風の靴

  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (322ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062149945

作品紹介・あらすじ

海を渡る風を見ているときと同じ顔だった。陸で話していたのに。「自分のからだが透明になって、船とひとつになって、駆けていくんだ。」-そうなんだ。おじいちゃんが、風に靴を履かせる。風が靴を履いて、大海原を駆けていく。そんなふうに、ウインドシーカー号は走る。あふれる光のなか、きらめく波を切って。僕らの船は、風の靴になって、どこまでもどこまでも駆けていく。海が空にふれてひとつになり、空が天にとどくはるか高みまで。「かはたれ」「たそかれ」の作者朽木祥の新境地-。

感想・レビュー・書評

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  •  『かはたれ』を読んでとても好きになった朽木祥さん。この本も素晴らしかった。

     ものすごく文が上手、という感じではないのだけれど、文そのものが芸術になっていた。割と量がある文なのに、詩を読んでいるかのように繊細だった。言葉に、色合い、熱量、風、意志、沈痛さなど、様々なものを感じさせる含みがある。

     ヨットマンだった大好きなおじいちゃんを亡くし、受験に失敗したりで追い詰められていた中一の海生は、友達の田明とその妹、八千穂、飼い犬のウィスカーと、家出する。おじいちゃんと以前よく乗っていた、A級ディンギー(ヨット)ウィンドシンカー号に乗って。

     海生は、海で、亡きおじいちゃんとしたこと、話したことを思い出し、まさに今体験していることと照らし合わせて反芻し、友にも助けられながら成長していく。

    ○[Aという道とBという道があって、Aを選んで転けたとする。その時自分を支えるのはAを自分が選んだという自信だ。もっともらしいだろう?だけどな、この年になるとわかるんだ。そんなかっこいいもんじゃない。どっちを選んでも、あっちにすればよかったと後悔する日は必ずある。ただ、自分で選べば、良い日も悪い日も自分で引き受けられる。ただそれだけのことなんだ。]
     
     この海生の父親の言葉は、私もこの年になったらよくわかる。自分が辛い時に、言い訳だと頭ではわかっていながらも、親や家族を恨みたくなるのは、若い時、自分がこうしたいと思った事を貫けずに、家族の反対に押し切られてしまったからだと。自分で納得してきちんと選ばなかったからだと。

     息子が今、主人公と同じくらいの年頃だ。多感な時期で、本人もだろうが、私もその変化に戸惑っている。このお話に出てくるような、よく出来た子では流石にないけれど、それでも、彼の「根っこにある良さ」を信じて、余程間違った方に行かない限り、彼の意思を、心が動く方向を邪魔せず尊重しようと、この本を読んで改めて強く思った。私と同じ失敗を子供に繰り返させないよう、肝に銘じたい。

    *********


    心を動かされたところ(抜粋)

     ○再び思い出したのだ。ディンギーがふいに風をつかんで走り始める瞬間、まるで高速艇に変身したみたいに駆け出す、あの瞬間を。おっかなくて、後ろに引けていた体が、次第にディンギーとひとつになる。ひとつになって、風をつかんで、思いっきり駆けていく。透明になって。風の靴を履いて。あんなふうに生きていけと、おじいちゃんは言いたかったのだ。「船と一緒に駆けていくような気がするんだ。」という声まで、聞こえてくるようだった。


    ○The why of the wind. by Laura Riding
    風が走るとき、我々も風と走る。
    風に心をつかまれてしまうと、自分が風ではないことを忘れてしまう。
    我々はもっと知らなければ、自分が何であり何でないかを。我々は、風ではない。…
    もっとはっきり見分けなければ、
    我と彼との違いを。
    "我々でないもの"は、たくさんある。
    "我々が、ならなくていいもの"は、たくさんある。

     ○そうなんだ。ぼくらは風ではない。風がぼくらを連れ回すのでもない。ぼくらが、風を見、風を聞き、風を読む。そうして、自分の進む針路を決めるんだ。ほんとうに行きたい方向に向かって。

  • めちゃめちゃ有能な少年たちの家出記録。
    と言っても、ヨットで家出するし、ありえないくらい冷静で頭のいい子たち。
    話がうまくできすぎてる気はするけど、夏っぽくてよかった。
    子どもたちは大人が思っているほど馬鹿じゃないし、色んなことを考えてる。やりたいことも、意志もある。そういうのを引き出して、尊重してあげられる親になりたいと思った。

  • 途中までは、漂流する話かと思ってドキドキしました。

    後半がよかった。

    他人、特に兄弟と比べられることは辛いと思います。「そんなこと、気にするな」と言うのは簡単だけど言われた方はそんなに割り切れないだろうし。

    私が自分で何でも決めて、親には事後報告だったので、子どもたちにも努めて口出しないようにしています。

    「(Aという道とBという道があって)どっちを選んでも、あっちにすればよかったと後悔する日が必ずある。ただな、自分で選べば、良い日も悪い日も自分で引き受けられる。ただ、それだけのことなんだ。」

