僕はパパを殺すことに決めた 奈良エリート少年自宅放火事件の真実

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著者 : 草薙厚子
  • 講談社 (2007年5月22日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (256ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062139175

僕はパパを殺すことに決めた 奈良エリート少年自宅放火事件の真実の感想・レビュー・書評

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  •  事件当時、連日報道されたという奈良県で起きた高校生による放火殺人事件の真相に、独自に入手した供述調書から迫っている本。
     まず、既に何度となく言われているように、この著者が行ったことは明らかに被害者・加害者だけでなく、裁判所という厳粛な場の情報の秘匿性を侵害したものであり、弁解の余地は無いと非難されても無理のないことだと思われる。この本一冊を巡って図書館や書店、出版社に属する人達も苦労なされたことだと思う。
     それでも、「はじめに」で語られているように、「少年事件は発生当初こそ多く報道されるが全容には至らない。教訓を得ることもなく忘れ去られる」。こうして世に出てしまった以上、「得られるものは得よう」という考えで、この本を手に取った。
     
     この事件の最大の被害者は間違いなく(少年から見て)継母・妹・弟だ。しかし、この凶行に及んだ少年もやはり被害者なのだと私は思う。
     少年の父は「別れた妻を見返したい、医師の家系だから息子も」という自分の感情を、息子に厳しい勉強を強いるという形で見せた。親から子への一方的な気持ちの押し付けは、正直なところどこの家庭でも少なからずあることだと私も思う(この父も幼い頃は乾電池で叩かれ頭の皮を切ってしまうなど、厳しくしつけられたそうだ)。
     しかし、幼稚園に通っている頃から勉強がうまく進まないと「なんでそんなんできへんねや」と怒る、小学校一年生の通信簿の成績に文句をつける、辞書を顔面に投げつけたりお茶を顔にかける、シャープペンシルを顔に突き刺す、それも小・中学校の教師に直接注意をうけたにも関わらず止めないという、常軌を逸したしつけが本当に子のためになると思っていたのだろうか。

     亡くなられた継母の両親は、「筆者は他の取材陣と異なり正確に事件を伝えているから」と取材に協力したそうだ。
     これまでマスメディアに根拠のないデマを何度となく流された中で、「少年の持つ障害を心神耗弱という理由で責任能力を回避しようとする動きに否定的、だがこの障害の社会的認知を高める必要を感じている」というスタンスで記事を執筆した筆者に、「この障害を持つ子どもの更生をどう考えるべきかという素材の一つにしてもらえば」と娘の名誉挽回のために協力を申し出た心情は分かる。

     しかし、はたして本来入手不可能であるはずの供述調書を引用してまで、事件の真実が書かれることを想像していただろうか。インタビューの中で「これからも少年の父親との関係を続けていく」と語っていたが、知りたくもなかった真実(これまで振るわれた暴力の内容や、家庭裁判所で「ストレス解消のために暴力を振るうなど実父が抱える問題は大きい、三人への償いが不十分という理由で再び暴力を振るうことも懸念される、衝動性や攻撃性を考慮すると父親のほうが問題かもしれない」と決定を下されていること)をこの本によって知ってしまったのではないか、と考えてしまう。

     最後の章では、家裁で両親の離婚の経緯を知り「母親に見捨てられた」と少年は泣いていたが、実は警察の供述では実母は「夫が再婚したと知り会いに行ってはいけないと思った。いつか自分の元に来てくれることを楽しみに待っていた」と語っていたという、「どうしてこんな事件が起きてしまったんだ」と地団駄を踏みたくなるようなエピソードが綴られていた。

     最初に書いた文を繰り返す形になってしまうが、問題があまりにも多い本であることは否定しようがない。だが、得る物も多い本であった。

     余談ですが、以前どこかの質問サイトで「この事件の概要をウィキペディアで知りたいが見つからない」という質問を見たのですが、"奈良自宅放火母子3人殺人事件"と入力すれば見つかると思います。

