不死細胞ヒーラ ヘンリエッタ・ラックスの永遠なる人生

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  • Amazon.co.jp ・本 (466ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062162036

感想・レビュー・書評

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  • ◆読んだきっかけ

    少し前に、癌つながりで2冊の本を読んでいました。

    ・『「余命3カ月」のウソ』
      本屋で見かけて手にしたもので、「癌は治療しないほうが余命が長くなる」という主張をする先生の本です。(マユツバだそうですが)

    ・『打ちのめされるようなすごい本』
      「ああ、私が10人いれば、すべての療法を試してみるのに」という言葉が目に留まって購入しました。ロシア語通訳者であり作家でもある女性の書評日記です。

    こういった本を読みながら、癌や生死について考えていたときにふと、「自分の精神以外の部分が永遠に生き続けること」について思いつきました。自分の死後に細胞だけが生き残っていたら、それは自分であって自分でないのか…。哲学は苦手ですが、そんなことをふと思ったのです。

    ・人間の細胞だけが生き続けることは実際ありえるのか
    ・もし細胞が生き続けていたらどういうふうに扱われるのか

    これを解決してくれる本を探して見つけたのがこの本でした。
    読んでよかったです。新しい世界を見ることができました。

    ◆本書の概要

    この本では、章ごとに以下のトピックのどれかが登場し少しずつ全容が明らかになっていきます。章ごとに年代や主要人物が変わるので、まるで小説のようです。

    ・著者がこの本を書くまでの長期にわたる取材記録
    ・不死細胞ヒーラの持ち主であるヘンリエッタの人生
    ・ヘンリエッタの時代の医療、科学、法律
    ・ヒーラ細胞の功績や影響
    ・ヘンリエッタの子孫(特に著者と深く交流した次女のデボラ)
    ・現在の医療、科学、法律

    翻訳書ですが、不自然な訳もなく、堅苦しくなく、読みやすい本でした。高学歴ではないヘンリエッタの家族のためにも、原著自体が読みやすいように書かれているのかもしれません。

    著者はこの本を書くために人生の大半を費やしたそうですが、よくこんなに調べ上げて、よく体系立てた文書に落とし込めたものだと感服します。読み終わったあと、『白夜行』の読後のような、ふわふわとどこかへトリップした感じを抱きました。

    ヘンリエッタやデボラのヒューマンドラマとして読んでもいいし、黒人に対する差別の歴史として読んでもいいし、科学や医療の発展の歴史として読んでもいいと思います。

    「科学・医療の進歩 vs 人権・プライバシー・倫理」に関する双方向の意見は考えさせられます。

    ◆読書前&読書中に浮かんだ疑問と解答

    Q. 人間の細胞だけが生き続けることは実際ありえるのか

    ヘンリエッタ・ラックスという黒人女性の癌細胞が生き続けている。

    (ということをあらすじ及び序章で知りましたが、この本で尚も「癌」について触れることになるとは思っていなかったので、少し衝撃を受けました。)

    Q. もし細胞が生き続けていたらどういうふうに扱われるのか

    体外で生き続ける細胞というのがそれ(1950年頃)までなかったため、ヘンリエッタの不死細胞(ヒーラ)はとても貴重な大発見だった。増殖し続ける彼女の細胞は世界中の研究者に分配され、さまざまな研究に役立ってきた。現在ヒーラ細胞は重さ5千万トン(推定)を超え、大半の人がその恩恵を受けている(ポリオワクチンとか)。

    家族にとっては母親がまだ生きているような不思議な感覚がある。遺体を解剖されるのを嫌がる気持ちに似ていると感じた。研究者は細胞の持ち主のイニシャルをとって「HeLa(ヒーラ)」と呼んでいるので、持ち主の人生や人格まで考えを及ばす人は少ないようだ。

    Q. ヒーラ以外に不死細胞はあるのか

    同じく持ち主のイニシャルをとった「A.Fi」「D-I Re」などと呼ばれる細胞が後年発見されたが、ヒーラのように大量増殖していない。

    正常な細胞はあらかじめ決まった回数分裂すると死ぬようにプログラムされている(ヘイフリック限界)。ヘンリエッタの癌細胞(ヒーラ)にはその回数制限がないため死なない。現在の技術では、正常な細胞をある特定のウイルスや化学物質にさらせば人工で不死細胞を作り出すことができる。しかしヘンリエッタの細胞のように自力で不死化する細胞はほとんどない。

    Q. 売買される細胞の印税のようなものが持ち主や家族に支払われるのか

    一切支払われない。さまざまな議論があった(今もある)が、法的には持ち主を離れた細胞についてとやかくいう権利はない。

    奴隷時代の名残りがあったせいで、当時黒人は病院にかかりづらかった。無料で診てもらえる福祉サービスもあったが、患者に内緒で人体実験をされることも多かった。そんな研究で得た収益の還元なんてあるはずもなかった。

