恋歌

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著者 : 朝井まかて
  • 講談社 (2013年8月22日発売)
  • Amazon.co.jp ・本 (290ページ)
  • / ISBN・EAN: 9784062185004

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恋歌の感想・レビュー・書評

  • 私は普段時代小説を読まない。
    日本史は好きだったはずなのに習った事はすっかり忘れている。
    ゆえに、歴史にはめっぽう弱い。
    この本の主人公は中島歌子。誰だそれ?
    天狗党?諸生党?・・・、知るわけがない。
    そんな私がこの小説を読もうとするんだから大変だ。

    一方、夫は歴史好きである。
    時代小説をこよなく愛し、大河ドラマも欠かさない。
    私が気まぐれで時代小説を読んだり、時代劇を見たりしながら
    「ねえ、これって本当?本当にこんなことあったの?」などと興奮して質問すると、
    「そんな説もある。」とか、「それは作り話だ。」とか至極冷静。
    今回も天狗党って知ってるかと聞いてみたら、幕末の水戸藩の話だろと即答。
    むむむ、なかなか手ごわい。

    こんな無知は私が実在の人物が登場する時代ものを読むとどうなるか。
    まるっきり信じてしまうのである。
    だってどこまでが事実でどこまでが作りものなのか区別がつかないんだもの。
    困った話である。
    夫に聞けば大抵答えてくれるけれど、くやしいから聞かない。

    なんだかレビューとは全然逸れてしまったが、そんな私でも楽しめた一冊。
    幕末の激流のなかで翻弄された女性達の生きざまを知ることができたし、何よりもところどころで差し込まれる辞世の句が心に染みた。
    あの時代でありながら、自分の恋を貫いて嫁いだ中島歌子の強さと彼女の詠んだ歌、

    “君にこそ恋しきふしは習ひつれさらば忘るることもをしへよ”

    これを知ることができただけでもこの本を読んだ価値があった。
    さすがの夫も中島歌子の詠んだ歌までは知るまい。
    今日帰ってきたらさっそく挑んでみようと思う。

  • 直木賞受賞、おめでとうございます!!

    ということで、下書きのままだったレビューをあげてみる。

    なんて劇的な人生なんだろう!
    と、ありきたりの言葉しか出てこないのが悔しい。
    運命の恋に出会い、文字通り人生が変わった登世(のちの中島歌子)。
    運命の恋に出会い、幕末の江戸から水戸へ。
    天狗党と諸生党との派閥争いの渦に巻き込まれる武家の妻子たちの、そんな一人になるとは。

    『君にこそ恋しきふしは習ひつれ さらば忘るることもをしへよ』

    恋しさだけを覚え、忘れ方を教えてはくれなかった夫への永遠の恋慕と、その想いの強さと同じだけ抱えてしまう夫を奪ったものへの憤りと憎しみ。
    幕末の武家において、女こどもは無力でしかない。どうにもできない抗えない時代の流れに涙しながらも、伏せることなくまっすぐな登世の眼差しはそのまま、のちの中島歌子としての生き方の根源になっている。
    どうしても消せない恋しさと対になった憎しみ。そのふたつをひとつにするための「鎮魂」。人生を閉じる際にどうするのが残された者たちにとってよいのか考えた歌子。なんて強い女性なのか。
    この作品では描かれなかった、林登世から中島歌子になるまで、そしてその後の物語も読んでみたい。


    ・・・余談・・・
    モニターとして発売前に読み、拙い感想を提出させていただきました。
    お礼として完成本をいただきましたが、サインだけではなく為書きとお礼の言葉がありました。
    今まで何冊かモニターを務め、完成本をいただきましたが、こんなことは初めてで。
    お忙しいだろうに、感想にちゃんと目を通してくださって、一冊一冊に一人一人の名前を書いてくださったんだなぁと感動して、朝井先生のお人柄のファンになりました。
    そんなこともあり、今回の受賞はとても嬉しいのです♪

  • 追いかけてきたお気に入りの作家さんが賞をとると何だかうれしく、お墨付きをもらう前から私は注目していましたよ!とちょっぴり鼻が高い。

    直木賞受賞作であるこの本の著者、朝井まかてさんを存じ上げなかった私は、思い入れもないまま何気なく手にとった。

    ああ、本の神様、この本に出会わせてくださって本当にありがとうございます!

