再生医療の光と闇

著者 :
  • 講談社
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感想 : 8
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  • Amazon.co.jp ・本 (272ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062181549

作品紹介・あらすじ

山中伸弥教授が開発したiPS細胞(人工多能性幹細胞)のノーベル賞受賞によって、ますます脚光を浴びる「再生医療」。それは、幹細胞を使うことで失われた細胞を修復・再生し、これまで治療困難だった病気やけがにも効果が期待できる「夢の治療法」とされている。
現在はまだヒトに対する治療効果は確認されていないにもかかわらず、実は水面下では、すでに「未承認の再生医療」は急速に医療現場に「増殖」しつつある。そのなかには、あやしげなベンチャー企業やコーディネーターらによる「闇ルート」の再生医療もあり、難病に苦しみ最後の頼みとする人々が多数押し寄せている。
しかし、それらの事例がふえるほど、悲劇も起こるようになっている。相次ぐ死亡事故、まったく効果が見られないのに繰り返される高額の幹細胞投与手術・・・そこには、一筋の光明を切実に求める人たちを蚕食しようとする魑魅魍魎たちの姿が透けて見える。見切り発車した再生医療が暴走する危険を、謎のベンチャー企業の本社や、死亡事例の遺族をたずねる韓国現地取材も敢行してあぶりだす。
一方で、再生医療の安全性が証明されるのを待っていられない難病患者がいる。ALS、白血病、脊髄損傷など、ほかに治療の手立てがない人たちにとっては、再生医療は「ダメでもしかたがない」と覚悟のうえですがりつく、最後の希望なのだ。
さらに、再生医療はビジネスとしての利用価値も大いに高まっている。その典型例が、出産時の「臍帯血」を保存して、子どもへの再生医療に役立てようとする「臍帯血バンク」である。すでに難病治療への「福音」としての成果もあげてはいるが、安全性や管理の問題、さらに経営破綻に陥る企業も現れるなど、その見通しは決して明るいものばかりではない。
本書では、バラ色の未来ばかりが喧伝される再生医療の、これら「闇」の部分を克明に描き出し、二面性をもつ怪物「キメラ」にも似た再生医療に私たちはどう向き合えばいいのかを広く問いかける。

感想・レビュー・書評

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  • iPS細胞研究が脚光を浴びているが、一方で、大々的には報道されない再生医療の「闇」もある。未承認の自由診療にあたるものがそれだ。
    未承認の医療は、当然のことながら十分に検証された医療ではない。
    しかし、延命の可能性が少しでもあるのなら、と踏み切る患者もいる。また、美容(皺がなくなる等)に関しても強い関心を持つ人は少なからずいるようだ。

    取り上げられている事例の1つに、脂肪から間葉系幹細胞を単離し、増殖させた後、患者に戻せば、糖尿病や癌や筋萎縮性側索硬化症(ALS)に効くと謳うものがある。
    将来的に可能性はあるかもしれないが、現時点では劇的な効果があるとはちょっと考えにくい。そればかりか安全性が確認されているわけでもなく、大きな弊害も心配される(幹細胞自体の影響か合併症かは正確には不明だが、死亡した例も挙げられている)。

    中絶児の幹細胞を移植するという、ある意味、臓器売買のような「黒い」臓器移植の延長線上のような話もある。
    子どもを出産する際に臍帯血を採取して管理し、将来の事故や病気に備えることを標榜する民間の臍帯血バンクもできてきている(*臍帯血はそもそも骨髄移植と比べて適合者を見つけ出すのが容易であり、自身の臍帯血を保存しておかなくても、公的なバンクで適合するものを見つけられる可能性がかなり高いようである)。

    自由診療の結果、死亡例等が出たとしても、幹細胞医療の可能性自体を否定するものではない。だが、あまりに酷い話が出てくると、「光」の部分の研究の足を引っ張りかねない。

    ことがことだけに、裏付けがとれない話や不明な部分も多く、本書の記述をすべて鵜呑みにしてよいのかどうかはわからない。
    ただ、再生医療にすがろうとする患者はいるし、その患者を食い物にしようとしている存在はある。そうした構図があることは確かだろう。
    それを完全になくすことは難しいかもしれないが、やはり現段階では規制が十分とは言えなそうだ。

    「闇」は深い。


    *これもまた「闇」か・・・。
    ・『ビューティージャンキー』

    *こちらは「光」であって欲しい。
    ・『幹細胞技術の標準化―再生医療への期待』
    ・『iPS細胞とは何か、何ができるのか』

  • 幹細胞の投与をすすめる医者。

  • 「再生医療」
    患者自身の未分化の細胞などを使って人体の一部を再生させる医療。

    骨髄移植や皮膚の再生も再生医療であり、臍帯血(胎盤と同じく、母体ではなく胎児の組織)や胎児のOEGと呼ばれる細胞を使った再生医療もあるとのことです。

    現在は体性幹細胞(人間の体内に自然に存在する幹細胞)、胎児のOEG細胞と同様に倫理的な問題が残るES細胞(受精卵を壊して人工的につくる幹細胞)、最近話題のiPS細胞(特定の遺伝子を細胞に入れて人工的につくる幹細胞)といった幹細胞を使った再生医療が注目されています。

    一方で、幹細胞を使った再生医療には倫理的な問題以外にも、現時点で大きな課題があります。
    それは有効性や副作用が不明であること。
    そして、病気を患い残された時間が限られた患者にとっては、最後の望みであること。
    そこに光と闇が交錯します。

    本書で著者は、「病気を患い、未承認の再生医療に望みを賭けた患者とその結果」「日本では受けられない治療の媒介を生業とする人」「未承認の再生医療に携わる医師と医療機関」に焦点をあて、丁寧な取材により再生医療の現状を明らかにしてくれます。

