きなりの雲

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著者 : 石田千
  • 講談社 (2012年2月1日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (218ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062172950

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きなりの雲の感想・レビュー・書評

  • 力を貸して。

    転校先に馴染めず、編物教室で大人に交じって黙々と編物をしていたちさちゃんが
    ある日の編物教室のあと、迎えにきたお父さんの顔を見るなり、言ったひと言。

    失恋の痛手で教室を休み続け、半年過ぎてやっと姿を現した講師のさみ子の
    あまりのやつれように心を痛めて、先生が元気になるようなお見舞いをあげたいから、と。

    編み方に迷うたび、さみ子がかけてくれた「力を貸しましょうか」の言葉を
    ずっとうれしく心の中に温めていて、
    学校でぽつんとひとりでいるときも、自分のためにはけっして言わなかったその言葉を
    大切な先生のために口にするのだ。

    そんな切実な「力を貸して」に応えて、ちさちゃんの両親が与えるアドバイスや
    そうしてちさちゃんが完成させたお見舞いの品物、添えられたカードの言葉が
    あまりにすこやかで、やさしくて、涙が止まらなくなって。
    このエピソードが綴られた『万能の薬』だけでも、読んで読んで!と
    本好きの仲間にふれまわりたくなってしまう。

    枯れかけたサボテンだって復活させてしまう液体栄養剤を見て
    弱った人間の気持ちにも、こんな万能薬があるといいのにと思っていたさみ子が
    声に出さない、出せない叫びを耳を澄ませて聴き取り、
    ちさちゃんのように手を差し伸べてくれるひとたちの存在に改めて気づき
    「だから、万能の薬はいらない」と、ゆっくりと歩き出す物語。

    さみ子が言う通り、編物と足あとはよく似ていて
    「行きと帰りと、歩く。表と裏と、編む。」

    編み始め、端までいったら裏返して戻ってくるのを繰り返すうち
    いつのまにかあったかいマフラーやセーターが編み上がっているように
    毎日家を出て、学校や仕事に行って、また家に戻ってくる繰り返しの中にも
    得がたい経験があり、成長があり、そしてかけがえのない日々が紡がれていく。

    羊の毛色そのままの毛糸で、大切な誰かのために編物したくてたまらなくなります!
    とりあえず私は、3びきの猫たちのために、猫ベッド用の敷物かな?

  • 聞きたかった音、と
    聞きたかった声、が

    チカ チカ チカと
    手元を時々明るく照らす光 みたいに
    満ちているな、と思った。

    編み物の先生であるさみこさんは
    ざくざくと
    セーターを編みながら
    天然な(元)恋人の、
    離れたり、戻ってきたり、の自由すぎる行動に
    困惑してる。

    うんうん、
    悪気はないよね…
    いい人だよね…

    大樹にもたれながら、
    はーっとため息をこぼす彼女の、
    それでも
    止まらない手元を見てるのが心地よい。

    一目、一目、縫い目が行ったり来たりを繰り返しながら
    やがて
    ふっくらと温かく
    体を包むセーターになっていくんだろうね。

    みんなそれが大好きで彼女を見守ってる。
    大樹も、
    そこからこぼれる
    チカ チカ チカの光らも。

  • 『山のぼりおり』は、途中で挫折してしまったけど、石田千さん、着実に進化しているって思った。すごいわ。最初は実際の話だと思って、さみ子=石田さん?とか思っていた。じろうくん、ずるいよー…とかハラハラした。


    枯れた植物。失恋してボロボロになったさみ子。都会の中の古いアパート。そこに息づく人々のささやかな暮らしぶり。縦の糸と横の糸がゆっくりと編み込まれていく気持ちよさが何とも言えない。「切株共存」と「きなりの雲」では、読みながら何で自分が泣いているのかわからないけど、気がついたら泣いてました。


    作品の中にたくさんの人の人生がぎゅっとつまっていて、あたたかさをと息づかいを感じた。


    アボカドやシャコバサボテン、ゴーヤが日々成長し続けて、それと共にさみ子の心も陽に向かい伸びてゆく。その姿を見ている読者も、人の持つ力強さや優しさ、温かさをもらえる。再生する力を教えてもらった気がします。心温まる一冊です。



    ●ほんとうに、なにがあるかは、生きてみないとわからない。127ページ

    ●…摩擦がないなんて、あるわけないのよ。こういう葉っぱだって、いろんなお天気にいつもさらされているしね。みんな洗われたり、擦り減ったりしているの。それで、こんなふうにけなげに見えるのよ。203ページ



