- Amazon.co.jp ・本 (178ページ)
- / ISBN・EAN: 9784062185134
作品紹介・あらすじ
オレゴンの片田舎で出会った老婦人が、禁断の愛を語る「リズ・イェセンスカのゆるされざる新鮮な出会い」。暮らしている部屋まで知っている彼に、恋人が出来た。ほろ苦い思いを描いた「ラフレシアナ」。先に逝った妻がレシピ帳に残した言葉が、夫婦の記憶の扉を開く「妻が椎茸だったころ」。卒業旅行で訪れた温泉宿で出会った奇妙な男「蔵篠猿宿パラサイト」。一人暮らしで亡くなった伯母の家を訪ねてきた、甥みたいだという男が語る意外な話「ハクビシンを飼う」。
5つの短篇を収録した最新作品集。
感想・レビュー・書評
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奇妙で妖しい5本の短編集。
ラストでひっくり返る世界に、背筋がゾッとする…。
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以前、文藝春秋から出版された10名の作家によるアンソロジー集「妖し」を読んだことがあります。
「妖し」には中島京子さんの作品は収録されていないのですが、この「妻が椎茸だったころ」を読み終えたとき、「妖し」を読み終えたときに感じた奇妙さとおなじような感じが、湧き上がってきました。
特に印象深いのは「リズ・イェセンスカのゆるされざる新鮮な出会い」と「ラフレシアナ」でした。
最初の短編「リズ・イェセンスカのゆるされざる新鮮な出会い」は、ラスト4行を読む前とあとでは、それまでの展開が180度ひっくり返ります。
あまりの景色のちがいに、ラスト4行を読んだあと主要な部分を読み返してみたのですが、あれもこれもそれも、それはそれは恐ろしい事実へと変貌していて、ゾッとしました。
「ラフレシアナ」は、主人公の女性からみたある男性のことを描いたものです。
その男性は植物を愛し、独特のセンスを持っているが故に恋愛とは縁のない存在…だったはずなのですが、そんな男性に恋人の影がちらつきはじめます。
そして後半から、女性の見る視点にも「アレ?」と思うことが増え、ラストでは「そういうことだったのか…」と合点がいく反面、複雑な心境にもなりました。
淡々と進むなかで、じわじわと迫る奇妙な世界を見てみたい方には、オススメの1冊です。
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たしか、「日本タイトルだけ大賞」という賞の大賞受賞作という話を聞いて、「中島京子さんだからそんな面白小説じゃないはず…」と思いながらもタイトル勝ち的に手に取った。実際に見てみると、装丁もシックで品よい本。「それにしてもなんでこのタイトル…」と思ってしまうけれど。
表題作を含む短編集。どの短編も、ふとしたきっかけで何かに注意を向け、取りつかれるように執着し、その先を一瞬だけあからさまにのぞいてしまったあとの怖さがあるように感じる。特に、最初の『リズ・イェセンスカのゆるされざる新鮮な出会い』が意外だった。学生時代に一夜の宿を借りた女性のことを知る結末は、フォークナー『エミリー(へ)の薔薇』のうすら怖さを思い出したし、『ラフレシアナ』にも、じわりと黒い何かが忍び寄ってくるような寒さを感じた。
表題作『妻が椎茸だったころ』が比較的コミカルでさわやかな読後感だと思うが、語り手の妻に椎茸だったころがあるように、お料理の先生にはジュンサイだったころがあるらしく、その記憶を披露する場面がすごく艶っぽい。その艶っぽさは『ハクビシンを飼う』でさらに濃厚に披露される。クリーンだが、なかなか淫靡である。川上弘美を例に挙げておられるかたもいらっしゃるが、まさにそうだと思う。『蔵篠温泉パラサイト』は宮田珠己的素材+小川洋子作品っぽい細部と展開がじわじわくる。
中島さんの作品を続けて読む機会がなかったので、どの短編もなんとなく表面的なクリーンさが勝ったものだと想像していたが、不思議さと、背筋をすうっとなでられる怖さと、熱っぽさの巧みな組み合わせを読むことができて楽しくて、またたく間に読んでしまった。小説のタイトルはいろんな意味で大事だと思うけれど、やはりタイトルを上回る中身があるから芸になるという、ベタなことも実感する素敵な短編集でした。 -
少し風変わりな短編集。全5話。
