メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故

著者 :
  • 講談社
4.20
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感想 : 66
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  • Amazon.co.jp ・本 (370ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062174978

作品紹介・あらすじ

日本を崩壊寸前に追い込んだ福島第一原発事故。首都圏壊滅、3000万人避難の未曾有の危機に際して、官邸、東京電力、経産省、金融界では、いったい何が起きていたのか?『ヒルズ黙示録』で鮮烈デビューした著者が、菅直人、勝俣東電会長、経産省官僚などのべ100人以上の関係者を取材してわかった驚愕の新事実の数々。

感想・レビュー・書評

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  • 原発の事故に対して当事者が何をかんがえ、どう行動したのか新聞、テレビで見聞きしてきたが、ここまでまとまったものを読むと迫力がある。東電も、保安院も政府も手探りであったことがよくわかる。長年の油断が生んだ災害であることがよくわかる。災害もパワーポリティクスの種にされるという事実をこの本は突きつけてくる。
    管直人はそれなりに頑張ったと思う。
    東京電力や原子力安全保安院などはまったく事故を想定していなかったことがよくわかる。事故が起きないように努力していますと事故が起こっても大丈夫なようにしていますは決して対立概念ではないのに、予見できない未来に対して択一としてしまうところに問題があったのだ。
    国の未来を実に幼稚な論理できめてしまおうという態度がみられたのも気にかかった。

  • 日本を崩壊寸前に追い込んだ福島第一原発事故。首都圏壊滅、3000万人避難の未曾有の危機に際して、官邸、東京電力、経産省、金融界では、いったい何が起きていたのか?『三カク人間』が本当に目白押しです。

    いやぁ、この本は大変重いものでありました。3・11の東日本大震災の直後に起こった福島の第一原子力発電所の原発事故。メルトダウンというあってはならないことが起こったさなかで首相官邸や東電関係者。さらには経済産業省など、関係者のべ100人にも及ぶインタビューに始まり、数々の事実を丹念に重ね合わせた筆致に、あの事件が世界に与えた衝撃の深さと先の見えない復旧活動。それを尻目に霞ヶ関と永田町との権力争いの姿などが浮き彫りになっていて『あぁ、地獄というのはこの世になるんだなぁ』ということを思い知らされたような気がいたしました。

    前半部では、原子力発電所の電源が全てストップし、刻一刻とメルトダウンの「Xデー」に向かっている中で、首相および日本国家の首脳たちがいかに混乱しており、現場への命令系統や情報などが「おもんぱかり」などによって錯綜し、きちんとした支持が送れなかったことが書かれておりまして、以前ここで『前へ!』という本を紹介したことがありましたが、これは現場での動向が書かれていて、この本を読んで官邸側の様子と読み比べてみると首脳陣の混乱がそのまま現場で消火活動を行っていた自衛隊やハイパーレスキューに影響していたんだ、ということがよくわかりました。

    さらに、東京電力が『平時の会社』であり、偏差値エリートの頂点を極めたはずの従業員や経営陣が非常時になるとかくも脆いというのか、人間の『ありのまま』の姿がテレビでご覧になった方も多いのでしょうが、京電力の責任を可能な限り回避しようとする様子や、政治家とのやり取りが事細かに記されておりまして、ここで明らかになっていることは正直恐ろしいの一言に尽きるものでした。

    そして、本当に読んでいて気分を重くさせられたのは総理ならびに閣僚と経産省とのすさまじいばかりの権力闘争で、経産省側が仕掛ける『謀略』の執拗かつ狡猾であるさまと、それに足を引っ張られながらも何とか自分の『思い』を貫こうとする永田町側の綱引きは平時はいわゆる『怪獣大戦争』の世界で『あんたら大変だなぁ。でもそんなことは俺っちには関係ねえやな』といえるんですが、これを今でも被災地の仮設住宅でじっと我慢して暮らしている方や、チェルノブイリのときのプリピャチ市の住人の運命を彷彿とさせるような運命をたどりつつある発周辺の地域に暮らしていた人間がこれを読むとどういう気持ちになるだろうね、ということを感じずにはいられませんでした。

    結局、経産省の思惑通り、菅政権が崩壊したのは周知の事実ですが、この『日本国家の主人は政治家か官僚か?』というのは『ウンコ味のカレーか、カレー味のウンコか?』という話に近いものがあると思っていて、個人的には『普通のカレーを食わせてくれ』と叫びつつ、未曾有の大事故をいかに収束させていくのか?僕にできることはその行方を見守ってゆくとだけなのかもしれません。

