天使のナイフ

著者 :
  • 講談社
3.82
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  • Amazon.co.jp ・本 (360ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062130554

作品紹介・あらすじ

殺してやりたかった。でも殺したのは俺じゃない。妻を惨殺した少年たちが死んでいく。これは天罰か、誰かが仕組んだ罠なのか。「裁かれなかった真実」と必死に向き合う男を描いた感動作!第51回江戸川乱歩賞受賞作。

感想・レビュー・書評

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  •  この小説は社会派ミステリーの中でも、評価が高いと思う。
    それはこの作品特有の問題として幾重にも伏線が張り巡らされ、回収されていく様は面白い。

     物語は、カフェを営む主人公の妻が、中学1年生の少年三人にナイフ等で殺害された。被害者は、まだ生後間もない子どもに覆い被さるように亡くなっていたという。警察の現場検証に対して、主人公の桧山貴志が立ち合い、被害に遭う前に五百万円が通帳から引出されていることを知った。警察の捜査で、まもなく犯人は拘束された、といった内容です。

     主人公の疑問が新たな疑問を産む。予想は出来たが最後までどう決着するのかは分からなかった。

     少年犯罪の問題を扱った作品は多くあります。読了後、早速刑法41条を確認した。
    『十四歳に満たない者の行為は、罰しない。』と書いている。刑法上の責任能力がないものとして扱われる。法に触れる行為を行った場合には「触法少年」と呼ばれ、少年法が適用され警察の捜査対象からはずされる。11歳~13歳が凶悪事件を犯した場合、少年院に送致することができる、と書いていた。
    しかし、少年法六十条には『刑を終えた少年は、将来に向かって刑の言い渡しを受けなかったものとみなす』とある。少年の犯罪は『前歴』となっても『前科』にはならないということだろう。勿論厳罰は覚悟しなければならないが、死刑は有り得ない。国際法である「児童の権利に関する条約」37条によって禁止と定められており、日本はこれを批准しているため、国内法が改正されても死刑にはならない。

     未成年者の犯罪についての詳細は、被害者の求めに対しても少年Aなのだ。少年法の改正については厳罰派と擁護派が存在する。

     せめて被害者の家族は、何故という疑問が残らない制度にしてもらいたい。たとえ少年Aであっても、恨みの連鎖は防げないと思う。
     今回の読書は考えることが多かった。

    それでも読書は楽しい。

  • 殺してやりたかった、でも殺したのは俺じゃない。妻を惨殺した少年たちが死んでいく…

    少年は罪に問われない。初めて知ったけど加害者の情報を被害者の家族に知らせないとのこと。犯人の年齢を問わず家族を失う悲しみは皆一緒なのにと思ってしまう私は心が狭いのかな?

  • 目を背けたくなるような描写が何度も出てくるので、途中で読むのを断念しかけた。同じように思う人がいるかもしれないが、ぜひ最後まで読み切ってほしい。エピローグに至るまで様々な仕掛けが施されていて、非常に面白い作品。
    主人公が犯罪被害者のため「犯罪者憎し」が前面に出て、とても共感できるものの、作中で主人公が「逆に自分の大切な人が犯罪加害者になったらどうする?」と問われるシーンが印象的。難しい‥‥

  • 再読。読んだことを忘れてもう一度読んでしまった。この頃の薬丸岳は、まだ粗さがあるが、伝えたいことを必至に伝えようとする思いがわかる。
    少年法にまつわる悲しい犯罪の物語。妻を中学生男子3人によって殺された主人公桧山。今は4年前に起きた事件を忘れ、娘と共に過ごしている。そんな桧山の勤め先の近くで、当時の少年Bが殺された。警察は桧山を疑うが、さらに少年Cも電車のホームから突き落とされ、誰が犯人なのかと疑問に思っていると、当時の首謀者であった少年Aも殺害される。桧山は犯人に行き着くことが出来るのか。再読とはいえ、楽しく読めた。
    少年法を考えさせられた。と同時に、薬丸岳の情熱を感じる。

  • Aではない君と、と対になっているような作品。
    少年法について、被害者の視点から考えさせられる。
    ただそれだけじゃなく、物語が思わぬ方向に二転三転して、難しい内容だけどどんどん読み進められる。
    おもしろかった。

