ミノタウロス

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (286ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062140584

感想・レビュー・書評

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  • ロシア革命期のウクライナ。
    そのあたりの歴史に詳しくないので、何が起こっているのかはっきり分からないまま話が進んでいく。でもそれは、噂や肌感覚で世の中の流れを知るしかない主人公と同じなんだろう。
    革命の中心人物に志があるとしても末端にはそんなものはなくて、どっちへ行けば生き延びられるのか、ましなのか、それだけみたいだ。
    略奪はあまりにも激しく、未来を見ていない。酷いと思うけど考えなしだと馬鹿にする気は起きないし、なんかもう、それしか生きる術がないと思った。

  • なんというか、感想に困る。

    革命という時代を、政治的・社会的なものを一切そぎ落として、その時代のうねりの中で生きる、フツーの立場の人を描くと、こういう物語になるのかもしれない。革命の意味なんて、起こしている人間はともかく、巻き込まれている大多数の人間にはわからないものだ。とにかくひたすら、何をしてでも生き延びようともがいている。

    泥と血とあらゆる汚物の臭いがただよう荒廃した時代、転落してゆく主人公。淡々と一人称で語られる「ぼく」の獣性と人間性。手加減も容赦もなく描かれていく暴力に支配された世界なのに、乾ききって見えるのは、主人公の視線(と心情)のあり方のせいか。そんな若者のロードムービー的物語。まさに疾走。

    どばどば人が死んでいくのに、あまり陰惨な感じはしないし、人の命の重みも感じられない。人が人であるというのは、いったいどういうことなのか。けだもののように残虐で非道な行いを繰り返して生き延びようとする側からも、ぼろきれみたいにあっさり殺されて捨てられる側からも、そんな問いを投げかけられているかのよう。残虐なのに、たまに繊細なところが見え隠れする。結末は見えているけれど、ラストシーンの文章に衝撃。すごい。

    世界文学全集のどっかにするっと載っていそうな、そんな重厚で壮大な物語。

  • 救いがない。へこむ。でも文章があんまり圧倒的だから、もう何でもいい。

  • (再読)閉じられた迷宮の中で彷徨った挙句に誕生する怪物、そして破滅。

  • ミノタウロスという作品名が物語る通りの、生立ちによって人生が決定されてしまった少年の話です。ミノタウロスのような怪物の話です。そして、時代に、国に、翻弄される人間たちの話です。とにかく切なくてやり切れない話です。

    戦争は自分でどうにかできるものではなく、生きるために人間は何だってするのです。革命であれ何であれ、戦いは良いことなんてひとつもないです。

    最後に殺戮を終えた主人公の少年がこれからの自分を想像する部分があって、生い立ちからあれこれを経てそこに行き着くという構図でこの作品は完成するのだと分かりました。それこそが最も伝えたいことなのではないかと思いました。残念なことに少年の夢は叶うことなく小説は終わってしまうけど。

    “ 帰る道々、ぼくは想像してみた。 一人なら、逃げ隠れするのも生き残るのもずっと簡単だ。だから取り敢えずこの冬は、無人を装った屋敷で越す。その後、春が来たら、ぼくは村娘と母親の畑を手伝ってやる。母親は嫌な顔をするかもしれないが、男手は有り難い筈だ。幸い、土地は幾らでもある。主たちは消え失せた。小さな小屋の前の小さな畑を耕して、ぼくはその畑から万事を始める。娘を女房にするだろう。子供だってごろごろ生ませるだろう。何人かがごろつきやあばずれになって家を離れても、何人かは地べたにしがみ付いて家に残るだろう。畑は広がり、うまくすれば作男を何人か雇って耕作させるくらいにはなるだろう。兵隊はやって来ては去って行くだろうが、何、ああいう連中のことは判っている。彼らは過ぎ去っていくものであり、ぼくたちはただ根刮ぎにされないように踏ん張って、頭を垂れていればいいのだ。”

  • 3年前位に贈呈されて読了。佐藤亜紀さんの受賞作としては3冊目なので期待して読んだら人外の物語。強奪、強姦、殺戮を繰り返す若者が死ぬまでの構成。彼等をミノタウルスだということなのだろう。

  • 「それでも、ぼくたちはまるで人間のような顔をして生きてきた。」と悟る場面が哀しい。人間っていつの時代も本質は変わらず同じようなことを繰り返してる、現在進行形で。

  • ロシア革命期のウクライナに地主の息子として生まれた主人公ヴァシリの、強奪、凌辱、殺戮にまみれた生涯。本作はヴァシリの悪党ぶりを描くピカレスクロマンというもののようだけど、個人的には少し穿った読み方をしたかも。つまりヴァシリをはじめとする登場人物は、単にその時代その場所に生を受けたがためにそうならざるを得なかったのではないか、と。衣食足りて礼節を知ると言うけれど、それらがまったく足りず、笑顔も幸福もない戦時の環境下で、逆にどうしたらヴァシリのようにではなく生き得たのか、とも感じた。

  • 人名がとにかく覚えにくい。
    主人公の名前すら、後半になって出てきたような…

  • 描写力に圧倒される。

著者プロフィール

1962年、新潟に生まれる。1991年『バルタザールの遍歴』で日本ファンタジーノベル大賞を受賞。2002年『天使』で芸術選奨新人賞を、2007年刊行『ミノタウロス』は吉川英治文学新人賞を受賞した。著書に『鏡の影』『モンティニーの狼男爵』『雲雀』『激しく、速やかな死』『醜聞の作法』『金の仔牛』『吸血鬼』などがある。

「2022年 『吸血鬼』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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