紙コップのオリオン

著者 :
  • 講談社
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  • Amazon.co.jp ・本 (258ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062184526

作品紹介・あらすじ

主人公の橘論里(たちばな・ろんり)は中学2年生の男子。母親と、血のつながらない父親と、妹・有里(あり)と暮らしている。
 ある日、学校から帰ると、母親が書き置きを残していなくなっていた。冗談かと思ったら、趣味のカメラを持って、撮影旅行に出てしまったのだ。しかも、いつ帰るかわからない。母親不在のまま、楽天的な父親と妹と、不格好ながらもなんとか生活を送っていくことになった。
 学校では、開校20周年記念の行事をやることになり、論里は実行委員にさせられる。仲がいい轟元気(とどろき・げんき)と、変人の水原白(みずはら・ましろ)とともに、おずおずと活動をはじめる。
 校庭に描くことになった冬の星座に思いをはせながら、論里は自分と自分をとりまく人たちのことを考えはじめる。
 生まれるときも死ぬときもひとりきり。だけど、だれにも迷惑かけずに存在できるものなんか、どこにもない――。人と人との「つながり」は、こんなにももどかしく、こんなにも愛おしい!

感想・レビュー・書評

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  • 序盤は、あまり物語に入り込めず、読むペースが遅かったのが、途中から面白くなってきて、最後には良い話だなあ、と思えました。

    その理由を考えていると、私が主人公の「橘論里(ろんり)」の視点で読んでいたことに気付きました。

    確かに、序盤の論里は、母のことや、父と妹の世話をしなければという生真面目なところもあって、何となく投げやり気味な雰囲気を、読んでいる私も感じ取り、やり切れない気分でいたのだと思う。

    しかし、学校の創立二十周年記念行事イベントの実行委員の一人に選ばれた後に、何気に言った自らの考えを、本当に実現させたくて率先して動いている姿を見ていると、楽しそうな様子が文章から感じられて、それに周りも影響されて、最終的には素敵な思い出になっていく過程に、すごく納得させられました。青春っていいなあ、と。

    最初は、あまりやる気のなかった委員の面々も、何をやればいいのかを明確にさせることで、効率的に行事の準備が進行するところには、意外にも、大人が読んで、ハッとさせられる点があるし、論里が三歳の頃に、母が結婚したお父さんと、その後に生まれた妹の「有里(あり)」との微妙な関係も丁寧に描いてあって、家族の在り方を考えさせられました。もちろん、母の真相についても。

    また、他の登場人物については、論里の友達の名前のとおりの「元気」に、ぶっきらぼうだけど、良いところもある「大和」に、「進藤先輩」、「谷先生」と、個性的な面々で面白かったです。それから、「水原白(ましろ)」と論里の、静謐な心のやり取りにも注目ですよ。

  • 家族や友達との関わりを通して成長していく少年の物語。

    読み始めは期待はずれかな?とも思ったけど、いやはやなんとも爽やかな話だった。
    キャンドルナイトのイベントとかも参加したくなったかも。

    物語の中で目を引くのは、主人公の小学生である妹。
    その邪気のなさに脱力するというか、笑ってしまうというか。彼女にかかると、尖った兄のクラスメイトも形無し。
    虫やツツジの蜜(私もよく吸った)、そしてチョコパイをこよなく愛する彼女のその朗らかさには、読んでいるこっちの気持ちまで明るくなる。まあ家の中に、なんでもかんでも虫を持ち込むのは勘弁して欲しいけど。

    まだ著者二作目だけど、私この人の作品良いと思うなぁ。

  • うわあ〜とてもいいお話だった。何かに真剣に打ち込むって素敵だな。みのりおばさんも、ましろのお母さんも良いことを言う。大切な人が居なくなってしまうのは「いつか」。でもそのいつかは突然やってくる。その突然を家族と乗り越えて、尚且つ学校行事でも周りと力を合わせて成功に持っていった論里の成長が素晴らしい。良い経験をしたね。中高生向けの本だけど、大人が読んでも読み応えがありました。