  • 図書館にて借りました。

    妻を少年3人に殺された、夫と残された娘。
    少年犯罪がベースで被害者家族目線で話が進みます。

    少年法に守られ、犯人の少年は「逮捕」ではなく「補導」しかも数年でまた、何事もなかったように生活が保障され未来がある。
    傷は癒えないが、未来の象徴の娘がいる。
    ひたむきに前を向く主人公。
    そんな中、加害者の少年のうちのひとりが他殺死体で見つかり事態は急変する。

    単なる少年犯罪のやり切れなさだけではなく、被害者も加害者も様々な過去があり「法」によって良くも悪くも守られている、ことに焦点があてられていてなるほどと思いました。

    妻の無くなった時の疑問点はいったい何処に・・?と思っていると散らばったヒントが一斉に回収されていって終盤はびっくりの嵐でした(笑)まさか無かったことになるのか?と思ったほど終盤でした。

    被害者は加害者であり、加害者は被害者である。
    そして少年法を一番憎んでいた自分が少年法によって守られてしまうと言う、皮肉な結果がまた良かった。

    低年齢による犯罪の多発する今、「更生」の真意が問われる今。
    何が更生なのか、贖罪なのか、考えてしまう一冊。

  • 好きな話ではないし、また読みたいとは思わないけど、一度は読んだ方がいいなと思った意味での⭐︎4です。

    本を読む前と後で、自分が変わったり、世界が違って見えるのが好きなのが、読書をする理由の一つです。
    この本もまさにそれでした。
    薬丸さんの本はほとんどがこれですね。
    今まで全然知らなかったことを、現実にずどーーんと落とし込んできます。
    「私だったらどうするか。どうなってしまうのか。」とか、色々考えたくなくても考えてしまいます。
    でも、こういうことを知るのはすごく大切だなと思います。

    何も知らないでなんとなく毎日を過ごすより、色んな可能性や、世の中の不公平とか、言葉にできないこと、割り切れないことを知ってるのでは、重みが違いますよね。

    未成年の犯罪に対しては、私は完全に主人公と同じ気持ちでした。
    贖罪とは何か。勉強に励んだり、立派な仕事に就くことが、更生なのか。いや、違うだろう。全然違う。
    自分のしたことと、ちゃんと向き合わないといけないですね。

    とにかく…色々と辛かったです。

  • 狭い人間関係の中に事件がらみの登場人物が多すぎるのが、ちょいどうだとは思ったけど、ラストまでグイグイ引っ張られた。面白かった。

  • 感情的に一方を援護、断罪するのではなく感情に寄り添いながら主人公と一緒に迷いつつ前に一歩ずつ進んでいく構成が丁寧。そこに少年犯罪という重いテーマに作者自身が悩みながらぶつかっているような誠実さを感じ、勝手に好感を覚えながら読みました。
    一方でミステリーとしてもきちんと「謎が徐々に明らかになる」王道の楽しさがあって読みやすい。少々、少年犯罪が絡まり過ぎな気がしないでもないですがそこまで気になるものでもないかな。
    初めて読む作家さんで本作がデビュー作ということですが、物語の面白さはもちろん滲み出る真摯さもとても好きになったので他の作品も読みたいと強く思いました。

  • 2012.12.10
    2005年江戸川乱歩賞受賞。
    初めての応募で受賞作ということで読んでみた。

    妻を惨殺した少年3人のうち1人殺され疑惑の人となる主人公の桧山。
    殺したいほど憎い犯人ではあったが殺したのは自分ではない。
    残された娘を育てながらカフェ店長をし事件の真相に迫って行く。


    2005年の作品やけど、少年法についてなんとなくしか知らないあたしも、
    未成年というだけで保護される情報や形だけの更生施設(少年によるが)、加害者の人権もないようなマスコミの報道など、残された被害者家族のやり場のない思いは計り知れないと。

    二転三転する展開は読み出したら止まらなかった。
    ミステリーの内容以外で言うならば、登場人物たちが淡々としてるというかいまいち特徴がなくて、えっと誰だっけ?って思うことがあったかな。

  • 少年犯罪というよくありそうでとても難しいテーマをうまく描いていると思う。それなりにページも多いが一気に読んでしまうほど先の展開が気になりとても面白かった。

  • 薬丸岳の少年犯罪小説を読むと、少年犯罪の厳罰化を願うと共に、いつか親になったとき我が子が被害者になる可能性も加害者になる可能性もありえるのだと思わされる。今回の話は罪と贖罪がテーマ。

