ナニワ検事マル秘交友録
塀のウチでもソトでも
しゃあない男(やつ)ら
田中森一著
講談社
2008年10月7日発行
地方大学出身で司法試験合格順位も低い、“非エリート”検事。しかし、大阪地検からエリート集団、東京地検特捜へ行く。その後、ヤメ検、大阪で弁護士事務所開業。バブルに乗って大もうけ。山口組やイトマンなどの弁護士を引き受け、闇社会、裏社会に精通。詐欺事件で実刑確定、服役。先月(2014年11月)に他界した田中森一氏による、大阪地検時代や弁護士時代の裏話を、警察や検察の悪辣さを含めて暴露している、“ほんまかいな、それ”と思えるお話。
書いてあることが本当なら、すごい暴露本かも。実に楽しかった~!
大阪府警と兵庫県警は犬猿の仲だが、兵庫県警の方が少し品がある。
許永中は相撲をオリンピック競技にしようと、大阪オリンピック開催を目指した。当時の大阪市長も焼き鳥の「五えんや」を通じてたくさんお金をもらっていたので味方だった。
検察がウソの調書をつくるテクニックの一つ、わざと被疑者の名前を書き間違え、それを指摘させて訂正させる。本文には読み上げなかったウソの内容が含まれているが、名前を訂正している実績を盾に、本文もちゃんと確認してサインしているはずだと裁判で主張する。
(メモ)
*あくまで書いてある内容のメモに過ぎません
政治家でもどうしようもないのがいる。一時、ワシ(田中弁護士)のところに逃げ込んでいた代議士なんか、ほんまにひどいオッサンだった。「政界の牛若丸」。弟がゴルフ場で失敗して、ヤクザに追い込みかけられて逃げてきた。そのちょっと前まで労働大臣していた男。でも、やっぱりその代議士が悪い、追い込むヤクザが悪いんじゃない。「あんたが悪いんだから頭下げなさい」と言う。山口組の宅見若頭(ナンバー2)立ち会いの下、頭を下げさせたら一件落着。(24)
*一般的に政界の牛若丸と呼ばれていたのは山口敏夫元労働大臣
「ゲーム機賭博事件」の際、大阪の南署の警官たちがある店に入り浸って豪遊しているという情報入る。情報屋と親しいナニワのオバハンを使って調べると、生活安全課の連中だった。喫茶店のゲーム機賭博で店をガサ入れする時に、ゲーム機の中の金をちょろまかしていた。ゲーム機1台に10万円入っていても捜査報告書に2000円と書く。(34-35)
ヤクザ担当の、警察捜査四課はヤクザもビビる猛者揃い。(39)
関東なら警視庁と神奈川県警、関西なら大阪府警と兵庫県警は犬猿の仲。兵庫県警の方が(大阪府警より)ちょっと品がある。(44-45)
(西成の博打場の話から博徒の勘について話が広がって)勘と言えば、知り合いの親分にも鋭いやつがおった。温泉で一緒にメシ食うてる時にそいつがいきなり、ワシが尾行されていると言い出して、「どうもおかしい、先生、捕まるんじゃない?」って。その数日後、田中氏は逮捕された。(64)
大阪にあった激安焼き鳥チェーン「五えんや」の中岡氏は、北海道拓殖銀行の100パーセント子会社エスコリースからお金を借りて、不動産を買いまくっていた。50-60億円の物件を買うのに100億借りていたのが問題。バブルで50-60億円の物件を買っても、明日、あさってには100億円になったから。(77)
中岡氏は、ええ格好しいで、行くだけで100万円くれる。どこかの代議士の秘書が、朝、昼、晩、来る。さすがに晩になると気づく。「お前、さっき来てなかったか?」と。せめて2回目で気づけちゅうの。(79)
トータルで五えんやのおっさんが借りたのは2600億円。他のやつが6000億円借りてたから、バブルが弾けてエスコリースと拓銀が倒産。五えんやのおっさんは最後まで捕まらなかった。同じ借り方をしていた末野興産は捕まった。末野は引き出した金を貯金してケチだったから。五えんやのおっさんはみんなにばらまいていたから周囲が助けてくれた。(82)
株の仕手筋は、裏切ったやつが一番儲かる。何人かの仕手筋が組んで株価をつり上げるが、目標株価まで行く途中で裏切って売り逃げる。携帯電話がない時代なのでトイレに行くふりをして公衆電話で売りを証券会社に指示。裏切られた方は金に困りヤクザに借金、追いまくられて、死ぬか消えるか。仕手筋はほとんどそう。(95)
仕手筋の一人、Iは、田中氏が検事時代から賄賂を渡してはめようとした。弁護士時代、Iがある企業の買収を図る。その企業の顧問弁護士が田中氏。株主総会で対決へ。Iはなんとか田中氏に金を渡して味方にしようとする。北新地の高級クラブ「ピアジェ」に行くと、Iがいて、その飛びきりいいホステスに「田中とやったら500万円出す」と言った。田中氏はその罠にもはまらなかった。(97)
横綱は、熊本の吉田司家で土俵入りしないと横綱になれないというしきたりが室町幕府からあった。この伝統が隆の里で途絶えた。その吉田司家が借金で破産。再建を頼まれたのが許永中だった。(103)
許永中は再建させるために相撲をオリンピック競技にしようと思い立ち、大阪に「アメリカン・クラブ」なるものを作った。世界各国のIOC理事をそのクラブの理事にすれば、いくらでも連中にお金を渡せる。当時のIOCのナンバー2は韓国人で許永中の兄弟分。東京オリンピックを目指していた堤義明がクラブを買いに来たが売らなかった。当時の大阪市長へは五えんやからたくさん金が行っていたので味方だった。(104-105)
検事が嘘の調書をつくるテクニックの一つ。
被疑者が認めていないことが書いてある調書を読んで聞かせる時、その部分は飛ばして読む。そして、被疑者の名前をわざと間違える。例えば田中森一→田中守一に。それを見せる。名前が違うと指摘させる。訂正する。
裁判の時、調書の読み上げでこんなこと聞いていればサインしなかった、と主張しても後の祭り。名前の間違いをちゃんと見つけているのだから、中身もその時に確認しているはずだ、と裁判所は判断する。(138)
検察は上が作ったストーリーを変えない。だから無理矢理にでも認めさせる。特捜の取調室で検事たちと互角以上にやりあった佐藤優みたいなのは珍しい。(140)
五えんやのおっさんは純金製のパターを持っていた。一本700万円。(159)
法務省にある「矯正協会」は利権団体。ここを経由して発注を受け、刑務所で安い料金で作らせて大もうけ。(177)
(裁判員制度は)巧妙にウソが混じっている検察側の調書に、法律のド素人の裁判員が振り回されて冤罪が生まれる可能性が高まるかもしれん。(186)