ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。 (100周年書き下ろし)

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 3212
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  • Amazon.co.jp ・本 (394ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062157612

作品紹介・あらすじ

"30歳"という岐路の年齢に立つ、かつて幼馴染だった二人の女性。都会でフリーライターとして活躍しながら幸せな結婚生活をも手に入れたみずほと、地元企業で契約社員として勤め、両親と暮らす未婚のOLチエミ。少しずつ隔たってきた互いの人生が、重なることはもうないと思っていた。あの"殺人事件"が起こるまでは…。辻村深月が29歳の"いま"だからこそ描く、感動の長編書き下ろし作品。

感想・レビュー・書評

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  • 『内密出産』という制度があるそうです。2014年頃にドイツで開始されたこの制度は、予期せぬ妊娠をしたことで名前の公表を希望しない母親が、出産を受け入れる病院だけに身元を明かして出産する。そうして生まれた子どもは一定年齢に達した段階で病院がその出自を伝えるという制度だそうです。日本では2007年に熊本市の慈恵病院が『こうのとりのゆりかご(赤ちゃんポスト)』を設置して大きな話題となりました。そして2019年12月の記者会見で同病院はこのドイツの制度を導入することを発表しました。『子供が欲しい親、やむなく捨てる親』、家族の形が大きく変化するこの時代に新しい命をどう取り扱ってゆくのか、『何よりも大事なのは子供の命です。生きることです』。赤ちゃんポスト、そして内密出産、今後出産はどのようになってゆくのでしょうか。

    『大騒ぎになるのだとばかり思っていた。私を囲み、その前に倒れるお母さんを見て仰天しながら、私を取り押さえてつかまえてしまうはずだった。…私は加害者』という何か重大なことが起きたことを悟らせる序章からこの物語はスタートします。『どこ、いるんだろうね、チエちゃん。心配、すごく心配』という旧友の古橋由紀子を訪ねたフリーライターの『私=神宮司みずほ』は、幼なじみであるチエミの消息を掴むため、その後も実家のある山梨県甲州市に住む友人や小学校時代の恩師を順に訪ねてまわります。『今年四月、望月チエミの自宅で彼女の母親、望月千草が脇腹を刺され、死んでいるのが発見される』というニュースが駆け巡ってから数ヶ月。チエミを重要参考人とする警察の必死の捜査も芳しくなく『今や、容疑者の命を絶望視する方向へと傾き始めている。自分のやったことの罪の重さに耐えかねて、今頃はもう、きっとどこかで』という状況の中『まず知りたいの。あの家に、何があったのか』とチエミの手がかりを探すみずほ。一方でみずほは国内唯一とされる『天使のベッド(赤ちゃんポスト) 』を設置する富山県の高岡育愛病院の医師を尋ねます。当たり障りのない回答で取材を終えようとした瀬尾医師に みずほは『勘違いなさらないでください。施設の存続をお願いするために来ました』と告げるのでした。そして物語はチエミの行方を探し求めるみずほと赤ちゃんポストの存続の行方などが複雑に絡み合って展開していきます。

    冒頭の衝撃的な序章のあと、第一部と第二部から構成されるこの作品。第一部では、みずほの山梨県での旧友、そして恩師への取材過程が淡々と描かれていきます。その中では、みずほと母親、そしてチエミと母親という近所に暮らす二つの全く異なる母娘関係の裏表が次第に明らかになっていきます。『私は確かに彼女たちと自分を違うと思っていたが、そう思っていることまで含めてあの場所ではっきりと浮いていた』という山梨を出て東京で暮らすみずほの生き方と『ずっと一緒に、お母さんたちとここで子供を育てる』と考え山梨に生きるチエミの生き方。考え方が異なる幼馴染の二人。その生き様がそれぞれの母娘関係と共に見事に対比させて描かれていました。

    また、この作品で強く印象に残るのは、やはり『赤ちゃんポスト』のことだと思います。フィクションとして富山県の病院に設置されているとした上での問題提起。『それやっていいの?子供捨てるのって犯罪なんじゃないの?』、『私、逆に配達してくれるのかと思った。子供いない人のところに赤ちゃん、くれるのかと思ってた』というように みずほの友人たちには知識がほぼないという前提設定のもと、『関心を払わせるという意味では、「赤ちゃんポスト」の強い名称は成功していたと言える』と書かれる辻村さん。ただ、象徴的に問題提起したかに見える割には、少し尻すぼみのような取り上げ方が少し残念ではありました。

    そして、地道なみずほの取材が淡々と描かれていた第一部に対して、作品は第二部に入って一気にそのスピードが上がり、辻村さんの『謎解きモード』に突入します。その中で、この作品のタイトルの意味も判明し、すべての謎が明らかになりますが、第一部に比してあまりの急展開に少し面食らってしまったのも事実です。また、その分、若干の消化不良感も残りました。ただ、500ページもの物量を考えると、これ以上は集中力がもたない感もあり、これはこれで仕方ないのかなとも思いましたが、第一部と第二部のバランスの悪さはどうしても気になりました。

