ぼくには数字が風景に見える

  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (278ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062139540

作品紹介・あらすじ

著者ダニエルは、数学と語学の天才青年です。それは、ダニエルが映画『レインマン』の主人公と同じサヴァン症候群で、数字は彼にとって言葉と同じものだから。複雑な長い数式も、さまざまな色や形や手ざわりの数字が広がる美しい風景に感じられ、一瞬にして答えが見えるのです。ダニエルは、人とのコミュニケーションにハンディをもつアスペルガー症候群でもあります。けれども、家族や仲間の愛情に包まれ、一歩ずつ自立していきます。本書は、そんなダニエルがみずからの「頭と心の中」を描いた、驚きに満ち、そして心打たれる手記です。

感想・レビュー・書評

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  •  数字が形や色をともなって知覚される「共感覚」や、驚くべき記憶力、聞いたこともない言語をわずかな期間で習得するといった、なみはずれた著者の感覚を、その内側から眺めるような読書体験に興奮させられる。このような超人的能力を著者にもたらした生まれつきの脳の特質は、一方では、秩序に対する強いこだわりなど、社会生活を困難にするような障害をも、彼にもたらした。「障害」と「才能」は、差異をどの角度から見るかという現れ方の問題なのだ。「障害」とは何かというだけでなく、人々がもつさまざまな差異についての社会の受けとめ方についても考えさせられる。
     同時に深く感動させられるのは、自分の障害をひとつひとつ克服し、新しいことに挑戦しようとする彼の勇気である。18歳で語学教師としてひとりでリトアニアに赴任し、ゲイであることを自覚してパートナーとの生活に踏み出す。そうしたひとつひとつの体験によって、確実に自信をつけ、社会と折り合いをつける方法をみつけだしていくさまには、勇気づけられる。幼い頃の空想のともだち「アン」との驚くべき交流、彼女との別れのエピソードも印象的だった。
     それにしても、いちばん上の子どもが重い障害を抱えながら、貧困の中で9人の子どもを育てあげた両親の苦労は、並大抵ではなかったはずだが、障害児に親がかかりきりになってしまわなかったことが、かえって彼にとってはよかったのかもしれない。日本における親と障害児の自立問題もひるがえって考えさせられる。さわやかな驚きとともに「障害」の受けとめ方について新鮮な視点から考える機会をくれる好著。

  • 著者のダニエルが歩んだ非凡な半生を描いた手記。

    生まれながらに知的障害を患い、特定の分野で天才的な能力を発揮する「サヴァン症候群」という症状も見られました。特に数字と言語の分野で秀でた才能を見せ、数字や文字の一つ一つを異なる色や形、手ざわり、性格などで捉える「共感覚」を持ち、数字の羅列が美しい風景に見えるといった不思議な感覚を持ち合わせています。
    幼少期は内に籠る性格をしていたようですが、思春期を越えてからは一人の行動も増え、周囲とも積極的に交流していきます。人との意思疎通や予測不能な出来事への対応が難しい面があるようですが、文章を読む限り内面的なハンデを背負っているようには感じません。屈託ない、整然とした言葉で綴っています。
    稀有な才能を手にしたことで見える不思議な世界は、読者をも不思議な感覚に引き込みます。欲を言えばもう少し内面について語ってほしかったなぁとも。

    読めば読むほど、人間の脳の働きに興味が湧きます。

  • 数字を見ると、色や形が浮かんでくる、共感覚のの持ち主のダニエルのおはなし。
    11は、ひとなつこく、5は騒々しい、、、数字にイメージがある。
    最後に、てんかん協会の寄付を集めるために、πの数字をたくさん暗唱するというチャレンジをするが、それらの数字が風景のように見える。
    不思議な感覚だ。
    また、語学の才能もあり、1週間で、アイスランド語を覚えるというチャレンジもしている。
    言語も感覚的に覚えることができ、どの言語も別の言語を学ぶための足がかりになるそうだ。
    こちらも、いろいろ勉強になる。

    数字や言語の才能以外にも、家族との話、リトアニアの話、ニールとの出会い、、、全ての話が素敵だった。
    この文章から、ダニエルさん自身の穏やかで、温和な人柄が溢れ出ている。

  • サヴァン症候群でアスペルガー症候群の著者による自叙伝。「共感覚」の不思議さ。アスペルガーの人々の驚異的な能力。子供時代の不便さ。素直で飾らない文章は彼が数字を扱う時にみる風景のように詩的です。なぜ円周率πのような数字の羅列を覚えるのかについて、「πはぼくにとって言葉にできないほど美しく、唯一無二のもの。モナリザの絵やモーツァルトの交響曲のように、πそれ自体に愛される理由があるのだ。」小川洋子さんの『博士の愛した数式 』を彷彿させるような著者の言葉。

  • 数字が風景に見える、数字にかこまれていたい、数字に色や質感明暗がある、などここまでぐらいは理解できるんやけど、ある数字とある数字を掛け算するには、こうゆう形とこうゆう形の間だから、答えはこれってゆうのはもはやわからん。独自のトランプゲームを作って一人でやってたのは理解できても、幼少期想像から友人を作り出していたとか、独自の言語を作っている、は凄すぎる。ダニエルくんは数学と語学、歴史に天才的な才能を発揮しているし、数学と歴史って意外な組み合わせに思うのは、文系理系を分けたがる日本人だからかなあ。共感覚興味深すぎて、ちょっと調べたい。

  •  自閉症スペクトラムである著者の回想録。
     発達障害の方の就労支援をしているのもあるので、著者の見ている世界や困難には共感ができる。

     日本と違うなと思ったのは、周りの人々、社会に理解があるなぁということ。
     発達のでこぼこの度合いにもよるけれど、著者には海外での一人暮らし、ボランティアの経験する機会があった。それを経て、成長していく点。こうして自由にはばたくことができずに苦しんでいる人も知っている。それができるのは親や、社会の理解があるからだなぁと思った。

