葛野盛衰記

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (458ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062158466

作品紹介・あらすじ

桓武帝に始まる平安京。帝に縁を持つ多治比の女の一族は、遠くから帝を見守り、長く都に想いを寄せ続けた。300年後、桓武平氏が歴史の表舞台に躍り出て、多治比一族に再び希望の光が射したのも束の間-。栄枯盛衰を繰り返す人間たち。ただ平安京のみが、変わらず栄え続けたが…。桓武天皇から平氏滅亡までを、都という存在に託して語る一大叙事詩。

感想・レビュー・書評

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  • 大好きな作者であり、文章のリズムも合っていると思っています。しかし、星は3つかなあと思いました。
    多才な作者の多彩な作品、平安期を舞台にした他の作品も面白く読みました。この度も平安時代そして中世が舞台ではありましたが、趣は大きく違い、それが多才ぶりを表していると思います。
    平安京ができるまで、そして、平安京から政治の中心が移るまでと大きくは二つの舞台、それが第一部と第二部として書かれています。約400年の時間の流れ。
    一章ごとに、精緻に描かれています。章が変わると、思いのほか時間が経っているのですが、なぜか、その大きな時間の流れが感じられません。すーっと読み進みます。しかし、それは仇になるようで……。登場人物間の関係がうまく心に残らない、引っかかってこない。系図が欲しいなあ、と思っていたら巻末に実在の人物の系図がありました。ネタバレにつながるから巻末にしたのかもしれませんが、冒頭にほしかったな。そして、この作品のために登場した人物の繋がり、人物との繋がりを明らかにしながら読み進められたらもっと面白かったと思います。自分で系図を書いていればよかったのでしょう。
    本作の主役、主族、彼らの位置づけがというか、彼らのかかわりがあまり書かれていません。山頂近くに降った雨がすぐに地中に潜った感じ。それが章の切れ間のあたりで小さな泉のようにわずかに湧き出てきます。そして、結末近くになって、扇状地の端っこで奔流となるように現れます。そのためか、一冊を通して語られている主役の動きが章とのからみで読み取れない感じがします。それが、読後感の何とも言いようのない不思議な感覚となりました。
    松林の中でいったい何が企まれ、どんな進み方をしたのか、ずっと伏せられたまま話が進み、松林を厭う者たちが主役と思いきや、読み終えてみるとそうではなかった。
    けっこう読後にいろいろと考えるには難しい作品でした。
    藤原薬子について、なるほど、と面白く拝読、
    章ごとに中心となっている人物の描写は本当に面白く引き込まれました。
    地下水の流れを読み切れなかった分、難しかったです。

  •  歴史小説の面白味の一つに、著名な人物の解釈や出来事の真相をいかに洞察して描き抜き、時代の流れの中に位置づけるか、というのがある。
     今作でも、“あれの落としどころをそう設定したか”と唸る箇所がいくつもある反面、“あの人物の言動としては随分そぐわないな”と首を傾げる箇所もかなりある。
     歴史上の人物たちに対する著者の好悪や関心の度合いが、露骨に反映されるのも歴史物の避け難い特徴ならば、それを時に柔軟に時にはシビアに見てしまうのも、歴史小説好きの性(さが)だろう。

     舞台は、長岡京から平安京へ。
     桓武帝に縁(ゆかり)ある多治比一族、それぞれの想いと末路。
     代々の為政者、その臣や近親、そして、皇統の陰に纏わりつき、密やかに糸を引き続ける者たち。
     人を翻弄する魔都の磁力。
     多くの者の視点を変遷し、時代は移りつつも、真なる舞台は、物言わず『そこ』にあり続ける都。
     その都を巡る壮大な叙事詩として、前半までなら★4をつけたいところだが、多治比の裔・桓武平氏の興亡に至るまでを描いた後半における描写は個人的には★2に落ちるので、総合点は★3とする。
     特に、その業績と評伝を冷静に振り返れば、平清盛という人間の解釈や、彼に科した(架空の)『咎』は、人物像としてあまりにちっぽけなのが惜しまれる。
     平家ファンとしての贔屓目もあるが、それを割り引いても、彼の度量や構想は、ここで書かれているほどチャチではない筈。
     何より、福原遷都の根拠を怨霊騒動に貶めず、祖帝の桓武天皇が仏教と癒着し過ぎた奈良の都を振り切って平安遷都を行った背景と重ね合わせて、宗教面における平安京脱却を意図させた方が、“平安の都に勝つ”ことを目指した多治比の後嗣として相応しいし、先祖伝来の願望が潰えた無常さをもって物語を締め括るという構成上の完結性も活きるのではないだろうか。
     敢えて読者の予想を外そうとしたのかもしれないが、史実上の清盛の器の大きささえこうも無下にされるのは耐え難く、ここは辛口の評を下さざるを得ない。