    2009年の直木賞の候補となったこの作品。「冷たい校舎の時は止まる」から続いた思春期の少年少女の心理を、主に学校を舞台に描いた作品群が辻村さんの一番の魅力だと思っていますが、近年、人のドロドロとした内面を執拗に描いていく大人な作風に変化されてきています。この作品は、その中間やや近年よりという印象を受けました。自らの持つ価値観とは異なるコミュニティで、それを実感しながら、自分の中に異物感を抱きながら育った みずほ。でも幼馴染のことを思い、その今を憂うことのできる みずほだからこそやり遂げることのできた納得感のある結末を感じさせてくれた作品でした。

    • さてさてさん
      naonaonao16gさん、コメントをいただきありがとうございました。

      こちらこそいつもありがとうございます。
      この作品、特に第一部の内...
      naonaonao16gさん、コメントをいただきありがとうございました。

      こちらこそいつもありがとうございます。
      この作品、特に第一部の内容がとてもヘビーでした。感想に入れ損ないましたが、みずほが取材する相手がとんでもない人物が多くて、読んでいて気が滅入りました。
      私には500ページぐらいが一日で読める上限かなと、最後の方ヘロヘロになって感じた次第です。
      コメントいただいた通り、こういった作品読むと自分について振り返る一機会にはなりますね。良いことも、悪いこともですが…。

      『継続は力なり』、で今後とも読んでいきたいと思います。今後ともよろしくお願いします。
      2020/05/11
    • naonaonao16gさん
      さてさてさん

      こんにちは☆彡お返事ありがとうございます!

      最初に取材をする場面ですね…少し記憶がうっすらとしてきていますが…すみ...
      さてさてさん

      こんにちは☆彡お返事ありがとうございます!

      最初に取材をする場面ですね…少し記憶がうっすらとしてきていますが…すみません(笑)
      でも実際、取材って様々な人間関係に触れるし、もしかしたら、どんな相手でも、意外と全員「変な人」かもしれないな、なんて思うことはあります(笑)

      これからも、あまり無理をなさらない程度に、頑張ってくださいね!
      わたしもこつこつ、読んでいけたらと思っています!
      こちらこそ、今後ともよろしくお願いします^^
      2020/05/12
    • さてさてさん
      naonaonao16gさん、ありがとうございます。

      naonaonao16gさんの『読みたい』にある「つきのふね」は私もとても『読みたい...
      naonaonao16gさん、ありがとうございます。

      naonaonao16gさんの『読みたい』にある「つきのふね」は私もとても『読みたい』です。

      今後ともよろしくお願いします。
      2020/05/12

  • ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナの意味がわかった時、ハッとしました。
    「.....逃げなさい」「産んでも、いいから」
    事件当夜の母娘のやり取りは涙が止まりませんでした。
    いろいろな形の親子がいるけど子を思う母親の気持ちは、変わらないのだと母親になった今だからこそわかる気がしました。
    後半は、吸い込まれるように一気読みでした。

  • 2021/04/20読了
    #辻村深月作品

    母親を殺し失踪した同級生を
    交わらなかった思いを後悔しながら探す。
    人間、好きでも嫌いでもなく
    無関心になることが残酷だとよく言うが
    まさにそんな作品。
    かなり重いストーリー。

  • 読み終えてずっとモヤモヤが続いている。
    辻村深月さん、女性の内面をどこまでも深く斬り込んで、これでもかと突きつけてくる。 
    痛い、とても痛い。
    全ての登場人物の中に少しづつ自分と重なる部分を見つけてしまうからなのか。
    女性のそんな部分も分かった上で愛しい、寄り添っていたいと思う。
    作者もきっとそうだろう。だからこそ書くのだろう。
    ラストには救いと希望を示してくれる。
    こんなに痛いのに、また辻村深月を読んでしまうのだろうな。

  • 387ページ
    1600円
    4月7日〜4月8日

    読み始めは、謎が多すぎてなかなか進まなかった。チエミがなぜ母を殺したのか、みずほは何を抱えているのか、輪郭がつかめた頃からサクサク進んだ。社会の中で女性が生きる難しさやしたたかさがうまく描かれていた。タイトルの『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ』の意味を考えながら読み、最後にわかった時に、これをタイトルする私には考えもつかないセンスに感心した。

  • さすが辻村深月さん。…湊かなえさんのような作風にも思えた。どちらにしろ、すごい話だった。

    読むきっかけはNHKでのドラマ化が流れた話を聞いたこと。辻村さんの本はすごく好きなので、その守りたかった原作の世界観をしりたかった。
    NHKが、どんな風に変えたのかわからない。でも、原作の中で変えて良いところは何一つなかった。それを必死に守ってくれた辻村さんに読者として感謝したい。

