ローマ法王に米を食べさせた男 過疎の村を救ったスーパー公務員は何をしたか?

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062175913

作品紹介・あらすじ

「こうすれば人は動く!」
CIAの戦略に基づいてメディアを駆使し、ローマ法王にアラン・デュカス、木村秋則にエルメスの書道家、そしてNASAの宇宙飛行士や総理大臣も味方につけて限界集落から脱却させた市役所職員!

会議はやらない。企画書は作らない。上司には事後報告。反対意見は、知恵を使って丸め込む。本当に「役に立つ」のが「役人」です。

感想・レビュー・書評

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  • 先日、家でテレビを付けていたら、東大童貞男とAV女優が一日限定でルームシェアをするという番組がOAされており、思わず見入ってしまった。偏差値の世界では天下無敵の東大生が、AV女優に手玉に取られていくプロセスは、なかなか見応えがあり、放送後もずいぶんと話題になっていた。

    番組名が「ミズトアブラハイム」という名前であることを後から知ったのだが、水と油のように対極な二つが組み合わさると、情報が拡散されるという好例なのだと思う。

    そういった意味で、本書はタイトルからして秀逸だ。ローマ法王と米。この縁もゆかりもなさそうな、両者をタイトルに入れることができた時点で、PRの仕事の大部分が完了しているとも言える。はたしてこの両者が、どのように結びついていくのだろうか?

    舞台は石川県羽咋(はくい)市という、地方にある小さな市。主役は、市役所で働く一人の公務員だ。突然、上司から言われた「おまえみたいなヤツは、農林課に飛ばしてやる!」という台詞。まるでドラマのワンシーンのようなシチュエーションから本書は始まる。

    羽咋市の中にある神子原(みこはら)地区は、神子原、千石、菅池の3集落からなる農村集落だ。住民の多くが農家というこの地区の最大の課題は、高齢化率が高く、離村率も激しいということ。とくに菅池は高齢化率が57%にも達し、住民の平均年間所得は87万円。いわゆる”限界集落”と呼ばれるにふさわしい状況であったのだ。

    そんな限界集落を立て直すための特命を下されたのが、本書の著者でもある高野 誠鮮さん。本書は、後にスーパー公務員とも呼ばれることになる高野氏の奮戦記だ。

    著者は、神子原地区をにぎやかな過疎集落にするために、「山彦計画」と名付けたプランを立ち上げる。そしてそれを実現するための手法は、会議はやらない、企画書もつくらない、上司には全て事後報告でスピード化、予算は60万円というもの。全てが型破りのやり方であった。

    矢継ぎ早に繰り出したプロジェクトは「空き農地・空き農家情報バンク制度」「棚田オーナー制度」「烏帽子(よぼし)親農家制度」というものである。これらはいずれも、神子原地区に若者を多く集め、あるいは移住させることで、集落の人たちとの交流を図るという、過疎集落の活性化を目的とした施策であった。

    例えば、烏帽子親農家制度とは、主に学生などの若い人に農家に2週間泊まってもらって農業体験をしてもらうという制度だ。しかし、この制度には、旅館業法や食品衛生法にひっかかるのではないかというクレームがついてしまう。そこで「あくまでも仮の親子関係である」という事実を強調して切り抜けるために、平安〜室町時代から伝わる伝統文化「烏帽子親制度」になぞらえたのだ。

    この時に、特に著者が話題作りとして熱望したのが「酒が飲める女子大生」の受け入れである。このやり方など、いかにもTV的な手法なのだが、それもそのはず。著者は、大学在学時に雑誌のライターやテレビの構成作家の仕事をしており、テレビでは「11PM」や「プレステージ」なども手がけていた経歴の持ち主なのである。

    そして、その極めつけが、本書の標題ともなっているローマ法王を活用したブランド化戦略だ。大前提にあったのは、そもそも神子原地区のコシヒカリが非常に美味しいものであったということである。碁石ヶ峰の標高150mから400mの急峻な傾斜地にあるので、山間地特有の昼夜の寒暖差が激しいことから稲が鍛えられているのだ。

    しかし神子原米そのものが認知されておらず、なかなか売上に結び付かない。そのために話題作りが必要であったのだ。

    神子原を英語に訳すと、「the highlands where the son of God dwells」になる。「サン・オブ・ゴッド」は「神の子」、神の子といえば有名なのはイエス・キリストではないか。すると神子原は、キリストが住まう高原としか翻訳できないんです!
    ならば、キリスト教で最大の影響力がある人は誰か?全世界で11億人を超える信者数がいるカトリックの最高指導者であるローマ法王しかいない。
    そんな半ば強引ともいえる拡大解釈を経て、著者は本当にローマ法王へのアタックを開始する。そして、バチカン大使からの回答は、以下のような粋なものであったのだ。