    大好きな作家さんの本がやっぱりおもしろいこともうれしいけれど、偶然の出会った本が忘れられない至福の1冊になるのも本読みの歓びです。

    明治37年1月、三宅花圃は歌の師である中島歌子の手記を偶然手にする。そこには、水戸藩の御定宿・池田屋の娘・登世(のちの歌子)の歩んできた波乱の人生が描かれていた。登世は水戸藩士である林以徳様に出会い、動乱の時代の中で自分の想いを貫いて林家に嫁ぐ。愛しい人に添える喜びもつかの間、武家での振る舞いになかなか慣れず、婚家の義妹とは心の通わすこともできない。夫は家を空けているが、それでも時折、家に戻ってきてくれた時の安堵と喜び。穏やかで知の人である夫の目の奥に映る憂い。幸せなはずなのに哀しみが背中合わせに存在する不安。幕末の時代のうねりの中、水戸藩の内乱による夫との別離。

    このところ新撰組を描いた本や大河ドラマを見る中で、幕末の逆らうことのできない時代の転換点と人々の人生の対比に惹かれている。
    歴史に詳しくないこともあって、水戸藩の天狗党については、ほとんど知らなかったが、ここでも多くの人たちのささやかな人生の上を大きな力で動いていく氷河を見るようだった。

    人が集まれば、必ず敵味方に分かれる。人は常に誰かを敵にして憎まねば、生きていられないのだろうか。(P213)

    あまりの貧しさと抑圧が怖いのは人のきぃを狭うすることやな。(P247)

    現在にも通じる言葉の数々。

    君にこそ恋しきふしは習いつれ さらば忘るることもをしへよ(P261)

    本書には百人一首や辞世の句などいくつもの短歌が載っており、私の大好きな崇徳院の歌もある。
    三十一文字の中の世界に、
    現在よりも抑圧された時代に、
    自由と広がりを感じる。
    その時どきを精一杯自分らしく、相手を敬い思いを寄せて生きる。
    重く苦しい時代に違いない。
    ままならないことも多く、辛いことばかりが浮かび上がる。
    それでも随所にユーモアのある会話があり、労わる気持ちが溢れている。

    最後の章では、手記を読み終えた花圃と中川澄とのやり取りが胸を打つ。しばらく余韻に浸っていたい。

  • 第150回直木賞受賞作。
    中島歌子の波乱の人生、水戸藩士に嫁いだ若き日を描いたもの。
    熱っぽく、引き込まれます。

    樋口一葉の師として名を残し、明治時代に<萩の舎>を主宰し多くの弟子を持っていた歌人・中島歌子。
    後年病に倒れたとき、弟子がその手記を発見して読むという形で描かれます。

    江戸の裕福な宿屋に生まれたのんきな娘・中島登世は、水戸藩士・林以徳と恋を貫いて結婚。
    水戸でお武家様の妻として、生真面目な義妹てつが取り仕切る家に暮らすことに。
    水戸藩では天狗党と諸生党が相争い、天狗党内部でも分裂があった。前半はそういう危機感もありつつ、若妻の暮らしぶりを。
    天狗党に属する夫・以徳は穏健な考えだったが、突出した行動をとった面々と同一視され、ついには逆賊となってしまう。
    天狗党は妻子まで捕らえられ、登世もてつと共に入獄。
    夫の無事を信じつつ、辛い時期を耐え抜くが‥

    水戸では報復のため血で血を洗う抗争が続いたとは。
    ここまでとは、知りませんでした。
    素直な若い娘が巻き込まれた動乱の、思いもよらない激しさ。
    あまり書かれていない後半生は別人のようで、ややギャップがありますが。これほどの経験があり、胸のうちに秘めた思いもあって歌がほとばしり出たということ。
    中島歌子は華やかなイメージがある女性ですが、亡き夫を最後まで愛していたのですね。
    財産を誰に遺すかの決定も、水戸時代のことを深く憂いてのことなのでしょう。

