人間の無意識に繋がっている、ということを様々な事例から示している。
     著者が東京のある土地を分析する際、基本的な判断軸としてあるのが沖積層と洪積層の存在である。縄文海進期において、当時から陸地であった土地を洪積層、当時は海底で現在陸として出現している土地を沖積層とし、その二つの層とその間の勾配地それぞれにおける土地の記憶、土地の性質が現在の東京という都市の各所にどのような影響を与えているかを分析している(沖積層・洪積層に関係ない(もしくは深すぎて分からない)分析も数多く掲載されている)。
     まず分析の例を示す。昔(縄文~明治維新前)、洪積層は基本的には、上流階級が住む場所であり、沖積層には下流階層が住む場所だった。沖積層は水との繋がりが深く、水を含む大地は竜や蛇といった怪物との繋がりが強い。蛇や竜は金を連想させる。水と金からは、女が連想される。そのような無意識の中で、また沖積層の人々の生活が貧しかったこともあり、沖積層では歓楽街が栄えることが多かったそうだ。実際、渋谷や東新宿のあたり、五反田は過去沖積層地域であり、実際に歓楽街が栄えている。このように沖積層地域ではたしかに歓楽街が栄えている例がたくさんある。(新橋や銀座はまた少し違うバックグラウンドを持つ)。
     またそのような地域が歓楽街になりやすくなる条件がもう1つあった。それは神社の存在である。洪積層と沖積層の境目は当時岬や崖のような場所であった。当時、人はなにかの先っぽには霊性が宿ると信じられていた。その例としてサムライとインディアンの話を本文では紹介している。サムライは誰かを打ち取った時、相手の頭を切り落として掲げる。インディアンも打ち取った相手の頭皮を着り落とし、勝利を掲げる。この2つに象徴されるのは、体の最先端である頭にエネルギー、そして霊性が宿ることを、サムライもインディアンも無意識に認識していたことである。実際、当時岬であると考えられる場所には神社や古墳が作られていることが多い。そういった神性な場所では、日常のモラルから切り離され、非日常な行為が許される空気があったという。よって、岬に近い沖積層ほど、歓楽街が許される空気があったという。
     このような形で著者の中沢新一さんは東京都の各所を彼なりに分析し、それを本書の中にぶちまけている。数ある分析の中でも僕が特に"面白い"と感じた(かつ理解できたような気がする)分析を以下に記す。

    ■サムライとインディアンについて
     本書で著者は映画『ラストサムライ』と映画『ラストオブモヒカン』の間にある繋がりについて分析している。
     まず東日本と西日本では、サムライのルーツが違う。西日本のサムライは大陸・列島(中国・韓国)からやってきた民族であり、東日本のサムライはロシア・モンゴル地域にルーツを持つ。西日本のサムライは職人芸として剣術に優れ、東日本のサムライは集団戦法や乗馬が得意で潔い死を理想としていた。そのような東日本のサムライは、実はアメリカのインディアンと同じルーツを持つ。ここから、著者の分析は始まる。
     『ラストサムライ』は明らかに『ラストオブモヒカン』を意識して作られていると著者は述べる。アメリカは大陸を支配する際、不当にインディアンを支配し、インディアンの文化を滅ぼしてしまった、という自責の念を持つ。『ラストサムライ』ではトムクルーズが「最後の侍」となり近代軍隊の前に突撃していくことによって、アメリカ人は自責の念から解放される、という。

    ■東京タワーについて
     東京タワーはタナトスのタワーである、と最初に著者は述べ、なぜタナトスのタワーなのかを説明し始める。
     理由としては、まず東京タワーが立てられている場所について。東京タワーが建てられている場所はもともと岬で、興奮やお寺などが建てられている神性な場所であるということ。次に、東京タワーには朝鮮戦争の戦車の残骸の鉄が使われているということ。3つ目は東京タワーの中には1789年のフランス革命の際多用されたギロチンを深いつながりを持っている蝋人形館が展示されていること、などがある。また象徴的なのがモスラの映画。モスラは元々幼虫で、東京を壊しながら進む。そして途中で繭を作り、綺麗な蛾のモスラとして生まれ変わる。この繭を作る場所がニライカナイに足を突っ込んでいる東京タワーであり、生と死を司るタワーとして象徴的に表現されている。
     さらに著者は東京タワーは"日本の橋"として象徴的な存在であると述べている。西欧の橋は強固で、人間によって創られた強固な2つの社会をつなげる役割としての橋となっている。しかし日本の橋は、どこか華奢で、災害が起こればすぐ壊れてしまう。また日本の水墨画などに描かれている橋の向こう側はおぼろげなもやもやになっている。これは日本では橋は文字通り"端"であり、この世とあの世のエッジなのである。

