最果てアーケード

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  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (226ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062176712

感想・レビュー・書評

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  •  町の大半が焼ける火災で、唯一残ったアーケード。町の再開発でできた新しい建物のかげに忘れられたように位置する小さな店には、数こそ少なかったが、店主の思いを組むように様々なお客がやってくる。
     大家の娘で、アーケードの店の商品の配達係をする女性と、変わった商品を扱う店、そこに足を運ぶ人々のやさしい物語。

     使い古された様々なレースを扱う「レース屋」、剥製づくりに使う様々な義眼をそろえた「義眼屋」、生地の詰まったシンプルなドーナツだけを売る「輪っか屋」、アーケードで一番の長老ノブさんが店主の「ドアノブ屋」など、怪しげな魅力に満ちた店の数々。読んでいくうちに、いつの間にかそこに足を運んだような錯覚をしてしまうほどの、情景描写。小川洋子さんの魅力たっぷりの世界観です。酒井駒子さんの表紙もいい。
     モチーフは秀逸ですが、ノスタルジックな空気に満ちているので、小川洋子さんを初めて読む方にもおすすめ。
     少しずつ、味わって読んでほしい作品です。

  • 失ったもの、決して戻ってこないもののうつくしさを、この人以上に描ける人がいるだろうか。
    謙虚で、儚くて、そして愛しいものたち。

  • 吹きだまりのような、それ以上行き場のない場所。ふとした隙に入り込んでしまう。生と死は紙一重。

  • 小川さんの小説はどれも寂しい。
    生きていればいずれは向き合わねばならない喪失を、小さな日常のなかで辿っていく。残された物や忘れ去れた記憶をもとに喪ったものの外縁を丹念になぞる。不確かな世界で確かなものがあるかのように。その細やかさと丁寧な描写が読んでいて落ち着く。
    「さよなら」。と一言いうために、人は長い長い時間が必要で、多くの言葉と物語を紡がないといけない。だから寂しい。そのようなことを小川さんの作品を読むと毎回思う。

  • 久しぶりの読書。小川さんらしい文章。スーッと世界観に入り込めた。
    少しさみしい感じだけど、時間がゆっくり流れている。心がスーッと静まった。

  • こないだプレゼントとしてもらった小説。

    不思議なアーケード街の物語。
    レース屋さん、勲章屋さん、義眼屋さん、ドアノブ屋さん、輪っか屋(ドーナツ屋)さんetc
    寂れた最果てのアーケードに、何かを喪った人々が、必要なものを買い求めに現れる。
    主人公の“少女”の視点で物語は進んでいく。傍らにはいつも犬の“ベベ”を連れて。

    形式としては短編の連作というつくりなのだけど、時系列が行ったり来たりするところが少し謎解き風でもあって、最終章を読んだときにすとんと腑に落ちた。
    そして酒井駒子さんの絵が大好きな身としては、表紙を見ただけでテンションがあがった(笑)
    この表紙の意味も、読んでいけばわかる。

    少女、アーケードの人々、客として訪れる人々、すべての人たちに孤独が流れているような雰囲気。ファンタジックで物悲しい。
    読み終えて、私が買いに行きたいものってなんだろう、としばし考えた。
    過去に戻れないことはわかってるし戻りたい願望もそんなにないけれど、「これをし忘れてしまった」と思うことはいくつかあって、欲しいのはきっと、それにまつわる何か。

    心にぽっかり空いた穴を埋めるために、人々は最果てアーケードを目指す。
    この世のどこかにありそうな気がしてしまう、不思議な物語でした。

    • 円軌道の外さん

      夜さん、こんばんは!
      たくさんの花丸ポチいただきながら、お返事遅くなりすいません!

      実は本業であるボクシングの試合で怪我をして
      ...

      夜さん、こんばんは!
      たくさんの花丸ポチいただきながら、お返事遅くなりすいません!

