不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生

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制作 : 中里 京子 
  • 講談社 (2011年6月15日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (466ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062162036

不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生の感想・レビュー・書評

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  • 医学・生物学研究において非常に一般的に用いられている培養細胞HeLa。あまりにも有名なその細胞の提供者となった黒人女性はどのような人物であったのかについてはあまり知られてこなかった。
    HeLa細胞が生まれた背景、その有用性と多くの利用例、そして遺族たちのその後の人生を、過去と現在、また一般人と研究者の視点を行き来しながら織りだしていく一級のノンフィクション。

    ヒーラ(HeLa)細胞といえば、少しでも細胞培養をやったことがある人なら知らない人はいないだろう。増えやすく、培養初心者でも失敗することがあまりない。私が学生だった20数年前、付着細胞でまず扱うのはHeLaという例が多かったと思う(今でもそうかな・・・?)。
    ヒト最初の培養細胞株であり、培養も容易であることから、ポリオのワクチンから遺伝子マッピングにまで利用され、また世界中の研究室で培養されている。

    HeLaという名前が、提供した人物の名前から取られたのは有名だが、私の学生時代には、「ヘレン・何とか」らしい、という極めて不確かな話しか漏れ聞かなかった。
    アメリカ在住白人である著者は、ふとしたことからこの女性の本名がヘンリエッタ・ラックスであったことを知り、どんな人物だったのかについて調べる決心をする。そこからすべての物語が始まる。

    著者が困難の末にようやくコンタクトを取ることに成功した遺族たちは、プライバシーの侵害や、自分たちが理解できない事柄に亡きヘンリエッタが利用されているという事実に戸惑い、また傷ついてもいた。遺族らは貧困や暴力の最中にあり、細胞の何たるかも理解していなかった。
    本書はヘンリエッタ・ラックスの一族の物語であるとともに、ヒーラという1つの細胞を軸足とした科学史でもあり、そしてまた、医療倫理を巡る問題に一石を投じるものでもある。

    著者は、一線の科学者らの論理と、教育レベルが高いとは言えない一般市民の感情の両方に目を向けつつ、この膨大な物語を出来うる限り公平な視点からまとめるという離れ業を成し遂げている。
    遺族の中にはヒーラ細胞から得られている収益を遺族も得るべきであると憤る者もいる。それにも一理はあるが、また、培養を確立した科学者らが決して私腹を肥やしたわけではない。治療の過程で採取された試料に関するガイドラインをどうしていくのかに関しては、まだまだこれから整備されるべき問題も多いだろう。
    本書中に登場する研究者の1人、レンガウアーの姿勢は、研究者のあるべき姿として非常に象徴的なもののように私には感じられた。彼がヘンリエッタの子どもたちに染色体写真を送るシーン、そしてヘンリエッタの細胞を見せるシーンでは涙を禁じ得なかった。遺族はやはり、何らかの形で報われるべきだろう。

    ヘンリエッタの娘デボラと著者との交流も、本書の軸の1つである。様々な困難を抱えながら、デボラは高潔な魂を持ち続けた人物であるように感じられる。母の死を巡る旅の果てに、デボラが少しでも救われたと感じたことを祈りたい。


    *ヘンリエッタの癌とその治療についても記述があった。激烈な症状だったようで胸が痛む。培養細胞の増殖能が高いということは、そういうことか・・・。

    *オプラ・ウィンフリー製作でドラマ化も企画されているらしい。

    *アメリカのノンフィクションの底力を感じる。

    *数ヶ月前の新聞記事に本書の原書についてちょっと触れられていて、訳書を待っていたところ、別の読書サイトで発刊を知りました。講談社ブッククラブにまで登録してたのに、そっち経由ではなかった・・・。

  •  読了後、ただ”凄まじい”と思った。10年もの歳月を調査と執筆に費やした著者の執念もさることながら、こんなことが現実に起こっていたのか、と驚くような出来事が多く記されていたことに。タイトルから「不死細胞」にまつわる様々なことが書かれている本だと思っていたが、実際には不死細胞だけでなくその元となったヘンリエッタの人生、ラックス一家の人生(とくにヘンリエッタの娘デボラの)、不死細胞による医学の進展という三つの物語まで描かれていた。さらに様々な要素、科学研究と倫理、人種差別、信仰……、本当にいろんなことが絡み合って存在している。面白いどころではなかった。医学や生物学、細胞とかに詳しくなくても存分に読めるので機会がある人には読んでほしい。

  • 「いつの日かこの子は、曾祖母のヘンリエッタが世界を助けたことを知るだろう!」
    「この子も・・・この子も・・・そしてあの子も。この一件は今や、こうした子供たちに関わる話だ。彼らはこの一件を自分たちのものにして、自分たちにも世界を変えられるということを学ばなければならない。」「ハレルヤ!」

    1951年ヘンリエッタ・ラックスは子宮頸がんの前身転移で亡くなった、しかし彼女のがん細胞(HeLa細胞)は培養される限り無限に増殖し、今では元々の彼女の体重を超えるほどになり医学に利用されている。それまでは細胞の培養はなかなかうまく行かなかった。これは細胞分裂の回数が予めDNAに組み込まれているためだがHeLa細胞はこの細胞分裂をカウントする仕組みにエラーがあり無限に増殖を続ける。同じことは彼女の前身へのがん転移がものすごく早いということでもあった。今ではHPVと言うウイルスが子宮頸がんの原因になることもこのウイルスがDNAに作用していることも知られている。