    君主の未亡人・貞芳院が後に語る水戸藩の実情が印象的。あまりの貧しさと抑圧ゆえに気持ちにゆとりがなく、怒りを身近に爆発させたと。
    その貧しさは、初期の石高設定で見栄を張ったことや、水戸光圀以来の大事業が財政を圧迫したためなどもあることを思うと‥
    低所得層が増えている現代日本の空気が次第に悪くなっていることも考えさせられます。江戸時代の庶民のように、娯楽を限定させられてはいないですけどね。

    直木賞も納得の力作でした。
    読んでいく作家さんが増えました!

  • 直木賞受賞作であり、歌人・中島歌子の恋を描いた作品…という前情報しか持たずに読み始めた本作。
    描かれていた過酷な運命に衝撃を受けました。

    登世(後の歌子)は水戸藩の御定宿のお嬢様として江戸に育ち、そこで出会った水戸藩士と恋に落ちます。
    しかし、時代は動乱の幕末。
    花嫁となった登世が嫁いだ先は、二派で対立し内紛を続ける、政情不安定な水戸藩でした。
    やがて夫の属する天狗党は、一部の血の気の多い者たちが起こした乱によって朝敵と見なされ、弾圧が始まります…

    崇徳院の「瀬をはやみ」の歌をはじめ、百人一首が詠まれる場面が何度か出てくるのですが、ひとつひとつの歌がこんなに悲しく響いたのは初めてでした。
    そして、登世が和歌を志した理由に涙が滲んできました。

    こんな風に想いを貫くことができるものなのか。
    一人の女性の在り方に、胸がふるえました。

  • 勝手に忍ぶ乙女心的な小説を予想していたのですが、全然甘くなかったね。
    直木賞作品で、樋口一葉の師匠である中島歌子の話ってことは知っていたけど、はたして中島歌子のことなんてよく存じ上げず、こんな武士の生き様みたいな展開だとは思いもよらず。

    幕末から明治にかけての大きな時代の流れを生きた登世の半生を綴った手記を中心に、夫への恋慕と水戸藩内で起きた尊王攘夷派による騒乱に巻き込まれて投獄された苦難の極み、その痛みからの祈りが描かれています。
    どこまで史実に忠実なのか分からないけど、幕末の水戸でこんな参事があったとは...光圀公だけじゃないのね。
    偕楽園に梅見に行ってみたい。

    歌塾「萩の舎」を開き華々しく成功した話ではなく、水戸藩士に嫁いでからのままならない日々と否応なしに巻き込まれた幕末の騒乱で多くの人を喪った苦しみに、恋の歌も切ないどころではないですね。
    埋められない悲しみが最期まで漂う人生でしたね。

  • 第150回直木賞受賞作品。
    朝井さんの本は初めて読みました。
    この本の主人公であり樋口一葉の師匠としてしられる中島歌子、恥ずかしながら知らなかった(汗)。
    幕末に水戸天狗党の林忠左衛門に嫁いだ彼女。
    過酷な運命に翻弄され、明治になって「萩の舎」という歌塾を主宰した。
    この本で描かれる彼女の強さに感銘を受けました。
    それにしても、私の知ってる(つもり)の歴史のなんと薄っぺらなこと…
    知らな過ぎる。

  • 久しぶりに歴史物を読む。直木賞を取った作品だし読んでみたかった。
    中島歌子の名前は知っていた。だけどどんな人かはほとんど知らず。
    ましてや、水戸藩の内乱など聞いた事も無く、日本の歴史にまったく疎い自分が情けない。
    この頃の時代は本当に生き難い時代だ。