    読み終えると、人が恋しくなるようなそんな気持ちになる。大切なひと(や家族)との時間を大事にしないと。



    =後日追記=

    ●全員おなじ糸でおなじものを編んでも、ぜんぶ違うようになりますからね、不思議なものですよ。理屈ぬきに、手はすごい。44ページ


    ●……だれかのためにつくるのは、幸せなことですね。やさしさが発揮できますものね。47ページ


    ●……いままで、ひとの気持ちを優先して、みんなが幸せならいいと思っていたんだ。でも、それはまちがいだとわかったんだ。まずじぶんが幸せでなくちゃ、みんなを幸せになんてできない。そう思ったんだ。48ページ


    ●液体のなかに、あぶくがひとつ浮かぶ。弱った人間の気持ちにも、こんな薬があるといいのに。50ページ


    ●うつむいてひとつずつ見ながら、編みものと、足あとは、よく似ていると気づく。行きと帰りと、歩く。表と裏と、編む。96ページ


    ●たのしいことを考えるのも、編みものとおなじように、慣れてくりかえすことだった。108ページ


    ●ほんとうに、なにがあるかは、いきてみないとわからない。127ページ


    ●……あのね。切れる仲と、切れない仲があるのよ。194ページ


    ●……摩擦がないなんて、あるわけないのよ。203ページ

  • 気持ちが少しざらついていて、本棚のお掃除をしました。
    本書でも、ちさちゃんが言っていますが、
    お掃除はいいですね。すっきりします。

    そして目に飛び込んできたのが、このきなりのセーター。
    さみちゃんに会いたくなって、再読です。

    枯れかけた植物のようだったさみちゃんが、
    元気を取り戻していく姿。
    やわらかな言葉と、毛糸のぬくもりに包まれて、
    今回も、心がゆっくりと澄んでいく感じがしました。

    ”ときぐすり”とでもいうんでしょうか…。
    同じところにとどまっているようでも、
    少しずつ、なにかしら変わっているんですよね…。


    一目一目、丁寧に編み進め、
    間違いに気づいたら、そこでいさぎよくほどき、戻ってやりなおす。
    そのくりかえし…。
    そしていつしか形になっていく。

    松本さんのような、おばあちゃんになりたい。
    一番好きな、きなりの糸で編み物がしたくなる。
    そしてやっぱり玉子サンドが食べたくなりました。

  • 失恋して何もかも投げやりに(死なない程度に生活するという勢いで…)過ごしていた主人公がきちんとした生活を送る中でゆっくりと前を進んでいくお話。

    タイトルと主人公の職業にちなんだ、あたたかい感じの表紙に惹かれて読み始めました。

    編み物教室の女の子の主人公への純粋な思いやりにぐっときました。
    人の手は貸すより借りる方が勇気がいるということ、すごく共感です。でも力になってくれる人は必ずいるから。肩の力を抜いて生きようと、優しく語られたような気分です。

    素朴で静かで、冬のあたたかい日のような、ほっとする文章が心地よかったです。
    作者はていねいに生活を送っているのかなぁと思わせる描写、この方の描く生活の空気がとても好きだなと思いました。

  • 大好き。一つの事を表現する言葉自体がみずみずしく美しく、自分自身に思いを膨らませられることはそう、なかなかないのです。何度でも何度でも読みかえしたい本が増えました。この作者の感性が好きな人なら人生の中で宝物になるような本です。アボガド・編み物・生き方。

  • 失恋のショックで崩れてしまった自分を形成するものたちを、主人公が少しずつ取り戻していく物語。
    いや、主人公の世界は確実に広がっているから取り戻すという表現は正確ではないな。
    編み物を一目一目編んでいくような静かでゆったりとした変化が丁寧に優しく描かれていく。
    とても安心させてくれる小説。
    人間て案外しぶといのかもしれないと思い、そのことを頼もしくも思う。

    石田千さんの本は2冊目。
    小説は初めて読んだけれど、エッセイと小説がとても近いなと感じた。
    こんな風に感じる作家さんは初めてかもしれない。
    とても好きだ。もっと読みたい。

  • 小泉今日子書評集をよんで知った石田千さん。
    きなりの雲はとても良かった。
    この本を読みながら、失敗しても良いから私も、人付き合いを大切にしたいなあと思うようになり、時には自分の頭の固さに辟易したり。
    昔やっていた編み物も、またやってみたくなった。
    図書館で借りたが、すごく気に入ったので、何度も読み返したいから買いました。
    この作者の他の本も読みたいと思った。