  • 複雑に絡みあった要因が次々と解けていく。どんどん読み進めてしまう。
    根底には法に守られた少年犯罪を考えさせられる内容。
    展開に良い意味で振り回されました。

  • 桧山の行動には全く感情移入出来なかったが、後半に真実が明らかになっていく怒濤の展開は興味深かった。3重の事件構造はよく考えられていると思う。

  • 複雑に絡み合う人間関係。次々と湧き上がる謎。読者の意表をつくラスト。とても面白かったです。

  • 中盤からから登場人物がみんなあやしい。不安が増幅して、途中でやめられない。終盤は、いっきに、これでもか、って感じの謎解きでやられました。ただ、最後に、心底悪いやつが出てきて、何となくしめた形だけど、その必要はあったのか。そして、悪いやつをこらしめるのが世間ってところが虚しい。

  • 結婚し生まれた娘が5カ月になる『桧山』の幸せな生活は、ある日突然奪われた。妻が家に押し入ってきた三人の中学生に殺されたのだ。彼らは刑事責任に問われることはなく、桧山には一切の情報も伝えられることなかった。その事件から4年後、犯人の少年の一人が桧山の店の近くで刺殺される。
    第51回江戸川乱歩賞受賞作。

    推理小説として読むなら面白かった。でもテーマは重く、柱となる事件は以前起こった実際の事件を彷彿とさせられるし、折しも少年同士の悲惨な事件が起きたばかりの今・・・唯々胸が痛い。
    本当の意味での更生とは何なのだろう。少年にに限らず、一定期間社会から隔離され自由を制限されれば、罪は償えるのだろうか?その後法に触れるような行いをしなければ(見つからなければ)更生したと言えるのだろうか?
    少年事件が起こるたびに、少年法の是非はよく議論されることがあるが、被害者や遺族は置いてきぼりだ。
    被害者の過去は、警察は当然マスコミもあっという間に調べられるんじゃないだろうかという点が気にはなったが、強く訴えながらも推理小説としても読みごたえのある一冊だった。

  • 速い!

     展開が速くて読みやすい。あと一割ほどはダイエットできる気がするけど。妻が惨殺され、犯人が次々に殺される。真犯人は一体?ってな、謎の引っ張りが良い。

     どうなるの?って気分でどんどん進む。そんなうまいこといくかいなって部分がなくはないが、速さがそれをカバーする。

     後半のたたみ込みはすごい。たくさんの少年殺人犯が一気に明らかになる。二段階どんでん返しとでも言おうか。なかなかよく考えられたストーリーで驚いた。後半は頭がついて来ないほどの速度だ。細かいところは別にしてすばらしいミステリーだな。

  • 少年犯罪について深く考えさせられた作品。
    ミステリーとしては面白かったけど、後味の悪さを感じた。

  • 図書館借り。3時間半で一気読み。
    少年犯罪と少年法の暗くて深い闇。

    私が被害者家族なら、犯人は殺さないけど、一生つきまとって罪を忘れさせない。
    けど、もし加害者家族になったら、正直どうしたらいいのかわからない。

    凄く考えさせられる小説だ。

    この作家さん、初読みなんだけどちゃんと全てに意味があって、話がつながるのは、さすが江戸川乱歩賞受賞作!

    それにしてもなー。改正された少年法、まだまだ手緩いと思うんだよなー。実名報道しないで守られてたら、罪の意識うすくなる気がする…。

  • ミステリー長編。妻を3人の少年に殺された過去をもつ桧山貴志。4年後、少年のうち一人が桧山の経営する店の近くの公園で殺された。疑惑の人となった桧山は自ら、何が少年たちを犯罪に追いこんだか探り始める。主人公桧山の妻は店にアルバイトにきて桧山の子供をもうけるが、桧山の知らない妻の過去があった……。生き残った娘を預けた保育園の保母が殺された妻と知り合いだったり、店のアルバイトの女の子が妻の過去に関係したり、まだまだ複雑に人間関係が絡まっていますね、一度読むだけでは理解できてません。返すのが残念(>_<)

