ぜつぼう

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (182ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062133241

作品紹介・あらすじ

俺は絶望してるがゆえに俺なのだ

'00年代カルチャーを縦横無尽に疾走する若手女流作家の長編小説!

感想・レビュー・書評

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  • 二年以上前、無名の芸人が極貧状態で海外を旅をするテレビ番組(たぶん電波少年的なやつ)で一躍有名になり、チヤホヤされまくった戸越。
    現在の彼はしみったれたアパートで不眠に苦しみ、外出時は他人の目を避け、在宅で行う内職作業で細々と暮らしていた。

    テレビ番組出演後に人気が出て、勘違いをした相方に逃げられ、違う相方を探すもすでに世間には飽きられていて仕事は無く、事務所と喧嘩して首を切られ、戸越は屈辱を味わった。
    心療内科の帰り道、彼は謎のホームレスに「復讐すればいい」と言われ、芸人だった頃に自分を捨てた男の名前を伝えた。そして彼はホームレスが以前住んでいた村の家で、ホームレスからの伝書鳩を待つことになる。

    田舎の村で戸越が出会ったのは、ホームレスの家で勝手に生活していた若い女、シズミ。
    彼女との交流や、芸人だった自分を誰も知らない村での暮らしに一瞬和みそうになるが、”自分のなかには絶望があるのだ”と自身に言い聞かせる戸越。

    村人からの歓迎会で芸を披露することになり、不安に押しつぶされそうになる戸越だったが、いざ宴会で自分の番が回ってきたときに彼が目にしたのはシズミの旦那が彼女を連れ戻そうとしている光景だった。

    嘘がバレて吹っ切れた戸越の渾身のどじょうすくいに魅せられ、老人たちも全員一丸となって踊り狂うなか、シズミとその旦那はいなくなっていた。

    戸越は自分の絶望を再認識し、村を離れることにした。ホームレスから教えられた復讐相手のところへ向かう早朝の電車のなか、彼の横に座り、コート越しに彼の右手を握る人がいた。戸越は安どして寝息を立て始めた。

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    いわゆる”一発屋芸人”の戸越が、シズミ以外は誰も自分のことを知らない村で別の人生を始めたら、何年も抱え続けた絶望を忘れそうになり、俺は絶望しているんだ!と葛藤する話だった。
    ずっと一人で絶望し続けていたから、不意打ちの安堵感に耐え切れない戸越の複雑な心理描写が面白かった。

    誰もこれまでの自分を知らない場所で新しい生活をしてみたい、という気持ち。わかるなあ。実行力はないけど。
    一発屋芸人の戸越も、現代なら引き籠る前にYouTuberとかの選択肢もあったかもしれないし、一瞬でも人気者になった影響力を利用してパチンコの営業とか飲食店経営とかするのもありかな、と思った。

    最終的に何も解決せず、ホームレスのおじさんの謎の行動の説明もなく、なんとなくシズミとの暮らしがまた始まりそうな予感だけで終わるのがすごくよかった。ハッピーエンドなのか、バッドなのか判断できない終わり方、とても好き。
    学生の頃の5月の連休、夜通し遊び続けた明け方の帰り道、水を入れたばかりの田んぼが朝日を眩しく反射させていた。ああ綺麗だな、と思ったことを読みながら何度も思い出した。

  • 一発屋芸人のその後を描いたような小説。
    都会を歩けばどこでも見知らぬ他人からひそひそ「終わった」と囁かれる。
    深い絶望から不眠症になった戸越は、ひょんなことからとあるホームレスの実家に居候し、憎きディレクターへ復讐の時を告げる伝書鳩を待つこととなった。
    しかしたどり着いた家では、すでに勝手に暮らしている不思議な女シズミがいて……。

    戸越が「自分は絶望しているのだ」という事実に固執している姿が哀れで愛おしかった。庄司唯生として生活を始めることになり、田舎の人間にも歓迎され馴染みだしてしまっても、シズミに指をにぎられ安らかな眠りの波がこようとも、それに自ら抗っていくスタイル。これはだいぶこじらせている。
    又吉直樹「劇場」や「火花」と通じるものを感じた。ままならない人間の深淵をみせられているよう。

  • 不幸って何だろう。あの芸人がちらつく設定が好き。

  • 人生ドン底w

    ってな事で、本谷有希子の『ぜつぼう』

    う~ん、タイトルに惹かれ本谷節を切望して読んだけど、ぜつぼう感はそれ程でも……

    集中して読めなかったからかな……。

    ちょっと有吉を思わせる感じと、その後の期待みたいなので期待外れとラストも個人的にはイマイチじゃったかな

    2019年10冊目

  • これやっぱり、モデルは猿岩石なのかなあ。
    こんな風にいろいろめんどくさく考えて、身動き取れず、どこにも行けなくなってしまう感じ、自分でも覚えがあるけど、いやなものだなあ。

  • 絶望をぜつぼうと表す事で、なにか少しの余裕を感じます。不眠が続く事に安心するといった状態から。
    また、最後に手を差しのべたのはシヅエなのか、あるいは、自分がそうありたいという妄想なのか、疑問が残りました。シヅエで二人共幸せになる設定でいいと思います。

  • 没落、対人恐怖、不眠などの悲劇の連続から"自分は絶望した状況にいる"と妄信して、絶望こそがアイデンティティだと見出して、いつからか絶望しているから腹を空かしてはいけない、絶望しているから快楽を求めてはいけない、そして絶望しているから好意に気付いてはいけないとルールを勝手に決めて、最後には自分の絶望を証明できたものの、それと引き換えに好意のあった女を失うことになった

    自分も自分を悲劇の枠に収めたがる節があるので
    なんとも言い難い胸の痛みを感じた

  • 人の人生を笑ってはいけない。それが滑稽でも。滑稽に気づく方がいいのか逆がいいのかそれもわからない。だが面白い作品。

  • 一過性のブームを起こした元芸人で不眠症で通院している戸越に刺さる人目がつらい。伝書鳩に拘るホームレスに導かれた家に勝手に住んでいた女性との田舎暮らしや田圃作業の中で薄れる絶望と、絶望に酔っている訳ではない、今も絶望の只中だというしがみつき。過度に重苦しくはなく簡単に癒やしに向かわない所に個性が光る。

  • 『一発屋』なんてみんな面白がって言うけど、当の本人は天国から地獄、周囲の人間の手のひら返しに限りなく深い絶望を味わうことは想像に難くない。いや、簡単に想像できるほどの絶望ではないのだろう。寝ることもできないほどの絶望の渦中にいれば、ぜつぼうはゲシュタルト崩壊するのだろうか?

     昔、ひどい振られ方をしたことがあった。相手の男とは顔を合わせ続けなければいけない環境にあったので、私は四六時中「つらい」を表現することに徹した。笑わないし、食べてるところだって知られないように努力した。食べたいと思う自分に腹が立ったし、眠れない自分に安心した。まるで「つらさ」というお風呂で温もっているみたいに。

     だから、なんとなくだけど主人公の気持ちがわかってしまった。眠れない夜に安心して、眠れそうになると必死にこめかみを血が出るほどに爪で抑え続ける。もはや原因と結果が逆転してしまっている様は、第三者から見れば滑稽以外の何物でもないけれど、本人は至って真剣なんだよね。
     人間ってかわいいなー人間の感情って不合理だなー。

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著者プロフィール

小説家・劇作家

「2022年 『ベスト・エッセイ2022』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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