  • 4月のある日、論理が学校から帰ると、テーブルの上に母親からの手紙が置いてあった。
    「…行ってきます!」と。
    その夜、母親は帰って来なかった。

    母親は翌日も帰らず、父親と妹の有里と3人だけの、ぎこちない生活が始まった。
    父親は実の親ではないので、論理は何か遠慮のような気持ちを抱いていた。

    学校では創立20周年記念行事の実行委員になってしまい、家事と実行委員会の仕事に振り回される毎日が始まった。

  • 中学2年生の論理。母は旅行に行ったきり帰ってこない。血のつながらない父とマイペースな妹となんとか切り盛りする日々。そんな時に学校の記念行事の実行委員をやらされることに。始めは嫌々ながらも、自分のアイデアで校庭にキャンドルで冬の星座を描くイベントが決まるとその準備に奮闘。委員仲間や家族と過ごす日々の中で論里は考えはじめる。
    みんなそれぞれ優しくて、ちゃんと自分で考えてもがきながらもやれることややりたいことを信じてやっている。ひねくれてなくていい。真面目で優しくていい。シンプルにいいお話だった。子どもにもちゃんと勧められるな。

     

  • 奇妙な置き手紙を残して出て行った母親、血のつながらない父親、その気はなかったのに選ばれた記念行事実行委員、学校に来ない幼なじみ。中学生の論理の日々は当たり前だけど当たり前には過ぎていかない。

    物語は論理の目を通して書かれます。一人称の物語は語り手が知らないことは書けない。語り手が他者に踏み込まなければ、他者の心の中はわからない。(中には超能力者か!? と思うような察知力を発するものもありますが)
    そこがこの物語では丁度いい距離感となっています。
    何故母親が家を出て行ったのか。父親は自分のことをどう思っているのか。よく知っていると思っていた友達の全く知らない顔。家族のことも友達のこともわからないことばかり。

    語り手(論理)がわからないことは読者にも開示されない。でも読者は論理とは違うのだから、論理とは別の思考や経験から読み取ることもあるでしょう。そして論理が気付いたことも、全ては開示しない。その作品と読者との距離感も丁度いい。そのことを示唆するエピソードもさり気なく素敵なのです。

    それぞれの登場人物が、その背景に大きな物語を背負っていることが垣間見られます。それこそそれぞれが主人公として物語を背負えるほどに。そのことが物語の骨格となり支えているから、淡々と進む物語に心を委ねて読むことができるのでしょう。星が繋がり星座となるように、人が繋がり物語をつむぎ出します。実に心地好い読後感でした。

  • 児童文学というのは大人が見てこりゃあいい本だと思ったものが出てくる感じがするので、全体的に外れは無いような気がするし、シンプルで奥深いものが多いような感覚が有ります。
    本作は親も一人の人間で夢も希望も有るという事と、自分の力は何かに取り組む事で初めて引き出されるという事がよく描かれています。それが説教臭くなく物語に昇華されている辺りとてもいい本だなあと思いました。
    文体的には子供っぽいという事は特になく、普通の青春成長小説として評価出来ます。
    変なお涙頂戴が少ないのも児童文学の好きな理由かもしれません。

  • 母親が突然居なくなった。
    残された中2の主人公と元気な妹と養父
    との生活と、記念式典実行委員での活動が主軸の物語。
    爽やかで読後感が良い。

  • 中学2年になった論里(ろんり)は、元気、白(ましろ)、大和といっしょに学校の創立20周年記念行事の実行委員をすることになる

    家では実母がふしぎな置手紙をのこしていなくなり、論里と妹の有里(あり)、楽天的な継父が残される

    複雑な気持ちを抱えて暮らす論里

    「えと、キャンドルナイト、とか……。校庭に、ろうそくをたくさん並べて、暗くなって火をつけると、きれいかな、なんて……」

    発言したアイデアが記念イベントに採用され、実施にむけて動き出す

    《いったい、ろうそくの光でなにを描けば、いちばんぴったりくるだろう》

    論里と白の名前を隠し味に、モチーフになった冬の星たちが美しく輝く“絆”の物語

    『よるの美容院』で第52回(2011年)講談社児童文学新人賞を受賞した著者の第2作、2013年刊

  • 母親が家出して、妹と父親の三人暮らしが始まった。中学の20周年行事の企画を出せと言われて、彼が出したアイデアが採用されて……。木地雅映子さんばりの奇天烈な個性の母親と妹にはさまれた父親と兄(すでにかわいそう)。面白かった!よい学園YAでした。

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著者プロフィール

福岡県生まれ。『よるの美容院』で第52回講談社児童文学新人賞受賞。同作でデビュー。『紙コップのオリオン』は厚生労働省児童福祉文化財選出、『ABC! 曙第二中学校放送部』は第49回日本児童文学者協会新人賞受賞、第62回青少年読書感想文全国コンクール課題図書選出、『小やぎのかんむり』は第66回小学館児童出版文化賞を受賞する。ほかに『おしごとのおはなし美容師 かのこと小鳥の美容院』などがある(以上講談社)。

「2018年 『よりみち3人修学旅行』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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