  • 自宅で妻を殺されたにも関わらず、犯人が少年であったために犯人の詳しい身上もわからず、たいした罪にも問われなかった憤りを抱えて生きていた桧山は、犯人だった少年の一人が自分の職場近くで殺されたことを知る。
    なぜ少年は殺されたのか。彼を殺したのは誰なのか。少年たちは本当に更正したのか。そもそも更正とはどういうことか。
    事件を追いかけていくうちに、桧山は妻の殺害事件にも隠された謎があったことに気づく。
    過去と謎が明かされていく後半の展開が見事で、唸らされた。
    この作品が発表された当時よりも犯罪被害者への対応は変わってきていると思うけど、今読んでも重く大事なテーマだなと思う。

  • (平成17年)第51回江戸川乱歩賞受賞
    最終選考の候補5篇のなかでも圧倒的な支持だったようです

    少年法をテーマとしており、人格の「可塑性」により罰せられない少年たちの更生と贖罪、そして復讐からなる作品

    被害者の遺族をマスコミが押し寄せる描写もある
    加害者の人権を尊重した法があり、どうして被害者のほうが苦汁をなめる思いをしなければいけないのだろうか?
    現代のテレビ報道に対する不満でもあります

  • 久々の本格ミステリだったかも。
    ストーリーの組立ても謎解きも読み応えあり。
    1歩ずつ近づいてゆく真実も無理がないと思う。
    必要以上の残酷さもなく、重いテーマにまっすぐ立ち向かっていると思う。
    被害者、加害者…どちらに肩入れするかは、当事者になった場合、自分の立ち位置によるものだと思うので、どっちの答えが正しいとは言えないな。
    そのぶん、どちらの言い分も「ああ、そうか。」と思う部分もあり、作者の言わんとする「抜け落ちた何か。」も多いに納得でき、そういう意味でも、社会勉強になったかな…。
    そりゃ一生関わらないことのほうがいいに決まってるんですけど。

  • 少年法の観点から様々な問題を知る事もできました。

    ストーリーもとても緻密で深く入りこんでしまいました。

    ミステリーとしても大変楽しめました。

  • 読んだ本の話をしていて、教えてもらった本。社会派ミステリーというジャンルは自分では手に取らないので、このジャンル自体読んだのは初めて。
    罪と贖罪。
    後半の怒涛の展開。夢中で読んだ。
    伏線が全部回収されて、ちゃんと全部明らかになってスカッとして、胸も痛むという読後感。
    自分としては、我が子が被害者になる可能性も加害者にかる可能性もあるという、子を持つ前も妊娠中も考えていた問題を改めて突きつけられた、という部分もありつつ。
    人間の可塑性。

  • 罪と贖罪。少年法。

    相変わらず重い。謎解き的なミステリー要素も強く、ラストは衝撃。
    個人的には傑作の1つ。

  • 本人が最初から存在感のある登場人物で、でも最後までまったく疑わしくなく。社会派としてのメッセージ性だけでなく、ミステリーとしても完成度が高い。大満足の一作。

    やりきれない想い、憎しみは何も生まない、贖罪、愛する気持ち、いろんな感情が押し寄せてくる。

    殺されたのがもし自分の家族だったら、相手にはその後も人生が保証されていることを、もう思うだろうか。年齢を理由に、まともに罰を下されないことについて、どう感じるだろうか。

    人を殺したという結果は同じでも、その過程はまったく別かもしれない。どれも全部罪だが、残念ながら、小説の通り、贖罪の思いを持てる人ほど、悪意からの行動ではないのだろう。

    私は当事者ではないし、何もわからない。その前提で、考える機会を与えてくれたこの作品に感謝している。

  • 読了日不明

  • 薬丸さんのデビュー作。何年も前の作品ですがその頃この作品にであっていたら、即ファンになっていたと思います

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著者プロフィール

1969年兵庫県生まれ。2005年『天使のナイフ』で第51回江戸川乱歩賞を受賞しデビュー。2016年、『Aではない君と』で第37回吉川英治文学新人賞を受賞。他の著書に刑事・夏目信人シリーズ『刑事のまなざし』『その鏡は嘘をつく』『刑事の約束』、『悪党』『友罪』『神の子』『ラスト・ナイト』など。

「2023年 『最後の祈り』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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