  • (2015.10.07読了)(2015.10.01借入)
    副題「奈良エリート少年自宅放火事件の真実」
    衝撃的な内容の本でした。
    図書館で神戸児童連続殺傷事件(酒鬼薔薇事件)関連の本を探していて見つけた本です。「少年A矯正2500日全記録」と同じ著者だったので、借りてきました。
    事件は、2006年6月20日、午前5時15分に奈良県田原本町で起きました。
    家が火災で焼けて、焼け跡から三人の遺体が見つかりました。この家には、以下の五人の家族が住んでいました。
    父親47歳 三重県伊賀市の総合病院勤務(医師)
    母親38歳、民香さん、老人保健施設勤務(医師)
    長男、16歳、東大寺学園高校の一年生
    次男7歳、田原本小学校の二年生
    長女5歳、保育園
    遺体は、母親と次男、長女のものでした。父親は、同僚医師の送別会のため自宅にはいませんでした。長男は行方不明でしたが、6月22日午前8時ごろ京都市左京区の路上で保護されました。
    少年は、6月22日夕方、現住建造物放火、殺人の容疑で、奈良県警に緊急逮捕されました。
    少年は、高校一年の一学期の中間テストで、英語1の点数が平均点を20点も下回り、このままでは父親に怒られると思いとりあえず、父親には嘘をついてごまかしていたけれど、6月20日に行われる保護者会で嘘がばれたら父親に殺されてしまうと考えて、殺される前に父親を殺して、家出をしようと考えての犯行でした。
    期限の20日までに何度か犯行を試みたのですが、父親に気づかれたりしてうまくいかず、期限ぎりぎりになって、父親不在であることが分かっていながら、犯行に及んでしまった、というものです。母親や弟・妹に特にうらみがあったわけではありません。
    少年は、父親に追い詰められたうえでの犯行ということになります。
    何とも、痛ましい事件と言えます。少年は、広汎性発達障害と診断されました。

    【目次】
    はじめに
    序章 逮捕/焼け落ちた絆
    第一章 計画/殺害カレンダー
    第二章 離婚/学歴コンプレックス
    第三章 神童/飛び級と算数オリンピック
    第四章 家出/継母が打ち明けた苦悩
    第五章 破綻/カンニング
    第六章 決行/6月20日、保護者会当日
    第七章 逃亡/ひたすら北へ
    第八章 葛藤/娘を殺した「孫」との面会
    第九章 鑑定/少年が抱えていた「障害」
    終章 慕情/裁判所で流した涙
    あとがき

    ●長男の幼いころ(70頁)
    元夫は、息子には常に一番になって欲しい、という思いがあったようです。
    幼い息子に絵の書いたカード等を見せては、これ何、と言ってテストしたりし、息子の能力を毎日チェックしていました。
    そしてこのチェックに息子が合格しないと、元夫は私に、なんでこんなんもできへんねん、お前の教え方が悪いからや、と言っては殴る蹴るの暴力を振るうのです。
    元夫は息子の教育には熱心でしたが、自分で何かを教えるということはなく、私に指示して、自分はその出来具合をチェックするといった毎日でした。
    ●虐待(102頁)
    わが子に虐待をくり返す親の中には、「これは躾だ」、「自分は愛情をもって叩いている」と主張し、それゆえに他者の忠告に耳を貸さない人がいる。
    ●塾での体罰(110頁)
    塾というのは勉強を教えるところであって体罰を与える場所ではない、授業が分からない生徒がいるのなら、理解できるよう指導するのが塾の使命ではないのかとの思いから、すぐに市田塾まで赴き責任者に文句を言いました。
    ●中1の冬休み明け課題テスト(125頁)
    僕の成績は、全科目平均点以下でした。
    僕はこの成績表を見て、パパが知ったら厳しく怒ると思いました。そこで僕はパパに怒られないための方法として、成績表の改ざんを考えついたのです。
    僕は、パパが最も重要だと思っている数学、英語、理科の教科の点数を改ざんすることにしました。
    ●お祖母ちゃん(158頁)
    僕はよくパパ側のお祖母ちゃんから、顔を見るたびに、頑張って勉強しいや、親戚は医者や薬剤師が多いんやと言われてきました。
    ●決定要旨の結論(222頁)
    少年は、高校入学後の最初の定期試験で平均点を大幅に下回る点数しか取れなかったという、少年にとって誠に危機的な状況に陥ったことから、遂に不快な感情を抑えつけることができなくなり、実父に叱られずに済む方法として、「実父を殺害して家出をする」ことを決意した。
    そして、それを実行する場面では、広汎性発達障害という少年の生来の特質による影響が強く現れ、放火という殺害手段を選択したり、殺害する相手がいないという現実に合わせて計画を変更できなかったり、継母らの生命の危険に十分注意が及ばなかったり、放火が犯罪であるということに全く注意を向けなかったり、その後場当たり的に占有離脱物横領などの行為を重ねたりしてしまったものである。
    ●広汎性発達障害(223頁)
    広汎性発達障害の基本的な特徴は、「対人相互的反応性の障害」と「強迫的傾向(固執、こだわり、反復)」とに要約できる。
    平易な言葉にするならば、対人関係において相手の感情をうまく読み取れないというハンディキャップと、一つの事物に集中すると他のことに注意が向かない傾向、となる。
    ●字義通り性(225頁)
    広汎性発達障害の特徴として、「冗談」や「悪ふざけ」、「たとえ話」をそのままの意味に受け取ってしまい、コミュニケーションに混乱を生じることが挙げられる。
    父親に「出てゆけ」と言われ、少年は本当に出て行ってしまった。

