カマラとアマラの丘

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 359
感想 : 71
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062175272

作品紹介・あらすじ

いずれ迎える別離。それでも一緒にいたかった。廃墟となった遊園地、ここは秘密の動物霊園。奇妙な名前の丘にいわくつきのペットが眠る。弔いのためには、依頼者は墓守の青年と交渉し、一番大切なものを差し出さなければならない。ゴールデンレトリーバー、天才インコ、そして…。彼らの"物語"から、青年が解き明かす真実とは。人と動物のあらゆる絆を描いた、連作ミステリー。

感想・レビュー・書評

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  • 廃墟となった遊園地に存在する動物霊園の噂。
    自分の最も大切な物と引き換えに弔いをしてくれるという墓守の青年。
    現代を舞台にしたミステリ仕立てのダークファンタジー。

    連作短編が5編。
    『退出ゲーム』で見せてくれた冒頭からラストへかけての予想外の着地はここでも健在。ただし甘さや笑いは全くないビターな味わい。
    基本的に、不幸な動物たちが埋葬されるところから話が始まるので気分は重い。
    夢の中に居るかのような幻想的な世界観でありながら、登場人物の職種や人となり、事件の概要は現実的で妙に生々しい。しかしその匙加減が絶妙で不思議な読み心地。

    『カマラとアマラの丘』
    狼に育てられた少女の有名な逸話がモチーフ。
    ゴールデンレトリバー、そして心理療法士。

    『ブクウスとツォノクワの丘』
    雪男伝説と研究者。

    『シレネッタの丘』
    天才インコと殺人事件、そして密室。
    事件を捜査する刑事。予想だにしない結末。
    このあたりから物語がさらに凄みを増してくる。

    『ヴァルキューリの丘』
    ハーメルンの笛吹き男を追う弁護士。
    驚愕の着地点。
    この話が一番面白かった。

    『星々の審判』
    エピローグ的な位置付け。


    ミステリを読み慣れた方ならピンとくる仕掛けも中にはあるが、それにしても語り(騙り)の巧さよ。
    非現実的だと思える展開をぎりぎりのラインで「ありえるかも」と思わせる説得力。リアルとファンタジーの振り分けのバランス感覚。やっぱりこの作者は凄い。

    面白かったけど「是非読んで」とお薦めはしづらい。
    カワイイ表紙に釣られると、かなりどんよりした気持ちになる。

  • 「カマラとアマラの丘 ―ゴールデンレトリーバー」
    「ブクウスとツォノクワの丘 ―ビッグフット―」
    「シレネッタの丘 ―天才インコ―」
    「ヴァルキューリの丘 ―黒い未亡人とクマネズミ―」
    「星々の審判」

    初野晴さんの作品が大好きで、新作のたびに読んでいる。新しい何かを書いてくれる小説家さんだから。
    この『カマラとアマラの丘』も自分の求めてるものを与えてくれた。

    舞台は訳ありのペットが埋葬されるという夜の遊園地。そこで墓守をする不思議な青年のもとにやってきた者たちと、動物たちをめぐる出来事が中心となって展開される。

    非常に読みやすいが、ここにある物語は安易に「感動した」と言えないような重さを持つものばかり。
    人間の勝手な気持ちに搾取され、翻弄される動物たちの姿が描かれているが、その真相においては、単純なミステリにある謎の解明の驚き以上に、人間の傲慢な思いをはるかに超える動物たちの姿に衝撃を受ける。

    特に「シレネッタの丘」と「ヴァルキーリの丘」はすごいことになっている。

    「シレネッタの丘」
    既視感を覚えるほどミステリによくあるような一家の殺人事件と密室の状況が刑事の口から語られるのを読んでると、異和感を強く感じる。
    しかし真相で完全に自分を飛び越えられた感覚。強烈かつ、沁みる。

    「ヴァルキーリの丘」
    衝撃度ではこれが一番。利権絡みの醜い争いに、わかり合うことなどできないような少年たちの行動、そして動物たちが絡んだ恐ろしい推測。
    とことんまで俗悪にまみれさせた上で語られる真相。
    「シレネッタの丘」同様、心にどすんとくる物語になっている。


