- Amazon.co.jp ・本 (410ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062167079
作品紹介・あらすじ
二十八歳で結核を発症し三十五歳で逝った子規。激しい痛みに堪えながら旺盛に表現する彼の病床には、漱石・虚子・秋山真之ら、多くの友が集った。近代日本の文芸表現の道筋を決めた、その"濃密な晩年"を描く。
感想・レビュー・書評
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正岡子規は、明治35(1902)年9月19日に亡くなっている。子規の生年は、慶応3(1867)年10月14日なので、満34歳と11カ月余りという若さで亡くなったのだ。
子規は明治28年に、新聞記者として日清戦争に従軍した帰路、船上で喀血している。結核であった。当時の結核とそれに伴う喀血は、ほぼ死を意味するに近かった。以降、正岡子規は完全な健康を取り戻すことはなく、最後の数年はほぼ寝たきりの状態で過ごすこととなった。
本書「子規、最後の八年」は、正岡子規が病を得た明治28年から亡くなる明治35年までの8年間の正岡子規の伝記だ。非常に丁寧な事実確認を基にしている一方で、物語的な語り方をしている部分もある。伝記であり、ノンフィクションであり、ある部分は小説でもある。
関川夏央は、コミックの原作を含めて多くの文人を題材にした著作を書いているが、私は、正岡子規を扱った本書が一番面白いと感じた。
正岡子規が登場する読み物としては、司馬遼太郎の「坂の上の雲」が思い浮かぶ。司馬遼太郎も、関川夏央も、正岡子規を肯定的に書いているところは同じであるが、「坂の上の雲」が正岡子規を書くためにつくられた物語ではないのに対して、本書は、上記の通り、まさに正岡子規を記録するために、書かれたものである。
関川夏央が、正岡子規を肯定的に評価している点は2点あるように読めた。一つは、夏目漱石等とともに、日本の散文の表現・文体の基盤を(巧まずして、と関川夏央は書きたかったようだ)作り上げたこと。もう一つは、多くの文芸家が正岡子規を中心に集まり、子規の死後も、日本の文学史に名を遺すような仕事をした人が多かったこと。正岡子規が「育てた」というわけではない。正岡子規のもとに集まった人たちが、何らかの刺激を子規、あるいは、他に集い来た人から受けたということ、「場」を(これも意図的ではなく、自然に)つくったことだ。
本書には、多くの登場人物が描かれる。高浜虚子、夏目漱石、子規の妹の正岡律、長塚節等が印象に残る。他にも樋口一葉などの、今の名を残す当時の文芸家が数多く、登場する。当時の時代の一面を描いた物語としても読める。詳細をみるコメント0件をすべて表示 -
難しかった。読むのに時間がかかった。
でも、終始、傍らに佇み、子規さんたちと共に居るような感覚になった。 -
これからは、歌よみとして生きるぞな。そう思い立ちこの本を読む。
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正岡子規が亡くなるまでの8年間を丹念に追った年代記。
最後の臨終に場面は、まるでその場に居合わせたかのような真に迫った記述が胸を打つ。 -
分厚い本でしたが、あまりの面白さに土日で一気に読んでしまいました。満足!
子規の前向きな生命力がすばらしく、「脇役」の高浜虚子、河東碧梧桐、夏目漱石、秋山真之、伊藤左千夫(その他多数)もそれぞれに良い味を出しておりました。
さすが、関川夏央さんですね。読み応えがありました。 -
『許す力』に掲載有
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正岡子規の生涯を追って作品やその背景を紹介した本。
交流のあった他の作家なども出てくるので、興味がある人にはいいだろう。 -
旧友である漱石や鼠骨、学友であった秋山正之、後継者と
期待した虚子、和歌の在り様で衝突した後弟子を自任した
伊藤左千夫、理解者で支援者であった陸羯南等々。明治
文化人オールスター祭りである。
日清戦争に従軍記者として参加した後、帰国する船上にて
結核を発症。各地で療養し、東京・根岸の家で子規が身を
預けたのは僅か六尺の病床である。
病の床に就きながらも人力車で外出出来た頃もあった。
それが、杖にすがって庭に出るだけになり、隣室への這って
の移動となり、遂には自ら寝返りを打つことさえ叶わなくなる。
野球を愛し、旅を愛した子規が、否応なく病床に縛り付けられ
るようになる。それでも子規の、文学への意欲は衰えない。
衰えないどころか、ますます「読者」へ向けて書くことへ、俳句や
和歌の近代化へと、子規を駆り立てる。
病室には旧友、俳人、歌人が多く集う。六尺の病床は確かに
広くはない。しかし、病床に縛り付けられた人がまいた種は、
その人の死後も果てしない広がりを見せた。
「のぼさんは清さんが一番好きであった」
子規の死後、老母が虚子に言う。時には反発を覚えながらも、
子規の後継者となった虚子は、老母のこの言葉に救われたの
だろうか。
子規の評伝では多くが漱石や虚子、碧梧桐等に多くの筆が
さかれがちだ。本書は子規の発病から死まで、身の回りの
世話に明け暮れた妹・律にも紙数を割いている。
なんか、嬉しい。 -
「歌よみに与ふる書」の激烈な議論が先入観となって、これまであまり子規には親しみを感じてこなかった。本書を読んで、やっと彼の人となりが、多少は分かった気がする。
身勝手で野蛮な一面を持ちつつも、社交上手で談話上手。だからこそあれだけ彼の周りに人が集まった。
本書では、子規のみならず、周辺の人物の人柄や、関係についても描写されている。例えば、母八重や妹の律。彼女たちについては死までのあゆみが分かる。虚子と碧梧桐の確執や、ロンドン留学中の漱石、弟子となった伊藤左千夫、長塚節と子規との関係などなど。どの程度脚色されているのか?という疑問が頭をかすめないこともないが、人間関係の機微を、小説を読む感覚で味わえる。
森まゆみの『鴎外の坂』ほどではないけれど、明治の時代の雰囲気に浸る気分が味わえた本だった。