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表題作は3話目。
第1話と第2話がホラーだったため、この3話目もその手の話かと思ったのですが、伊吹有喜さんの『四十九日のレシピ』を彷彿とさせるいい話でした。
料理の得意な妻を持つ男は、その妻に先立たれると本当に何もできない。いやそれどころか台所に立つという発想すらないんだろうな。そう思いました。
妻の残したノート。レシピだけ記した調理ノートだったら泰平はさほど熱心には見なかったのではないかな。
うれしかったことや誇らしかったことから愚痴や不満まで、日々の思いが綴られた日記的な部分が泰平を惹きつけたのだと思います。しかも妻の肉筆なのだから、長年連れ添った夫にとっては、妻のその時々の気持ちが手に取るように伝わってくるに違いありません。
還暦を過ぎ、勤め人人生をリタイアした泰平が、(恐らく初めて)ゆっくり過ごす妻との語らいの時間。どんなに感慨深かったでしょうか。
遅きに失した気はしますが、それでもその後の泰平の変わり様を見れば、妻のノートは大きな役割を果たしたと言っていいでしょう。
心あたたまる、とてもいい話でした。
その他の収録作品について。
1話目はサスペンスホラーで、わりとありそうな展開。中島京子さんがこの手の話を書くとは意外でした。
2話目と4話目はファンタジーホラーで、うーんと頭を抱える感じです。(ごめんなさい。苦手なだけです。)
最終話の「ハクビシンを飼う」は川上弘美風のファンタジーめいた話で、気に入りました。
ハクビシンは雷獣とも呼ばれていたというくだりを読んで、京極夏彦『前巷説百物語』の第4話「かみなり」に登場する「鼬のごとき獣」とはハクビシンだったのかと思い至り、ちょっとうれしくなりました。
☆4つですが、読後いろいろ考えてしまう良作だったと思います。 -
ジャンルもテイストもばらばらな5編をおさめた短編集。
【リズ・イェセンスカのゆるされざる新鮮な出会い】
主人公がかつて旅行した際に出会った老婦人との一晩を回想する話。
チャーミングだけどどこか気味の悪いリズ・イェセンスカ。
ゆるっとしたストーリーに油断していたら突然の衝撃的ラストにぞっとさせられました。
【ラフレシアナ】
ひょんなことから冴えない男の留守中にラフレシアナの世話をする羽目になった亜矢が、それにつれてみるみるおかしくなっていく様が奇妙。
植物が人間を取り込んでいるかのようだった。
【妻が椎茸だったころ】
妻を亡くした泰平が、日記帳のようなレシピ本のようなノートに「私は私が椎茸だったころに戻りたいと思う」という謎の一文をみつける。
乾物の椎茸に悪戦苦闘する泰平のゆるやかな成長にほっこり心があたたかくなる素敵な話でした。
私も私が椎茸だったころを思い出せるようになりたい。わからないけど、わかる気がする。
【蔵篠猿宿パラサイト】
猿宿に泊まりに来た女二人組。
石に魅了される奇人の若旦那とのやりとりには、何かに取り憑かれていくような怖さがありました。
【ハクビシンを飼う】
こういう雰囲気の話も好き。
知らぬ間に、男と共にハクビシンを飼って暮らしていたという叔母の家での午後。
ヤマジタカシという初対面の男とすごしたそれが夢のようにふわふわして感じられた。
何もかもすべて夢の中で起きたんじゃないかと思うことってある。 -
5話の短編小説。タイトルに惹かれて思わず借りた本だったので、本を開いて短編集であることにちょっとがっかり。
でも、読んでみるとそれぞれとても短いなんだけど、物足りなさを感じさせない内容。
濃い味ではなくあっさりしてるけど、しっかり美味しいみたいな笑
恋愛風だったり、ホラー風だったり、ほっこり風だったり。そしてどのお話も面白くていい本に当たった。 -
内容紹介
オレゴンの片田舎で出会った老婦人が、禁断の愛を語る「リズ・イェセンスカのゆるされざる新鮮な出会い」。暮らしている部屋まで知っている彼に、恋人が出来た。ほろ苦い思いを描いた「ラフレシアナ」。先に逝った妻がレシピ帳に残した言葉が、夫婦の記憶の扉を開く「妻が椎茸だったころ」。卒業旅行で訪れた温泉宿で出会った奇妙な男「蔵篠猿宿パラサイト」。一人暮らしで亡くなった伯母の家を訪ねてきた、甥みたいだという男が語る意外な話「ハクビシンを飼う」。
5つの短篇を収録した作品集。第42回泉鏡花賞受賞!
