最果てアーケード

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (226ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062176712

感想・レビュー・書評

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  • 世界一小さなアーケード、ほんの10数メートル先は行き止まりそこには変わった店が軒を連ねている。
    「私」は家主であり配達員でもある。
    どんなアーケードなのか想像してみる、どことなく懐かしい感じがする。
    シャッター街でもなく、おかげ横丁や温泉街の横丁でもない、どら猫横丁でもなさそう。道化た雰囲気があるきっとスペイン横丁的な感じ。行ったことないのでイメージなんですが脳内の色見本をめくりながらあわせてみました。

    読了して、うーん、なんだろうこの雰囲気は自分はこの気持ちを表す言葉を持ち合わせていない、まだ解明できないでいる前世とを繋ぐ何かのように感じてしまった。仮に「@#$%」ぽいと表現してみる事にした。
    生と死の境界に日常が蠢いているような「@#$%」ぽさは原始の揺らぎのように時を刻んでいる。
    ひょっとして「@#$%」じゃなくて「@#$%!?」があってるのかもしれない。
    辿り着くとそこには川が流れていて何度渡っても同じ川が現れるようなデジャブ
    彼女は佐野元春信者だったから当然「ロックンロールナイト」の歌詞はそらんじてるに違いない。
    小川洋子さんだけに「リトルリバーアゲン」って感じで真実に辿り着けないでいる状態。そうだ、頭文字をとって「LRA」「りら」ってるってかんじ。
    ろれつが回らないような響きがいい。
    りらってるんだww

    彷徨いながら常に何かを追い求めているって感じかな。

    作中、たくさんの音が鳴っていたはずなのに聴こえてこないのです。サイレントムービーをみてるように。
    フォークダンスの擦り切れたレコードの音もドーナッツを揚げる音も路線電車が通る音も何も聞こえなく情景だけが現れては消えてゆくそんな背中を追ってるような
    コウモリのメロディーをヴァイオリンで奏れる助手。周波数を人の耳にあわせても不細工な響きにしかならなかったように耳鳴りにしか感じない。
    石鹸の香りや軟膏の匂いはイメージできるのに不思議だ。
    時間軸が曖昧に乱れて過去と今を行き来して愛する人たちに出会うけど、未来はほんの10数メートル行ったら行止まってしまう行き場のない閉塞感。

    たらり・たらりら・りら・りら・たらり

    お店のことで近所にも風変わりなところがあります。
    金曜しか営業しない手作り振りかけ屋さんとか、月水金はディサービスに行ってて火木土しか営業しない金物屋さんとか。長野で入った蕎麦屋さんも週4日昼時の150分しか営業してないとかww
    仕事してるとゆうよりそこで生活しているって感じが強くって閑散とした暮らしの一部に仕事があるってところが長閑に映りました。
    最果てのアーケードもそんなお店が集まってるような気がしました。

    小川さんの作品はこれで7つ、小説にエッセイ、短編集に対談集、図書館の棚の背表紙に彼女の名前を見つけると不思議に手に取ってました。小説とは違うジャンルの棚にも隠れていたり、地下書庫に眠ってたり、返却したてのワゴンの棚にも彼女はいました。
    違う作品も読んでみたい、でもしばらくいいかも・・
    偶然みかけたら借りてしまうかもだけどww

  • 「この世界では、し、ではじまる物事が一番多いの。
    し、が世界の多くの部分を背負ってるの」

    病気であっけなく召されてしまうRちゃんが百科事典を見ながら語った
    この言葉に象徴されるように、死の気配に満ちた、美しい物語です。

    時のはざまに浮かんでいるような、世界で一番小さなアーケード。
    その中に並ぶのは、使い古しのレースだけを扱うレース屋、義眼屋、
    たった一種類のドーナツだけを売る「輪っか屋」、ノブが壁一面に並ぶノブ屋など
    どこか浮世離れした、不思議な店ばかり。

    もちろんピカピカの新品もあるのだけれど、
    そんな新品の商品よりも遥かに敬意を払って恭しく並べられている、
    持ち主より長生きしてしまったモノたちの描写が、ため息が出るほど美しい。

    死を禍々しいものとして遠ざけず、
    喪われゆくものの尊さ、美しさを抱きしめるように生きている人たちだからこそ
    犬のべべが年老いるまでの長い歳月、飼い主である大家の娘の「私」の存在を
    受け容れ、温かく見守ることができたのでしょうか。

    人さらいの時計がついに止まったとき、
    静謐な場所へとつながるノブ屋のストーブの前で、旅立ちの近いべべはまどろみ
    「私」はようやくデートに間に合って、お父さんとグラタンを食べている。きっと。

  • タイトルが素敵すぎる。
    読みながら想像力が大きくふくらんでくる物語。

  • 童話のようなぼんやり靄のかかった向こうにあるようなお話でした。
    世界の果てにあるような寂れた小さなアーケードで生まれ育った少女と、そこで生活を営む店主たちの交流が描かれています。

    母を幼い時に病気で失い、16歳の時に火事で父を失った私。
    レースや義眼や手紙やドアノブや勲章や、どこに需要があるのかわからないようなお店。
    着る人のいない舞台衣装を作りつづける衣装係さん、百科事典を読み続ける少女、兎の眼を探す夫人、ドーナツの格好をする元体操選手、自分に手紙を書きづつける雑用係、ライオンのドアノブがついた小さな窪み、遺髪専門のレース編み師、動くところを見ると人さらいに連れて行かれるという時計。