    あなたがたの神子原は500人の小さな集落ですよね。私たちバチカンは800人足らずの世界一小さな国なんです。小さな村から小さな国への架け橋を私たちがさせていただきます。
    かくして、神子原米はローマ法王への献上が認められたのである。

    これには、さらに裏話がある。著者は最初からローマ法王を狙っていたわけではなく、そもそもは天皇陛下への献米を目論んでいたのだ。そして同時に、アメリカを米国と書くことから、アメリカ大統領へもアプローチをかけていたのだという。TV的にアイディアを考えて、Web的にトライ&エラーを繰り返す。ここら辺が成功の要というところだろうか。

    この他にも、米の袋にある「能登 神子原米」の文字をエルメスのスカーフをデザインした書道家の先生にお願いしたり、アラン・デュカスとのコラボレーションを行い、外国人記者クラブで記者会見を行ったりと、情報の組み合わせやベクトルにさまざまな創意工夫をこらし、確実に売り上げへと結びつけていく。

    世の中を動かすための「人」「モノ」「金」「情報」。多くの場合、モノを変えるということは簡単には出来ないだろう。そこで、人と情報を動すことからスタートし、最終的に金を動かすに至ったということなのだ。

    さらに僕が感心するのは、これらのPRの効果が一過性のものに過ぎないということを著者がよく理解しているということだ。著者自身、対症療法と根本治療という言い方をしているのだが、これらをあくまでも対症療法として行い、根本治療のための施策は別に打っていたのだ。

    その一つが、神子原米の品質維持のために行っている、人工衛星による食味測定だ。これは高度450kmの上空から、人間の目には見えない近赤外線を当てて、水田内の稲の反射率と吸収率を測定し、タンパク質含有率を計算で割り出す仕組みである。

    一般的に、タンパク質の含有率が6%以下だと食味が良いとされている。水田区画のどの部分が6%未満に相当するのか、パソコン画面に色分けで表示されることにより一目で把握することができるのだという。

    もう一つは、農家経営の直売所「神子の里」を開店したということだ。農林漁業の一次産業の最大の欠点は何かというと、自分で作ったものに自分で値段をつけられないことにあるそうだ。そこで、生産者自身が株主となって農業法人を作り、生産・管理・流通のシステムを作るという、まさに根本治療となる手立てを打ったのだ。

    普段、僕が仕事をしている中でも、本書の著者のように対症療法と根本治療の双方へきちんと目配りできる人というのは、なかなかお目にかかることが出来ない。目的意識がはっきりしていて、物事の本質をきちんと分かっている人なんだろうなと感じる。

    そんな著者が現在行っているのが、『奇跡のリンゴ』でおなじみ、リンゴ農家・木村秋則さんとの自然栽培に関するプロジェクトである。来たるべきTPPの時代にどのように打ち勝つか、そのための対抗策に取り組んでいるのだという。

    本書はいわゆる重厚なノンフィクションとは一味違うのだが、繰り広げられる手数の多さに、とにかく圧倒される。そして、著者自身が投げかける「最近の会社員、とくに大企業に務めている人は、公務員化しているようです。けれど、私は聞きたいのです。実際に動き出すのはいつですか?誰ですか?」という公務員らしからぬメッセージが、妙に頭の中にこびりついて離れない。

  • 今日、テレビでやっていた。


    ●2022年11月27日、追記。

    著者、高野誠鮮さん、どのような方かというと、ウィキペディアには次のように書かれています。

    高野 誠鮮(たかの じょうせん、1955年11月2日 - )は、科学ジャーナリスト、日蓮宗僧侶、立正大学客員教授、1994年から2006年3月31日まで金沢大学理学部大学院等の講師も務めた。平成28年度から新潟経営大学特別客員教授となる。東京大学朝日講座講師、京都大学公共経営論講師など非常勤講師も務めた。人事院国家公務員研修センター、東北自治研修所等で講師も務める。

    で、本作の内容は、次のとおり。(コピペです)

    「こうすれば人は動く!」
    CIAの戦略に基づいてメディアを駆使し、ローマ法王にアラン・デュカス、木村秋則にエルメスの書道家、そしてNASAの宇宙飛行士や総理大臣も味方につけて限界集落から脱却させた市役所職員!