    第一章の池田屋の頃の話がいいです。
    第五章の牢屋での話は悲しすぎる。

  • なぜこんなにも哀しく、切ない思いを
    しなくてはならないのだろう。

    何が罪なのだろう。

    読む機会があってよかったと思った一冊。

  • 「瀬をはやみ岩にせかるる滝川の われても末に逢はむとぞ思ふ」
    本書にも登場する崇徳院の御歌。
    この歌を知ったきっかけは、大和和紀さんの『はいからさんが通る』でした。
    それから和歌が好きになりました。

    ずっと読みたかったんですが、
    正直、幕末の時代小説は、ややこしくて敬遠しがちでした。
    でも、読んで本当に良かった…。
    もうしばらく、この感動に浸っていたいです。

    樋口一葉の歌の師匠であり、歌塾「萩の舎」主宰・中島歌子(登世)の物語。

    当時、尊王攘夷の中心であった水戸藩。
    同じ藩のなかで反目し、憎しみ合う天狗党と諸生党。
    血で血を洗う、壮絶な戦い。
    復讐のための復讐の連鎖。
    やさしかった爺や…、牢屋での生き地獄のような日々…。
    その耐えがたい世を、
    「もう一度、あの方にお会いしたい。」
    その一念で生き抜いた登世。

    今生の別れになるかもしれない出立の日に交わした歌。
    「かへらじと契るもつらき別れかな 国のためとて仇ならぬ身を」似徳
    「国のため君のためとぞ思はずば いかにしのばむ今日の別れ路」登世
    自分の返歌を、拙い型どおりの歌と悔やみ、和歌の道を志した登世。

    この世での再会は、かなわなかったけれど、
    似徳様は天国で、あの日と同じ凛々しい若侍のお姿のまま、
    獅子丸を抱いて待っていて下さったはず…。


    「君にこそ悲しきふしは習ひつれ さらば忘るることもをしへよ」
    この三十一文字にこめられた想いが、せつなく胸に響きます。

  •  幕末に水戸藩でこんな内乱があったなんて、全然知らなかった。こんな視点から、幕末を見たことがなかったので、新鮮だった。戦っていたのは、侍だけではなかったのだと、この作品を読んで思い知る。

     登世が、以徳さまのことを好きで好きで、以徳が死んでも尚、彼のことを忘れずに思い続ける様は、読んでいて泣けてきてしまった。

     君にこそ 恋しきふしは習いつれ さらば忘るる ことも教えよ

     登世こと、中島歌子が、31文字のこの歌にこめた以徳への想い。じわりとくる。
     復讐ではなく、残していくことで、歴史をつむいでいこうとした歌子。この作品の大部分として書かれている歌子の手記が、書かれた意味。歌子の意思。
     最後に知ったときは、そうか、そうだったのか!!と何度も何度も声に出さずにはいられませんでした。

     以徳さま、やっと逢える。と、死の際で微笑んだ歌子は、美しかったに違いない。
     恋を抱いて生きる女は、やはり誰しも、掛け値なしに美しい!!

  • 想いのエネルギーを強く感じた作品。そして綴られる言葉もとても美しかった。
    ふっと暖かくなる恋心だけでなく、目的は同じであっても、その過程で激しくぶつかり合うほどの強い意志や、不安や絶望、家族や恋人へのつのる想いなど、様々な心が入り乱れた時代だったのだと思った。

    長々と自分の想いを書き連ねるのではなく、三十一文字に込めることで想いのたけが一層際立つ。

  • 樋口一葉・三宅花圃の師であり「萩ノ舎」の主宰者である中島歌子の人生。
    裕福な商家の娘として生まれ、お嬢様として何の不自由もなく育てられてた登世(歌子)が水戸藩士・林以徳に恋をし嫁ぐ。ここまで普通の恋愛物として進む(爺やとの会話も楽しい。)が、水戸藩内は天狗党と諸生党が2分しており「天狗党の乱」を引き起こしてしまう…。
    爺やは登世の元を去り、天狗党側であった夫・以徳の安否も判らず自分自身も投獄されてしまう。幕末は本当にちゃんと「尊王」「倒幕」「佐幕」「攘夷」など把握していないと難しい。その上水戸藩の内情も。詳しくは判らないけれど水戸藩は「苛烈」というイメージがあるけれど「天狗党の乱」の処罰はそのイメージの上をいく。血を血で争う。そこまで何故するのか?貧しさ故と語ってるセリフがあったけれど。
    名君と慕われた徳川光圀であるが末来に残した負の遺産はあまりにも大きかった。
    以徳と登世。
    出逢ったのも和歌から。最後の別れになるとは思わなかった時交わした歌のやり取り…。
    たった31文字。この限られた中に自分の想いを込める、その難しさ。
    「君にこそ悲しきふしは習ひつれ さらば忘るることもをしへよ」
    なんて切ないんだろう。
    最後この形である意味天狗党と諸生党が1つになったんだろうと思った。

