- Amazon.co.jp ・本 (610ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062148610
作品紹介・あらすじ
主の命により大権現へ大刀を奉納すべく旅をする鋤名彦名は、謎のくにゅくにゅの皮に呑まれ、「偽」の世界にはまりこむ。嘘と偽善に憤り真実を求めながら、いつしか自ら嘘にまみれてゆく彦名の壮絶な道中。その苦行の果てに待ち受けるものは。
感想・レビュー・書評
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どこに行っても自分の居場所ではなくて、どこまで行っても主はみていて。
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「嘘」だらけの世界の不条理を描いていると思っていたら
最後は「魂の彷徨」という所まで話が運ばれていき、
原罪と輪廻が合わさったような宗教的な所まで登りつめていくので
少し置いてけぼりにされてしまったような気分になった。
ページ数的にも内容的にも意を決して挑まないとなかなか苦行なんだけど、
ラストに向けて「宿屋めぐり」の本当の意味が見え始めた時の高揚感は
すごい。 -
ああ、皆それぞれの宿屋めぐりをしている。正しい選択をしているかどうかはわからない。主人公だけが弱くて狂っているのではない。とても恐ろしい。
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町田康はこうやって、そのありえない文才で何もかもを晒す。
もうやめて。やめないで。 -
またもややってしまいましたね。
真実だけを語り胸を張って生きてゆければそれは最高だが、もちろんそれを実行できる人は世の中にほぼ皆無なのだから、町田康氏の書く本は程度の差こそあれ、すべての人にとって共感できる読み物である。
我々が日常生活の中でしばしば感じるちょっとした自覚的不正、詭弁と欺瞞、利己主義に基づいた辻褄合わせ、あるいは卑屈根性などが、独自の筆致による一見浮世離れした不思議な世界の中に見事に散りばめられており、そして主人公が感じ、思い、動く内容は、表現こそライトであっても極めて重篤かつ、まさに読者のそれらと同質。
こんなはずはない、自分はこんなではない、私はあなたと違って客観的に自分というものを見ることができるんです、という種の凡人の想いが間抜けな主人公に正しく投影されているのである。
私たちが実際には曝け出すことができない自己内のいろいろなドロドロしたものを代弁してくれている、とも表現できる。
さらに、宗教や運命(使命)といったものに成り替わる「主」という新機軸が事態をより立体化させており、我々の脳もヒートアップを加速する。
鋤名彦名がおばはんになってからのクライマックスは圧巻である。
どう終わらせるんだろう、と訝しんでいたけれど、さすが、見事に締め括ったものだ。 -
「告白」が町田版・「人間失格」と言われるのなら、これは町田版・「沈黙」。運命の不条理と、それをいかに認知づけていくかという二点を軸に延々と語られる物語。われわれは鋤名彦名という登場人物の脳内にダイブする。欲望と大義名分のあいだで繰り広げられる、主観・それを見る客観のような主観・を見る客観のような主観…の繰り返し。これが町田康の小説の醍醐味でもあるのだが、いささか今作はくどすぎた…ような気も。ってことで★4つ。
しかしまあ、読ませますね。言葉のリズム感がものすごくいい。飽きさせないどころか笑えるしね。こちらも脳内が掻き回されるので、体力は奪われるけれど。苦笑
うん。たぶん、町田康は自分に正直でいようとしすぎるんだろうね。もうなんつーか、哲学者ではあるまいか。アルマイト。…くそっ、大好きだ。 -
「執筆七年。新たな傑作長編小説の誕生」。
帯の惹句である。
ずしりと持ち重りのする一冊で、表紙には愛らしい市松人形。
本を上下巻とせず、二段組みにせず、あえて分厚い一冊としたのも「あほんだら。俺が7年もかけて書いた作品を寝転んで読んだらどつくぞ、ぼけ」と読者にも「本を読む姿勢または心がけ」を作者は問うておられるようである。
なので。
暫く打っ棄っておいた。
しかし、「本でも読みまひょ」と書斎コーナーへ行くと厚い本ゆえ、存在感がある。
いやでも日本人形(もしかして、この人形の名前は「お菊ちゃん」っていうのじゃないかしらん。北海道のお寺に安置されてる髪の毛の伸びるという)が目に付く。
「菊ちゃん」の恐怖と作者の嫌がらせ(たぶん)の狭間で、暫時、表紙を眺めてはひいいっと悲鳴を上げていたのであるが、これは読まないがために「菊ちゃん」の視線が怖いのだろう。
よく見ると、愛らしい市松人形ではないか。
なので。
読むことにした。
感想は「面白い」。
いや、読んで仕舞ったのであるから「面白かった」。
町田さんってなんなんなの?。
これって哲学書? それともパロディー?。
いや、小説なんだけどね。
主からの命令で大権現に大刀奉納の旅に出る主人公鋤名彦名。
道中、法師に襲われ、謎のくにゅくにゅの皮に呑みこまれる。
奇術で大儲けしたり、指名手配犯として追いかけられたり、美人に言い寄られたり・・・。
ハラハラさせられる人生である。
本人は意図しないまでも「生きているだけ、生きているだけで負いきれぬ罪障が積み重なっていく」のである。
彦名は常に主に対する怖れと、自分は主から選ばれたという意識との狭間で揺れ動く。
これは「偽」の世界ではないか。
どうせ「偽」の世界であれば何をやっても良いのではないか。
人だってぺらぺらの書割みたいだし・・・。
しかし、主が怖い。
「主よ、主よ。教えてください。俺は正しい航路を進んでいるのですか」
彦名は元の世界にいたときに、主が言っていたことを思い出す。
「ときとして、間違った道は広くて立派な整備された道路で、正しい道は狭くて険しい獣道のようなもの。おまえらはいつも広い道ばかり行こうとするが、それは天辺から誤りだよ」。
ラストの仕掛けがさらに面白かった。
おすすめの一冊である。
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第61回 野間文芸賞受賞作
自分の存在感とは?生きる意味とは?が根本的に見え隠れする主からの使命を受けた旅物語ではあるのだが、そこは町田節、読んでても意味ないぶっ飛んだ世界観に突入していく。主人公が何かあれば言い訳屁理屈なのだが論破されると弱さが出るのも愛嬌。後半から「主(あるじ)」が「主(しゅ)」と読み方が変わる展開力が凄まじい。少し笑いの要素が少なかったので中盤当たりでダラけてしまって一気に読み進めなかったが600ページの物語は達成感があって読了後に安心した。 -
This speculative fantasy story was awarded the Noma Prize for Literature.