    Q. ヒーラ細胞は癌細胞なので、バイオテロができるのではないか

    ネズミにヒーラ細胞を注射した実験によると、ネズミは癌を発症する可能性があるようだ。人への感染の可能性は不明。

    白血病の女性十数名に対し、内緒でヒーラ細胞を注射した研究者がいた。当時は患者である被験者に同意を取らない実験が横行していた。癌を発症した患者がいたが、もともと癌を持っていたようだ。

    健康体への実験では刑務所で被験者が募集されることが多かった。罪滅ぼしのために受けたりするようだ。健康な被験者は癌を発症しなかった。

  • ヒーラ細胞(Hela Cells)。
    1951年から分裂、増殖し続ける世界で初めて培養がされた不死のヒト細胞。
    この細胞は、ガンを抑制する遺伝子の研究、ポリオ、ヘルペス、白血病、インフルエンザ、血友病、パーキンソン病の治療薬開発、乳頭の消化から、性感染症、虫垂炎、ヒトの寿命、蚊の交尾、下水道内作業が細胞に及ぼす影響など、多岐にわたる広範囲な研究で使われている。
    そして、現在も、世界中の研究室に保管、利用されている。
    この細胞の持ち主は、ヘンリエッタ・ラックス。

    この本は、この細胞がもたらした様々な出来事、ラックス家を苦悩させた様々な出来事、当時の人種差別の実態、医療技術開発にともなう人体実験の実態などが、ヘンリエッタの娘デボラと著者レベッカを通して書かれている。

    読み始めてから、一気に読んだ。
    時に、あまりのひどい有様に顔をしかめつつ、ラックス家の苦悩に悲しくなったりしながら。

    できたら、医療関係の方々には読んでいただきたい本だなーと思う。

  • ヒーラ(HeLa)細胞、即ち、ヘンリエッタ・ラックス(Henrietta Lacks)の癌細胞、について。
    その採取に本人の同意が必要だったのか。
    本人とその子孫は、経済的に優遇されるべきなのか。

  • このテーマで興味をそそられるポイントが2つあった。
    1つは、ヒーラ細胞と呼ばれる不死細胞は人間の不老不死へとつながるのか?
    もう1つは、医学の進歩に多大に貢献したヒーラ細胞の宿主およびその家族は、無知ゆえにか何も報償されず、普通の医療費さえ払えなかったという事実です。
    本書のインタビューがヒーラ(ヘンリエッタ)の娘ということもあり、ヒーラ細胞のもつ可能性の話よりも、医学の進歩に寄与した細胞は誰のものか?という点に重点が置かれたのはある意味仕方がない。
    そもそも、医学では当たり前なこの細胞の名を、本書によって世に知らしめただけでも大きな成果です。

    では、不老不死の可能性の話ですが、まずヒーラ細胞自体ががん細胞化することで初めて不死細胞となりえた点は重要ですし、ヒーラ細胞が女性からの細胞だったという点も偶然ではない気がします(女性の方が長寿)。
    不老不死という夢を実現するためには、がん細胞という増殖の歯止めが利かない異常細胞をどうやって飼いならすのか、そもそもそれはコントロールできるものなのか、もしくは人間を死ぬまで食いつくすがん細胞に代わる安全な増殖因子の発見という難問をクリアする必要がありますが、まだ現状では人間の不老不死の実現性よりも、ヒーラ細胞の生物学的なメカニズム解明の段階なのかもしれません。
    不老不死が将来の遺伝子工学の発展で可能になるのかという夢物語の一方で、自らの命を絶つ人間も多いこの世界はやはり不思議で満ちているようです。