    著者は本書の冒頭で次のように語っており、再生医療の現状はこの言葉で的確に表現されると感じました。
    光にも闇にも、それぞれの意味があり希望がある。
    光にも闇にも、それぞれの問題がある。
    それらは、常に同時に存在する。
    まさに「世の常」とも言えるこういった事が、再生医療の世界にも存在していることを教えてくれます。

    【本書抜粋 著者】
    切実な患者たちにとって最後の希望という「光」の側面。
    有効性も副作用も不明であるという「闇」の側面。
    いま「再生医療」の名のもとに進行している医療行為には、この二つが同居し、そして不可分な関係にある。
    一方だけを肯定することも、否定することもできないのだ。
    ---

    また、著者は本書の最後を次の言葉で締めくくることで、この問題が決して専門分野の問題ではなく、われわれ一人ひとりにとって身近であり、われわれ自身の問題であることを改めて教えてくれます。

    【本書抜粋 著者】
    もう一度、自分自身の足で立ってみたい」
    「病状の進行を少しでも遅らせて、チャンスを待ちたい」
    「一分でも、一秒でも長く、わが子を抱いていたい」
    ささやかだが切実なそうした願いを見るたびに私は、再生医療がそれを実現する「秘薬」となってくれたら、と期待せずにいられない。
    だが光を追いかければ、そこには闇も忍び寄ってくるのだ。
    再生医療の混沌は、いやおうなく私たちを巻き込み、深まってゆく。
    ---

    本書を読了し、現在光があたっているiPS細胞に思いを向けた時、ふと以前読んだ本の言葉が頭をよぎりました。

    地球上の生命史において、ほんの一瞬としか言いようのない歴史しか刻んでいない人類が、本当に遺伝子レベルの操作に踏み込んで良いのでしょうか。
    光と闇の交錯を理解した上でなお、どうしても気になることがあります。
    自然に対する畏怖の念を失ってはならないと、強く思います。

    以下にその言葉をご紹介し、読了後の感想を終わりたいと思います。

    【最相葉月・瀬名秀明著「未来への周遊券」最相葉月】
    (体細胞クローン技術で誕生した牛や豚の食用としての安全性が確かめられたという報道を聞いて)
    数十億年という生命の歴史で生物が自然に選び取った”受精”という、両親の遺伝子をシャッフルするシステムの意味を考えるとき、親より強い遺伝子を残す可能性が絶たれた生命の未来にあるのは滅亡しかない。
    ---

  • エビデンス(根拠)のないまま万病や美容に効くと喧伝したり、管理や技術的に問題があるまま治療が行われて、死亡事故まで起きている。
    一方、救われた人がいるのも事実である。ある仲介業者は、効果のあった人には感謝され、なかった人には詐欺師と呼ばれている。

    難病に苦しむ人々にとって、わずかな可能性に掛けて生き延びたい、効果が証明されるまで待てない人は多くいる。それが叶わず家族に迷惑をかけるくらいなら延命治療をしない人も珍しくない。

    一概に善悪を決めつけられない。複雑で、矛盾を抱えながらもがいて行くのが現実というものである。

  • 有効性や安全性が証明されるのを待つ時間がない難病患者につけ込む悪徳商法まがいの医療など、主に再生医療のリスクや闇に焦点を当てている。
    書かれていることが事実なら、とても残念だし気の毒なことだけれど、ここ最近この分野の研究開発は目覚ましい進歩を遂げている。
    iPS細胞の作製に成功した山中教授のように正しい再生医療の発展に努めてくれる方々がいる限り、いつの日か再生医療は秘薬となりうると信じたい。

    ・目次
     はじめに
     第1章 日韓「闇ルート
     第2章 父はなぜ死んだのか
     第3章 「光」を追う人々
     第4章 臍帯血を狙え
     第5章 死と向き合える力
     第6章 中国の胎児細胞
     終章 増殖する「闇」
     おわりに

  • 最近話題のiPS細胞などの専門的な話なのかと思って読んだのですが、そうではなく、実際にもう使用されている幹細胞などの再生医療を巡る医療事故の話でした。
    医学的用語などが頻出するわけではなく、本筋が死亡事故を起こした韓国企業の問題でしたので、読みやすい内容でした。
    恥ずかしながら既に再生医療が行われていることや、臍帯血バンクなどというものがあることなども知らず、また、日本の法律と韓国(その他の外国)との法律の違いなども書かれており、興味深く読むことができました。
    タイトルには「光と闇」とありましたが、著者ご本人が述べているように、主として書かれているのは「闇」です。
    著者ご自身が取材を通して感じられたことをまとめてあるのでしょうが、そのため主観的だと感じる箇所もありました。
    正直鵜呑みにして良いものか迷うところで、この関連の別の本も読んでみたいと思いました。

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著者プロフィール

坂上博(さかがみ・ひろし)1964(昭和39)年新潟県生まれ。87年東京工業大学工学部卒業。同年読売新聞東京本社入社。千葉支局、松本支局、医療部などを経て2016年より読売新聞東京本社調査研究本部主任研究員。専門は感染症、難病、薬害、再生医療など医療全般。著書・共著に『再生医療の光と闇』(講談社、2013)、『薬害エイズで逝った兄弟―12歳・命の輝き』(ミネルヴァ書房、2017)、『きちんと知ろう!アレルギー』全3巻(ミネルヴァ書房、2017)、『シリーズ疫病の徹底研究』3巻4巻(講談社、2017)など。

「2023年 『きしむ政治と科学 コロナ禍、尾身茂氏との対話』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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