  • 新聞は毎日読む。しかし、ひとつの事象に対して定点観測していることはあまり無い。細切れの情報を得ては忘れの繰り返しだ。これでは、特に大きな事件では全く全容は掴めず、情報ソースが少数では不足である場合にはなおさらだ。福島原発について、だ。ぼんやりとしか理解しておらず、何が起こったかを詳細に記している本を読んでみようと思い、手に取った。震災当日から管前首相退任までを描いている同書では、官邸・東電・経産省・金融業界の動きを追っている。実名で、誰が何をどうしてやったか、書かれている。協力すべきが出来ておらず、自分たちの持ち場を守り、責任を回避する事だけに終始した、そんな日本のスーパーエリート達の姿を描いている。組織は適切な人を適切に配置しないと機能しない。そして、組織と組織の橋渡しとなるキーマンがいなければ、協力体制がつくれない。
    そんな事をこの本を読んでまた痛感するとは。残念な発見だった。

  • 福島第一原発事故からわずか1年で、これだけの緻密なドキュメントが書かれたことは驚き。3部構成で、1章は事故直後の東電・官邸の情報錯綜や、相互不信が生々しく描かれる。事故直後のドキュメントとしても面白いが、「想定外の事象に、対しいかにリーダーシップをとって対処すべきか?」という観点でみると、とても示唆に富む。
    2章は東電の賠償責任をめぐる議論、3章は原発停止やその後のエネルギー政策の議論の行方をを扱っている。すなわち、タイトルにある「メルトダウン」当時の様子を扱っているのは全体の3分の1ほどで、その後の原子力政策をめぐる政治・官庁・東電の駆け引きに多くを割いている。
    読み始めた時にはその構成に違和感を感じたが、「事故後」の課題を多く扱うことにこの事件を旧聞にせず読者に受け止めてほしい、という著者の意思を感じた。

  • 原子力発電所の危機管理能力は日本に不在
    結局「米国頼り」独立国のレベルではない(148)
    これで原子力発電が国策とはおこがましい
    無責任極まりない

    莫大な国家予算をつぎ込み、原子力の権威・権勢をほしいままにしてきた「専門家」の誰1人責任を取ろうとしない
    1945年の敗戦と全く変わらない構図

    いま「コロナ」でも同じことが繰り返されようとしている
    日本国内の「専門家」というガラパゴスでしか通用しない「専門性」を振りかざして権威を見せかけて済むのは平時だけ。非常時・戦時に求められる「危機対応力」は皆無。
    そのお粗末さを見せつけられ、最後の帳尻は国民に。

    説明責任が皆無
    何かを隠しているか、判断が出来ないんだ(菅首相100)
    日本の人事システム(2年ローテーション)が専門家の育成を妨げ、素人集団の無責任指導体制にしてしまった
    安倍政権の内閣府集中体制はそれを加速
    もはや江戸幕府の末期か、サイパン陥落後の日本政府状態としか言いようがない

  • 政治家と官僚の化かしあい

  • 読んでいてずっとイライラしっぱなし。

    東日本大震災後の福島第一原発で、一体何が起きていたのか。実際にはメルトダウンが起こっていたのだけれど、どういう経過を辿ったのか。それを防ぐために東電は、政府は、どんな対策をとったのか。それを知りたくて読んでみたのだけれど、原発の経過について触れたのは最初の1/3ほど。あとは企業と政府と官僚のつばぜり合いが書かれていて、がっかり。

    テレビで報道されていた福島第一原発の吉田所長と東電本社のお偉いさんたちのTV会議そのままの、現場と管理者の緊迫度の違いが、この本の始めから最後まで貫いている。
    この本のあとがきにも書かれているが、筆者は東電・政府・経済産業省・原子力安全保安院のメルトダウンを描きたかったのだ。
    無策、緊迫感の無さ、責任転嫁、保身・・・。

    今まで何冊かの東日本大震災関連の本を読んできたが、そのどれもがあの困難な状況に立ち向かい、乗り越えてきた本ばかりだった。そして今後の対策を示してくれるものだった。けれど、この本には何もない。
    東日本大震災や福島原発事故で、私たちは今までの安全に対する感覚や、既成概念をぶち壊されたけれど、東電・政府・官僚たちは何も感じなかったのだろうか?「このままではいかん!」と思わなかったのだろうか?