    HeLa細胞はがんの生検時に採取され本人や家族にはそれがどういう風に使われるかは知らされていなかった。このことが後に彼女の家族を苦しめる。HeLa細胞の最も良く知られる貢献はポリオウイルスの感染の診断に用いられたことであり、他にも放射能の影響や宇宙での影響など人体実験をする前の実験に用いられている。またネズミに移植してがんが発生するかの実験などが行われたこともあり無限に増殖する不死の細胞、動物と人間のキメラなどとセンセーショナルな扱いがされ残された家族にも多くのインタビューがなされたが家族には何が起こったのか正確なことは知らされないままであった。

    学生時代にHeLa細胞のことを知った著者はいつかこの物語を書きたいと思いラックス家族を追い求めて行く、やがて興味本位ではなく医学に多大な貢献をしたヘンリエッタ・ラックスがどういう人物でありどういう経緯でHeLa細胞が使われることになったかを調べることを娘のデボラはじめ家族たちに受け入れられて行く。
    デボラたちに取っての真実は科学的な事実ではなく、聖書の言葉「わたしを信じるものは、信でも生きる。生きていてわたしを信じるものは誰も、決して死ぬことはない・・・」ということだったようだ。一方でHeLa細胞によって得られた莫大な利益の一部は家族のものだという者もおり必ずしも美しいばかりの話ではない。患者に無断で細胞を採取するのも現時点でも違法ではなく、一方で遺伝子が特許になる時代に提供者には何の恩恵も無いと言うのは釈然としない話だ。

  • ヘンリエッタ・ラックスという黒人女性の細胞のおかげで多くの病気の薬が出来、医学の発展に大いに貢献したという話ですが、それだけでなく人種差別の問題などもあり、とても心が痛くなるところもあります。
    この方の子孫の方はもちろんのこと、もしも病気になった時には、人種や貧富など関係無く誰でも平等に病院で診察・治療が受けれる世の中になるよう願うばかりです。

  • こんな本が出たよ、というのは原書刊行の時点でネットで知っていたので、もーようやく読めた!って感じである。そして期待を裏切らない素晴らしい一冊だった。

    ヘンリエッタの一族やコミュニティと、医学・科学業界の双方について、未解決の問題である人体組織の研究上の扱いについて、1950年代から現在に至る黒人社会の姿について、若い白人のサイエンスライタである著者が丁寧に書いていく。自ら「不可知論者」と述べている著者にとって全く予想外の角度から物事を見ているラックス家側の人々に面食らった様子でもあるが、コントロールを失わずにまとめ上げた手腕は見事。

    母や姉の情報を求めて著者と探索の旅をするヘンリエッタの娘デボラの繊細さや意欲にも敬意を抱くが、末息子ザカリヤの変化には心を揺さぶられた。

    パトレイバーの劇場版3のネタ…と言って通じる人どのくらいいるかな。

  • もし自分の細胞が知らぬ間に世界中の研究機関で無限に増殖させられ、様々な実験に使われていたらどう思うだろうか。

    日常のいざこざの中に宇宙規模の不思議さが混ざる。

    この本は実際にこんな経験をした一族のドキュメンタリー。
    著者の人柄と取材能力に感服した。


    自分の細胞はもう自分ではないのか。自分から切り離された細胞とは何なのか。
    自分とは何なのか。

  • 凄まじい。科学、法律、倫理、人種、貧富、そして人間の感情が入り込むから一筋縄ではいかない壮絶な歴史が綴られている。科学の発展という栄光の陰にある生々しい事実を知らされる。この分野に詳しくない人間でも、この本を手にすれば引き込まれてしまう世界がある。

  • ヒーラ細胞が大々的な商取引の対象になっている一方で、元の細胞を(それとは知らずに)提供したヘンリエッタ・ラックスとその家族が差別と貧困に苦しんだとは、そんな理不尽があっていいものかと思うが、特別な細胞を提供できたのは彼女の功績なのかという気もする。2011年9月4日付け読売新聞書評欄。2014年1月12日付け読売新聞書評欄「空想書店」で円城塔が挙げた5冊に入っていた。日経サイエンス2016年5月号ブックレビュー。

  • 【請求記号】4900:2054

  • 不死細胞ヒーラ、その細胞の(本人は知ることなく)提供者となったヘンリエッタ・ラックス及びその家族の人生を綴った本

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不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生の作品紹介

彼女の名はヘンリエッタ・ラックス。だが、科学者には「ヒーラ」として知られている。1951年、貧しい黒人のタバコ農婦だった彼女の身体から、本人の同意なく採取された癌細胞は、のちに医学界のきわめて重要なツールとなる。それはポリオワクチンの開発、クローニング、遺伝子マップの作製をはじめ、幾多の研究の礎となった。しかし数十億個という膨大な単位でその細胞は売買されてきたにもかかわらず、ヘンリエッタは死後も無名のままにとどまり、彼女の子孫もまた健康保険すらまかなえない境遇に置かれていた-。倫理・人種・医学上の争い・科学的発見と信仰療法、そして、亡き母への想いと葛藤に苦悩する娘の物語を鮮やかに描いた『ニューヨーク・タイムズ』ベストセラー。

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