岡本太郎という思想

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062166287

作品紹介・あらすじ

岡本太郎は画家であり彫刻家でありエッセイストでありしかし何よりも思想家であった。パリに学びバタイユの弟として生きた"考える人"の思想の核心に迫る。1930年代パリのコスモポリタニズムのなかで呼吸し、対極主義を方法として民族性/世界性の問題を展開させていった思想の軌跡。

感想・レビュー・書評

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  • 岡本太郎は、絵画、彫刻、書、陶芸、写真、建築、などさまざまな分野の作品を残している。その中でも「今日の芸術」を読めば、その言葉の威力が素晴らしい。私にとって、岡本太郎の放つ言葉は絵よりも刺激的だ。言葉自体に毒がひそんでいる。言葉に対して、実に真摯な人だ。そして、自分の目指すものを言葉で表現しようと試みている。
    民俗学者の赤坂憲雄が書いた本書を読んで、やっと岡本太郎の闘っていることの中味が理解できた。
    どうも岡本太郎の言葉の装飾にまどわされていたような気もする。『芸術は爆発だ』と言っている岡本太郎の断片しかみることができていなかった。岡本太郎を日本人としての思想家とみることで、はじめてその思想のあり方がみえる。岡本太郎は、描き、書き、考え、そして問題を追いつめる。作ると考えるとは矛盾の中にある。眼からそれをうけとり、言葉にし、絵にする。その思索の中で、「自分の存在」をたしかめていた。中心的には日本人として、日本と世界を明らかにしようとしていた。そこに、縄文があり、沖縄があり、日本列島があった。
    本書は、引用がたくさんあり、そのことが、岡本太郎の思索の深さを丁寧に説明する。また、様々な角度を変えて、それを論じる。そのことで、岡本太郎が浮き彫りになり、岡本太郎を裸にする。
    岡本太郎のマニュフェスト、「今日の芸術は、うまくあってはいけない。きれいであってはいけない。ここちよくあってはいけない」が、実に挑発的だった。そして、岡本太郎はいう「思索なきところに、これからの芸術はない」と。単に描く職人ではないのだ。
    岡本太郎は言う「思う存分のものを作り、また同時に破壊する造形の行動と、熟考・判断の筋とは全く違った手ごたえだ。造形の場合、私にはコミュニケーションを拒否する意志が強烈にはたらく。むしろ人に解られて欲しくない。つまり歴史的・文化的・時間的な枠を超えて、無目的に膨張したい。絶対的な爆発でありたいという意志。ところが思索する場合は自分自身をまず他者としておく。己の存在を二分して、ぶつけあわせ、コントロールし、問題を展開していく」という。
    絵を描くことと思索することは、全く違う矛盾の中に、自分を追い込む。
    そして、岡本太郎は「芸術はけっきょく生活そのものの問題だ」という。芸術は生活から生まれると思っているのだ。「芸術は、ちょうど毎日のたべものと同じように、人間の生命にとって欠くことのできない、絶対的な必要物、むしろ生きることそのものだと思います」という。
    岡本太郎は、18歳の多感な時に、フランスに行き、そして10年フランスで生活した。フランスで世界の芸術に会いながらも、戦争によって自らを日本という民族であることを理解し、日本に戻り、「芸術における民族性」を思索し、日本人として行動するのだ。
    フランスで、芸術を開花させた藤田嗣治は、戦争で日本に戻ったが、けっきょくフランス人として死んだ。二人の画家の生き様は、日本という国の見つめ方でもある。
    岡本太郎は、日本再発見ー芸術風土記を書き始め、日本列島を駆け巡るのだ。
    岡本太郎には、世界性であるグローバリズムと日本というローカリズムがせめぎ合うことになる。
    それが、岡本太郎の提案した対極主義という言葉に結実していく。常に対極にある。例えば、伝統と現代は対立するのか?それを「伝統はあくまでも形式ではなく、民族の生命力の発現として考えねばならない」といい、そして「伝統とは創造である」と見いだすのだ。この思索の系譜がなんとも素晴らしい。だからこそ、縄文土器に原始日本の芸術の息吹を感じ取れ、何もない空間を祀る沖縄に感動する。
    フランスにおいて、ソルボンヌ大学で哲学・心理学・民俗学を学んだ。その時に原始芸術を深く学び、そしてピカソの絵にあう。また、ヘーゲルの『精神現象学』を学ぶ。その時の学んでいる人はフランスの哲学を形成した人が多い。ジョルジュバタイユ、ジャックラカン、メルロ=ポンティ、レイモンクノー、ロジェカイヨワ、サルトルなどと一緒に学んだ。岡本太郎は、テーゼ、アンチテーゼ、ジンテーゼという哲学概念に対して、岡本太郎は「弁証法は正・反・合の歴史的時間ではない。対極は瞬間だ。だから私は『合』を拒否する。現在の瞬間、瞬間に、血だらけになって対局の中に引き裂かれてあることが絶対なのだ」という。バタイユは「否定性は、極めて豊かで、同時に暴力的で、大きな表現力を持った表象である」という。ヘーゲルの弁証法をそれぞれ、自分のものとして取り込み、そして次のステップに進む。
    岡本太郎が、日本と日本人にこだわりながら、原始人間の営みこそが、世界の共通の基礎になっているという世界性と民族性を捉える。さらに世界と日本、歴史と伝統、という対極に引き裂かれながら、言葉を生み出し、泥くさく芸術を生み出してきたことが、赤坂憲雄の深い考察によって、やっと一つの岡本太郎が浮かび上がってきた。とてもいい本だった。
    #岡本太郎 #対極主義 #赤坂憲雄 #伝統

  • 文化の非対称性を考える上でこの本の「たしかに浮世絵の芸術性は近代ヨーロッパが発見したものであり、浮世絵が印象派に大きな影響をあたえたことも間違いない。ところが、明治・大正期の日本人はヨーロッパの近代絵画に触れると、みな「印象派」になってしまった。印象派の画家たちが「浮世絵師」になることは、むろんなかった。そうした西欧側の受け入れ方と、逆に西洋文化の日本における受容のされ方との「決定的な違い」にたいして、太郎は注意を促したのである」という箇所は重要だ。広大な背景を持つ岡本太郎を語る上で赤坂憲雄は適任であると強く感じる。素晴らしい著作。

  • 岡本太郎すごい面白いんだけどなー。この本も面白いと言えば面白いんだけど。。。なんかあんまりわくわくするような面白さはなかった。今年は太郎が熱いから、もっと他の本を読む。

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著者プロフィール

1953年、東京生まれ。学習院大学教授。専攻は民俗学・日本文化論。
『岡本太郎の見た日本』でドゥマゴ文学賞、芸術選奨文部科学大臣賞(評論等部門)受賞。
『異人論序説』『排除の現象学』(ちくま学芸文庫)、『境界の発生』『東北学/忘れられた東北』(講談社学術文庫)、『岡本太郎の見た日本』『象徴天皇という物語』(岩波現代文庫)、『武蔵野をよむ』(岩波新書)、『性食考』『ナウシカ考』(岩波書店)、『民俗知は可能か』(春秋社)など著書多数。

「2023年 『災間に生かされて』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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