    〈だれでもない、ぼくが、風に靴を履かせて駆けていくんだ。〉

    先に読んでしまった、朽木さんの「あとがきにかえて」の中の

    「どうか一人でも多くの少年少女たちが『海』に乗り出してくれますように。
    ―それぞれの風に、それぞれの靴を履かせて。

    読み終わってからは、ストンと心に落ちました。

    作品中に出てくる名作も含めて中高生におすすめ。

  • 海生、田明、八千穂、ウィスカー、風間譲

  • ほんと、素敵すぎる、都合よすぎる、
    展開ともいえるけれど、
    出てくる人たちも素敵すぎて、ってこともあるけど、
    読後感は悪くない。

  • ヨットで家出するという発想が面白かった‼️

  • 海生(かいせい)は、四つ年上の兄、光一(こういち、ピカ一)と同じ啓光学院を受験するも失敗。地元の南鎌倉中学に通始めたが、3年後の啓光学院高等科の受験が頭の上にのしかかり、憂鬱な日々を送っている。兄は文武両道、勉強もトップでテニス部のエースでキャプテン。友だちが多く、人目をひく容姿。いつも比べられてきたような気がしている。
    そんな海生に、大好きなおじいちゃんの急死というサイテーの知らせが届く。おじいちゃんとヨットで海にでるのが大好きだった海生は、とうとう自分の気持ちをもてあまし、家出を決意する。

    父、母、兄(光一)、祖母
    ウィスカー(テリア)

    田明(でんめい) 同級生 剣道部
    八千穂(やちほ) 田明の妹

    風間譲(かざまゆずる)

    鎌倉あたりの地名と、木製のA級ディンキー(=ウインドシーカー)、アイオロス号
    ヨットの操縦言葉や各場所の名称など、どれも興味はつきない

    P278“自分が、何であり何でないか”
    “我々でないもの、我々ががならなくてもいいもの”

    P「・・・おまえは、おまえ以外の人にはなれないんだ。」

    The Why Of The Wind by Laura Riding

    我々は、もっと知らなければ、
    自分が何であり何でないかを。
    我々は、風ではない。
    さすらいのきままに惹かれる、
    きまぐれな心境でもない。
    もっと、はっきり見分けなければ
    我々と彼との違いを。
    “我々でないもの”は、たくさんある。
    たくさんある。
    “我々が、ならなくてもいいもの”は、たくさんある。
    http://en.wikipedia.org/wiki/Laura_Riding

    そうなんだ。ぼくらは風ではない。風がぼくらを連れまわすのでもない。
    ぼくらが、風を見、風を聞き、風を読む。
    そうして、自分の進む進路を決めるんだ。
    ほんとうに生きたい方向に向かって。

  • 85点。さらっと読めてとってもよかった。なんちゃってサバイバル。男の子に薦めたい。
    ただ、主人公が横浜のいいとこの子で、おじいちゃんが上等なヨットを持っていたり、それまで読んできた本が「エンデュアランス号漂流」やランサム・サーガだったりと、教養のあるおじさんが理想化して作り上げた少年ぽくて、ちょっと鼻につく。
    そういうのと、突然現れる謎の青年を受け入れるところとか現代社会にはそぐわない部分が多少あるが、ファンタジーと思えば気にならない。
    個人的にはキャンプファイヤーで猫じゃらしを炙って、小さなポップコーンみたいになったのに醤油をつけて食べるシーンが好き。

  • イイね。男の子たちの冒険と成長。児童書はやっぱりこれでなきゃ!
    物語の場面が、ヨットがはしる様子が目に浮かぶようです。

  • 中学生の男の子が家出をするというありきたりなお話。でも最後にくるまで家出してたことを忘れてしまう話の展開。ヨット。

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著者プロフィール

広島出身。被爆2世。
デビュー作『かはたれ』(福音館書店)で児童文芸新人賞、日本児童文学者協会新人賞、産経児童出版文化賞受賞。その後『彼岸花はきつねのかんざし』(学習研究社)で日本児童文芸家協会賞受賞。『風の靴』(講談社)で産経児童出版文化賞大賞受賞。『光のうつしえ』(講談社)で小学館児童出版文化賞、福田清人賞受賞。『あひるの手紙』(佼成出版社)で日本児童文学者協会賞受賞。ほかの著書に『引き出しの中の家』(ポプラ社)、『月白青船山』(岩波書店)、『八月の光 失われた声に耳をすませて』(小学館)などがある。
近年では、『光のうつしえ』が英訳刊行され、アメリカでベストブックス2021に選定されるなど、海外での評価も高まっている。

「2023年 『かげふみ』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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