    ■鷲神社の酉の市について
     浅草の鷲(おおとり)神社では毎年11月の酉の日に"酉の市"が行われる。そこでは皆「幸せを掻き込む」と呼ばれる熊手を皆購入し、家や会社に飾るそうだ。加えてその日は蒸した大きなタロイモを縁起物として販売している。酉である大鷲と熊、そしてタロイモの繋がりは、どのようなところから生まれるのか。それは鷲神社の奥にある長国寺で見ることができる。長国寺でも酉の市で熊手が売られているのだが、そこで売られている熊手には、七つの星を頭に頂き、大鷲に乗った菩薩様が描かれている。ここでの七つの星は北斗七星を表し、菩薩様は北斗七星に囲まれた北極星を表している。北極星は天空にあって少しもゆらぐことの無い星として、縄文時代では宇宙の秩序そのものとして扱われていた。その北極星が地上で一番高い場所を飛ぶとされていた鷲に乗って、地球に近づいている。これは、太陽の力が弱まっている時期に宇宙のバランスを取ろうとしている象徴だという。よって11月なのである。また神話では、北極星は天空の王として、熊は地上の王として君臨している。天空の王が地上に近づくとき、そこに熊が現れるという。さらに昔の人はイモを神聖な食べ物として縄文時代以来大切にしてきた。よって、天空と地上の王が近くに現れる時、神聖な食べ物を食べるというのが当時正しいとされていた考え方だという。このような過去の思想によって、現在の鷲神社の酉の市は形成されている。(なぜ鷲神社で鷲の入った熊手が売られてないかというと、日露戦争の際、ロシアのシンボルが鷲だったからだという)

    ■相撲について
     縄文時代の頃はもっと人と自然が密接であった。江戸時代、人は大きなクジラや鯰、竜の上で生活を営んでいたと考え、人間が自然を支配するというマインドではなく、自然の上で不安定な中前向きに生活していた。
     相撲の成り立ちを見ても、当時の人と自然の近さを感じる。昔力士は自然の化身と考えられていた。力士がしこを踏み、大地のエネルギーが暴れるのを抑制した後、丸い土俵の中で、自然の化身が力士に憑依する。元々化身は1つの姿なのだが、好き勝手に暴れ回らないよう東西の力士にそれぞれ憑依し、土俵上でぶつかり、自然の力のかけらを周りに飛び散らそうとする。よって、力士には自然の景観と繋がりがある名を持つ。本来は1つの化身なので、勝ち負けはあまり関係ないという。その証拠に関東で神事として今も行われている草相撲では勝ち負けをつけないことが正しいとされているようだ。現在も相撲が人を惹きつけるのは、それが元々自然の化身の美しい戦いであるからかもしれない。

     この他にも銀座という組合からの場所の成り立ち、四谷怪談物語作成裏にある湿地帯での物語、新宿の成り立ち、大学にとってアジールを守る象徴である神社、金魚の比反復性と性行為など、面白い話がたくさん詰め込まれていた。柳田國男の用語など難しい単語が出てきたり、そもそも地理感覚が無く読んでいる途中随時地図を確認しなければどこについて書かれているか分からないなど、読む上での難しさは多く感じたが、とても読み応えがあり、読んだ後、自身の身の周りを見る際の視点が読む前よりも多くなっていることを実感できる、良書である。

  • ブラタモリ感
    ブラタモリをやる前に読んだことがあって
    昔の地形が現在の地図と紐付いていること
    の面白さを教えてくれた本

  • 2018年02月11日に紹介されました!

  • ほぼSFだけどリアリティがあり面白い。

  • もらって10年以上立つけれど、今でも読みます。

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著者プロフィール

1950年生まれ。東京大学大学院人文科学研究科修士課程修了。京都大学特任教授、秋田公立美術大学客員教授。人類学者。著書に『増補改訂 アースダイバー』(桑原武夫賞)、『カイエ・ソバージュ』(小林秀雄賞)、『チベットのモーツァルト』(サントリー学芸賞)、『森のバロック』(読売文学賞)、『哲学の東北』(斎藤緑雨賞)など多数。

「2023年 『岡潔の教育論』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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