     人の気持ちに思いを向けることが苦手であるのが発達障害であるけれど、そんな著者が結婚することで、変わっていくところに深く心が動いた。

     人を好きになるということ、人から愛されることで、自分自身を受容することや相手を理解することができていく。自分の周りの世界ももっと見えるようになっていく。

     大人になった著者は自分の弟(アスペルガー症候群)との関わりに悩む母親に、自分自身を知る模索の過程だから、見守っていればよいということを言う。
     その模索の過程が、障害特性上、周りには分かりにくいこともある。だから、周りはその人の行動を理解できなかったりする。変わっていける可能性があるということに、周りは気づかないものかもしれない。

     

  • 数字と外国語の天才ダニエルは、共感覚を持つサヴァン症候群であり、人とのコミュニケーションにハンディをもつアスペルガー症候群でもある。そんな彼が、自分の半生をふりかえり、生きづらかった子ども時代のこと、勇気を出して海外へボランティア活動に行き、その経験で生まれ変わったこと、など成長過程で感じたこと考えたことをていねいに、真摯に語っている。それにしても数字が色を持ったり風景にみえたりするなんて、すごく素敵。πの数字も、すてきな音楽のように次々と頭の中に映し出されるとはびっくり。人間の脳ってすごく神秘的だ。

  • 数字、このカラフルな世界。

    サヴァンというと、やはり映画『レインマン』を思い出す。観たことはないのに。わたしには、彼の世界が、彼のことばで伝えてくれる部分しかわからない。想像すれば、それはとてもファンタジーな世界で、でも、孤独な世界。数字や文字を、もっともっと、個性的に捉える人。彼が、そのことを、こうやって伝えてくれて、それを知ることができて、よかった、と思うのだ。

  •  知的な能力に障害がある人が、数学や芸術のある分野で天才的な能力を示すことがある。いわゆるサヴァン症候群とは、カレンダー能力(何年先、何年前の特定の日が何曜日かを一瞬で言い当てる)や、驚異的な記憶能力、計算能力などを示す「知的障害者」のことだ。
     いままでサヴァンがいくら天才的な能力を持っていても、知的な障害のために自分の頭の中で何が起こっているのかを「説明」することができなかった。ところがダニエルは、自分の考えること、感じることを説明できる、貴重なサヴァンなのだ……って、それただの天才じゃないか?
     しかし彼はやはり「ただの天才」ではない。やはり自閉症的な傾向があり、コミュニケーション能力や感状移入に問題を抱えている。しかも共感覚(数字のひとつひとつに形が見えるんだとか)の持ち主でもある。その彼が、生きにくさを感じていた幼少時代から、青春時代を経て、いまに至るまでの半生をつづったのが本書。
     天才少年の自伝なんて、なんか鼻持ちならない感じがあるんじゃ……というのは杞憂だった。自閉的でいじめられっこだった少年が、自分の能力を頼りにじょじょに世の中へと踏み出し、人を愛し、自分を開いていく成長物語として、すごく素直に読んでいける。数字や文字が、色だけでなく形、質感、動きなどをともなって感じられる、それが驚異的な彼の数学・語学の能力と関係している……というくだりは、サヴァンの能力を説明するものとして貴重だし、「当事者」としての説得力にあふれている。彼はこの能力を生かして、円周率を小数点以下2万桁まで暗唱したり、難解で知られているアイスランド語をわずか1週間でマスターしたりする。その能力を研究したいという学者との出会いも描かれているが、それがサイモン・バロン=コーエンやら、V・S・ラマチャンドランやらという豪華さだったりして。
     カバー見返しに著者近影がある。穏やかで物静かそうな、ちょっと神経質で気弱そうな、でも笑顔に魅力がある若者の写真だ。彼の今後の人生も、実り多いモノでありますようにと思わず応援したくなる。チャーミングで、わくわくする、そして発見もあるという、お得な一冊といえるだろう。

  • 作者のダニエル・タメットさんの前向きで、純粋な生き方が、気持ち良い。
    とても面白かった。
    初めての失恋の件。
    映画『レインマン』のモデルとなったキム・ピークさんに会った時の件。
    この二つのエピソードは、読んでいて涙があふれた。
    数字に、色や質感がともなって見える、感じられる。
    今まで考えたこともなかった。
    素人考えなのだが。
    アスペルガー症候群、自閉症。
    そういう方々は「発達障害」とされている。
    でも、彼らには彼らの感じ方、見え方があって。
    「障害」っていうのは、ちょっと違うのかもしれないなどとも感じた。
    その他の多数派の人間と、少し違っているだけで。
    見えている世界、常識とされているものが、異なっているだけなのかもしれないな、と。
    そんな風に思えるほど、タメットさんの言葉は、率直で、飾りがなく、美しい物語のように感じられた。

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著者プロフィール

作家、言語学者、教師。1979年、ロンドンに生まれる。9人きょうだいのいちばん上として育つ。2004年、円周率の暗唱でヨーロッパ記録を樹立。それをきっかけに制作されたTVドキュメンタリー「ブレインマン」は40ヵ国以上で放映され、大きな話題を呼んだ。自伝 Born on a Blue Day は世界中でベストセラーとなった。日本でも『ぼくには数字が風景に見える』(講談社)として出版されて、好評を博す。その他、邦訳書には『天才が語る サヴァン、アスペルガー、共感覚の世界』(講談社)がある。現在は、自身のウェブサイトOptimnem で、外国語学習プログラムを展開している。パリに暮らしている。

「2014年 『ぼくと数字のふしぎな世界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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