    著者は、「結局何も変わらない」ことを知らしめるために書いたのだろうか。企業・政府・官僚のアホさ加減を暴いたという意味ではこの本は良書なのだろう。
    でも、後味がすごく悪い。

  • 1

  • 2012年29冊目。満足度★★★★★「読み始めたら止まらない」と本の帯にあるとおり、滅茶苦茶おもしろかった。

  • 朝日新聞記者によるドキュメント。前半が事故当時の官邸を中心とした状況で、後半がそれに続く東電救済、原子力政策を巡る駆け引き。全般に抜きがたい朝日臭みたいなトーンがたちこめて、いちいち仄めかされる価値判断がうざいのだが、直接の関係者に多く聞き取りをしていて当時の雰囲気(特に官邸の)が何がしか伝わってくるところは良かった。

    管首相が無理に介入して海水注入を止めた、という話も事情が整理されている。
    ・管が指示したのではなく東電側が勝手に慮って中止を支持した。
    ・東電があまりにだらしないとは言え、ムダに圧力を感じさせた責も官邸にあったか。
    ・で、実際は現場判断で注水は続いていた。現場はちゃんとしている。

    事故当時の対応を読んで思うのは、東京でいかにバタバタしようとも、現場での初動の事故処理には良くも悪くもたいした影響を与えられないということ(著者の考えは違うようだが)。そういう意味では名古屋から自衛隊機で戻ろうとした東電社長を被災者対応優先で戻らせた判断は妥当だった気がする。事前の想定&訓練でとにかく決まるのではないか。ただし収束期へのサポートは勿論必要だが。

    4号機の使用済み燃料プールの方が、覆う容器がなくて建屋が余震で崩れる懸念もあっただけにむしろ剣呑であったとは。

    東電救済は結局損失をうやむやに先送りするスキームであることが理解できた。損失負担候補者としては大きく・納税者、・電力料金支払者、・債権者に分けられる(被災者救済の完遂前提、株式価値は事故前に比べればゼロ同然になったとして無視)わけだが、まず債権者にヘアカットみたいなことを要請できるか。少なくとも電力債は建付け上難しいか(しかし、事故後も電力債を発行して銀行融資からの借り換えが進んでいるそうでこれは問題あるかなあ)と思われる。あとの2者の配分はバランス問題でしかないのだが。シナリオを書いた人は諸説あるようだが、そんなにバリエーションがあるわけではないので、諸説が言われるのも分かる。

    突然の浜岡停止宣言は、管ではなく海江田経産相からだったと。浜岡でトカゲのしっぽ切りをしようとする経産省の入れ知恵というのが著者の見立て。その後、管が一気に反原発へ行ったので成功したとは言いがたいが。

    ところで、いろいろな証言のなかでいちばん「おおっ」と思ったのはこれ。
    <blockquote>「菅さんは何でも自分でやりたがる人に見られるのですが、実は意外に他人にゆだねる人です。それで、菅さんから見て良い判断を、その人が主体的にしてくれることと期待する。だからギリギリまで任せきりで。ところが自分のまったく想定外のものを、任された人が持ってくると、菅さんは『違うだろう』とひっくり返してしまう。それで相手を怒らせてしまう。怒って離れていく人は、だいたいこのパターンなんです。」下村内閣審議官</blockquote>
    うーん、なんだかすごく分かるぞ。

    あとイチャモンだが、東電勝俣会長を「受験エリート」と揶揄しているが、早大卒の朝日記者だって、程度の差こそあれ世間一般では十二分に受験エリートであろうに。

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著者プロフィール

ジャーナリスト・ノンフィクション作家。1965年、東京生まれ。早稲田大政治経済学部卒。88年、朝日新聞社入社。アエラ編集部などを経て現在、経済部記者。著書に第34回講談社ノンフィクション賞を受賞した『メルトダウン ドキュメント福島第一原発事故』(講談社)をはじめ、『ヒルズ黙示録 検証・ライブドア』、『ヒルズ黙示録・最終章』(以上朝日新聞社)、『ジャーナリズムの現場から』(編著、講談社現代新書)、『東芝の悲劇』(幻冬舎)、近著に取材班の一員として取り組んだ『ゴーンショック 日産カルロス・ゴーン事件の真相』(幻冬舎)がある。

「2021年 『金融庁戦記 企業監視官・佐々木清隆の事件簿』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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