  • 大好きだった恋人に振られ、すさんだ生活を送っていた主人公の、再生の物語。

    最近読んだ『太陽のパスタ、豆のスープ』を思い出した。

    再生に必要なのは、規則正しいキチンとした暮らしと、一歩引いた優しい人たちなんだとしみじみ。

    石田千さんの作品は、エッセイも読んだけれど、小説の方が好きです。
    サラサラと流れるような文体に、ココロが洗われるようでした。

    『すこしつめていた息をほどく。ほうと、おおきくしろくのぼらせてみる。』こういう描写、たまらない。

  • 若い頃なら、途中まで進んで気に入らなかったらぜんぶ一からやり直すのかもしれないけど・・
    年齢を重ねていけばいくほど、どんどん守りに入ったり、何かを変えるのが怖かったり、臆病になっていくような気がする。
    さみ子さんも、きっとそうなんだよね。

    揺れ動きながらも、周りの人の優しさに支えられながらじょじょに前に向かって進みだす彼女の姿を読みながら思ったことは、行きつく先が見えないのはすごく不安ではあるけど、流れに逆らわず、心のおもむくままに進んでみてもいいのかな、ということ。不自然な色を身につけず、自分のそのままのカラーで。

    すごく静かな小説ですが、私の中では深い余韻を残しています。
    あえて主語が書いていないところも、またいいかと。

  • 新しさも派手さもない暮らし、だけどこんな丁寧に思いを込めて何かに打ち込めたりするのが羨ましいと思えるほど。静かに、でも前に向かって進もうとする姿を丁寧に綴られていてとても良かった。
    拳銃なんて異質な物も突拍子もなく出てくるけど、どこか微笑ましく物語を演出しているように感じた。

    この本に出てくるみんなが幸せに暮らしてほしいと思えてしまう。

  •  とてもやわらかく、繊細な感じがした。
    情緒的でふわふわと温かく、みずみずしさのあるとても女性らしい文章。ほっこりとさせてくれる。

     最近読んでいた作品に偏りがあったな、と感じさせてくれた本。
    簡単な漢字も、あえてひらがなで表現することによって生まれる柔らかさと、流れるように綴られる、独特の言い回し。
    味ともいえるその良さに、最初は少し読みにくさをおぼえた。編み物を通して語られる、普通の市井の人たちの、日常。ほどいてはやり直し、編み手によって選ばれた糸の色や素材、編み手の個性によってそれぞれ違う作品が出来上がるように、人の人生もそれぞれ。
    悩みながら、周りの人に助けられながらも、前を向いて行こう、と思わせてくれる。
     初めて石田千さんの小説を読んでみたけれど、他の小説も読んでみたくなった。

  • 恋人にふられ、日常生活をおろそかにしていたさみ子と、そのまわりにいる人たちのあたたかな繋がりが描かれた、静かな再生の物語。
    読んでいると優しい気持ちになれるので、心が疲れたときにまた読みたい。
    文章の書き方も、いつのまにかクセになる。全体的にお気に入り。

  • 少しだけ個性的なひとたちの
    なんてことない日常を描いた小説

    シンプルな食べもの、
    ラジオ、
    コーヒー、
    植物、
    古びたアパート、
    手芸店、
    レコード店、
    おばあさんやおばさんたち、
    素敵な世界で、ゆったりした気持ちになれた


    ちさちゃんが、
    バレンタインにランチョンマットをプレゼントするシーンがよかったなぁ

    〜ひとの手は、貸すより、借りるほうが、ずっと勇気がいる。
    力を貸して。
    声にしてみると、北風でがたんと窓がなった。植木鉢がふたつ、ならんでいる。土にさした万能の薬は、半分に減っていた。〜

    何度読んでも、胸が切なくなる
    凛とした気分になる

  • 編みものをするように、ゆっくり、丁寧にひとつひとつの言葉を重ねていく感じがした。
    読み終わってしまうのがもったいなくて、ゆっくり味わいながら読了。
    これからの季節にぴったりの一冊。

  • 「ほっこり小説」「ほっこり文章」はあまり得意ではないのだけれど、これはなぜか、とてもよかった。
    ちょっと独特な書き方をされる作家さんのようだけれど、でも、イヤな感じがしない。
    「うーん」と引っかかってしまう展開にも、「だよね」と共感できる主人公の感情がすっと書かれていて、ストレスなく読めた。
    玲子さんとじろうくんが、どうも好きになれないけれど、でも、それも込みで、おもしろかった。
    不器用なくせに編み物教室に行ってみたくなり(笑)、他の作品も読んでみたくなりました。

  • 可愛らしい言葉選びをする作家だと思った。
    この言葉選びは、多分、多くの女性にうける。

    主人公のさみちゃんはニット作家、40歳で失恋して、
    なんとか生きて、日常を取り戻したら
    元彼から電話がかかってくる。
    同じ頃に取引先の元同僚夫妻は妻に若い恋人ができる。