    会議はやらない。企画書は作らない。上司には事後報告。反対意見は、知恵を使って丸め込む。本当に「役に立つ」のが「役人」です。

  • エビカツ読書会でオススメされて、気になっていた一冊。
    「限界集落」との言葉に、結構な衝撃を受けました。

    舞台となるのは、石川県羽咋市は神子原地区、
    65歳以上の人間が半数を超えた「限界集落」の、再生の物語となります。

    個人的に、石川県は前職で出張三昧だったこともああり、身近に感じることも多く、
    口中で溶ける寒ブリとかカニとか、未だに忘れられません。。

    さて本書は、題名が示すとおりに、ローマ法王にコメを献上した、
    高野誠鮮さんという、羽咋市の職員さんのお話しになります。

    ローマ法王に日本米をという発想もですが、そこに至るまでの過程が凄い。
    サラリーマン時代のナレッジがベースにあるとしても、コアになるのは「熱い想い」なのでしょう。

    「可能性の無視は、最大の悪策」「1%でも可能性があれば、とにかくやってみよう」という、
    高野氏のポジティブな姿勢がとても爽快で、自身に照らし合わせると、トホホな気分にも。

     「犯罪以外は全部責任を取る」

    そしてまた、そうした熱い想いを支える上司がいるのも、頼もしい。
    公務員の本質とは、文字どおりに「公僕」であるべきなんだろうと、あらためて。

     「いなくてはならない公務員」

    昨今では、公務員(特に官僚)機構の歪みばかりが強調されがちですが、
    そんな歪みばかりではなく、地に足を付けた方々がいるんだよなぁ、と。

    ちなみに、こちらと前後して読んでいた『神去なあなあ日常』ともシンクロして、
    地場の産業の立て直し、限界集落の実情等々、非常に考えさせられました。

    ん、社会に関わってかつ、還元していくとは、、うーん、悩ましい。

  • 少しでも可能性があればやってみる。そうすればおのずと視界が開けてくることがあると教えてくれる本。
    でもそれはやりたいことがある意欲があることが大前提。著者の前向きな姿勢に感服。

  • タイトルでまず魅せてくる、そんな本ですね。
    でも、中身も充実していて、決してタイトル負けしていません。

    著者は地方公務員の一人ですが、
    ちょっとした役所内のトラブルから街興し(村興し⁉)を
    担当することに。
    予算もほとんどない中、著者のユニークなアイディアにより、
    どんどん村の人や農協を巻き込んでいき、
    村を再生させていくというストーリー。

    あまり馴染みのない分野でしたが、
    異分野でも役立ちそうなアイディアと著者の積極性は
    とても学ぶことが多かったです。
    こういう人に政治を任せたいものです。。

  • 『感想』
    〇著者のひらめきと行動力に驚いた。そうだ考えているだけでは何も変わらない。行動して、成功したならよいしダメだったとしても次の行動につながる反省ができる。

    〇こういう人は周りからの好き嫌いが激しそうだ。結果を出すことはもちろん大切。だがそれだけで社会は動かない。ルールがあるのは責任逃れをするためだけではない。個人でなくチームで仕事をするための土台を作っているんだよ。

    〇本人は会議も企画書も作らず、上司には事後報告かもしれない。だがきっと代わりにその役目を果たしている人がいるのだろう。その人に感謝しないといけない。

    〇ロシアもアメリカもローマ法王からも手紙の返事が来たのに日本の総理からは来ないなんて、別に悪いことしてるわけじゃない。手紙を出す自由があるように、返事を返さない、もしくは読まない自由もある。

    〇本には成功談ばかりが書いてあるが、失敗も同じくらいあるのでは。それはどう対処したのだろう。

  • 図書館でいつも通り適当に手に取ってみた本。最初題名から、ローマ法王が普段食べないものであろう美味しい米を生産してそれを売り込みに行った話なのかと思っていたのであるが、この本の内容は題名よりも、それを元にして限界集落を、過疎化の町を、農家を、関わりあう人々の意識や考え方、そして行動までも変化を起こさせて行った著書の激動の公務員人生の一端を描いたものである。
    著者のバイタリティには尊敬に値するものがあり、こういった本にありがちな自慢を匂わすものでなく、苦節をしているにも関わらず、考えに考えて策を講じるだけでなく、確固たる信念を持って行動して、そして感謝を忘れない姿勢が行間に滲み出ている。
    また文書は交渉などの場面では田舎の口語体が出てきて臨場感があるも、本当にこう言われたとイメージと理解がしやすく、また読む側としても面白味と活力を得られるものだけでなく、何かを立案するのに役立てられるこの本はまさに一読するに値し、借りるだけでなく、買いたいと思わせる良書である。

  • 石川県羽咋市の公務員・高野誠鮮さん。
    過疎の進む町を注目の町にした「スーパー公務員」と呼ばれた方。
    その方法とは…いままであった保守的な考え方をひっくり返す驚きの方法だった!?

