天才が語る サヴァン、アスペルガー、共感覚の世界

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  • Amazon.co.jp ・本 (338ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062155137

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  • 著者は、世界にほんのわずかしかいない自閉症でサヴァン症候群でもあり、かつ共感覚の持ち主であるという。そして、その能力はすさまじい。円周率は22500桁を暗誦し、10ヶ国語を操るそうである。本書は、そんなダニエル・タメット氏が脳をテーマに、その働きと力について描いた一冊である。

    ◆本書の目次
    第1章 空より広い
    第2章 脳を測る---知能と才能
    第3章 ないものを見る
    第4章 言葉の世界
    第5章 数字本能
    第6章 独創性という現象
    第7章 視覚の不思議
    第8章 思考の糧
    第9章 数学的な考え方
    第10章 脳の未来

    ここ最近読んだ本の大半が、この一冊に集約されるのではないかと思うくらい、濃厚な一冊になっている。通常なら、本章の一章分のネタで一冊の本が書けるくらいではないだろうか。そして、そこに描かれているのは、実に不思議な世界である。

    著者は円周率を暗記したとき、頭の中で数字が入り組んだ多次元の、色のついた質感のある形として現れて、風景として見ることができたそうである。ちなみに、1は明るく、11は丸く、111は明るくて、でこぼこしており、1111はさらにそれが回転していたとのこと。また、バルカン語とスカンジナビア諸語の語彙と文法構造を基にし、「マンティ」という新しい言語を創作してしまったエピソードも紹介されている。そして、この著者の最も優れているのは、この現象や要因への考察を伝達するための「自己説明能力」なのである。

    著者が、ここまで自分をさらけ出してでも伝えたかったことは、人格への尊重ということではないだろうか。その天才的な個性が、サヴァンだからの一言で片づけられてしまうということに、幾度となく絶望してきたのであろう。しかし、花粉症に罹っている人の能力が千差万別であるように、自閉症やサヴァン症候群に罹っている人の能力も千差万別なのである。人格は決して方程式では解けないのだ。

  • サヴァン症候群の著者が書いた、悩や記憶や数学等々について語ったノンフィクションというか、エッセイ?
    個々の事項については知っている事が多く、認識の再確認といった感じではあったが、それに対する著者の考え方や見解は面白い。
    内容とは関係ないが、参考図書としてあがっている115冊の文献の内38冊、およそ3割が日本語に翻訳されて出版されていて、これはこれですごい数だな、と。この辺の翻訳天国ぶりが英語学習の妨げになっている様な気がしないでもない。

  • まず一番に思ったのは、前作に比べて非常に文章が洗練されたということ。専門的な内容なのに大変わかりやすく、言葉運びも滑らかで読みやすい。訳が良いのかと思ったが、巻末で訳者も「迷いのない文章だった」と書いていたので、原文からしてそうだったのだろう。

    今回は、彼自身のサヴァン、アスペルガー、共感覚についてよりむしろ、そのような能力を持った言語学者として、学術的立場に立った「脳」についての考察が主だったが、先日読んだ「錯覚の科学」で取り上げられていた内容や実験と重なる部分も多く、興味深く読めた。

    各章で一冊の本になりそうなほど内容が濃く、まとめて感想を書くのが難しいので、各章から印象に残ったキーワードを。

    <第一章 空より広い>自閉症・アスペルガー・サヴァンについて、コンピュータは脳には勝てない、繋がりあう脳、脳の可塑性、階層状に蓄えられる知識、いかに学ぶかではなく何を学ぶか、考えたり学んだりする道に優劣はない

    <第二章 脳を測る-知能と才能>IQテストは無意味、複合的な知能(ガードナー)、天才は生まれるのではなく作られる

    <第三章 ないものを見る>記憶のゆがみ、何かを思い出すときはその時味わう感情や思考に左右される、音楽に合わせる脳、予測することに喜びを見出す脳

    <第四章 言葉の世界>言語の普遍性、ピジン語、第二言語、言語の臨界期(ジェニーのケース)、知らない言語の意味を読みとる直観力

    <第五章 数字本能>赤ん坊の数の感覚、サヴァンの計算能力は脳の抑制レベルが低下し言語と数字をつかさどる領域の異常な混線の結果、スモールワールド現象(ミルグラムの実験:無関係なふたりの個人をつないでいるのはたった五人の知り合い)

    <第六章 独創性という現象>思考・記憶・感情・発想として独立しているはずのものが混線(過剰結合)が独創性を生む、画家・詩人・作家には共感覚者が多い

    <第七章 視覚の不思議>錯視

    <第八章 思考の糧>情報過多は脳に害を与える、ウィキペディアの精度、群衆の知恵、図書館の有用性(デューイの分類法)

    <第九章 数学的な考え方>統計的に物事をとらえる、宝くじの愚、発表のかたより、相関関係があることが因果関係にあることにはならない

    <第十章 脳の未来>人間同士のコミュニケーションは単なる聴く・話すよりはるかに複雑

著者プロフィール

作家、言語学者、教師。1979年、ロンドンに生まれる。9人きょうだいのいちばん上として育つ。2004年、円周率の暗唱でヨーロッパ記録を樹立。それをきっかけに制作されたTVドキュメンタリー「ブレインマン」は40ヵ国以上で放映され、大きな話題を呼んだ。自伝 Born on a Blue Day は世界中でベストセラーとなった。日本でも『ぼくには数字が風景に見える』(講談社)として出版されて、好評を博す。その他、邦訳書には『天才が語る サヴァン、アスペルガー、共感覚の世界』(講談社)がある。現在は、自身のウェブサイトOptimnem で、外国語学習プログラムを展開している。パリに暮らしている。

「2014年 『ぼくと数字のふしぎな世界』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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