    そこに流れる時間は現実と違う速度で、すべての輪郭が曖昧で、ぼんやりとした印象しか残らない。
    でも、その残像がゆっくり心の奥に沈殿していくような感じがありました。
    色彩も音もゆっくり失われていくような。
    悲しいな。

  • 読んでいると、物語の視点である少女がいま何歳で、何者であるかがわからなくなる。生死さえも曖昧としていたけれど、少女の五感だけは瑞々しく研ぎ澄まされていて、こういったアンバランスさが好きだったりする。

    • 猫丸(nyancomaru)さん
      「瑞々しく研ぎ澄まされていて」
      実は文庫化を待っている。
      その時には、挿絵が大きくなりますように。。。
      「瑞々しく研ぎ澄まされていて」
      実は文庫化を待っている。
      その時には、挿絵が大きくなりますように。。。
      2013/02/15
  • 誰も気に留めない、ひっそりとしたアーケード街の物語。レース屋、義眼屋、ドーナツ屋、紙店シスター、ドアノブ専門店、勲章屋…どのお店にも日々の物語があり、扱う品にも人の思いがつまっている。語り手は長い間アーケード街に住み、お店の配達係を引き受けている少女。どのお話にも人や物を慈しむ心があって、哀しみや死の予感があります。少しずつわかってくる少女の過去と今。全体的にアーケード街のレトロな雰囲気(ぼんやりとしたセピアな感じ)もあいまって、もの悲しさが漂っていますが、読んでいてなぜか心地よく、心が癒されていきました。小川さんの優しい文章に包まれている気持ちよさというか…。また、他の作品でも感じましたが「誰も気にとめない」人や物にそっと寄り添って温めてくれる優しさが小川さんの物語にはある気がして、心の底から幸せを感じれるのかなと思いました。静かな気持ちでまた浸りにいきたい世界でした。

  • 連載コミック「最果てアーケード」の原作として書き下ろされた連作短編集。
    世界で一番小さなアーケードを舞台として大家であった亡き父の娘が少女の頃から配達人となった現在に至るまでを語っていきます。
    それぞれの話の店主や登場人物は個性的ですが中には事情があってハッとさせられる物語も含まれています。
    小川さんにかかると本当に物語は変幻自在に操られます。
    解明されないようなこともあるのでしょうが、それも含めて小川ワールドなのでしょう。
    でも一貫しているところはやはり“愛しさ”と“優しさ”が詰め込まれているところでしょうね。
    印象に残った話はRちゃんの百科事典の話、輪っか屋さんと元オリンピック選手との話、そしてラストの父との映画を観る約束の話あたりでしょうか。

    正直評価の分かれる作品だとは思います。それは小川洋子というトップブランドと言っても過言ではない作家に対する“面白くて、そして良かって当然”という読者の先入観がもたらされているからだと思います。
    個人的にはよっぽど読解力のある人はともかく、じっくり何回か噛みしめて読み込んでいく作品なのだと思いますが、本好きは次々読まなくてはいけないので(笑)なかなかそれができませんよね。

  • ん~~~・・・・・小川さんらしい、静謐な物語。好きではあるけど、ちょっと哀しい・・・かな。でも、また読みたいけど。

  •  町の大半が焼ける火災で、唯一残ったアーケード。町の再開発でできた新しい建物のかげに忘れられたように位置する小さな店には、数こそ少なかったが、店主の思いを組むように様々なお客がやってくる。
     大家の娘で、アーケードの店の商品の配達係をする女性と、変わった商品を扱う店、そこに足を運ぶ人々のやさしい物語。

     使い古された様々なレースを扱う「レース屋」、剥製づくりに使う様々な義眼をそろえた「義眼屋」、生地の詰まったシンプルなドーナツだけを売る「輪っか屋」、アーケードで一番の長老ノブさんが店主の「ドアノブ屋」など、怪しげな魅力に満ちた店の数々。読んでいくうちに、いつの間にかそこに足を運んだような錯覚をしてしまうほどの、情景描写。小川洋子さんの魅力たっぷりの世界観です。酒井駒子さんの表紙もいい。
     モチーフは秀逸ですが、ノスタルジックな空気に満ちているので、小川洋子さんを初めて読む方にもおすすめ。
     少しずつ、味わって読んでほしい作品です。

  • 吹きだまりのような、それ以上行き場のない場所。ふとした隙に入り込んでしまう。生と死は紙一重。

著者プロフィール

1962年、岡山市生まれ。88年、「揚羽蝶が壊れる時」により海燕新人文学賞、91年、「妊娠カレンダー」により芥川賞を受賞。『博士の愛した数式』で読売文学賞及び本屋大賞、『ブラフマンの埋葬』で泉鏡花文学賞、『ミーナの行進』で谷崎潤一郎賞、『ことり』で芸術選奨文部科学大臣賞受賞。その他の小説作品に『猫を抱いて象と泳ぐ』『琥珀のまたたき』『約束された移動』などがある。

「2023年 『川端康成の話をしようじゃないか』 で使われていた紹介文から引用しています。」

小川洋子の作品

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