犬と鴉

著者 :
  • 講談社
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感想 : 18
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  • Amazon.co.jp ・本 (170ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062157735

作品紹介・あらすじ

戦争を通じて描かれる歪んだ家族の忌まわしき絆。鬼才・田中慎弥が到達した現代文学の真髄(『犬と鴉』)。家業を継がず一冊の本に拘泥するのはなぜか、父と息子が抱く譲れない思い(『血脈』)。定職を持たず母と二人で暮らす三十男、古びた聖書が無為な日々を狂わせる(『聖書の煙草』)。

感想・レビュー・書評

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  • 『犬と鴉』
    腹を満たすために悲しみを求める。戦争の相手国は犬を解き放ち、病人たち以外は犬に襲われて死んでいく。「わたし」は病人だから戦争にもいかず、犬にも襲われない。父は戦争から帰ってきて、図書館に立て籠っているらしい。会いに行った「わたし」を、父は拒む。

    『血脈』
    キールと呼ばれる竜骨(船の骨部分)を代々作る会社の六代目として生まれた六男。受け継がれてきた大量の本を処分しようとする父に六男は反発する。まだ自分のやり方はない。六十年前の本は読めないかもしれない。女の身体の感触は覚えた。受け継がれるのかわからないが、古い掟が書かれた本を六男は書き直すことにした。

    『聖書の煙草』
    三十三歳の男、無職。アパートで母親と二人暮らし。六十を過ぎた母親はパソコンも使えず、仕事がなくなりそうだが、息子のためにビールを買ってくる。息子はそれに甘えている。
    警察がアパートにやってきて、近所の強盗事件について聞き込みをしていった。息子は興奮し、夢中で自慰を行う。そして、自分が強盗犯だと思い込む。
    本屋で強盗はできなかったが、聖書の一ページを破り取り、息子は財布を持たないまま、バスに乗り込む。

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    最後に収録されていた『聖書の煙草』について。

    何者にもなれずにくすぶっていた無職の男は、強盗犯になる妄想に憑りつかれてバスに乗り込んだけど、結果はどうなったのだろう。
    ただの無銭乗車として怒られるだけだったのか、強盗もしくはバスジャックみたいなことをして凶悪犯になりきったのか。どちらにせよ、母親は悲しんだだろうな、と思う。

    母親しか味方になってくれる人がいない人生で、母親を悲しませること。そして、働いてもいないのに母親の金で酒を飲むこと。母親が瘦せてしまっているのは、無理して母親が働こうとしているのは、すべて自分のせいだと本当は気づいていること。

    人生の袋小路でもうどうにもならない母と息子、彼らの悲しい親子愛。

  • 「共喰い」の人、という印象しかなかったのだけれども。
    戦争と戦争と平和、そしてまた戦争。
    なんという残虐、なんという狂気。

  • 著者・田中慎弥さんの名前は芥川賞をとり話題になったので知っていたが、それでかえって天邪鬼的に読んでいなかった。文章が、表現が、うまい。うますぎる。手の中でくるくると言葉を回転させるような言い回しを得意としているようで、共感するような暗いような面白いような、さまざまな言葉の組み合わせに右往左往しているうち、作者の目指すテーマへと流されていく。表題作の雰囲気は、なんだか平山瑞穂さんを思い出した。こういう作風をなんというのか分からないけれど、僕が好きな作風だ。ほかの作品も読んでみよう。

  • 戦争、生と死、家族。「悲しみでお腹を満たす」しかない環境も、悲しみを糧に生きようとする方法も、辛すぎる。溢れるような表現で、心に突き刺さる表題作。

  •  図書館の貸出期限の関係で慌てて読んでしまったもったいない! また文庫で買って読み直してもいいなあ。

    ■犬と鴉
     悲しみでお腹を満たすことは、なんだかとても後ろめたいなあと思う。人々が黒い犬に襲われる理由が、何か悪いことをしたからだと考えたとき、一番に思い当たる。
     田中さんの書く、破裂しそうにパンパンになった風船みたいな小説を、ブブブスススっとガス抜きするようなラストが好きだ。鴉がオチをかっさらっていった。
     アーティスティックなアニメ作品とかになってても面白そうな。

    ■血脈
     五右衛門になれない六男の話。これはこれで、青春というか、反抗期の話なのかと思った。六男の独り立ちというか。
     勝手にオトナになっている背徳感。うふふ。

    ■聖書の煙草
     こういうニートのぐだぐだ話大好き。後半ヒヤっとするけど(ていうか、器物破損罪だと思うけど)思い切った悪事に走ることもなく、だらんと終わるのもいい。妙に長ったらしい一文がよくマッチしてる!!
     漱石の『それから』を思い出したけど、親のすねかじって偉くなったつもりでいる長井代助とくらべればかわいいもんです。ほんのりお母さんへの感謝とか愛情を感じられる。
     ニートは働かない言い訳をぐだぐだ言うものだよね。もっとも、働くのが当たり前とされている世の中では、たとえどんなに筋が通った事を言えたとしても、すべて言い訳として片付けられてしまうのだけど。

  • 表題作はまあ、一時期の芥川賞っぽい感じ。
    だいぶこの方の受賞した作品とは毛色が違って面白い。
    でも「聖書の煙草」の母ちゃんのたまんない感じが一番来る。

  • 「図書準備室」に続き本作を読みましたが、読んでいて作中の人物の顔が、著者本人の顔と重なってしまった… とにかく疲れたという感想しか持てませんでした。

  • 芥川賞を取ったのはもう1年も前だけど、とりあえず短編が面白かったから読む。

    今回も不思議な話が多かった。でも、掌編じゃなくて短編だから話もそこまですんごい飛び方とかしてない。むしろ整然とまとまっているというか。不思議感を残して終わっていく刹那の後味の悪さは健在。お薦めは「聖書の煙草」

  • 短編三つが収められています。
    田中氏は,高校卒業後,一度も定職に就いたことはなく,小説は二十歳ぐらいから少しずつ書いていたとのことですが,芥川賞を受賞するまで,母親がずっと生活を支えたという話を聞いたことがあります。その情景が「聖書の煙草」から少し読み取れます。
    田中氏は,自分をさらけ出すことができないから自分の作品はあくまで小説といいますが,詳しい本人の生い立ちはわからなくても,父親,祖父,戦争,母親というキーワードからにじみ出て来るものは既に私小説と感じます。また,彼は戦争について特に絡めています。祖父から聞いた戦争の話が彼の血や肉となって小説として出て来ているのでしょうか。

  • 人は悲しみで腹を満たす。
    自分の不幸ネタで、よく、自分の虚栄心?エゴ?を満たしている人を見るなぁと思う。
    表題作以外の2作が、あまり好きではなかったので★3つで。

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著者プロフィール

小説家

「2023年 『ベスト・エッセイ2023』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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