  • 1951年に悪性の子宮頸癌で亡くなった

    30代のアフリカ系アメリカ人の

    腫瘍細胞を採取して培養すると、この細胞はそれまでのものと違い

    簡易に培養出来て、それが普通なら死滅してしまうのに対して

    培養地があればあるだけ永遠に増え続けると言う特殊性があった。

    この細胞はその簡易に増やせる所から、ありとあらゆる研究に使われた。

    その婦人の名前はヘンリエッタ.ラックス、その頭文字をとって

    通称『ヒーラ』と呼ばれる。

    あまりに増えて、あらゆる研究に使われたため、短い期間に

    世界中の人由来の研究の使われる事になった。


    あとがきにも、多くのページは、現在アメリカでは

    ほとんどの医療を受けた人の細胞は保管されていると

    思って間違いなく、医療措置後、廃棄物と見なされる

    細胞や組織はどんな研究に使われて、どんな成果を上げようと

    ドナーである患者に、何も還元されないし

    DNAを見れば個人が確定されるにもかかわらず

    個人のプライバシーの問題をはらんでいると、

    いう事に多くさかれているが、本編は違う。

    この作者,レベッカ.スクルートは

    普通高校1年の時に不登校になって

    そんなドロップアウトした生徒が単位を取るために通う学校で

    受けた授業の中で

    現在世界中で使われている細胞の持ち主の名前

    を知る事に。。。。

    その細胞を使う事で現代の我々が受ける恩恵の数々。

    赤ん坊が受けるポリオワクチン、ヘルペス、白血病、

    インフルエンザ、血友病、パーキンソン病の薬

    全てヒーラ細胞によって作る事が出来たのだ。





    だが、ここで、レベッカはそれだけで良いの?と思う。

    その名前も知られずに死んで行ったドナーは?その家族は?

    そこから、奨学金をもらい勉強する学生だったレベッカの

    地道で謙虚な取材が始った。



    レベッカが描いていたのは、もちろん科学的な事例も

    それにまつわる前例もあげながら、

    事実を丹念に、掘り起こしているのだが、

    私が一番感銘を受けたのは

    私たちがいきている今、大昔とは到底呼べない時に

    あこがれのアメリカでは、まだまだ人種差別があって、

    ウソのような仕打ちを受けた人々が居て

    日本では考えられないような教育の不平等、権利の不平等

    その険しい境遇の中で生き抜いた

    ラックス一族の境遇や

    亡き母の細胞だったと聞かされた時の激しい怒り。

    そんな人間ドラマに惹き付けられた。



    激しく自分をも壊してしまうような怒りの塊から、

    レベッカとのふれあいの中、変わって行くヘンリエッタの娘や息子。

    亡き母への想いや葛藤、人種問題、最新医療の問題など、、、。

    たくさんの要素が巧く描かれてさすがは

    2010年のアメリカのベストセラー

  • 生物学や生化学を修めようとしたことがある人ならヒーラ細胞については必ず聞いたことがあるでしょうし、扱ったことすらあるかもしれません。

    本書はヒーラ細胞そのものと、ドナーであるヘンリエッタ・ラックスさんにまつわる歴史というか物語です。

    ふとしたきっかけでヒーラ細胞についてWebで検索したのですが、その時にちょうど本書が邦訳で出たことを知り手にしてみました。

    この細胞については知識として学んでもその由来となった人にまで思いを巡らせることはありませんでしたが、それが出来てホントによかった。

    訳者の中里さん、どこかで見た名前だと思ったら『ハチはなぜ大量死したのか』の訳も手掛けた方でしたね。日本語としてこなれた読みやすい訳だと感じました。

  • ヒーラ細胞をご存知でしょうか?1951年黒人女性ヘンリエッタから、本人や家族の同意もなく採取されたがん細胞は、医学の発展に大きな貢献をしていきます。このドミュメンタリーの背景にある様々な社会問題、医療倫理の問題があり、とても多面的な内容を包括している本でした。

  • もし自分の細胞が知らぬ間に世界中の研究機関で無限に増殖させられ、様々な実験に使われていたらどう思うだろうか。

    日常のいざこざの中に宇宙規模の不思議さが混ざる。

    この本は実際にこんな経験をした一族のドキュメンタリー。
    著者の人柄と取材能力に感服した。


    自分の細胞はもう自分ではないのか。自分から切り離された細胞とは何なのか。
    自分とは何なのか。

  • 凄まじい。科学、法律、倫理、人種、貧富、そして人間の感情が入り込むから一筋縄ではいかない壮絶な歴史が綴られている。科学の発展という栄光の陰にある生々しい事実を知らされる。この分野に詳しくない人間でも、この本を手にすれば引き込まれてしまう世界がある。

  • ヒーラ細胞が大々的な商取引の対象になっている一方で、元の細胞を(それとは知らずに)提供したヘンリエッタ・ラックスとその家族が差別と貧困に苦しんだとは、そんな理不尽があっていいものかと思うが、特別な細胞を提供できたのは彼女の功績なのかという気もする。2011年9月4日付け読売新聞書評欄。2014年1月12日付け読売新聞書評欄「空想書店」で円城塔が挙げた5冊に入っていた。日経サイエンス2016年5月号ブックレビュー。

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著者プロフィール

アメリカのサイエンス・ライター。調査と執筆に10年以上を費やした著書『ヒーラ細胞の数奇な運命』は『ニューヨーク・タイムズ』紙ベストセラーリストになるなど高い評価を受けた。

「2021年 『ヒーラ細胞の数奇な運命』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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