    ☆関連図書(既読)
    「彩花へ―「生きる力」をありがとう」山下京子著、河出書房新社、1998.01.02
    「彩花へ、ふたたび―あなたがいてくれるから」山下京子著、河出書房新社、1998.12.25
    「彩花がおしえてくれた幸福」山下京子著、ポプラ社、2003.11.09
    「淳」土師守著、新潮文庫、2002.06.01
    「校長は見た!酒鬼薔薇事件の「深層」」岩田信義著、五月書房、2001.05.28
    「「少年A」この子を生んで……」「少年A]の父母著、文芸春秋、1999.04.10
    「少年A矯正2500日全記録」草薙厚子著、 文芸春秋、2004.04.10
    「犯罪被害者の声が聞こえますか」東大作著、新潮文庫、2008.04.01
    「なぜ君は絶望と闘えたのか」門田隆将著、新潮文庫、2010.09.01
    「天国からのラブレター」本村洋・本村弥生著、新潮文庫、2007.01.01
    (2015年10月14日・記)
    (「BOOK」データベースより)amazon
    英語1の点数が20点足りない。ただそれだけの理由だった。2週間後の保護者会までに、すべてを消し去らなければ―。3000枚の捜査資料に綴られた哀しき少年の肉声を公開!少年法のタブーを破る衝撃ノンフィクション。過熱する受験戦争へ警告の書。

  • 調書がとても問題になった作品。 発禁本。 作者は脚色とかしてないんだろうか

  • この事件があった当時は日本にいなかったので、事件の報道などはほとんど見聞きしていない。だが、少年犯罪のルポなどを読むと、必ずと言っていいほどこの奈良の事件が引き合いに出されていたので、ずっと気になっていた。

    この16歳(当時)の少年は、もちろん放火して3人の命を奪った加害者ではあるが、同時に被害者でもある。
    少年を自分の所有物としてしか見ていなかった父親がすべての元凶だといって間違いないだろうが、経過を見るに、たぶんこの父親も同様の抑圧された環境の中で育ったのだろう。負の連鎖があったことは想像に難くない。

    少年は、昨今の少年犯罪でよく取りざたされる発達障害の一つ「広汎性発達障害」の診断を受けていた。
    私が誤解してほしくないと思うのは、アスペルガーや高機能自閉、広汎性発達障害など、発達障害そのものは決して犯罪を犯す原因ではないということだ。ただ、この障害の特性から、犯罪につながるリスク要因となりやすいこと、周囲の無理解がそれを助長することがあるのは事実。
    だから同じような悲劇を生まないためにも、是非、身内に発達障害者がいるという人だけでなく、一般社会でももっともっとこの障害について理解とサポートを深めてほしい。
    現に、正しいサポートを受け、彼らの持つ才能を発揮して社会で活躍している発達障害者だってたくさんいるのだ。