    という内容です。

    読み進めていくと高野さんのプレゼンと考え方にどんどん引き込まれていきます。

    田舎にありがちな保守的な反対派。
    成功を約束されないと腰をあげない人々。
    補助金頼りになってしまった農家を自立させるためにとった秘策。
    日本がダメなら世界へ発信したらいいというグローバルさ。

    特に「よくわかってるな~」と思ったのがマスコミへのPR方法。
    と、思っていたら…
    高野さん元々は番組の構成作家さんだったのね。
    納得。
    だからこそ俯瞰で見れる目線があるのね。

    日本の田舎には誇るべきものがたくさんあるのにそこに住む人は近すぎて見えないし、自分の住んでいる場所に誇りを持てない。
    そこの価値観を崩した高野さんの手腕は本当にすごい!

    そしてこの本の最後に書かれた言葉がまた印象深い。
    その人の生き方は葬式に表れるという話。

    出世したいからではなく、多くの人に喜んでもらうために動くこと…。

    私も一度、神子原に行ってみたいと思いました。

  • 著者の講演後、購入。「何か、あったらどうする。」実際に多く聞いてきた言葉。今までどおりて、前例踏襲で思考停止の場合も多いだろう。
    可能性を無視せず、思源を尽くす。公務員の法律は、ある意味、何もしないのがいいことに解釈でできるものも多い。

  • 石川県羽咋市神小原地区。高齢化率54%の限界集落を救う為に農家の為に働く公務員の物語。(1)生産者が生産、管理、販売のサイクルを持てないことが農業の最大の欠点。直売所による考え販売する農家への転換。(2)看板がないから来る。情報化の時代、情報が少ない事が田舎でのビジネスを成功させる。皆が立ち寄る神音カフェの事例。(3)神小原米。”the highlands where the son of God dwells” ローマ法王ベネディクト16世に手紙を書く。勝手に自主規制して何もアクションしないのではない。(4)可能性の無視は最大の愚策。1%でも可能性があるなら徹底的にやってみる(5)頭を下げて売ると定価の25%は差し引かれ、輸送費、袋、保冷庫代もセーラー持ちになる。希少価値を持たせ、流通をコントロール。(6)近い人間、存在は全部過小評価。外の評価が重要視。外からの情報で固める外掘作戦。(7)論理だけで動けるなら人間の存在は首から上だけで十分。自転車も転ぶうちにどうにかバランスをとって乗れる様になる。(8)頭の中は無限の世界。ぶっ飛ばせる、どこへでも。何でも考えてみる事に価値がある。(9)従前の裁量権を持った人たちの判断が正しかったら集落はこうは疲弊していない。…誰かが梯子を掛けて電球を変える必要がある。

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著者プロフィール

1955年、石川県羽咋市生まれ。科学ジャーナリスト、日蓮宗妙法寺第四十一世住職、立正大学客員教授
テレビの企画構成作家として『11PM』『プレステージ』などを手がけた後、1984年に羽咋市役所臨時職員になり、NASAやロシア宇宙局から本物の帰還カプセル、ロケット等を買い付けて、宇宙科学博物館「コスモアイル羽咋」を造り、話題になる。1990年に正式に職員となり、2005年、農林水産課に勤務していた時に、過疎高齢化が問題となった同市神子原地区を、年間予算わずか60万円で立てなおすプロジェクトに着手。神子原米のブランド化とローマ法王への献上、Iターン若者の誘致、農家経営の直売所「神子の里」の開設による農家の高収入化などで4年後に“限界集落”からの脱却に成功させる。2011年より自然栽培米の実践にも着手。2016年4月から立正大学客員教授、新潟経営大学特別客員教授、妙成寺統括顧問や富山県氷見市で地方創生アドバイザーなどとしても活躍。著書に『ローマ法王に米を食べさせた男』(講談社+α新書)、『頭を下げない仕事術』(宝島社)。

「2016年 『日本農業再生論 「自然栽培」革命で日本は世界一になる!』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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