未明の闘争

著者 :
  • 講談社
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本棚登録 : 205
感想 : 20
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  • Amazon.co.jp ・本 (546ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062184922

作品紹介・あらすじ

「ずいぶん鮮明だった夢でも九年も経つと細部の不確かさが現実と変わらなくなるのを避けられない。明治通りを雑司ヶ谷の方から北へ池袋に向かって歩いていると、西武百貨店の手前にある「ビックリガードの五叉路」と呼ばれているところで、私は一週間前に死んだ篠島が歩いていた。」 これは『未明の闘争』の始まりなのだが、引き込まれながらも、違和感を感じ、いろいろと考え悩んでしまう人もいるだろう。著者の保坂和志さんが『未明の闘争』について書いているので触れてみたい。
《冒頭の段落で、「私は一週間前に死んだ篠島が歩いていた。」という文法的におかしいセンテンスが出てくるが、文章というのは記号としてたんに頭で規則に沿って読んでいるだけでなく、全身で読んでいる。だから文法的におかしいセンテンスは体に響く。これはけっこうこの小説全体の方針で、私はその響きを共鳴体として、読者の五感や記憶や忘れている経験を鳴らしたいと思った。》
鳴らされる。読み進めていると、無性に大切なものを抱きしめたり、眠ったり、子供の頃を思い出したり、セックスしたり、ジミ・ヘンドリックスの曲を聴きたくなったり、何処か知らない所に行きたくなるのだ。
 そして、この小説について、ある人はジョイスに匹敵するといい、また他の人はガルシア・マルケスに比肩するといい、いやいやドストエフスキーだと話す。それにしても、大作感溢れているのに私たちの近くにあるのはなぜか。もう一度、保坂さんの文章に頼ってみる。
《作者は作品の外にいる存在だから、作品に働きかけることはあっても、作品から働きかけられることはない──つまり作者は作品に対して神のような存在であり、作品に流れる時間の影響受けない、というのが普通の作品観だが、一年くらい経った頃から「それはおかしい。おかしいし、つまらない。」と思うようになった。》そうなのだ。3・11以降の日常と非日常がごちゃまぜになっている我々の本当にリアルな現実が目の前に登場してくるから常に新しいのである。そう、この『未明の闘争』は我々の物語なのである。 
 チェーホフ、ゴーゴリ、宮沢賢治、小島信夫……という文学や、セシル・テイラー、三上寛、ローリング・ストーンズ……という音楽に彩られたこの小説は、【今を大切にしたくなる本】の最高峰といえる。

感想・レビュー・書評

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  • 終始一貫、何が面白いんかな、って思いしかなかった

  • 保坂ワールドは一作ごとに確実に進化/深化している。悪く言えばコアの部分はワンパターンでもある。女性をややエッチな視点から描き、野郎たちのバカさ加減を書き、猫を書き風景を描写する。その筆致は綿密を極めるが決して読みにくいわけではない。読みやすく、ややもすれば退屈さしか感じさせない部分を豊満な情報量を盛り込んだ文体で描き切り読ませる。今回の鑑賞で、やっぱり保坂の世界とフェミニズムは相容れないのではないか、と思った。助平さというかしみったれた欲望があからさまになるあたり、男性の私から読んでも馴染めないままである

  • 「私」が回想と想像を重ねて、それらが入れ子状となって複雑で豊かな世界を構成していく。
    「私」が回想を重ねるたびに、呼応するかのように、自然と、読んでいる自分の過去の記憶が引きずり出される。忘れていることばかりだし、覚えていることばかりだ。意外と自分は、複雑で豊かな世界を生きてきたのだということを思い知る。
    小説は537ページにおよぶ。読み終わる頃には、小説に出てきた物事の大部分は、忘れていることばかりだし、覚えていることばかりだ。

  • 2009年から「群像」で連載が始まって読んでいたが、東日本大震災の後にしばらくほとんどの小説が読もうにも読めなくなった時期にこの小説だけを読むことが出来た。その点で忘れることがないだろう大事な本である。単行本刊行時は高知県に居たが、友人がサイン本を送ってくれた。銀色の文字でサインされていて、大切にしている。

  • ?な小説

  • 保坂和志さんの小説は好きなのだが、猫や犬の話になると全く興味が失せる。それでも好きと言えるのか⁉︎


    "「カエル顔の女とサル顔の男はモテるのよ。」 "92ページ

    "私はいいな、かわいいなと思っている女の子相手だとこういうちょっとエッチな話をしているだけでも、こっちの下心が刺激されて、どうせそこから先は何もないとわかっていても満足感があるのに(略)" 105ページ

    "耳から入ってくる言葉は内容の妥当性よりもこっちのその人に対する傾倒によるところがほとんどで(略)" 107ページ

  • わけがわからなかった
    誰にも共感できなかった
    ネコや自然描写、目に前にいるかのような人々の描写はうまいなあとは思うけれど
    この作者は苦手だな
    《 過去現在 通り過ぎる人 うつろって 》

  • 保坂和志「未明の闘争」http://bookclub.kodansha.co.jp/product?code=218492 … 読んだ。先日の「これは小説ではない」http://booklog.jp/users/brazil-log/archives/1/4891769866 … と同様に(あっちよりは各パートにまとまった分量はあるけど)おそろしく説明のしにくい、でもこれが読書でしょ!と言いたくなる(つづき

    初っ端の文章のてにをはが変で何度読んでも変なので、これが今この人がやりたいことなんだなと思って先へ進む。核になる筋は無くて会話が異様に観念的な方向へ振れるのはいつもどおり。脈絡なく話も視点も飛んで、夢やとりとめない考え事を書き起こしたかのよう。これは小説でしか成し得ない(おわり

  • 2014/10/9読了。

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著者プロフィール

1956年、山梨県に生まれる。小説家。早稲田大学政経学部卒業。1990年『プレーンソング』でデビュー。1993年『草の上の朝食』で野間文芸新人賞、1995年『この人の閾(いき)』で芥川賞、1997年『季節の記憶』で平林たい子文学賞、谷崎潤一郎賞、2018年『ハレルヤ』所収の「こことよそ」で川端康成文学賞を受賞。主な著書に、『生きる歓び』『カンバセイション・ピース』『書きあぐねている人のための小説入門』『小説の自由』『小説の誕生』ほか。

「2022年 『DEATHか裸(ら)』 で使われていた紹介文から引用しています。」

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