遭難、

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (168ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062140744

作品紹介・あらすじ

「トラウマ」のせい? 単なる「嘘つき」?
鶴屋南北戯曲賞、最年少受賞! 放課後の職員室。乗り込んできたのは自殺未遂の生徒の母親。「諸悪の根源」は誰なのか? 本谷有希子の話題の戯曲を完全収録。

感想・レビュー・書評

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  • 息子が自殺未遂をして毎日職員室に怒鳴り込む母親。暴言を浴びせられ先生たち。
    まともな教師に見えたが、ほとんどの原因は里見先生だった!
    自分の保身にしか興味がない里見先生と、怒鳴り込んできた母親となぜか不倫をしてしまったりする他の先生。すべては里見先生のトラウマのせいなのか!
    けれど、トラウマすら怪しくて、里見先生が単純におかしな人というだけなのでは……という戯曲。

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    戯曲の本を始めて読んだけど、爆笑問題の漫才本を読んでるみたいだった。登場人物たちの台詞の応酬と彼女たちの行動が記されているだけでスラスラ読めた。そして何度も笑えた。
    最初の台詞が「ウンコしなさいよ、そこで」だもんな。最初から最後まで一気読みだった。さすが。

  • 「…なんと、トラウマ、でした。」
    「何が。何がなんとですか! あなたね、そんな単純なもので人のこと見殺しにしていいと思ってるんですか?」
    「だって…しょうがないじゃないですか、トラウマなんだから!」

    「知らないの? あの、七階建てのビルの二階にある中華よ? ガラス張りで雰囲気いいらしいから夜景でも見えれば最高なんだけど…(とタウン情報誌をめくって指差して)バー…ミヤン?」


    「…じゃあもう、これで、いいですか。」
    「え?」
    「土下座して謝ったし、もうこれで…いいですか。」
    「あんた…! なんなの、その態度。」
    「里見先生、あなたね、そんな言い方して、本当に悪いと思ってるんですか。」
    「本当に悪いと思ってるかどうかなんてどうやって分からせるんです? 不破先生は私がここで泣いて謝ったら、本当に悪いと思ってることにしてくれるんですか。」

    「落ちたら痛いでしょうね。でも痛いのは私だけですから。人の痛みで病院に運ばれる人なんていないから、みなさんは安心して下さい。」

  •  2006年に第10回鶴屋南北戯曲賞を受賞したこの作品が、今年10月、東京を皮切りに再演されるというので、再読。
     やっぱり凄い脚本。この劇は、是非とも舞台で見たいと思っていたので、ますます楽しみになる。
     「ウンコしなさいよ、そこで」という台詞から始まる。学校の職員室を舞台に、「いじめ」や「モンスター・ペアレント」を扱い、教師や保護者をグロテスクにデフォルメしている。ブラック・コメディーかと思いきや、それぞれの問題の本質に鋭く切り込んでいて、これはシリアス・コメディーだと修正。
     ところがさらに、主人公の女教師は、トラウマが解消されてハッピーエンドかと思いきや、「お願いだから、私から原因取らないで・・・」と懇願しながら、一人取り残され「遭難」するという劇的な結末。
     あとがきで、作者は、「性格の悪い女を書きたいという思いから出来上がった作品」と明かしている。意図した性悪女が見事に舞台に立っていることが目に浮かぶほどで、しかも魅力的だ。自分を好きになれ、自己を愛せよといった軽々しい物言いが巷に溢れているが、自己愛を突き詰めると実はこういう性悪女(男)になるという恐るべき逆説が見えてくる。マスコミの垂れ流すオリンピックにまつわる美談に食傷気味だったせいか、久しぶりに「悪意の文学」に触れて、すっきりした気分がする。社会という場面で人間が見せるのは、偽善の仮面ばかりで、その裏にはいつ増殖を始めるかもしれない悪意の芽が隠れていることに気付かされる。私も、あなたも、だからみんなが持っている悪意。
     「悪意」を描いた文学作品で思い出すのは、高橋たか子の『空の果てまで』という小説だ。(高橋たか子は、人間の深淵を覗き込み過ぎたのだろうか、その後、カトリックへの信仰を深めて、「悪意」を描くことはなくなって、こちらの世界からは遠ざかってしまったが・・・)
     では、これから、本谷有希子の小説『ぬるい毒』を読み始めることにしよう。

  • おもしろいなぁ。本谷有希子。
    たぶん野田秀樹に一幕もの(密室もの)として嫌われてるんだろうなぁ~

    だから野田いなけりゃ、つかこうへいが審査員降りてすぐ鴻上尚史と平田オリザダブル受賞みたいになるじゃないかなあ~
    とつい妄想してしまいますが

    そんな妄想の話。
    この話は里見のトラウマが序盤にとっと解決して妄想していくところに面白さがあると思うんだけど、妄想せずには生きていけない。
    家族という妄想。恋愛という妄想。いろいろ形はあると思いますが、
    今コンテンツが多様化していく中で、共通の認識というものが極端に減少している気がする。
    その中で人を思いやる心とか言うと道徳的になるけど、単純な嘘が見抜けない。標準化されていないと怖いというのがあり。
    共通認識なさゆえについ、人と同じになりたいという気持ちが逆に単純な嘘を許容しいる。

    みんな笑っているのではなく。みんな笑わされているのだ。
    あるルールに従って。
    だから感性の柔軟な若い人や良くテレビを見ている人は笑えるけど、あんまりテレビを見ないひとやテレビ見てるけどその辺のルールに疎い人は笑えない。

    ではなく

  • このカバーイラスト、全く内容と関係なし。
    おもしろい。「私から原因とらないで」トラウマ、自殺、
    脅迫言葉としての(相手の行動をコントロールするための)「私自殺するから」
    責任転嫁の「あんたのせいでトラウマ」
    舞台で見たい。

  • 戯曲もの初めてぜんぶ読めた。ところどころコメディなのが個人的には苦手だけどモノローグがなくテンポいいからよかった。内容知らず舞台で観たら引きこまれそう。好きな俳優さんが演じてたらますます面白いだろうなぁ。生の舞台観に行ってみたいと思った。

  • 私から原因とらないで、っていうのは、なんかすごく分かる。

  • 初読 ★3.5

    戯曲。
    あー、これ舞台で観てたら私これ好きだわw
    密室ものでこの脚本、うん…好きだわw
    青山円形劇場でやってたのかぁ……観たかったな

    自己愛極まる里見を中心に?
    それぞれの自己愛、負の部分を浮かび上がらせていって
    側から見てると滑稽なことになっているという、
    そして薄っぺらくも拠り所にしていた物が奪われると
    遭難してしまう、のね。なるほど

  • もっちんの「じぶんだいすき」自己愛文芸(裏返せば自分に対する自分の好意が痛い!)が、ブラックコメディを経て通り過ぎてシリアスに行き着けば、こうなる。
    もちろん、この舞台を操る、生徒(息子)の自殺未遂から半身不随、という裏面の題材がシリアスさを導いている面もあるのだろうけれども。

    ひどいことしたけどトラウマがあるからしょうがないでしょ、許してよ!
    さてそのトラウマの原因を除去されたら?
    原因を取らないでよ、お願い、このままじゃ遭難するしかない……。

    「私以外に対する悪意」が、責任のなすりつけ合いという行動で描かれる。
    ひとつひとつの行為が積み重ねられた挙げ句、滑稽なシチュエーションに行き着くのは、もっちんの作風。

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著者プロフィール

小説家・劇作家

「2022年 『ベスト・エッセイ2022』 で使われていた紹介文から引用しています。」

本谷有希子の作品

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