    母と娘はすごく複雑だ。
    娘は母にあまりにも影響を強く受け過ぎてしまうし、母は娘をあまりにも同一視し過ぎてしまうように思える。母と娘の話であり、女友達の関係の話でもあった
    全く毛色の違う格差があるかのような親友。全く毛色の違う親子関係。
    なぜ母を殺したのは私じゃなくて彼女なの?なぜ殺されたのは私の母じゃなくて彼女の母なの?
    完璧なみずほには暗い子ども時代の母にまつわる記憶が付き纏う。

    題名の意味。そこに気づいたのは、ずっとチエミ親子に憧れていたみずほだからこそだったんだな。

    見下して良いと勘違いされてしまう人、時々いる。みんなが当たり前のようにその人を蔑ろにしたり見下している。
    でも、そんなチエミをみずほは好きで、チエミもみずほが好きだったんだな。

    翠ちゃんがいて、本当に良かった。

  • なんか、『傲慢と善良』『朝が来る』『盲目的な恋と友情』を出して3で割った感じだった、、
    期待してたわりには結末も意外性なくて微妙だった。辻村深月は、クズ男と独親と田舎の閉塞感、こじらせてる女描くのが本当にうまいなということは再確認。

  • 歪んだ親子関係。結婚観。女性同士の微妙な関係。女性の自立。
    最後はなんとなく分かったけど、人との繋がり、関係がどう収まっていくのか気になった。共感は出来ないけど、心理描写が細かく、あぁなるほどなって感じ。

    みずほは、なんだかんだ頭がよくて、幼少期の出来事は可哀想だけど恵まれてる。それでいて劣等感を感じたり、無意識に人を上から見てたり。

    唐突に出てきた翠ちゃんが好き。好きだと思わせるような書き方をされている?!
    ほかの登場人物は、いいとことクセの強いとこと両面描写されているからどうしても引っかかる。

    あ、それでも、政美も好きかも。みんなに声かけて合コンして、自分にラベル付けて絶交とか平気で口に出しても面倒でもまた声を掛ける。結婚は、思っていたのと違ったかもだけど、頑張っている片鱗が見える。

    及川ありさちゃんは、強いな。可愛いのにカッコいい。さりげなくお洒落だったり頭の回転が速くてきちんと言葉に出来る。ただ、若くて自分が恵まれすぎてて共感力が低いのかな。

    娘の限界を決めたのは親。それは、この本の中ではそうなのかな。確かに現実的に財力問題があるので限界はある。でも、今は情報の溢れる時代で、成長するにつれ自分で考えて情報を選択し、今の環境でもよりよく進む方法を探すことも出来る。
    でも、小さい頃から洗脳されるように行動を起こすことすら選択肢になかったら厳しいのかな。

  • 中盤まで“傲慢と善良”を読んでいるかのような感じがした。
    女子と言うか人間の内面?心理描写は、本当にすごい。リアルすぎて怖いし、読みすすめるのがちょいしんどかった。
    後半、翠ちゃんの登場あたりから読書ペースがあがった。翠ちゃんに癒されつつ物語が目が離せない展開に。
    人間関係は難しい。親子関係も。

  • 辻村深月さんの作品は、もちろん冒頭から面白いけれど、後半に入ってからの展開は本当に読むのを途中でやめられなくなる。

    つらいシーンの心理描写がすごくリアルで、チエとチエのお母さんの事件当夜の喧嘩や冒頭のチエの気持ち、お母さんを失って泣くラストシーン。読んでいるのが本当につらかった。
    親子って時に難しいんだな。年齢を重ねるごとに、子どもと親が真剣に話し合う機会は増えるから、お互いの考えの違いにショックを受けることはありそう。自分のこととして考えると、相当きついなと思った。

    物語のキーとなる赤ちゃんポスト。赤ちゃんポストって、「みんながもっとハッピーに!」というものではなく「悲しむ人、犠牲となる子が一人でも減りますように」という想いでできているものだと思う。
    赤ちゃんポストを作ってくれた人、運営してくれている人にはもちろん感謝しかないけれど、赤ちゃんポストが存在しない世の中になってほしい。

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著者プロフィール

1980年山梨県生まれ。2004年『冷たい校舎の時は止まる』で第31回メフィスト賞を受賞しデビュー。11年『ツナグ』で第32回吉川英治文学新人賞、12年『鍵のない夢を見る』で第147回直木三十五賞、18年『かがみの孤城』で第15回本屋大賞を受賞。『ふちなしのかがみ』『きのうの影ふみ』『ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。』『本日は大安なり』『オーダーメイド殺人クラブ』『噛みあわない会話と、ある過去について』『傲慢と善良』『琥珀の夏』『闇祓』『レジェンドアニメ!』など著書多数。

「2023年 『この夏の星を見る』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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