  • なんというか…
    時代の持つ空気っていつも残酷。
     ■ ■ ■ ■ ■ 
    時代小説であり
    謎も仕掛けられてるお話なんだけど
    やっぱりタイトルのとおり「恋」のお話
     ■ ■ ■ ■ ■ 
    とは言え、爺や…!(泣
     ■ ■ ■ ■ ■ 
    読む前の予想に反して、ぐいぐい読めた感じ。
    挿められた和歌に泣かされそうになったり
    最後に明かされる「縁」と
    だからこそ手記を!?って理由にうならされたり
    お話作るの巧いなぁ。(←何様w
     ■ ■ ■ ■ ■ 
    幕末物はそこそこ読んでたけど、天狗党はノーマークだったわ。
    これまで、あんまりそそられてなかったの。
    これを読んで、知りたいことがまた増えてしまったよ。

  • 凄い本を読んでしまった。言葉が、上手く出てこない。
    あまり読んだことのない時代小説、慣れない言葉遣いに初めのほうはなかなかページを捲ることができなかったけど、物語が進むにつれてどんどん引き込まれた。
    なんて凄絶で、悲しくて、切ないんだろう。第六章の三は、涙無しには読めませんでした。
    ああ、良い作品に出会えたな。良かった。

  • 幕末、尊王攘夷で揺れる水戸藩家臣林以徳へ稼した登世は新婚生活もわずかで離れ離れとなる。幕末期の動乱で大きく取り扱われるのは長州や薩摩、会津などでこの水戸藩の立場やその内乱については知らなかった。天狗党については以前から興味を持っていた。
    登世は後の中島歌子。物語は病気で伏せている歌子の弟子の花圃と澄が歌子の手記を読み進む形。
    水戸の幕末の内乱事情、巻き込まれていった民衆。人々の行く末にぐいぐい引き込まれていく。
    中島歌子という華やかな詩人の壮絶な過去をとおし、幕末の動乱期、日本を真っ直ぐにみつめた多くの人々の想いを代弁するがごとくの登場人物たちの想いが伝わり感涙。
    命が失われる時に詠む辞世の短歌が悲しい。
    恋愛ものにとどまらず時代小説として素晴らしかった。

  • 君にこそ恋しきふしは習ひつれ さらば忘るることもをしへよ
     中島歌子

     直木賞作家が惹かれる歌人、中島歌子。幕末の激動の時代を生き抜き、明治には筆の力で自立、そんな凛とした女性像は、確かにヒロインにふさわしい。
     第108回直木賞を受賞した出久根達郎に、「萩のしずく」(文芸春秋、2007年)という小説がある。時は明治半ば、中島歌子に和歌を学ぶ樋口一葉を、虚構の人物も織り交ぜて描いた会話主体の長編だ。そこに、「師の君」歌子が、夫への恋文のような手記を書いており、一葉が驚きつつそれを読むシーンがあった。
     その手記をもとに、情趣あふれる女性一代記を描いたのが、今年の第150回直木賞受賞作、朝井まかて「恋歌【れんか】」である。
     幕末の江戸。裕福な商家の娘登世(のちの中島歌子)は、ある水戸藩士に恋をする。思いを貫き嫁いだものの、当時の水戸藩は貧しさでゆとりがなく、内紛のさなか。改革派である夫の奔走中、敵対する保守派が権力を握り、登世も逆賊の妻として投獄されてしまう。
     女性や子どもにも暴力は及び、しかもその間、夫が25歳の若さで獄死していたことを、登世は知るよしもなかった。
     掲出歌は、のちに夫をしのんで詠んだ歌。あなたに恋という機会を教わった。だから、あなたを忘れるということも教えてください、という痛切な恋慕の歌である。
     江戸に戻り、名を改め歌塾「萩の舎【や】」を開いた中島歌子は、かくも壮絶な史実の体現者だったのだ。周囲の女性たちの輪郭も鮮やかに描かれ、読み応えある力編。