    少年が少年院を出て社会復帰する時、父親は息子を引き取ることを希望しているそうだが、そのためには父親自身の問題を解決させておくことが絶対条件だろう。
    この親子の行く末が案じられる。

  • 時系列で調書を追って書かれているのでリアルさを感じた

  • 虐待といって過言ではない”教育”を父親から受け続けた少年は、定期テストの出来がわるかったことが父親にバレる前に殺すことを決意し、実行する。父親のいない家に火を放ち、継母と弟と妹を殺した少年は家を出る。

    ----------------------------

    著者が入手した捜査資料が多くを占める本で、内容は大変興味深かった。
    絶対に表舞台には出てこない情報を原文のままに見ることができるとはすごいことだ。事実、この本を出したあとに著者は検察から強制捜査を受け、情報を提供した医師は逮捕された。

    少年が自宅に火を放ち、家族三人の命を奪ったのは許されないことだが、その罪は少年の父親にある。この本を読めば多くのひとはそう思うはずだ。
    息子を医者にするという自分のエゴを少年に押し付け、暴力と監視で虐待し続けた父親の罪は大きい。

    少年が障害をもっていたという診断結果も興味深い。言われた言葉をそのまま受け取ってしまう、という障害があるとは知らなかった。捜査資料恐るべしである。

    三人の命を奪った少年、彼がかわいそうで仕方がない、というのが感想。父親の病的な暴力と監視で少年が追い詰められたのは(この本を読む限り)明らかだ。

    出来事をみるときに一方だけの視点だけでみると、偏ってしまうことが多い。この事件もそうだ。
    父親を徹底的に批判する内容で、それを鵜呑みにするのは危うさを孕んでいる。しかし、捜査資料をみる限り、父親が原因だということは間違いないように思う。
    暴力は暴力しか生まない。誰かが少年を愛し、守ってやれたなら、こんな事件は起こらなかった。

  • 野次馬と思いながら、少し話題になっているので読んでみた。
    著者(と呼べるのかどうかも疑問だが)は少年審判等の問題点を指摘するという正義感で出版したということの様だが、供述調書を提供したことで鑑定医が逮捕されたことも分かるように、やり方は大きく間違っていたと思う。
    この著者の立件を見送った捜査当局もどうかと思うが。
    内容は、野次馬の覗き見趣味の域を出ていない。
    読んでしまった自分も同じ様なレベルということなのだが。

  • 父親が酷すぎる

  • 期待を懸ける側、受ける側それぞれの立場に誰しもが置かれるわけだが、この異例なケースが決して他人事と言い切れない恐ろしさ。懸ける側の執拗さ過剰さは、たとえ愛情を根源としていても受ける側を追い込んでしまう。適度な期待であれば子供にとって大いなる励みになるだけに難しい。ここに載せられた供述調書は、著者が相当な覚悟を擁して世の親に問うたに違いない。そして、自分が厳しく問われる立場であることを恥ずかしくも受け入れなければならない。

  • 2014.5.7読了
    何とも哀しい家族だな、と読んでいて辛い。どうしても父親と父親の両親だけには最後まで同情すらなかった。そりゃ立派に育って欲しい(しかし何を持って立派?)という期待は、親や祖父母なんかは持つのが普通なのだろうけど、長男だけでなく妹と弟に対しても、一人の人間として尊重していると思えない。何故子供を持ったの?と思わざるを得ない。愛情というものを一切感じなかった。子供は親の所有物ではない。「僕は誰かに愛されている」といつか彼にも実感して欲しいと私も願う。

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僕はパパを殺すことに決めた 奈良エリート少年自宅放火事件の真実の作品紹介

英語1の点数が20点足りない。ただそれだけの理由だった。2週間後の保護者会までに、すべてを消し去らなければ-。3000枚の捜査資料に綴られた哀しき少年の肉声を公開!少年法のタブーを破る衝撃ノンフィクション。過熱する受験戦争へ警告の書。

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