      実は本業であるボクシングの試合で怪我をして
      去年11月から先月まで入院しておりまして…(^^;)
      体調は良くなりつつありますが、
      まだリハビリ中の身です。

      でこの小説、僕も大好きです。
      美しく荘厳な絵柄の酒井駒子さんと
      小川さんのコラボってだけで僕も狂喜乱舞しました(笑)

      小川さんの小説はいつもどこか
      死の匂いを感じるんやけど、
      それと同時に、
      終わらない『永遠』を感じさせる瞬間もあるんですよね。
      そしてどんな残酷なシーンを描いても品性を損なわない、
      甘美でいて静謐な文体もかなりツボです。

      それにしても夜さんの本棚は
      僕の好きなものとかなりカブっているので、
      読みたくなる物が多くていちいち反応してまうし、
      夜さんのレビューは自分が感じたことを言葉にするのが本当に上手いので、
      何度も頷きながら読んじゃうんですよね(笑)

      まだまだ寒い日は続くみたいですが風邪など引かぬよう、
      また素敵なレビュー、楽しみにしています!

      今後ともヨロシクお願いします(^^)



      2015/04/09
  • 静かで、悲しくて、冷たくて、でもやっぱりほんのり暖かい。
    ちょうど今の季節みたいに、寒い部屋の片隅で火をゆらゆら揺らしているストーブにあたっているような、そんな感じ。



    読み終わった後に表紙を見ると、ジーンときます。

  • 小川洋子さんの描く世界は不思議過ぎるのに何故か溶け込める。
    完全に感情移入していたぶん映画館のエピソードは辛かったです。ずっとこのアーケードの世界観に浸っていたかったのに、もったいないくらいのスピードで読んでしまって少し後悔しています。

  • 何かを失った人々が、心にぽっかり空いた穴を埋める物を見つけられる場所。そんな不思議なアーケード街が、今回の物語の舞台です。

    小川先生が「世界のくぼみ」と表現した場所を訪れるのは、大切な何かを失った人達。そんな穴だらけの空間と人々の隙間をそっと埋めていく表現が、ただただ優しくも残酷です。

    アーケード街の配達人である「私」の目を通して語られる店主達とお客さんのやりとりがメインではありますが、随所に挟まれる「私」と「父」の記憶が胸に刺さります。思い出を丁寧に手繰っていく描写と、ただ「父が死んだ」という事実を述べただけの冒頭の対称性が、寂とした悲哀を際立たせているように感じました。

    …それにしても、店頭に並んでる品物を書き並べてるだけの箇所すら、丁寧に言葉を拾い集めたくなるのは何故なんだろうか…(°_°)不思議〜


    今回は印象深い登場人物達の造形のピックアップに留めてみました〜( ^ω^ )内容説明が…難しくてですね…←

    ◉衣装係さん…来る日も来る日も、誰に着られることもない舞台衣装をこしらえる老女。

    ◉百科事典少女…百科事典を順番よく、根気強く読んでいくRちゃんと、一人の紳士。

    ◉兎夫人…兎のラビトを溺愛する夫人。

    ◉輪っか屋…シンプルなドーナツ一種類のみを扱うドーナツ屋さんと、元オリンピック選手のポニーテールの女性。

    ◉紙店シスター…弟思いの紙店店主と、私のリーリー中の母と、病院の雑用係さんと。

    ◉ノブさん…ドアノブばかりを扱うその店には、一際立派なドアノブがある。そのノブを回した向こうにある暗がりの中へ。

    ◉勲章店の未亡人…表彰式と勲章をこよなく愛した店主と、その遺志を受け継ぐ妻。

    ◉遺髪レース…遺髪を美しいレースに編み上げる編み師。

    ◉人さらいの時計…「さようなら
    、お父さん」

    ◉フォークダンス発表会…ノブの向こうの暗がりに身を沈める私。止まった人さらいの時計。

  • 物語の最後のたたみ方がとても綺麗。

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著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小川洋子の作品

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