    (2014年2月16日掲載)

  • 幕末の話が好きなのに、天狗党のことはそれほど知らないことに気づく。中島歌子という歌人が、夫への愛を貫き、強く生きていった話。

  • 蹴りたい背中、蛇とピアス以来、敬遠していた受賞作。
    いやー、良かったですよ。
    でも、結構、考えさせられることありで、直木賞というより芥川賞でもいいかもって本でした。

    最初の30ページ位は、とっつきがすごく悪い。
    面白くない本の予感がしましたもん。結構当たるんですけどね、これ。途中から先が気になって、気になってでした。

    樋口一葉の師匠である中島歌子の一生の話。
    死の予感を感じて入院する歌子を訪問するのは、弟子であり作家であり、そして裕福で生活の不安がない人妻である花圃。
    花圃は師から頼まれて、内弟子の澄と書類の整理をしだす。その途中で、ふいに発見した師の一生についての手記。二人は取り込まれるように読み続けるが、それは手記でなく、別の目的を持った文章だと分かる。

    歌子となる前の登世の、旦那様との恋愛がとても素敵。時が止まった日本画の様な美しい世界。
    無口で温厚だけれど、熱い志と達人級の剣技を持つ以徳。そんな彼の職業は、幕末で尊王攘夷に巻き込まれる水戸藩の中級藩士。仲間のことを思いやったり、仲間と同調したいが、怜悧であるがために先が見えすぎて、向う見ずに飛び込めずに苦悩する姿は切ない。

    登世の一生というより、戦争に愛する人を送り出す家族の身を切られるような気持ち。そして、人がどこまでも残酷になれるという過酷な現実。復讐は何も生まないということなど、色々と含蓄の多い作品でした。

  •  幕末から明治にかけて水戸藩に嫁いだ女の一生が手記として読まれている。
     最初、言葉が難しく読みずらく感じたが読み進めるうちに気にならなくなった。
     感想が書きにくい。激動をを乗り越えても月日が経つと人は丸くなるのだろうか。せんないこととやり過ごせるのだろうか?夫の歌への返答が拙くて、歌を勉強しようと決めた時から恨みつらみなどは流されてしまったのか?
     なんとも難しい本だった。

  • 正直、幕末あたりの歴史をわかってないと結構厳しい。
    勤皇、尊皇、佐幕、倒幕あたりの違いすら良くわかっていない上に、舞台となる水戸藩が諸政党と天狗党で割れている。しかもそこに諸藩、幕府、水戸藩主の事情も複雑に絡んでくるので、途中でわけわかんなくなってあきらめかけたでござる……。
    wikiとか読み漁って、ざっくり権力構図を頭に入れて再チャレンジ。
    そうまでして読んで良かった。それだけの価値があった。

    歌人・中島歌子(登世)の半生を記した手記を弟子の花圃が読む、という体で物語が進む。
    恵まれた商人の家で何不自由なく育った登世は、ひとめぼれした水戸藩の武士、以徳に嫁ぐ。
    そこからめくるめく幸せな恋の物語が始まるのかと思いきや、幸せな時間なんざ本当に一瞬だけで、登世は恐ろしいほどの歴史の濁流に飲み込まれていく。
    投獄後の生活や、加賀にたどり着いた筑波勢の様子が読んでて泣きたくなるほど酷く辛く、こんなことが本当にあったなんて知りたくなかった。
    ここまでの辛い思いをしても、その間に旦那様は死んじゃってて会えないし、何てひでえ話だ、と思った。