妻が椎茸だったころ、と、ハクビシンを飼うがとてもよかった。というかそれ以外のものはかなり異次元で、胸にもやもやが溜まっていく感じです(好きですけどね)
全体的に生暖かい薄気味の悪さが漂う作風で川上弘美さんを彷彿とさせます。
やはり自分はほんわか系が好きなのか、この中で「妻が椎茸だったころ」にほろりとしました。ラストの描写なんてやっぱり上手いなーって思わされました。 -
表題作「妻が椎茸だったころ」が、とてもいい。
あとは、好みが分かれるかもしれない。
個人的にこの不気味さ、毒のある怖さ、好きです。
実は中島氏の本は、以前読んで・・・「冠婚葬祭」は好きですが、他2冊が好みにあわなくて、ずっと読んでなかったんですよねェ。
でも「妻が椎茸だったころ」。この題名が気に入ってこの本を借りて良かった。
この本を読めて良かった。
(続いて、「長いお別れ」も公民館で予約してみましたが、いつ来るのかなー1年後くらいかな・・・・?←予約多数でした・・・) -
キノコ好きにはたまんないタイトル。読みやすい5つの短篇集。表題作を読んで思わず、何年かぶりにケーキを焼いて、自分でもオッドロキ〜!
表題作もよかったのですが、「蔵篠猿宿パラサイト」は鍾乳洞モチーフということもあって、1番好き。
リズ・イェセンスカのゆるされざる新鮮な出会い/ラフレシアナ/妻が椎茸だったころ/蔵篠猿宿パラサイト/ハクビシンを飼う -
表紙もタイトルのフォントも好き。
1.「リズ・イェセンスカのゆるされざる新鮮な出会い」
2.「ラフレシアナ」
3.「妻が椎茸だったころ」
4.「蔵篠猿宿パラサイト」
5.「ハクビシンを飼う」
の短編5編。
どれもこれも好き。
1,はゾーッとするし、2.はチェって感じ、3.はしみじみ、4.はうっとり、5.はこうありたいかな? -
私にとって初めての中島京子がこれ。
どんなジャンルのどんな話を好んで書く人なのか何も知らずにタイトルの強さに思わず手に取ったけれど、どの短編集も良い意味で後腐れがなく、じっとりした読後感があるわけでもなく、中島京子を知りたい人にはすらすら読めやすいのでは。
後を引く話を読みたいのであればおすすめしないが、何かの片手間で読め、心を持っていかれるほどの衝撃を求めていない人にはすらすら読みやすいと思う。
表題にもなった「妻が椎茸だったころ」は妻を喪った男性(きっと仕事ばかりの人生を送ってきたはず)が、妻が予約した料理教室に行く話だが、行くまでの過程がなんとも「料理に触れたことの無い男性」らしく、現実味がどこかあり、あーわかるわかる、と可笑しかった。
小粋なホラーというか、ホラーと分別していいのかわからない不可思議な世界観のある「ハクビシンを飼う」が私は一番好きだった。
結局、生死なんていう現実世界の分別により誰も傷ついていない終幕が、読者としては心地良いのだ。