  • 時代を突き動かす大きなうねりに、ただただ圧倒された。表では権力者たちの栄枯を語りながら、裏では都というものに執念を燃やし続けた一族の暗い息づかいを描いている。福原にまでのびた「松」の影には背筋が凍った。表紙で渦巻く陰鬱な川の流れも、人々の心のゆがみをうつしたものか。読後にあらためて見れば、その濁流のような軌跡に引き込まれてしまいそうになる。

  • 日本の歴史を裏側から眺めたような物語。
    桓武天皇の若き日から、平家滅亡まで。つまり、まるごと平安時代ですね。
    連綿と続く民の思い。それぞれの思いに忠実に生き、時には存亡を賭けて戦い、不運に泣き、恋のもつれによじれ合う一族の命運。

    寧楽(なら)の都を厭う山部皇子(やまべのみこ)は、乙訓の多治比の一族の娘・伽耶を愛し、彼女の住む山背の地に長岡京を築こうとするが…
    造営責任者が暗殺され、葛野(かどの)川の水害も起こり、10年で断念。
    上流に平安京を作ることに。
    女帝の時代には傍流だった桓武天皇。母の出自が渡来系で低く、異母弟が立太子していたが、政争の果てに帝位が巡ってきたもの。
    伽耶は心から帝を愛しながら、森が恐ろしくて、住み慣れた家を離れることが出来ない。
    やはり多治比の娘で伽耶には姪のような存在の真宗が後に自分なら都へ行けると決意して帝の後宮に入る。葛原(かずらわら)親王を生んで、これが後に臣下に降りて桓武平氏の祖となる。
    真宗の双子の兄・耀(あかる)は、森に棲む少女に魅せられ、出奔してしまったままだったが‥

    藤原縄主(ただぬし)は桓武の東宮・安殿(あて)親王に娘が入内したのだが、大極殿のすぐ脇にある森で鳥に襲われ、屋敷の奥深く引きこもって暮らすしかなくなる。
    母親の薬子が身代わりのように安殿親王と関係が出来てしまい、醜聞となるが‥
    怨霊に脅える親王は平城天皇となるが、薬子でしか安らげない。
    有名な薬子の乱に繋がるが~当事者にとっては乱というような実感はなかった成り行きなのかも。

    森に棲む魔とは。
    北の地に住み着いた秦の一族とは…?
    やがて、天皇の娘が賀茂の斎院に。
    巫女となる女性が少女の頃から出てきて、不思議な雰囲気を醸し出します。

    平忠盛に嫁いだ宗子の視点、その息子の頼盛の視点から後半を描きます。
    次男の頼盛は正妻の子でありながら、清盛と比べると傍系のごとき扱い。
    後白河院と平清盛という強烈な個性を持つ二人に振り回される人生。

    本当としか思えなくなるような説得力があり、面白かったです。
    長い歴史のポイントを丁寧に描写し、ややこしい人間関係もぐいぐい読ませる筆力はさすが。
    宴の松原、糺の森、賀茂神社、広隆寺。
    今の京都に残る有名な地名や寺、仏像もまんま出てくるので、おそるおそる覗いてみたくなります。

  • 系図がほしいなと思いながら読んでいたら、巻末にあった.....。
    巻頭にさしこんでおいてほしかったな。

    前半のほうがおもしろかった。
    平家の話はいろんなところで読んでいるし、平安時代のほうが書くほうにとっても自由度が高くておもしろいのかも。
    「女」の描写がいつもながら上手い。