    あと思ったのは、犯人当て小説レベルにミステリとしてガチガチのものとは、そもそも前提というかルールみたいなのが異なっていることか。
    それぞれ「動物」というブラックボックス(この言い方もモノ扱いかも知れないが)がミステリとして見たときも根幹にあり、そうした既定不可能な生物を扱っているから生じてしまう空間がこの作品で描かれている。
    動物に思考はあるのか? 魂はあるのか?
    単純に切り捨てられないミステリの新しい方向性のひとつがここにあるのかもしれない。

    そして翻ってみれば、「普通」のミステリで対象とする人間たちも、突きつめれば「ブラックボックス」だ。
    本作は思った以上に、ミステリの根源に踏み込んでる気がしてきた。

  • 読んでいて気が滅入る。
    ただただ正論を延々と一方的に言われているみたいな気分になった。

    登場人物がほとんど同じ人のように感じたし、墓守の青年がどの立場に立ってるのかもよくわからなかったので、そこがもう少し納得がいけば評価も違ったかも。

  • 笹井一個のイラスト、壁紙プレゼントだって!
    『カマラとアマラの丘』初野晴|講談社ノベルス
    http://www.bookclub.kodansha.co.jp/kodansha-novels/1209/hatsunosei/

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    「別れの時、動物(ペット)と言葉を交わせたら。
    閉鎖された遊園地には、一人の青年が守る秘密の動物霊園があるという。

    廃墟となった遊園地、ここは秘密の動物霊園。奇妙な名前の丘にいわくつきのペットが眠る。弔いのためには、依頼者は墓守の青年と交渉し、一番大切なものを差し出さなければならない。ゴールデンレトリーバー、天才インコ、そして……。
    彼らの“物語”から、青年が解き明かす真実とは。人と動物のあらゆる絆を描いた、連作ミステリー。」

  • 同じ世界で、各短編が語られる。
    不遇の死を迎えた動物を葬う青年がいる。
    その死に至った真相を探っていく。

    舞台設定は綿密に設計されていて、論理で組み立てられた話を読んでいる感覚になった。

  • ミステリー ファンタジー。
    連作短篇集。

    人間と交錯したために、自然の摂理から外れてしまった動物たちの物語。

    月夜、廃墟遊園地の一画に必要とされたときだけ花に包まれた秘密の動物霊園が出現する。
    月光のもと、墓守の青年が動物たちを看取り、花葬する。
    青年は人間が脚色しない真実を、やわらかく、確かな口調で語る。
    少し心が痛む良エンド。
    情景が美しい作品。

  • 廃園になった遊園地では花が咲く。
    そこは動物たちを弔う場所だから。

    ふしぎな連作だった。ミステリー枠なのかな?
    1つめで綺麗にだまされて以降は警戒しました。笑。

  • 廃園になった遊園地に秘密の動物霊園がある。そこを訪れた者と墓守の対峙からなるミステリ。
    辻村深月の「ツナグ」とちょっと似ている感じもした。
    ミステリとしては謎部分がわかりやすいというか、冒頭から透けて見える。透けて見える部分を隠そうとしているのがわかるため、読んでいて文章がちょっともどかしい。ミステリとして読まずに動物もの?とか心情を主眼として読んだほうがよかったのかも。

  • (収録作品)カマラとアマラの丘ーゴールデンレトリーバー/ブクウスとツォノクワの丘ービッグフット/シレネッタの丘ー天才インコ/ヴァルキューリの丘ー黒い未亡人とクマネズミ/星々の審判

  • 人間の下で生き、死んでいく動物達にまつわるミステリー。その点ではノーマジーンを彷彿させる。
    死に直面する物語なので暗い画面だけれど、初野先生の柔らかい文章が救いにかわっていく様だった。
    特に内容では、ヴァルキューリの丘と星々の審判が好き。

    カマラとアマラの丘 ーゴールデンレトリバーー

    ブクウスとツォノクワの丘 ービッグフットー

    シレネッタの丘ー天才インコー

    ヴァルキューリの丘ー未亡人とクマネズミー

    星々の審判

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著者プロフィール

1973年静岡県生まれ。法政大学卒業。2002年『水の時計』で第22回横溝正史ミステリ大賞を受賞しデビュー。著書に『1/2の騎士』『退出ゲーム』がある。

「2017年 『ハルチカ 初恋ソムリエ 』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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