    思ったのだが。
    ラスト、あれほど憎んでいた市川家の娘を登世が自分の養子とすることで、割れてしまっていた水戸藩がほんの一部だけでもひとつになったのだと思ったら、最後まで水戸藩を一つにすることにこだわっていた以徳への深い深い愛情が感じられて胸がいっぱいになった。

    君にこそ恋しきふしは習いつれ さらば忘るることもをしへよ

    恋を教えたのが貴方なら、忘れ方も教えてください、というこの和歌がすごく良かった。四十過ぎてこんな少女のような歌詠めるなんてさああああ。
    これだけの短い節の中に以徳への愛おしさも、自分を残して死んだことを恨む気持ちも、それでも忘れられない苦しさも切なさも全部読み取れる。
    和歌ってすごい。言葉ってすごい。

    決して読んでいて楽しい物語ではないです。
    攘夷も結局はトップがすげ変わっただけ、以徳は死んじゃって登世とは会えないし、爺やも戻ってこない。
    けど、読み終えて心が揺れる。
    本当に、命をかけた恋だったんだと思う。

  • 三十一文字にすべてを懸けた歌子に似合う、研ぎ澄まされた終章でした。凄絶を極めた内乱の片隅に、もう一人の登世の物語が隠されていたとは…。遺言の「水戸への鎮魂といたしたく候」の一節が胸にしみます。
    別れの切なさを和歌に込めるほどの教養と奥ゆかしさを身につけながら、妻子までも巻き込んだ諍いを止められなかった、武士の運命が哀れです。
    多くの血が流れた尊皇攘夷運動とは何だったのか、ますますわからなくなりました。

  • ガッツリ読まされた。
    タイトルから想像してもっと恋愛要素の濃い内容かと思いきや、全く違っていた。
    幕末の歴史としては影を潜めがちな天狗党、水戸藩での血で血を洗うような戦い。。。
    無念の死を遂げた志士たちと、彼等を愛する妻や子供達を待ち受けていたその後の悲惨な結末には胸を締め付けられる。

  • 直木賞受賞作。幕末の人間模様が描かれた歴史小説。激動の時代を生き抜いた女性の視点で描かれる。
    時代小説なんだけど、戦乱の写実はほとんどなく、藩士の妻・登世の、主人を想う一途な気持ちに胸が躍る。
    しかし、後半は辛かった。牢獄の中での女性達の憎しみ、悔しさは痛いほどリアルに伝わってくる。
    間違いなく極上のラブストーリーだ。

    「天狗党」と呼ばれる尊王攘夷の派閥を恥ずかしながら知らなかった。私は歴史に疎い。でもこのような素晴らしい歴史作品はこれからも沢山読んで行きたい。同時に勉強にもなるし。

    これは、スマスマで杏ちゃんがオススメしていた一位の本。杏ちゃんは日本史にとても詳しい。そして読書量も多く、年下だけど憧れる女性だ。

  • 歌人中島歌子を題材にした幕末から明治にかけての人の生き様と恋心を描いた物語。
    花圃(かほ)という詩子の弟子が師の文の中から物語を見つけ、その物語の紹介という形で話が展開されていきます。幕末から明治にかけての難しい言葉が出てきて、最初の頃こそ読みづらいですが、話に引き込まれてスイスイ読めてしまいます。
    物語の紹介形式のためか、原因があって、途中省略で、うならせる結末を書いているのですが、違和感がありません。むしろ余計に心に響きます。

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樋口一葉の歌の師匠として知られ、明治の世に歌塾「萩の舎」を主宰していた中島歌子は、幕末には天狗党の林忠左衛門に嫁いで水戸にあった。尊皇攘夷の急先鋒だった天狗党がやがて暴走し、弾圧される中で、歌子は夫と引き離され、自らも投獄され、過酷な運命に翻弄されることになる。「萩の舎」主宰者として後に一世を風靡し多くの浮き名を流した歌子は何を思い胸に秘めていたのか。幕末の女の一生を巧緻な筆で甦らせる。

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