    荻原規子の「薄紅天女」と「風神秘抄」を読み返したくなります。

  • 葛野大路、葛野、葛野川・・・京都では市中から少し外れたその場所を中心に物語はゆっくりと展開する。遠く寧楽の都から乙訓に、御所、下賀茂の糺の森、六波羅と主人公を変えながら進む語りの中心は兄国と弟国の相克と交わり。操るのは地霊なのか人なのか。ゆるゆると立ち上る怪は時代の流れの中に姿を替え相を変え、人々の営みの中に巨大な力となり人を飲み込んでゆく。平氏とは何だったのか、天皇とは、貴族とは、歴史を作ったのはだれなのかをまったく別の視点から読み起こした不思議な物語。読後の本の余韻がめまいのようにどこかを揺らし続けるのはなぜだろう。

  • 「人は人を呼び、やがてその土地には地霊が力を張ってゆく。ますます人を呼び寄せる。それが都です」
    時々前に戻り登場人物を再確認したり史実と照らし合わせ時間をかけて読了しました。 途方もない大きな物語ですが読み終えてみれば、過ぎた歴史はあっというまでした。
    何人も何人もの人々の人生も一瞬でした。
    秦氏、鴨の一族、宴の松原、多治比の一族、下鴨神社、糺の森、広隆寺などなど。
    時代は移ろい、焦点のあたる人物も藤原縄主、薬子、平宗子、頼盛と変わっていき興味深いのだけど、恋愛などの心模様に頼り過ぎていたような気もします。心情を描く部分を少しだけ割愛し、政権などの時代背景を盛り込んでもらえたらとも・・・。でも、これが本作の味わい方なのかもしれませんね。

  • 7:今回は人にあらざるもの、特に「都」のお話。史実に触れつつ、森谷さんお得意の空想と史実の境目がぼやけていくような物語が展開されます。平家滅亡という史実を知っているだけに、後半は切ないですね……。多治比や秦の一族についてはぼやかされたままなので、「結局何だったの」と言われるとむにゃむにゃ〜、なのですが。土地と人との物語ですよと、ちょっと引いて見るのがよいのかもしれません。歴史はさっぱりわかりませんが、十分楽しめました。
    耀と真宗、讃良がもう……!(悶転)

  • 長い、長い物語。
    ひとつの土地に関わる人々の
    悲喜こもごもの人間模様。
    聞き覚えのある有名単語がちらちらと、
    長岡京、平城京、平安京、福原遷都、
    日本史で覚えた単語に血と涙と肉が通う感じ。
    とはいうものの
    あまりに長すぎて、実感?がわかないとゆーか、
    捉えきれない、とゆーか、
    ちょっとぼーっとしてしまう。

  • 平忠盛が冒頭に登場したので平氏の物語だと思いました。ですが、第1章は大分時代が遡ったので何の話なのか分からなくなりました。結局、都の話、その土地に根付く人間の権力へ執着の話ということになるのかなぁ。
     大河『平清盛』のシーンを思い浮かべながら、盛者必衰の物語を読了。

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著者プロフィール

1969年静岡県生まれ。日本画家・屏風作家。筑波大学大学院芸術研究科美術専攻日本画分野修了。渦巻きをモチーフにした屏風制作を行う傍ら、神社、寺院,協会への奉納絵画をライフワークとして続ける。 主な奉納・収蔵作品大徳寺聚光院伊東別院 墨筆による「千利休座像」軸一幅/駿河総社静岡浅間神社四曲一双屏風「神富士と山桜」。主な出版物 絵本『おかあさんはね、』(ポプラ社)/絵本『メロディ』(ヤマハミュージックメディア)/絵本『サクラの絵本』(農文協)/詩画集『国褒めの歌巻一』(牧羊舎) 
自身の日本画制作に加え、寺社奉納絵画、絵本制作、コラム等の執筆、講演会等を行う。人と人、人と自然、人と宇宙が穏やかに調和する日本文化の特質を生かし、新しい世界に向けたパラダイムシフトを呼びかけている。静岡ユネスコ協会常任理事。

「2020年 『ジャポニスム ふたたび』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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