    これって、なんでもないことなんかじゃない。
    十分に日常に大波を起こす。

    少しだけ揺れるさみちゃんの気持ちもわかるが、
    前とは違うっていうところは、もっとよくわかる。
    取り戻した日常は、前の日常とは違うのだ。

    「やっぱりさみちゃんがよかったよ」という元彼、
    都合が良すぎるな。
    そんな元彼に、ベストを編んでプレゼントするなんて、
    「俺にはそんな愛はないっす、おとなっすね」
    という檜山くんに全く同感だ。

    若い恋人をつくった元同僚中野夫妻の妻は、
    これからも夫と一緒に仕事して、恋人とイギリスへ行く。
    笑って見送る夫。
    3人で一緒にごはん食べて、お喋りをする。
    わからん、わからん。ここは一切わからない。
    妙な状況の夫婦に
    「大丈夫ですか?」と聞くさみちゃん
    「時間だね」という中野夫。
    そこはわかる。
    どんなにどうしようもなくても、
    時間は過ぎて、どうにかなっていく。
    わかるけどわからん。
    シレッと笑う妻、玲子にイラッとする。

    人間って、年をとっていくと
    好きな人でも、そうでもない人でも
    縁が途切れてしまうことが、
    怖いのかもしれない。
    ちょっとそんな感じで、
    つながり続いているのかなと思う。

    何かを編みたくなる話でもある。
    私でさえ 小さなカバンでも編もうかと
    思ったな。

  • 主人公・さみ子のやさしさが、
    彼女の編んだ作品から、編み物教室の生徒や隣人たちに寄せる心づかいから、あるいは、植物にむける視線からも感じられ、暖かい気持ちになりました。

    一目ずつ針を動かし、コツコツと編み上げる醍醐味もさることながら、ほどけばまた元の一本の糸に戻せることも編み物の魅力ではないかと思います。

    羊の色そのまんまのきなりの糸で、何か編みたくなってしまいました。

  • 石田千さんの近年のエッセイや小説は、体調も精神的にもおつらい時期なのかな?と心配になってしまうような読感だった。
    この作品は暗闇に光を感じる、装丁のままの世界。

  • 失恋。四十歳。再生。『小泉今日子書評集』にて。編み物教室で講師をしているさみ子は恋人に振られる。つらさから立ち直るために美味しいものを食べたり、人と会話したりして、少しずつ元気を取り戻す。

  • さみちゃんと年の近い私。
    傷つくのも 傷つけるのも 怖いから
    ついつい そっけない付き合いになってしまう。
    そのほうがラクだし...なんて 言い訳を
    自分にしながら。。。

    じろうくんに似てる人。
    結局、ずっと見てる。
    すごく傷ついたときもあったし、
    傷つけたことも たくさんかも。。。

    くりかえしてもいいくらい好きだから、悩むんでしょう。
    切れる仲と、切れない仲があるのよ。

    そっか。
    なるほど。
    白黒つけるのは 苦手だけど
    ふとしたときにたどり着いた先に
    答えがみつかると いいな。
    そのときを 待ってみよう。

    そんなふうに思えた本。

    小泉今日子書評集 やっぱりいいな。

  • 石田さんの文、とても柔らかい。
    題名どおり、女の子らしいほわっとした印象。

    どこで思いきればいいのかな…さみさんのセリフに「参ったなぁ」って独りごちた。だから熱量をそそげる編みものとそれに関わる人達に出会って、少しづつ再生していく姿は読んでて嬉しくなった。生成りの雲。ふわふわ漂っているようで、染まらない自分があって。実は骨太だよね。ゆっくり育んでいくものに、確かなものがあると思うから、今日も明日も、小さな灯りをともして行けたらいいな。

  • 久しぶりの石田千さん。

    小説は初めて読んだけど、良かった。エッセイの時みたいに、すうすう読める(すいすい、ではないよね)。読み滞ることがまったくない。

    赤木さんの本読んだ後だし、「職人」、熱いなあ。

  • 芥川賞候補だったと思うけど、読みやすかった(笑)
    すごくやわらかくて素敵な文章。
    おだやかーに読める本。でもしばらくしたら忘れちゃいそう。
    職場の目の前にいきなりニットカフェがオープンしていた。流行っているのかな。

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きなりの雲の作品紹介

古びたアパートの住人たち。編みもの教室に通う仲間たち。大切にしていた恋を失くし、すさんだ気持ちから、ようやく顔を上げたとき、もっと、大切なものが見つかった。傷ついた心だけが見えるほんとうの景色。愛おしい人たちとのかけがえのない日々を描き、「群像」発表時から話題を集める著者初の長篇小説。第146回芥川賞候補作。

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